4.油断大敵
「やぁ!」
「GAAAAOO!?」
『させません!』
「GUGAAA!?」
「ほい!」
「Ga……」
敵が呆気なく倒された。
手順は簡単。アルテナでヘイトを集め、敵の攻撃を受け流しつつ反撃。敵が怒りで暴れ始めたらアマツキの回復系魔術で神経のみを集中回復し、強制的に動けなくする。そしてトドメにヴァルナが首をひとかき。これで大抵の敵は倒せる。
「安定してきましたね。そろそろ突っ走ってもいいんじゃないかな?」
小一時間程、連携を高める為に、出会った魔物を片っ端から倒して進んでいる。
現在、【迷宮都市】の【大いなる迷宮】地下150階の中央にある【絶えぬ悪夢の間】という場所にいる。
「そうだね。でも、本当にここの階にあるの?」
アルテナに聞き返す。
「間違いないと思う。神狼の髪留めを装備した時に感じた、引き寄せられるような感覚が強くなってる」
『気の所為ではないのですよね?』
「うん。そうじゃないと、ちょっと怖い、かも」
「だね。何そのホラーって感じだね!まぁ、何も無かってもまた後日、ばあやの所に行って聞いてこようよ」
「だね。てゆーか、何で聞かなかったんだろうか……」
『場の空気に流され過ぎた?』
クエストを受けた後、少しイチャイチャしたのはいいけど、目的地までの行き方を聞くのを忘れていた。
その時に、アルテナが「なんか引き寄せられるような感じがする」と言った。感じるようになったのは神狼の髪留めを装備した時から。ばあやも『導いてくれるじゃろ』と言っていたので、物は試しにアルテナに付いていくことにした。
その結果が迷宮潜りだ。
「過ぎたことはしょうがないけどさー、いい加減飽きたー。さっさと進もうよー」
同じ様な戦法を繰り返しするのはいいのだが、何せヴァルナ1人でも余裕で倒せる魔物相手に時間をかけて戦うのは飽きたみたいだ。
「んーけど、ここの魔物はレベルが高くていい経験値になるから出来るだけ倒しながら進みたいんだけど…」
ここに出現する魔物の平均レベルは180。まさしく【悪夢】に等しいレベルだ。
「そうかな?私なんてボス狩りしてた方がよっぽど経験値おいしいよ?」
「いや、それヴァルナだけだから…」
『ボスを時間かけて倒すより、ここら辺の魔物を倒した方が効率がいいのでは?』
ここのボスはLv200という、イベント以外では最高レベルのボスである。
「普通はそうだけど、10分もあれば余裕で倒せるから、捜しまわるより、遥かに効率がいいんだよねぇ。後、稀に神話級ドロるし」
最高レベルのボスを10分でとは、流石運営公式の最強プレイヤーである。
「えっ!マジで!?」
「うん、マジで」
『ほぇ〜だからボス狩りしてるんですね』
「そゆこと」
ヴァルナが神話級を複数所持していた理由が、これの結果だったりする。
「それよりさ、この先であってるの?確かボスが居るフロアまで一直線上だよね?」
「そうなの?けどそっちに引き寄せられる感覚があるんだよね」
『本当に気の所為ではないのですよね?』
「うん」
アマツキが念を押して聞いてみるが間違いはないらしい。
「ならボスまでの道のりに何かあるかもね。ちょいとひとっ走りして来ていいかな?」
『走ってくるのですか?』
「いや、違うでしょ。具体的には何をするの?」
時折見せる天然なアマツキにツッコミを入れつつ聞いてくる。
「具体的にって、ただボスまでの道のりを切り抜けるだけだよ?」
ジトーっとアルテナがこちらを見つめている。
「まぁ論より証拠だね!それじゃ行ってくる!5分ほどで戻るから!」
「え?」
『ちょっ!?』
旋風を起きたかと思ったらヴァルナの姿が消えていた。
「………速いね」
『ですね。あの速度でよく壁などにぶつからずに出来るんでしょうか。それに高速戦闘も』
呆れる2人。
「まぁ現実でもそうだからもう慣れたけどね」
