7.ガイアース
更新を待ってて下さった方、ありがとうございます。
お待たせしました、やっと更新です!
「2人とも朝から熱いねぇ」
『あの、えと、その、うらや……じゃなくて!破廉恥です!』
アルテナにキスをされてるところを見られていたらしく、そういった言葉をかけられた。
そういえば、まだ寝床に居たんだった。
「え、ちょ、ちがっ!?」
「えへへっ!ありがとう!」
「ちょ、アルテナ!?」
ガシッと抱きつかれた。
「ヒューヒュー!私達は外にでも出てようか」
『そうですね、邪魔者は退散しないとですね』
「だから違うってば!?」
聞く耳を持たない様子で、部屋を出ていくアマツキとユウナ。ユウナは部屋を出る時に、「あまり長くならないでね?朝ご飯がまだだから」と言って出ていった。違うと言っているのに……解せぬ。
「はぁ」
ため息をつくと、どうしたの?とキョトンとして私を見上げてるアルテナと目が合った。
「朝からどうしてあんな事を?」
昨日まではさっきみたいな事は一切無く、私からする事はあっても、アルテナからされる事は無かった。いつもは"嫌々"ではなくとも、"仕方無く"な感じだったのに、今日は自分から"したかった"と感じられた。
「私決めた!もう誤魔化さないって!自分を偽らないって!」
目を見開いて熱弁するアルテナ。
誤魔化さないって何を?偽らないって偽ってたの!?
「私はヴァルナが好き。ううん、妹耶が大好き。本当はいっぱいイチャイチャしたいし、キスだってしたい。迷ってたの。このままの関係で満足って言ってる自分と、もっと踏み込もうよと言っている自分がいた。けど昨晩、妹耶に求められた時に決めたの、もう迷わない、もっと踏み込んでいいんだって。もっと妹耶を好きになっていいんだって!」
「ちょ、え、ま、舞那!?」
「妹耶も私の事好きなんでしょ?ならいいじゃん、両想い同士だし。それに、あんな事をした仲だし……」
最後の方は聞き取りづらかった。
要約すると、昨晩の出来事で気持ちの整理がついて、今に至るという訳か。昨晩の出来事って?全然覚えてないんだけど……てか、あんな事ってどんな事!?
「私も舞那の事は好きだよ?大好き、愛してるって言えるぐらいに。それに、昨晩の出来事?が何なのか私には分からないけど、舞那がやっと私を心から好きって、大好きって言ってくれて、本当に嬉しい」
やっと舞那が応えてくれたんだ。嬉しくないわけがない。
「本当に覚えてないの?」
頷く妹耶に呆れる舞那。だけど、その表情は柔らかかった。
2人だけの空間には、百合の花が満開に咲いているかのようだった。
「遅くなってごめーん!今からご飯作るね!」
あの後、しばらくお互いについて話し合ったからだいぶ遅れてしまった。朝、というよりかはもう昼だ。
「あらあら、遅かったね。お楽しみでしたか?」
からかうようにユウナが言ってくる。
「お楽しみっていえば、お楽しみしてたけど、あっちな事はしてないよ?」
「ちぇ〜」
とはいっても、キスぐらいはしたんだけど、言わぬが仏ってやつだろう。
「それじゃ、作ってくるね」
ヴァルナがキッチンへと向かっていく。
『それで、ヴァルナさんとどんな事したんですか?』
ヴァルナが居なくなった途端、アマツキがアルテナにそう聞いた。
「別に何も?ただお互いの想いを確かめ合って、これからどうするのかって事を話していただけだから」
『本当にそれだけなんですか?』
疑い深く聞いてくる。
確かにそれだけではなく、キスをしたけど自分からやぶ蛇をつつく様な真似ははしない。
「こらこら、それぐらいにしなよ。アマツキ達がどんな関係か知らないけど、あまり踏み込むのは良いとは限らないよ?下手をすると今の関係をぶち壊しかねないし……」
ユウナが何処か遠くを見つめながら、忠告をした。
過去に何があったのか……気になるが、聞くのを躊躇われた。あまり踏み込むのは良くないし、忠告されたばっかりなのだ。せっかく仲良くなれたのに、その関係を壊しかねない事をしてまで、聞きたくはない。
『……わかりました。今回の件はここまでにしときます』
渋々といった様子で引き下がった。
「おまたせー、ご飯できたよー!朝飯ってより、昼飯だけどね」
丁度いい所にヴァルナが昼ご飯をトレイに載せてやってきた。
