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45 正式依頼

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 熱狂的ファンという名の暴徒から逃げるように維江原を出発しそのまま南に進む。

 全員が風呂敷包みを背や手に抱え大荷物の旅立ち。


 馬車が多く通ったであろう轍の上を二列になって足早に進む。左右には林や畑や手つかずの草原が遠く広がり、西の地平線には先月越えて来た遥華山脈が見える。建物はほとんどない。真上を見上げれば燦燦と輝く太陽。


「もうこの辺まで来ればもう大丈夫じゃないか?」

「そうですね、さすがにここまで距離を取ればそう追ってこないでしょうね」

「・・・少し休憩にしましょうか」


 維江原を出て二十分か三十分ほどして六人は休憩をとることにした。

 道のすぐそば、高さ十センチにも満たない草地にピクニックよろしく座り込む。フウタとセンリは昼の騒ぎのせいで食べられなかった昼食の包みを持ってきており、それを開けて食べ始める。

 今回は山越えの滝での二の舞は演じないとしっかり忘れず荷物に昼食を詰めて持ってきていた。もし忘れたなんてことになればセンリが悲鳴を上げることは間違いなかっただろう。

 周囲をうろつくケントにセンリが口におにぎりを含んだまま話しかける。


「ん?着替えんの?ここでもいいのに」

「見せるものじゃないだろう。エチケットだ」


 センリは幼馴染でフウタはグループメンバーだからいいとして、カケル・タクの他に年頃の女の子ハルがいるからと断る。


 ケントは肩ほどの高さの手頃な藪を見つけると着替えにうってつけだとその中に入り込んで農民風の扮装を解いた。

 出て来たケントは先程までの土汚れ残る服と頭から布を被っていた姿から手甲足甲を装備し剣を佩いた冒険者に戻り、タクはやっぱりこの姿こそケントさんらしいなと頷いた。


「農民よりそっちの方がやっぱりケントさんらしいですね」

「ふう、やはりこちらのほうが落ち着きますね。剣がないのは少々心細い」

「分かります。そわそわしますよね」


 タクはケントにも尊敬の目を向けている。にこやかな会話だ。

 武闘会本戦の間ケントが貫いた、"娯楽での命のやり取りは邪道"とするポリシーは無闇に対戦相手を殺さない、とてもスポーツマンシップに溢れたものだった。タクはそれにとても感動したし、ケントの素手での立ち回りと総合的な戦闘センスはぜひ身に付けたいとも思った。

 五角形で能力を評価するならセンリはパワーで五を取り、フウタはスピードで五を取るだろうが、ケントはテクニックを四取ってそれ以外をオール三以上は取れるオールマイティー。なんならセンリのパワーもフウタのスピードもケントの統率力も手に入れられるなら全部手に入れたいとタクは思う。


 だが、タクの腰に現在あるのは何を隠そう念願の成人用の刀。しかも過ぎたるほどの名刀。ケントや皆とカケル誰にとりわけ思いが強いかは言うまでもない。

 ケントのように英雄になれればとも思うがそれは別口。上書き保存ではなく名前を付けて保存だ。誰のために力をつけたいのかということである。


「―――フウタはそのままでいいよなぁ、目立たなくて」

「センリさんが目立ちすぎなんですよ。言わなくていいことも言うし」

「思ったことは言いたいタチなんだよ。ガマンは毒だ」

「それでこっちにまで巻き込むだけはやめてくださいよ」


 被っていたことを忘れていたがケントの着替えで思い出した頭上のバンダナの存在。右手はおにぎりのまま左手で雑にバンダナを取りながらブー垂れるセンリを、フウタはあっさりかわす。

 緑と茶色を主とした自作の迷彩服を着ているフウタは街中にいてもおかしくはないファッション。もちろん野原や山林においては同化しやすいため高い隠密性を持つ。

 そして今はもう町の外に出たので腰に短弓を装備した。同じく装備した矢筒には相応の本数の矢が入っている。

 地下牢獄潜入時は短剣だったしそれ以外は武器を携帯することがまずなかったので、何かとペアを組んでいたタクはフウタの短弓使いとしての居姿を遠目に見て少し懐かしさと驚きを感じた。