『現実でもそうなんですか?それって本当に人間?』
「ふふっ、私もそう思ったよ。けど残念ながら人間なんだ、ヴァルナは」
懐かしむような目で遠くを見据えるアルテナ。
『アルテナさんがそう言うのであれば人間なんですね。あまりに「危ない!?」きゃっ!?』
最後まで言い終わる前に突如アルテナに引っ張られる。
その勢いで尻餅を付いてしまったアマツキは恨めしそうにアルテナを見ようとしたが、その瞬間、目の前に白に何かが横切った。
「ちょっと!ヴァルナ危ないよ!」
砂煙を上げながら停止したヴァルナにアルテナが怒る。
「ごめんごめん、身体強化するとね、急停止が出来ないんだよね。ごめんね?アマツキさん、大丈夫だった?」
『あ、はい。大丈夫、です』
差し出した手を掴み立ち上がるアマツキ。
「いやーそれにしてよよく分かったね」
「あんなに砂煙を上げてたら分かるわよ…」
『全然気付きませんでした。アルテナさん、ありがとうございます』
ぺこりと一礼。
「いえいえ。それよりも、なんかレベルが上がったんだけど……」
「文字通り切り開いたからね」
「え…」
どうやら途中の敵を切り開き(倒し)ながら進んでいたようだ。通りでレベルが上がるわけだ
。アルテナがLv170→Lv171に、アマツキがLv164→Lv166に。
「それでもこのレベルで上がるなんて、一体どれぐらい倒したの?」
『私なんて2レベルも上がりましたよ!』
「えっと…ざっと100体は倒したかもね」
『この短時間で!?』
「だってほぼ1、2発だもん。それに急所しか狙ってないからね」
『器用ですね』
「器用で済む問題なのかこれ…」
「まぁまぁ気にしない気にしない!それより、ボスの所まで行ってきたけど、何も変わってなかったよ?」
いつもと同じ一本道に無数の敵。ボス部屋とフロアを隔てる壁にでかい鉄の扉。何一つ変わりはなかった。
「んーじゃあ、ボスが変わってるのかな?」
ボスが変わるなんてことは、ない事はなきのだ。クエストによるイベントボスや討伐イベントによるボスの変更など、よくある事だ。
「そうかもね、行ってみよ!」
『敵も殆どいませんし、今のうちですね!』
3人でボス部屋に向かって走っていく。
「おっそーい!1分も待ったよ!」
「たった1分じゃん…」
『速すぎですよヴァルナさん』
ボス部屋まで走っている途中でヴァルナが「う〜ん、よし、競走ね!お先に!」と言って先に行ってしまう。
そして先に到着して待っていた。
ヴァルナ、アマツキ、アルテナの順に到着した。
「遅いのが悪いんだよ」
「それならヴァルナ以外全員じゃん!敏捷重視のヴァルナに言われたくないわ!?」
『ですです。それに、最強プレイヤーに勝てる筈がないです』
敏捷重視のヴァルナの敏捷値は4000を超えている。アルテナやアマツキの4倍以上ものステータスを誇っているので勝って当然なのだ。そんなヴァルナに「遅い」と言われるのは理不尽だと思う。
「あはは……。これからボスだから準備は怠ってないね?それじゃ行くよ!」
返す言葉がないのか、急に話を切り替えた。
「はいはい、準備はいいよ、アマツキちゃんも大丈夫?」
『はい、大丈夫です。これ以外まともな装備とかありませんし』
「では、行っくよー」
ヴァルナが扉に手をかけ勢いよく開け放つ。
ブゥゥーーン。ギガガップシューー。
部屋の置くから怪しげな光が灯り、機機械が狂ったかの様な音が鳴り響くと、プシューという音と共に部屋が照らし出された。
「うわっ…初めて見たけど何このフロア、壊れた機械やら歯車やらが大量に転がってるんだけど。これっていつも?」
アマツキの言った通り、このフロアには、壊れた機械や歯車、更には崩壊した家らしきものさえ伺えた。
「そんなわけないじゃん。私だって初めてだよ」
『あ、見てください、ボスのレベル、230ですよ!』