出された料理は肉じゃがだった。
「ほら、冷える前にさっさと食べましょう!」
「「『いただきます!』」」
肉じゃがはすぐに無くなった。大変美味しかったらしく、皆がっつきが良かったのだ。ユウナの口にもあって何よりだ。
昼ご飯を食べ終えた後は、ただひたすらにガイアースに向かって走る。
山道で何度か魔物に遭遇したが、難なく蹴散らした。ユウナ曰く、ここら辺の魔物は全体的に弱く、他の魔物よりも美味しいらしく、殲滅はしないでくらと言われている。とのこと。
山を超えると、平地に出た。草木が殆ど無く、見通しはいい。魔物や盗賊などはあまりこの場所には来ないみたいなので、何事も無ければ今のままだと2日もあれば抜けれるそうだ。
「それにしても、面白いぐらいに何も無いね」
『ですね。もっとこう、アクシデントとか付き物だと思ってたんですが……』
それに同意するアマツキ。
「平和が1番でしょ!」
「そうですよ!」
それを否定するアルテナとユウナ。
意見が丁度二つに分かれた。
「えー、だって、暇じゃん」
「それはそうだけど……」
暇なのは否定してないんだ。
「まぁ、それが原因でガイアースに到着が遅れるのは嫌かな?」
「やっぱり、平和が1番だよ」
『ですね』
そして、本当に何も起こらなかった。
遂には、平地が終わりを迎えるまで何事も無く辿り着いてしまった。
「何も起こらなかったねぇー」
「だねぇ、ここから先は目の前に生い茂る密林なんだよね……」
「そうだよ。ここを突っきればあっという間にガイアースだよ!」
ユウナが応える。
「どれぐらいかかるの?」
「このままのペースだと、密林を抜けるのに3日、ガイアースまで1日ってところかな?密林は走りずらいから予定より遅くなるとして、約5日もあれば着くと思うよ」
「……虫とかいないよね?デカくてうねうねしてたりしたやつとか、黒光りしたやつとかいないよね?」
アルテナは虫嫌いのようだ。デカくてうねうねした何かはともかく、黒光りしたやつは多分ゴ〇ブリの事だろう。
「あーどうだろ。多分いないと思う、よ?」
心当たりがないのか、不安げにユウナが言う。
そのせいで、不安になりながらも、密林に入った。
結論からいうと、黒光りしたやつはいなかったが、デカくてうねうねした何かはいた。
全長3mぐらいの毛虫や芋虫みたいなのがうねうねしながら突撃してきたり、上から降ってきたり。
百足をそのまま巨大化させたような魔物が、地を這いながら迫ってきたり。
1番アレだったのが、人間の上半身にムカデの体を取り込んだような魔物だ。血走った目でコチラを見つめながら、奇怪な言葉を発し、猛スピードで迫ってくる。挙句の果てに、口から酸や糸まで吐いてきた。
どれも、レベルが60前後と弱いが、とにかくキモかった。
最初は悲鳴をあげていたアルテナだが、途中から狂ったように笑ったかと思うと、暴走した。
ユウナに方角を聞いたかと思ったら、武器を取り出し、道を切り開いたのだ。物理で。
一直線障害物なしで約2日進み、何とか密林から脱出できた。
「うぅ〜キモかったぁ〜〜」
アルテナはというと、予定より早く密林を抜け出してからは、ずっとこの調子でヴァルナにしがみついて、よしよしされている。
「あれは仕方ないよ。私ですら思わずキモ!?ってなったし」
超人のヴァルナですら、ついついキモいと思ってしまうぐらいにはキモかったらしい。
『もうそれぐらいにしないと、置いていかれますよ!早くガイアースに向かいましょう』
「置いて行きはしないけど、確かにこの調子じゃあ時間が掛かりそうだね……」
アルテナは未だに抱きついている。
「もう、仕方ない……」
ヴァルナが屈みこみ、アルテナの耳元で何やら囁く。すると、目に見えて表情が晴れた。元気が出てきたようだ。何を言ったのか、それは言った本人と言われた当人しか知らぬこと。
「よし!行こう!早く行こう!今すぐ行こう!」
「は、はい。えと、何を言われたの?」
『そんな事はいいから、さっさと行きましょうよ』
アマツキが頬を膨らませながら言う。
「え、なにこの空気……」
1人はアルテナを微笑ましそうに見つめていて、もう1人は嬉しそうにはしゃいでいる。更にもう1人は拗ねたように頬を膨らませている。取り残された1人は凄く気まずそうだ。
