2.新たな仲間
夕暮れどきの時間。とある高級住宅街のとある家の一角、2人の少女がベッドに腰を掛けていた。お互いに頬を染めながら少し間を開けて座っており、何を話すこともなくただただ座っていた。
そんな沈黙は長くは続かなかった。
「と、ところでさ、今日、なんの用だったの?」
妹耶が相手の顔…舞那の顔を見ないで言った。
「あ、えと、妹耶ってさ、まだ【Another Earth World Online】やってるんだよね?」
「やってるど、まさか舞那もやり始めたの!?」
振り向いた妹耶がグイッと身を乗り出してきた。
「ちょ、ち、近いって。私もやり始めたって言うより、やっていたって言う方が正しい、かな?実は発売初日からやってるんだ」
「え!?」
ショックを隠せない様だ。
「あの…黙っててごめんね?今日呼ばたしたのは一緒にやろ?って言いたくて…」
「別に、大丈夫だよ。黙ってたって…」
目を逸らし、私落ち込んでます!って感じでチラッチラッと舞那を見る。
「ごめんって!ほんとごめん!」
「ぷっ…ふふっ」
「あ!笑ったな!」
「はははっ、舞那が必死すぎて、つい」
「ひどい!」
ぷくーと頬を膨らませる舞那をみて、さらに笑う。
「あはははっ…ふぅー笑った笑った。それで、一緒にやろうって、ここで?」
ふと疑問に思った事を聞いてみる。
一緒にやるだけなら離れていても、連絡さえ入れれば一緒に出来るから、同じ場所じゃなくてもいいはずだ。
「うん、駄目?」
「いいよ」
舞那の上目遣いでウルウルさせた瞳で見詰められると、そんなの関係なくなるね!うん!
「よかった!実は持ってきてたんだ!」
舞那はそう言ってカバンの中からギアを取り出す。
「準備満たんだね。なら晩御飯食べた後にね」
舞那のお腹からクゥーっと可愛い音が鳴る。
舞那はお腹を抑えて顔を赤くし、目をそらす。
「そ、そうだった。まだ食べてなかったね。お願い出来るかな?」
「まかせなさい!」
晩御飯を食べ終わったのが7時を回った頃だった。
「後片付けは私がしとくから先に妹耶はinしといて」
晩御飯のお礼だろうか、舞那が後片付けを申し出た。
「なら後は任せるね!場所は、わかるよね?それじゃあ向こうで!」
ーーー舞那視点ーーー
後片付けが終わり、妹耶の部屋に行く。
ドアを開けて中へ入ると、ベッドの右側でギアを装着して仰向けに横たわっている。
私はそろそろと足音をなるべく立てないように妹耶に近付き、隣に座る。
そして妹耶の顔を覗き込む。
「ふふっ、妹耶可愛い。いつもはやられてばっかりだから、たまにはいいよね?」
自分に言い聞かせるように呟く。
そして、顔を近づけて。
「inしてるから、大丈夫だよね?うん」
唇に軽くキスをする。
「普段は積極的なのに、私の気持ちに気付かないなんて、本当に鈍感なんだから…もう」
はぁ、と溜息をつき、妹耶と同じ様に隣に寝転び、ゴーグルをはめる。スイッチを入れて起動させる。
『【Another Earth World Online】を起動しますか?』
ゴーグルに搭載されているモニターに文字が表示される。
(はい)
私の場合妹耶と同じ新型で、思考読み取り機能が付いているため、声に出さずとも大丈夫なのだ。
『それでは【Another Earth World Online】を起動します。』
意識が吸い込まれる感覚が私を襲う。
私はこの感覚が結構好きだったりする。
いつの間にか目の前の光景が変わり、【Another Earth World Online】にログインしていることに気がついた。
「さて、妹耶は、ヴァルナは何処にいるのかな」
私は妹耶を、ヴァルナを探しに歩み始めた。
ーーー妹耶視点ーーー
「舞那まだかなー」
私は最初の街の冒険者ギルドに来ていた。
待ち合わせといったらここだ。
今も、ギルドの壁に寄りかかっていた人が待ち合わせていた相手と出会い、ギルドから出ていった。
始まりの街ともいわれているこの街の名は【迷宮都市】。ここでしか取れないレアアイテムやレア武具などを目的に挑む者が後を絶たない。
私もその内の1人だったりする。
「遅いなー、そろそろ来てもいい頃合なんだけど…」
現実世界の自分に舞那がキスをしていることなんて知らずに、呑気に寛いでいる。
「ヴァルナごめん!待たせた?」