「「え!?」」
声がハモる。今のプレイヤーの上限レベルが200の中、魔物のレベルもまた上限レベルが200。プレイヤーの上限レベル=魔物の上限レベルだ。ただしこれには例外があり、それがイベントによるボスだ。クエストによるボスも偶に含まれるが30も上限を超えることはまず無かった。
「うひゃー、これ、勝てるかな」
「何言ってんの、ヴァルナならLv50差までなら勝てるでしょ?実例あるし」
「あの時とは違うよ!?」
『それでもヴァルナさんが居るだけでも心強いです』
「多分私やアマツキさんだと、まともに攻撃喰らえば一撃で潰えるよこれ。」
『うっ!?確かに』
「唯一耐えれそうなのはアルテナかな?頼りにしてるよ!」
「ふぇぇ、やっぱりそうなるのか。ええーい!やったるよ!男の気合い見せたるで!」
「いや、女でしょ。てか何故関西弁」
『ふふっ。さてと、どうやらこちらに気付いたみたいだよ!』
そうこうしているうちに、ボスがこちらに向かって、ゆっくりと近寄ってくる。
遠くてハッキリ見えなかった全体図が見えてくるようになった。
顔は骸骨に似ていて、身体も殆どが人間に似た骨で構成されている。パッと見、SA〇の第75層ボス【スカルリ〇パ〇】に似ているが、所々に歯車に似た何かが付いており、それがギギギっと音を鳴らしている為、全部が全部、同じな訳では無い。
更に、ムカデのように胸の骨を器用に動かしながら近付いてくるので顔が前に突き出している状態だ。妙に迫力があり、ついつい鳥肌が立ってしまう。
それに目にゴーグルらしきものが付いており、それが怪しげに光っている。
そして、腕らしき骨の先端に妙に尖った何かが付いており、それを目にした途端、悪寒が走った。
「何あれ……ちょっとずる過ぎない?」
「ヴァルナ、あれが何かわかるの?」
「あれは、超振動型棘といって、地味だけど岩盤をも貫く化け物よ」
超振動型棘とは、ネーミングセンスはダサいが、実力はある。何せ、毎秒10万回も回転しており、それだけでなく、世界最高硬度を誇るオリハルコンを使った化学合金で強度が更に倍近くになり、ダイヤモンドコーティングまでされていて、ただでさえ貫通力が高かったのが、さらに高められていて、貫けぬものなど無い!と言えるほどの貫通力を誇っている。
そんな化学兵器がボスの腕らしき骨の先端に付いているのだ。それも、24本もある腕全てに、だ。
『それは…チート、かな?せこいです!』
「もしかして防御とか意味なんじゃ…」
「かもね。多分楯ごと貫かれるね」
『うわ…エグイです』
「っ!?来るよ!!」
その声と共に骨のボスが先程とは打って変わって、猛スピードで向かってくる。
「ああもう!行くよ!」
「『はい!』」
武器を構える。
「それじゃ、さっきと同じ方法で。大きく角度付ければ受け流せると思うから!」
「了解!」
「私は隙みては勝手に攻撃するから!」
『頑張ってください!』
「それじゃ戦闘開始!」
ヴァルナが駆け出す。既に身体強化を最大出力で発動している。自然治癒力と防具の効果により、MPが保たれている為、走り続ける限りはMPが無くなることは無い。
近くに行ったことでボスの名前が表示された。
「【古の悪夢】ね。確かに悪夢だわ」
少し離れたところで、丁度、古の悪夢がアルテナに攻撃を加えようとしている。
「やぁっ」
掛け声と共に駆け出し、古の悪夢の背後を取る。そのまま勢いを活かして背骨らしき所に攻撃を与える。
『ギギギャャャaaAAAA!?』
甲高い悲鳴が古の悪夢から出た。どうやら急所で間違いないようだ。
古の悪夢はそのまま塒を巻き、尻尾を遠近力に載せ、ヴァルナに仕返しと叩きつけてくる。
「ちょっ!?」
「きゃっ!?」
飛び離れたばかりで、まだ宙にいたヴァルナは尻尾によって弾き飛ばされ、ついでにアルテナまでも尻尾により弾き飛ばされる。