 二ヶ所で和やかに交わされるそんなやりとりを気まずそうに見守る男が一人。

 カケルはそそっと近づいてハルに耳打ちした。


「・・・やっぱりみんなにもプレゼントした方がいいよな」

「何を」

「ほら・・・、な・・・?」


 カケルは自分の服とハルの服に加えてタクの具足を見比べ、次にケントたち三人に目線をやった。

 小奇麗な服と具足で服を調えたカケルたちと対照的に使用感満載のケントたちの服。何度も汚れては洗濯し、戦って磨耗したような細かい傷が目立つ。


 センリの指抜きグローブは使い込んだジーンズのような味が出ており、鉄の膝当てはこれまで何人が犠牲になっただろうかと思うほどに小さなへこみが多数。

 ケントの手甲は武闘会の決勝で受けた沢山の刀傷が新しい傷となって入っている。その時着ていた服はぼろきれに近かったのでやむなく雑巾となった。

 フウタの迷彩服は使い込んだのでこの方が色馴染みが良いと言われたらそれまでだが、合わせて新しくしてあげたいとも思う。


 自分たちだけ新調しといて三人はそのままって言うのはちょっとアレだよな、と思ったカケルはケントが昼食を食べ終わるのを待ってから話しかけた。


「ケントさん」

「はい、なんでしょう」

「慌ただしい出発になっちゃってあれなんですけど、次の町に着いたらこのお金で装備を整えてくれませんか」

 カケルはケントに100万エル入りの銀貨袋を差し出す。

「・・・受け取れません」

「前も言いましたけど、ケントさんのおかげで儲かったお金ですからケントさんが受け取っていいお金ですよ。みんなの装備もだいぶ使い込んで見えますし、せっかくだから新調したらどうですか?俺達だけ新調してるのは気が引けちゃうんで」

「ですからそれはあなたが勝負して勝ったお金なのであなたの物です。羨んだりもしませんし分けて欲しいとも言いません。自分たちの装備は自分たちで稼いで調えますからご心配なく」


 一貫して首を縦に振らない。


 ガンコだな、と思うカケル。

 毅然と断るケント。

 また始まった、と嘆息に暮れるフウタ。

 受け取ればいいのに、なんならくれよ。と腹六分のセンリ。


 リーダーはケント。フウタやセンリに渡しても返されてしまうから結局ケントに交渉しないといけない。

 どうすれば受け取ってくれるか、その方法を考えるうちにいろいろと出来事があって先送りになってしまっていた。カケルはここに至ってどうにか渡せる方法をほぼ何も考えていなかった。

 出来れば気持ちよく渡したいし気持ちよく受け取ってもらいたい。揉めたくないし、せっかくだから良い使い方したいよね。

 ケントが一番すんなり受け取ってくれる方法は何だろう?とカケルが考え始めた。


 その時、


 ガサガサッ!


 二十歩先の藪から何者かが踏み分けてこちらに向かってくる音がした。


「誰だッ!!」


 ケントの声一つでフウタは腰の短弓を取り出し、センリ・タクが一斉に剣の柄に手を添えながら四、五歩進む。意図せず自然と戦闘には向かないカケルとハルを後ろに守るような隊形を取った。

 ケントも剣をいつでも抜けるように体勢を整え、音の方向に向かって注意を向ける。


 ガッサ、ガッサ、ガッサと向かってくる音は一人ではなく複数。しかも大人数であろうと予想される。

 藪から現れたのは薄汚れた服を着た無精髭の男がやはり十数名。各々の手には抜き放たれた剣や得物が握られている。

 その姿が現れるとしばらく風呂に入っていないのかひどい体臭が漂い、前列のタクら四人は小さく呻いて顔をしかめた。


 先頭のかしららしき男がカケル達六人が休憩していた辺りの地面に転がる多くの荷物を一瞥し、下卑た笑みを浮かべて言い放つ。


「ずいぶんな荷物じゃねえか。置いてけよ」


 どうやら野盗で間違いない。

 維江原は外壁で囲まれた町、ほんの数十分走った位置で野盗が出て来るとは。ザノが連行されてズーイも去りまだ地盤の固まらない後任領主ではまだ政情不安が残るということだろうか。


