6.襲われました!
※2018/06/28 誤字修正しました
「もぐもぐ……うまっうまっ……もぐもぐ」
「そんなに慌てて食べなくてもサンドイッチは逃げないよ。ちゃんと人数分あるし」
満天の青空の下。テント(?)の前に敷かれた四方4mのブルーシートらしきものの上に、4人の少女が座っている。
その内の1人がサンドイッチをうまうま言いながら次々と、口の中に放り込んでいた。
「うまっうまっうまっ……特にこのさんどいっち?はうまい。何かわからない黄色いものと肉の相性がよく、しかも白パンとマッチしている」
特にサンドイッチを食べているのは、つい先程出会ったばっかりのユウナという少女。
出されたサンドイッチに警戒心無く誰よりも早く食らいついた。それからずっともぐもぐうまうましていた。
「黄色いのは玉子だよ」
「もぐもぐ……へー、卵か……もぐっ!?」
「ほらー掻っ込むからだよー」
詰まらせたユウナにアルテナがお茶を渡す。
「ごくごく……ぷはぁ、た、卵って、あの、国王を殺しかけたという噂の……」
「なにそれ、初耳何だけど」
どうやら昔、とある王国の国王さんお抱えの料理人さんが卵料理を開発して、振舞ったところ、国王さんがぶっ倒れ、生死をさまよったとか。それで料理人さんは打首になり、家族は奴隷へと落とされたそうだ。
『可哀想に……』
「私もこれでもう、死ぬのか」
ユウナが遠い目をしている。「最後にこんな美味しい料理食べれて良かった」とも呟いている。
「だ、大丈夫だと思うよ?ちゃんと加熱処理はしたし、高級素材のハーピーの卵を使ってるので」
「ハーピー!?あの平均120レベルの怪人鳥の!?」
「そうだよ?」
別におかしい事は無いよね?だってハーピーだし。それに120前後のレベルなら余裕で周回出来るから卵大量に余ってるし。
「もう、今は食事中だよ?喋る暇があるなら食べようよ!はい」
「あ、ありがとうアルテナさん」
それからしばらくは、4人とも無言で食事を終えた。
「『ごちそうさまです』」
「お粗末様です」
「ご、ごちそうさま、です」
アルテナ、アマツキに続き、ユウナも食後の挨拶をした。
「それで、ヴァルナ達は何でこんな所に?」
ごもっともな質問。だけど答えはこっちが聞きたい。
「それがいつの間にかこの草原に……」
手短に語る。
私達はとあるクエストを受けたこと。そのクエストで迷宮に潜ったこと。最下層でボスと戦って、ボスの悪足掻きな光線に飲み込まれたこと。気が付いたらここに居たこと。
大事な部分を省いて言える範囲で簡単に答えた。
「な、なるほど……それでは、これからどうしますか?」
「どうって?」
アルテナが聞き返す。どうって言われてもね……。
「聞いたところ、気が付いたらここに居たのでしょう?なら、ここからどうやって戻るか、とかあるじゃないですか」
「確かに。ヴァルナはどうしたいの?」
どうして私に振る!?私が1番強いからか!?そうなのか!?
「ごほんっ、え〜と、私的にはこのままユウナに付いて行って、のんびりと変える方法を探そうかと。もちろん、邪魔でなければ。足でまといにはなりませんから」
「それは嬉しいのですが、他の2人の意見もありますし、危険、ですよ?」
喜びを噛み殺すかの表情を浮かべるユウナ。
「私はヴァルナと一緒なら何処でもいいですよ」
『他に行く宛もありませんし、構いませんよ。それに、回復役って大事でしょ?』
「2人ともこう言ってますが?」
ニコニコとユウナを見つめる。
「わかりました。それでは一緒に行きましょう!」
「ところで、ここはどこ何でしょう」
ガクッとなるヴァルナとユウナ。空気を読まなかったアルテナをジト目で見る。
「……はぁ、ここは最果ての地、草原エリアの中央ですよ」
「最果ての地?」
聞いたことがない。MAPも何故だかエラーで使えないし……。
「そう、ガイアースの遥か南に位置します」
ガイアース、ガイアース……あ、あれか!迷宮都市の迷宮が現れる前の名前だ!
