9.5 地球では
今回は番外編です!
妹耶達が居なくなった後の地球でも出来事とは如何に。
これは、妹耶達が異世界に行った後の話である。
「おい、まだなのか!」
ドンっと机を叩きつけながら1人の男性が叫ぶ。
「す、すみません! 現在全力を挙げて捜索中です!」
怒鳴られた1人の男性はビクッとしながらも、なんとか返す事が出来た。
「くそっ」
怒鳴っていた男性は椅子に腰を下ろすと、忌々しげに机を睨みつける。
この男性の名は、狼谷隆二。突如行方が分からなくなった妹耶の父親である。
「…………何処に行ったんだ、妹耶」
机を睨みつけたまま、弱々しく呟くと、あの日の事を思い出していた。
それは、妹耶の行方が分からなくなる前日の事。
隆二はいつも通りに実家から会社へ向かっていた。
会社に着くのと同時にメールの着信音が鳴る。
スマホをつけると、娘である妹耶からのメールだった。妹耶の親友である十神舞那を家に招くといった旨のメールだ。
隆二は社長である。世界的に有名な会社の社長だ。だから世界中に敵がいたりする。それはもうわんさかと。
そのせいか、妹耶がまだ子供の頃からよく攫われては人質にとられることが何度も何度あった。
その為、定期連絡を必ずさせるようにしている。
その日は仕事が長引いた。
これを仕上げれば今日の仕事は終わる。それなのに、隆二はつい、ウトウトして、上下に揺らし始めた。
しばらくしてから目を覚まし、何時か確認しようとスマホをつけると、妹耶から舞那を家に泊めますといった旨のメールが届いていた。それを読んだ隆二は微笑み、仕事に戻った。これが最後の定期連絡だとは思わずに。
油断していた。妹耶は強い、大人の男性が指一本も出せない程強かった。何があろうと、自力で全てを解決してきた。
例え、連絡が来なくなっても、遅くても3日も経てば、連絡出来なかった理由を綴ったメールが届く。
今回もそうだろうと思っていた。
しかし、いつまで経ってもメールが来ないまま、1週間が過ぎた。流石に長過ぎたので、居場所を確認する為に、GPSを起動した。
妹耶のスマホや鞄、靴や髪留めといった小物までにも搭載している。ちなみに、妹耶の了承も得ている。
更には、舞那のスマホや靴、妹耶がプレゼントした身に付けるものにもGPSが搭載されている。この事は隆二と妹耶しか知らない。
何故舞那にまでGPSを付けてるかというと、妹耶を誘き出すためによく誘拐されるからだ。
それはさておき、マップで妹耶達の場所を確認した。
「………………ない」
何処にも無かった。家にも、舞那の家にも、日本にも外国にも、更には地球上何処を調べてもGPSの反応が無かった。
焦燥感に駆られ、会社の部下を総動員し、行方を探し始めた。
そして現在に至るというわけだ。
「おい、妹耶の行方が分からなくなる直前までどこに居た」
「えっと、位置的に自宅ですね。舞那さんと一緒に居たみたいです」
GPS反応が途絶えた直前には自宅に居たみたいだ。
「舞那さんのGPSも同じ時に途絶えてます」
「なに? 本当に何が起こったってゆうんだ」
分かっている事といえば、2人は一緒に家にいて、一緒に消えた。
「あ、自宅を調べに行った部下からの報告です! 誰も居ないし、異常も見当たらない。そうです」
「クソがっ!?」
再び隆二は机を叩く。
「解析班より報告! 2人は消える直前までVRMMO【Another Earth World Online】にログインしていた事が判明しました!」
「なんだと! すぐに連絡をとれ!」
「既にやっております! ただ運営側はそんな事は決して起きないし起きてない、の一点張りです!」
妹耶達が消えてから2週間が過ぎた。
未だ行方が分からないままだ。
1ヶ月が経ったある日。
「おはようございます」
「嗚呼、おはよう」
隆二はいつも通りに会社に出勤していた。
「どうしたんですか? 浮かない顔をして」
覗き込むように部下が言ってくる。
「いや、なに、何か大切な事を忘れているような気がするが、忘れるぐらいだ、大したことじゃないだろう」