と、誰かに声をかけられた。
声が聞こえた方を向くと、そこには見知らぬプレイヤーが。
「だれ?」
髪が黒く肩の辺りまでの長さで、蒼い瞳。肌が雪のように白い事から人種のプレイヤーである事がわかる。
だが、そのプレイヤーの名前はアルテナ。人種でこの名前の人なんて私は知らない。
「ひどい!?後片付けが少し遅れたから急いできたのにその仕打ちなんて…」
ズーンと聞こえてきそうなほどわかり易く落ち込むアルテナ。
「もしかして、舞那?」
「そうだよ!後、仮想世界ではアルテナって呼んでね。リアルネームは基本厳禁だから」
「わかってるわよ、そんなことぐらい。大体、アバター名ぐらい教えときなさいよ」
「あ、ごめん。忘れてた」
てへっと舌を出して右手をグーにして頭に乗せて、おどけてみせるアルテナ。
少しイラってきたが、案外似合っているもんだから対応に困る。
「それじゃ、早速行こう!」
「何処に?」
アルテナに手を引かれ、立たされる。
「それは着いてからのお楽しみで」
「えーー」
目的地に着くまでの間、ずっと手を引かれて、あっちへこっちへと連れ回された。
そしてようやく着いた場所というのが。
「神社?」
神社だった。何故疑問符かというと、このVRMMOが始まってからやり始めているヴァルナにとって、【迷宮都市】の事は誰よりも知っている自信があったのだが、まさか神社があるなんて事知らなかったし、そもそもこの場所自体知らなかったからだ。
「そうよ!とあるクエストをここで一緒に受けて欲しいの」
そのクエストというもヴァルナは知らない。
「どんなのなの?舞那」
「だからアルテナって…もう。ここのクエストは討伐系だよ。詳しい事は受けてみないとわからないけど」
リアルネームで呼ばれた事に呆れながらも教えてくれる。
「討伐系って、一人じゃ無理そうだから呼んだって事?」
「そういうと。これまでの流れだと、このクエストで終わりのはずだから多分レイドボス級の敵と戦う可能性が」
レイドボス。それは1チーム3〜5人のパーティで計5〜7チームで戦うボスの事。やたらと体力が多く、攻撃も痛いため、少人数では倒すのが難しいボスである。
「へー。これまでの敵はどうしてきたの?」
そんなに強いボスなら道中の敵もある程度は強かったはずだ。
「1人で頑張って倒してきたよ!この前のクエで死にかけたけど…」
胸を張った後すぐに落ち込むアルテナ。
「レベルとか大丈夫なの?最後のクエスト、かなり難しいんだよね?」
「これでも私も古参なのよ?レベルは昨日170になったところね!」
「え!?」
結構高かった。現段階で仮想世界1位のヴァルナですら183レベルなのだ。170レベルは高い方だろう。
「そんなに驚く事かな?ヴァルナより低いし、名前の横にレベルが表示されてたはずなんだけど……って、あ!非公開にしてた…」
またわざとらしく、それでいて妙に決まっているてへっのポーズをとるアルテナにジト目で見つめながらも、改めて表示されたレベルをみて嘘ではないことがわかった。
「わかった。でも、パーティ構成どうするの?私、敏捷極振りの前衛だよ?」
「その点は大丈夫だと思うよ?私は物防極振りガチガチの前衛型だよ?護りながら戦うから。それにヘイト管理もできるよ?」
敏捷と物防極振りの偏ったパーティ。しかし、相性は結構良さそうだ。
「後は装備だけど…聞くだけ無駄かしら?」
今はラフな装備だが、クエストが開始したら戦闘用の装備に変えるのだろう。それに、ラフな装備なのに、レア度が全て、伝説級で統一されている。
ちなみに、レア度は高い順にこうなっている。
神話級
幻想級
伝説級
希少級
一般級
この上から希少級ですら中々手に入らないのだから、ラフな装備で伝説級なのだから、どれだけ凄いかが伺える。
「まぁね。でも、幻想級の中でも弱い方の装備品しか無いけどね」
同じレア度でも当たり外れは勿論ある。
例外は神話級だけだ。神話級は入手はほぼ不可能な程に低いが、性能が壊れ過ぎている。幻想級が子供に見える程の性能差がある。
「それに、ラフな上にそのまま戦闘に行けるヴァルナの方がおかしいんだよ」
呆れたような、関心したような感じでヴァルナの装備をみる。
確かにヴァルナの装備はラフだ。だが、性能がヤバすぎる。神話級が2つ、残りは幻想級だ。しかも上位の。