その後、何とか場を持ち直し、ガイアースに向かって走り始めた。
その日の内にガイアースへと到着したが、辺りは暗くなり始めていた。
既に門は閉まっていたが、門番の兵士に交渉したところ、入れてもらえることに。
「助かりました!ありがとうございます!」
「いえいえ、可愛い女の子達を危険な外に放置するよりも、ここは目を瞑って通した方がいいと思いましてね。この事は内緒でお願いしますね」
「わかりました、本当にありがとうございます!」
再度お礼を言ってから門番の兵士と別れる。
兵士の男は2人居たのだが、片方は見知らぬ振りをしていた。多分よくあることなのだろう。
別れ際に手を振るユウナの後を会釈だけして他のみんなが付いていく。
「何とか入れたね」
「確かに入れたけど、別に明日まで待っても良かったんだよ?」
「早いに越したことはないじゃない。それに私達、目立つでしょ?」
「あ、確かに」
『そうですね』
女の子4人で固まって歩いている。しかも、全員が全員、美少女なのだ。目立つなといっても、それは難しいだろう。
「分かったらさっさと行くよ」
「行くって何処に?」
「私の家。今日はもう遅いから宿とか空いてないのよね。だから」
それならば仕方ない。ユウナの家にでも向かいますか。
ガイアースの中は外からでは分からなかったが、結構明るかった。街灯が整備されているらしい。ここら辺はまだ迷宮都市に似ている。
しかし、家の作りやどこに建てられているかなどが所々違っていた。建物自体は、中世ヨーロッパに近い。
「懐かしい」
ヴァルナの口からその言葉が漏れた。
迷宮都市が懐かしい、では無い。今見ているこの光景、街並みが懐かしいと、感じている。
「行かなくちゃ」
ヴァルナはそう呟くのと同時に駆け出していた。
「ちょ、ヴァルナ!?」
アルテナの叫びも虚しく、ヴァルナの姿が見えなくなった。
『行っちゃいましたね』
「ヴァルナさん行っちゃいましたけど、どうします?先に私の家に行っときますか?」
「ヴァルナの事だし、大丈夫だと思うけど……」
アルテナは悩んだ末に、ユウナの家に先にお邪魔しとくことにした。ヴァルナの事だから、ひょっこりと戻ってきそうだし。
ヴァルナは懐かしさに惹かれるまま、街中を走った。たまに居る人を躱して、邪魔な物は飛び越えて。
気が付けば、迷宮入口付近まで来ていた。
「……こっち」
迷宮の入口には入らず、迂回するように走り出す。迷宮は1つの巨大な山に突如現れた洞窟みたいなものだ。それを迂回するという事は、山の裏側に向かっているという事。
迷宮の入口とは丁度反対側に来た。
「ここかな」
ヴァルナはなんの迷いも無く、山に入った。
暫く進むと、獣道みたいに踏み固められた所に出た。ヴァルナはそこに沿って歩き始めた。
進むにつれて溢れてくる『懐かしい』と思える感情を堪えながら進む。
3分ほど歩くと、開けた場所に出た。
そこには、1件の家が建っていた。ログハウス風の建物で凄く懐かしみを感じる。
ログハウスの前には、中型犬ぐらいの2匹の犬……いや、犬と狼が寝ていた。
2匹はヴァルナを見つけると、尻尾を振りながらこちらに来るのをお座りして待っている。
胸から込み上げてくるものを押さえつけながら、近づく。
まだVRMMO【Another Earth World Online】にいた頃は、迷宮都市の全てを知り尽くしていたはずのヴァルナでも、この場所の事は知らなかった。なのに、凄く懐かしい、そう感じてしまう。だけども、不思議と嫌ではない。
「……ただいま」
言葉が通じるか分からないが、2匹にそう呟く。手を伸ばし頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。
「珍しいわね。こんなに早く帰って来るなんて。それにその子達を愛でるなんて」
ログハウスの方を見ると、入口のドアの前に1人のメイドが立っていた。目が合うと、にこりと微笑んだ。
「おかえりなさい主様」
久し振りにVitaのソフィーのアトリエをやったら、ハマりまして、投稿が遅れてしまいました…すいません。
読んで下さってる方、本当にありがとうございます。