「それって、ここは魔大陸でいいのかな?」
魔大陸。通常は洞窟や森、山や迷宮以外では発生しないはずの魔物が闊歩している大陸の事。
「またいりく?……聞いたことがないですが、魔物の大陸を表しているのであればあってます」
なるほどねぇ……ならここは魔大陸で間違いなさそうだ。
魔大陸から北に約1ヶ月の距離に迷宮都市|(今はガイアースか)がある筈だ。
『ユウナさんはそのガイアース?とやらに今は向かっていたのですか?』
今まで黙って聞いていたアマツキが口を挟む。
「ええ、粗方魔物の殲滅は済んだので、次の目的地に向かう前に食料の確保と思いまして……まぁヴァルナ達が居なければ、辿り着く前にくたばっていたでしょうけど」
「なら私達も同行させてね。ガイアースに寄ってみたいから」
「わかりました。では、行きましょうか?」
そうと決まればすぐさま行動に移した。
サンドイッチを盛っていた皿を収納し、テントを収納。
「よし、ガイアースに向けてしゅっぱーつ!」
「『おーー!』」
「………………」
ユウナ、ジト目で見ないでよ。やったこっちが恥ずかしくなるじゃない。
しばらくガイアースに向けて走っていると、ユウナから言われた。
「ヴァルナ達って、何者なの?なんで私に簡単に付いてこれるの?」
「え?」
付いていけるからしょうがないじゃない。とは言えない。レベル差のせいだろうか?
「多分レベル差のせいだと思う」
「私、これでもこの大陸で1番強いのだけど!レベルも1番高いんですけど!?」
驚いた事に、ユウナがこの大陸で最強みたいだ。
「その私をレベル差でって……一体何レベなの!?」
『私はレベル166ですね』
「え!?」
「私は171レベルかな!」
「え、ちょ!え!?」
「私は183だよー」
「はぁぁぁあああ!?」
ユウナの驚きの声が響き渡る。
「わ、私ですら、まだ132なのに……」
驚きを隠せない様子。目が見開いてるままである。
「通りで怪人鳥の卵を持ってる訳だ……」
「いや、ヴァルナと一緒にしないでください!私だってハーピー倒すの辛いですし。攻撃当たらないから……」
『そうですよ!ハーピーは空飛ぶし、攻撃当たらないし、ぶっちゃけ空を跳べるヴァルナさんが羨ましい!』
「空を跳ぶ!?」
そんなに珍しいのかな?
「言っとくけど装備の効果だからね!」
「そんな装備が……!?」
「それに、跳ばなくても、投擲とか弓矢で攻撃出来るでしょ?」
サッと目を逸らす3人。
「貴方達、できないのね……」
「ほとんど何でもできるヴァルナに言われたくない!」
『ヴァルナさん……なんて恐ろしい娘……』
「ヴァルナさんはチート持ち……」
「みんな酷い!?」
人を怪物みたいな目で見ないで!人間だから!獣人だけど人だから!?
『ヴァルナさんって、出来ない事ってあるんですか?』
「そりゃああるよ。人間だもの」
「「え!?」」
はいそこ!え、人間だったの!?的な反応はやめい!
「……。例えば、男と付き合うとか」
「確かに!」
『男なんて消えてしまえばいいのに……ブツブツ……』
「ちょっとアマツキさん?なんか病んでないですかー?」
ヴァルナの答えに肯定するアルテナ。
男性嫌いのアマツキがトリップして、それに驚いているユウナ。
地味にカオスな現場になっていた。
草原を抜け、山に入ろうかという所で、辺りが暗くなっていた。
「今日はここで泊まろうか」
それに頷く3人。
同意を得れたので、早速準備をする。っていっても、テントを出すだけだ。
準備が終わり、中へ入る。
「うわ、広っ!」
初めてテントの中に入ったユウナが驚く。
「でしょでしょ!いやー作るの苦労したのよこれ!」
「『作ったの!?』」
「でね、空間を操ることが出来る魔物の素材で作ったから見た目以上の広さなんだよ!お陰でレア度が幻想級になったんだけどね!」
「うわっ!?素材の無駄使い!」
『やっぱり、ヴァルナさん、なんて恐ろしい娘……』
「いや、恐ろしくないでしょ!?」
抗議の声を上げるも、無視される。
「ごほん、とりあえず、間取り教えるね!」
テント入ってすぐがリビング、左側の扉がシャワールームで、1度に2人までなら入れるよ!防音対策もバッチリだよ!
向かい側の扉が恋人専用のベッドルーム。パーティメンバーに彼氏彼女が出来た時用のだね!防音対策はそれはもうバッチシ!爆弾が爆発したって、音は漏れないよ!
左側の扉が寝室になるよ!12畳程の広さで布団が4枚引いてあるだけ!この部屋には右側に扉があって、その奥にはキッチンが!?