「どうしらそんな装備になれるのかしら?」
「そんなもん、1人で大魔王とか倒せば落ちるわよ」
大魔王。2ヶ月ほど前に大型アップデートの後に始まった大型イベントのラスボスだ。その当時はレベル上限が150だったのだが、運営が思っていたよりも上限に到達したプレイヤーが多かった為、急遽上限解放イベントとして、大魔王が降臨したのだ。
大魔王のレベルは200。幹部や雑魚ですらレベル100越えの鬼畜クエだ。
そんなイベントを1人で突っ切り、そのまま1人で大魔王を討伐したのがヴァルナだった。
大魔王は複数人のレベル150プレイヤーと戦うことを前提としたパラメーターで、普通は1人でとか無理な話だ。
「あはは…それが出来るのはヴァルナだけだよ」
ヴァルナはそれを覆し、1人で倒してしまった。
当然、運営は慌てた。イベント開始1日で大魔王が討伐されたのだ。その原因とイベントをどうするかの対応に追われた。
結果、ヴァルナは運営公式の最強プレイヤーとなった。そしてイベントは大魔王を弱体化させた魔王を常時配置、再配置するように設定し、事なきを得た。
それはさておき、大魔王を倒した時に神話級装備がドロップしたそうだ。
再配置された魔王からは超低確率で幻想級がドロップしたそうだ。
そんな事があり、このVRMMO初の神話級装備を入手したのがヴァルナだった。
その運営公式最強プレイヤーと、ただの古参プレイヤーを一緒にしないで欲しい。と、溜息をつきながら内心でアルテナは思った。
鳥居を潜り、中へ入る。中は神社まで一1本道
石畳で、左右に狛犬らしきものがある。その他も、よくある神社そのものだった。
石畳を通り、奥へ進む。しばらくすると狛犬の所まで来た。
「これ、狛犬、なのかな?なんか、違うような…ねぇ、どう思うヴァルナ?」
アルテナに言われて狛犬がおかしい事に気が付いた。
「これ、狼?て言うよりも獣人?え?でもなんで?」
普通は柱の上には狛犬が居るはずなのに、何故か犬耳の獣人の少女らしき像が正座をしていた。大きさは大体50cmといったところだろう。立っていれば1m近くはあるはずだ。
「ほほほっそれは神狼様の化身の像じゃよ」
横から老婆の声が聞こえた。横を向くと、そこには巫女服に身を包んだ老婆と同じく巫女服に身を包んだ少女がいた。
「貴女達は?それに神狼様って?」
「ふむ、まぁここで話すのもあれじゃから、どれ、上がって行っておくれよ」
そう言うとさっさと中へ入っていく。その後を巫女服の少女がこちらに一礼し、老婆の後を付いていく。
建物の中はありふれた感じの構造で特にコレといった違いはない。あ、1つあった。祀ってあるのが鏡や剣などではなく、一房の毛だった。白くて美しい毛だ。
「ほれ、立っておらずにそこに座ったらどうじゃい」
老婆に急かされ、毛の事は後で聞こうと思い、老婆達の前に引かれた座布団に腰を下ろす。
「まずは、私らだが、私はここの守り巫女をやっておるAIじゃ」
「AIってあの人工知能の?」
「おお、知っておるのかね。そうとも、その人工知能じゃ。名前の設定などはされておらぬからのぅ、気楽にばあやとでも呼んでおくれ」
「は、はい」
「それとな、この隣に座ってる娘だが、こやつの名はな、アマツキと言うての、君らと同じプレイヤーじゃ」
紹介された少女、アマツキは一礼する。
「見ての通り喋れないがのぅ」
「え!?喋れないってどうして?それになんでAIのばあやの所にいるの?」
驚いて固まっていると、隣に座っているアルテナが手を上げて問う。
「トラウマみたいなモノかのぅ。詳しい事は私の口からはのぅ…。ここに居るのも似たような理由じゃよ」
初めて会った人が勝手に踏み込んでは行けないと思い、この話はここで辞めることにした。
「それで、神狼様とはどういう方なのでしょうか」
「神狼様は獣人種の方じゃ。遥か昔の事じゃ」
ばあやは語る。
遥か昔、今以上に魔物が活発でそこら中を蔓延っていた頃のお話。
とある集落に産まれた1人の獣人種の娘が居た。その獣人種の娘は先祖返りで髪が白く、目が血のように赤かったそうだ。その娘の名前をユウナといった。
ユウナが7歳になった時、ユウナの持つ力に怯えた村人達はユウナの両親に迫り、殺害。そして、ユウナを集落から追い出したのだった。