「社長が物忘れなんて、珍しい事もあったもんですね」
隆二は苦笑いを浮かべて席に座る。胸の中に燻る痛みを感じながら。
「そういえば、お前さんとこの娘、え〜と名前は……拝華ちゃんだ。元気にしとるか?」
部下に聞くと、怪訝な顔をしながら、こう言った。
「はぁ? 何言ってるんですか? 僕に娘なんていませんよ」
「は?」
何言ってんだこいつ。そう思ってしまうのもしょうがないことだ。だってこの部下、天月湘は娘の天月拝華を溺愛していたのだから。
「なんですか、嫌味ですか? 娘がいない僕に娘持ちが何を……あれ? 社長って、娘さん、いませんよね?」
「俺か? いない…………ぞ?」
胸の奥がチクッときた。焦燥感が膨れ上がってくる。
しかし何故か原因が分からない。けれど、このままこの話を続けると良くない。そう思えた。
「すまなかったな」
「いえ、こちらの方こそ」
その後もずっと焦燥感に煽られていた。
胸の痛みを堪えながら仕事に集中したが、あまり手につかなった。
ーーーーお父さん。お母さん。私はしばらく1人で暮らしたいな。
ーーーーほら、学校だって近いし、いいでしょ?
ーーーーそれじゃ、いってきます!
目が覚めた。どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ。
懐かしい夢をみたような気がする。
(だけど、そんな事は無かったはずだ)
夢の中での出来事。懐かしい感じがするが、身に覚えの無い会話。
「いったい俺はどうなってしまったんだ?」
思わず声に出して呟いてしまった。
それから数日が経つと、謎の焦燥感と胸の痛みは嘘のように消え去った。まるで大切な何かを失ったかのように。
「おはよう、あなた」
「おはよう、水沙紀」
狼谷水沙紀は隆二の奥さんだ。結婚してから既に23年が経っているが、未だに子供が出来てていない。
「今日はあの娘の誕生日ね。ちゃんと祝わなきゃね」
「あの娘って誰だ? 俺らに子供はいないぞ?」
「あらやだ、そうだったかしら。変ね。確かにいたような気がするのに」
首を傾げる水沙紀に「気のせいだよ」と笑いかけ、朝食をとる。
「そういえばあなた、なんですかあの家は」
「家?」
「あなたが借りてる家ですよ」
突如となく水沙紀が変な事を言い出した。
「俺は借りてないぞ?」
「それならこれはなんですか?」
そう言って、1枚の紙を隆二に差し出した。
隆二はそれを受け取り、首を傾げる。
「借りた覚えはないが、俺の名義になっているな……わかった。次の休みにでも解約してくるよ」
「そうしてください」
疑問に思いながらも解約する事を水沙紀に約束した。
ーーーーお父さん。
「っ!?」
「うぅ……む? どうしたにょですか?」
飛び起きた隆二に、隣で寝ていた水沙紀が声をかける。どうやら、起こしてしまったようだ。
「妹耶は! 妹耶は何処に行った!?」
「ふにゃ? 妹耶って誰ですか? はわわっ、揺らさにゃいでぇ!?」
いつの間にか、水沙紀の方を掴んで揺さぶっていたみたいだ。
「ご、ごめん。けど、本当に知らないか? 俺達の子供だぞ!?」
「え、え? だから知らにゃいですってば!? だから揺らすにゃあぁ〜!?」
そんなはずは無い。だって産みの親なのだ、知らないはずがない。おかしい、おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい……。
揺さぶりから開放された水沙紀が哀れむ様な目を隆二に向ける。
「もう、一体なんなんですか。夢と現実の区別もつかないんですか?」
「そんな事はっ!? ……すまない。俺の気のせいだ」
水沙紀は「次からは気をつけてくださいね」と言って、再び寝た。
(俺だけしか覚えていないのか? けど……)
そんな事は無い。そんな事を思いながらも
隆二は眠気に逆らえずに、再び眠りにつく。
隆二は会社に着くと、部下に話を振ってみた。
「湘、お前は妹耶って知ってるか?」
「モカ? コーヒーの事ですか?」
どうやら覚えていない……いや、知らないのか?