「って感じかな?」
説明し終わり、周りを見ると、ポカーンとしていた。
「ポカーンとして、どうした?」
『無駄に高性能ですね』
「防音対策って、何のために……ちょ、言わなくていいから!?」
「広いってレベルなのかな、これ……本当にテント?一軒家じゃないの?」
それぞれに感想を上げてくれた。
「ふふっ、どうよ。私自慢の力作は!」
「「『ほぼ無駄!』」」
「ちょ、酷い!?」
傷付くなぁ……。ハモらんでもええやん、ハモらんでも。
「それよりも、晩飯まだ?」
『お腹が空きました。ヴァルナさん、お願いできますか?』
「確かに空いたね。私、ヴァルナさんよりも料理上手くないので、お願いします」
みんなが酷い!?
「…………はぁ、わかりました。少し待っててください」
私の扱いに難があるけど、私もお腹が空いてるのは確かだし、諦めるか……はぁ。
晩ご飯を食べ終わり、みんなで就寝。
寝静まった真夜中の寝室に、動く影が1人。
「みんな寝ちゃってるね。ここが異世界で、元の世界に帰れないかもしれないのに……」
そう独りごちるのは、アルテナだ。
1人、寝室を抜け出して外へ出る。
「……ふぁ」
断じて欠伸ではない。空が、夜空が星達に彩られ、幻想的な光景を醸し出していたからだ。
「綺麗……ここはもう、現実なのかな」
その問に応える者はいない。
「こんなにも綺麗で幻想的な表現って、VRMMOでも、中々ないから……やっぱり現実なのかな」
VRMMOは発展していても、現実世界で起こりうる、幻想的な何かは、生み出せなかった。それは今も同じ。
「あ、お月様だ。今日は満月なのね」
キラキラと輝く星の中で唯一赤々と輝くお月様。
「日本じゃありえないものね。赤い月なんて。ゲームの中ですら月は黄色かったし」
違いを見出して、落ち込む。
「やっぱり、ここは異世界なのね。私達がいた世界とは違う」
はぁ、とため息と共に、また独りごちる。
その時、誰かがテントから出てくる気配をかんじた。
「誰な、むぐっ……!?」
誰なの?と言い終える前に、口を塞がれた。否、唇を奪われた。
「んっ……ぁ…………んん!?」
キスだけではなく、舌まで入ってきた。
「ぁ……んっ……んん…………ぷはっ、ちょ、も、妹耶!?」
キスをして来た犯人の名を挙げる。
「え?ちょ、妹耶、大丈夫?」
妹耶の様子がおかしかった。
いきなりキスをしてきたのだ。おかしくないはずはない。
「……はぁはぁ…………舞那……身体が熱いよ……」
(こ、これってまさか、発情してる!?)
それならさっきの行動も理解できる。
(って違ーう!?そうじゃなくて、え?)
どうすればいいか考えていると、ドサッと、妹耶に押し倒された。
「はぁはぁ、舞那……」
本当に熱を持っているのか、頬が上気して赤くなっており、目が潤んでいる。
「もう、ダメ……我慢、でき、ない……!」
苦しんでいる妹耶をみて、舞那は覚悟を決めた。
(私は妹耶の事が好き。それは人としての好きと、異性に持つような方の好き。それに、妹耶が私を求めている。断る理由は……?)
断る理由など、無い。だって両想いだから。それに、舞那は臆病だ。自分を偽り、妹耶の前では妹耶の想いに困った感じを浮かべているが、実際はその想いに応えたい。なのに、この関係が終わって欲しくない、と思ってしまい、ついつい離してしまう。
(これは、腹を括る時が来たのかな)
そう思い、両手を妹耶の頬に添える。
「いいよ、妹耶。来て……」
妹耶と舞那は吸い寄せられるかのように、お互いの唇を合わせ…………。
夜が開けた。
「ふぁ〜っよく寝た」
そう声を上げたのはヴァルナ。
「おはようヴァルナっ!」
ひしっと、ヴァルナの腕にくっつくアルテナ。
「ちょ、アルテナ、いきなりなに!?」
どうやら、昨晩の出来事は憶えていないらしい。
「ふふふっ、秘密!」
吹っ切れたアルテナは、これまでの遅れを取り戻すかのように甘える事にした。
「……まぁいいけど、あまり人前ではやめてね?」
頬を掻きながら照れくさそうに言うヴァルナが愛おしくなって……。
「えいっ……!」
「むぐっ!?」
唇を奪ってやった。
レズってこんな感じでいいのでしょうか……。