追い出されたユウナは遭遇した魔物を蹴散らしながら人が住む場所を探し求めた。
1ヶ月が過ぎた頃。大きな街を見つけた。
街はユウナを受け入れ、優しくしてくれた。
その街でユウナは冒険者になった。優しくしてくれた街の人達に恩返しがしたくて。
1年が過ぎ、ユウナは冒険者の中でも浮ついた存在になっていた。
曰く、ユウナに関わるとパーティが全滅する。
曰く、ユウナは獣人種の皮をかぶった化け物だ。
曰く…etcと、あらぬ噂が広がった。
実際にはそんなことは無く、ユウナみたいな小娘が出来るなら俺らも、とか思った若い冒険者が、身の丈を弁えずに、格上の敵に挑んで勝手に全滅しただけの話だし、皮をかぶった化け物だではなく、努力を惜しまず、腕を磨いた結果なのだ。
それを知らぬ人々は次第にユウナを遠ざけるようになる。
そんなある日、街からユウナに指名依頼が出された。
その内容とは、『この大陸の魔物を駆逐して欲しい。出来る限り多くの魔物を倒して欲しい。』との事。
この街のためなら!そう思いユウナは潔く受け入れ、街を出た。
それから何年も何年も魔物達と戦い続けた。
戦い続ける内に、小さな村を救ったり、魔物よる被害が減ったりした。
街を出てから30年が過ぎ、ユウナは37歳になった。この頃には殆ど大陸に魔物は存在しなかった。
ユウナはこれであの街に帰れる、そう思った。
帰り道の途中に1つの集落に寄った。
その集落は他の集落や街などから頻繁に襲撃を受けているという。ユウナはそれを解決すべく立ち向かった。
魔物とは違い、理性と知恵がある人間相手だ。簡単に行くはずもなく、何度も何度も言い負かされたり、襲われたりした。
それでも何度でも立ち向かった。
そして遂に相手に勝つ事が出来た。その時には38歳になっていた。
集落に戻り、この話をすると大変喜ばれて、英雄として祀られた。
私はそんな大層なものじゃない、と何度も言ったのだが、集落の人々は、そんなことはない、と言って聞かぬ。それにはユウナも困ったが、それと同時に嬉しかった。認めて貰えた、そう感じた。
その後、ユウナはその集落に住むことに決めた。
ユウナが寿命で亡くなるその日まで、その集落を護り続け、いつしか神狼様といわれるようになり、死ぬ間際に手渡された、1束の髪をこうして今も密かに祀っているのである。
老婆は語り終わるとアマツキにお茶を淹れるように言う。
一礼し、アマツキが部屋を出た。
老婆は声を潜め「しかしじゃ」と話を繋げる。
そういわれているのは嘘で、本当は何者かに殺された。というのが本当らしい。
「まったく、酷い話もあったものよのぅ。そうじゃった、この事はあやつには内緒でお願いするぞ」
「わかりました。ですが、何故内緒にしなければならないのでしょうか?」
「似てるんじゃよ。まぁこの際じゃし、言っとくかの。あやつの両親は部下の裏切りによって殺されたんじゃよ。幼い頃のアマツキの目の前での」
そのトラウマで声が察せなくなったそうだ。
「わかりました。それでしたら、黙ってます」
あまり人のプライバシーに足を突っ込むものじゃないし、それに、可哀想だ。
「そうじゃった、ここに来たのはクエストとやらを受けに来たのじゃろ?」
「あ!はい、そうです」
忘れてたよ、クエストの事。誘ってきた張本人も忘れていたようで手で口を押さえてる。
「それなら、あやつを連れてってやってくれんかの?」
「私達は別に構わないのですが…」
クエストとかで護衛や他の人とパーティを組む事は何度もあるので構いはしない。けど、本人の意思でなければ受けられない。
「そこで聞いてるんじゃろ?それで良いかの?元々はクエストとやらを受けに人が来るまでじゃったのだからの」
私達の後に向かって声をかけるばあや。どうやら襖の向こうで立ち聞きをしていたらしい。
入ってきたアマツキが深々と頭を下げた後、ばあやに向かって頷いた。
「こやつらは悪くなさそうじゃから安心せい」
その言葉を受け、アマツキは笑顔で頷き、こちらに深々と頭を下げる。これはさっきとは違い、お願いします、のお辞儀だ。
「はい、よろしくお願いしますね、アマツキさん」
「よろしくね、アマツキちゃん!」
頭を上げたアマツキがまた深々と頭を下げた。
こうして、私たちのパーティに新たな仲間が加わった。