ドッドゴーン!と2人とも壁に激突する。
砂煙の中、2人とも出てくる。
ヴァルナは20%程HPを削られ、アルテナに至っては30%も削られていた。
「油断したわ、尻尾あるんだね」
「いや、何でヴァルナの方がダメージ受けてないのよ…」
「咄嗟の判断ってやつ?」
仮想世界だから出来たことだ。尻尾が直撃した時に自分から尻尾を蹴って飛び、ダメージを抑えて、壁に激突する寸前に物防だけに身体強化を掛けて、壁にぶつかるタイミングで壁に蹴りを打ち込む。そうすることで、スピードを軽減させてダメージを減らしたのだ。
アルテナはそのまま激突してるからダメージが多いし、鎧を来ているため、衝撃が中々逃げなかったのだ。
「うぅ、ヴァルナが羨ましい」
「それより回復お願い!」
『わかりました!』
淡い光がヴァルナとアルテナを包む。
HPが通快する。
「ありがとう!もういっちょ行くよ!」
ヴァルナは身体強化を掛け直して、古の悪夢に突貫する。
アルテナは古の悪夢の正面に立ち、楯を構える。アマツキはその後でいつでも回復が出来るように待機する。
アマツキの回復系魔法でも攻撃は、自身から半径3m以内じゃないと、魔物には回復系魔法が掛けれない為、こういった高レベルのボスにはあまり役に立たない。
「はぁっ!」
攻撃を喰らう瞬間に身体強化で物攻と物防を強化して、60度の角度で受け流す。
そして、ちゃんと攻撃も加える。
『GAEEEEGAAAAaaaaaa!』
古の悪夢が吠える。
その間に、ヴァルナはまた背後から一撃を与えて、すぐに距離をとる。
『回復どうぞ』
「ありがとうアマツキちゃん」
受け流しただけでも、数%もダメージを食らってしまう。こまめな回復は格上の相手と戦う時には必須なのである。
『いえいえ、私にはこれしか出来そうにないので。回復なら任せてください!』
「心強いです!」
2発目を受け流し、更に攻撃を与える。
際ほどからヴァルナは、足の骨や尻尾をメインに攻撃をしている。ダメージは少ないが、ヘイトは溜まりにくいからだろう。それにダメージ蓄積があるからね。
「うーん、キリがないなぁ。HPバーも表示されないし、気が抜けないね」
『ですね。いつもなら表示されてますからね』
「どれだけ与えてるかもわからないしね〜。てか、そろそろ防ぐの辛いだけど!?」
そういいながらも、激しさが増していく。
突き出される棘を正面から受けない為に楯を逸らす。簡単そうにみえて実はかなり難しいのである。下手をすれば貫かれるし、それても、そのまま当たったりもするからだ。適切な角度、適切なタイミングでしないといけない。
「うへー疲れたー」
アルテナがそういった時に古の悪夢の動きが微かばかり止まった。
今だ!とと思い、アルテナは攻撃しようと近づく。
「ちょ、危ない!」
「え?」
ヴァルナの警告も間に合わず、24本の腕による集中砲火により、吹き飛ばされる。何とか直撃は免れたが、何本かが掠っていてダメージを喰らってしまった。
20mほど飛ばされたあと、壁際まで転がる。
『大丈夫ですか!?』
何とか即死だけは免れたようだ。
防具にある即死は魔法や呪いによるものだけなので、普通に即死判定はあるのだ。
「何とか…あ、残り3%しか無いよ。ははっ、掠ってこれか」
『今回復しますね!』
アルテナを淡い光が包み、HPがみるみる回復されていく。
心配そうにこちらを見ているヴァルナに手をふり、大丈夫なことを伝える。
「油断するからだよ!気付けて!」
ヴァルナが叫ぶ。
やっとHPが全快した。前線に戻ろうとしたら目の前を光の壁が遮った。
「っ!?」
『ヴァルナさん!?』
アマツキは見ていたらしい。古の悪夢から放たれた光線にヴァルナが飲み込まれるところを。
そして、左上に表示されているパーティメンバーのヴァルナのHPゲージが0なった。