「いや、知らないならいい。すまない、仕事に戻ってくれ」
悶々としたまま仕事を終え、そのまま何故か自分が借りていた家に向った。何か分かるかもしれない。手がかりがあるかもしれない。
そんな一握りの希望を胸に抱いて。
「……ここか」
高級住宅街にある二階建ての一軒家。無性に懐かしく感じるのだが、今はそれを無視して中に入る。
中は思っていたより清潔感が保たれており、つい最近まで誰かが過ごしていたような感じがする。
2階に上がると、すぐ手前の部屋の扉が少し空いているのに気付いた。
その扉には、【〜妹耶の部屋〜】と書かれたプレートが掛かっていた。
「やっぱりいたんだ」
そう思うと、なんだか嬉しくなる。
部屋に入ると、ダブルベッド並のベッドがどーんと待ち構えていた。そして、ベッドの傍らには、隆二の会社で開発されたギアが2台置いてあった。
このギアは少々特殊で、1番最初に使った人以外は使えなくなる、といった機能が組み込まれている。
この機能は、悪用されないようにする為。
そして、限定することにより、VRログイン中の違和感などを極限まで減らす事ができる。
それは兎も角、そんな物があるということは、つまりはそうゆうことである。そう、妹耶は存在するということ。
何故なら、このギアは身内にか渡してないからである。それに、5台しか製造していないし、会社に残ってるのが2台。3台も行方が分からなかったのだ。その内2台がここにあるのだ。まず間違いはないだろう。
ギアを回収し、一度、自宅に戻る。
水沙紀には内緒にしたまま翌日を迎え、会社に向かう。
会社に着くと、解析班の元へ赴き、ギアを調べてもらう。
「あれ? このギア、使用中のままですけど?」
「なに? 本当か!」
使用中。それが分かれば後は自ずとわかるものだ。
(まさか、な。異世界に行ってしまったのか?)
異世界。それは【Another Earth World】の事だ。もう1つの大地の世界。ではなく、もう1つの地球の世界の事だ。この事は社長である隆二と観測班の上の者しか知らない。
「ありがとう。俺はこれから観測班の元へ向かう。業務に戻ってくれ」
お礼を述べると、ギアを手に、観測班の元へ向かう。
「いいですけど、本当にいるんすか?そんな人」
「いる。確実にな」
「わかったっすけど、見つかる保証は出来ないっすよ?」
観測班の責任者である彼は多少言葉遣いには難があるが、腕は確かだ。最初に異世界を発見したのも彼だ。
「それじゃ、始めるっす」
特殊なパネルを開き、起動する。すると、瞬く間に異世界の光景が表示された。
「それで、この2機とリンクしている人物を探せばいいんすよね?」
「そ、そうだ」
何度見てもこの地球上に存在しない光景に目を奪われていたが、今はそれどころじゃない。
それから30分程が経ち、そろそろ限界が近付いてきた。
「そろそろ稼働限界っす。それ以上はぶっ壊れる恐れがあるのでそろそろ切り上げないとヤバいっすよ」
もうダメなのか……そう思った時だった。
「ん? この反応は……ギアとのリンクを確認したっす! 場所はガイアース迷宮区の山の上っす!」
「なんだと!? よくやった!」
見つかった。妹耶の居場所が見つかった!
「けど、おかしいっすよ。リンクしてる人物は3人いるっす」
「おかしくはない。もう1台あるんだから」
そう、拝華の事だ。確か拝華の父である湘に頼まれて渡していたはずである。
「それならいいっすが、もう限界っす。接続切るっすよ!」
「ああ」
やっと見つけた。後はーーー
「待ってろよ、妹耶。今、助けてやるから」
ーーーー助ける、連れ戻すだけだ。