 ヒッヒッヒ、と揃って笑いだす野盗の男達。じりじりと進み出る。

 武器も服装も何もかもがバラバラでちぐはぐ。その武器は剣だけでなくて木の柄の安そうな槍だったり漬物石くらいに大きな石に穴をあけてロープを通した流星錘だったり丸太を削って作った棍棒だったりとどう見ても泥臭い。

 防具も追い剥ぎでかき集めたような統一感のなさ。顔や胴はがら空きで脛と膝だけが鉄の防具で覆われている間抜けな男もいる。


 貧しいことこの上ない汚れきった集団のその視線の多くは、自然とタクに向かう。


「ひっ・・・」


 タクの腰には綺麗な朱漆の刀。全身は新品の黒い具足。実費は20万エルだが唐紅を合わせれば30万とも40万とも値はつくだろう。

 このまま奪い取って着るもよし、売って金にするもよし。子供に着せるには不相応で組み伏すに容易そうなターゲット。まさに鴨ネギ。

 そしてその目線は着飾って可憐なハルにも刺さる。

 舌舐めずりしながら見られるねちっこい視線にタクとハルは生理的嫌悪感から体を震わせた。


 野盗らは自然とカケルたち六人を翼包囲するように横に広がっていった。


 タクを見るその目線に、今地面に置いている荷物どころか今私達が着ている服までを脱がそうとしているのではと察知したケントら三人はその翼包囲に向かい合う形で向かい、自然とタクを守るように動いていた。

 正面はセンリ。左翼はフウタ、右翼はケント。

 中央に守るように置かれたカケル・ハルに最も近い位置にいるタクは、前に出るよりも後ろの二人を守ろうと待機した。

 カケルは正直に言って戦いたくないがすぐそばにはハルがいる。他のメンバーは前にかかりきりになる。もし間を抜けてくるようなことになれば。

 やむを得ず戦う覚悟を決めた。


「くっそう、結局来んのかよ」


 払戻の時に闘技場でたっぷり脅しをかけたのにやっぱりこうなるのかと歯噛みして悔しがる。


 ハル以外は全員それぞれの武器に手をかけ、いつでも抜ける態勢を整えた。

 まだ抜かなかったのは、このままおとなしく引いてくれればとのわずかな希望が残っていた。

 しかしその様子を見ておとなしく従わないと見た野盗の頭はすぐさま剣を真上に構えて一気に振り下ろした。


「やっちまええ!!」

「「「ウォォォォォァァァァァアアア!!!」」」


 最初に突っ込んできたのは左翼。フウタのいる方向。

 剣や棍棒などの近接武器で構成された五人程度の野盗が走り出す。弓持ちのフウタならば間に合わないだろうと全速力で駆け出してきた。


 だがその予想はあっさりと裏切られ、三本の矢を一度に番えて放たれた矢は愚直に一列に進んできた前の三人の胸にドドドスと刺さった。


「ううっ!」

「ぐっ」

「おぁっ!」

「「ワッ!!」」


 うずくまった三人の後ろに残っていた二人は全速力で走ったスピードを止めきれず、急にうずくまった三人の体に躓いてでんぐり返しに転ぶ。

 そしてその間にすぐさま二本の矢を番えて残りの二人の胸や腹を射抜く。


「ぐはっ!」

「うああっ!」


 この間たったの六秒。左翼の五人を瞬殺された頭は一瞬怯んだがすぐさま剣を振るう。


「い、行け!そっちは優男だ!」

「「ウオオオオオ!!!」」


 次は右翼の六人をケントに向かって突撃させる。

 こちらは漬物石大の石をロープでつないだ粗末な流星錘を持つ大男と吹き矢を持った男を混成した前衛四人・後衛二人の編成。

 最初は近接の四人が突っ込んでくるかと思いきや大男が間を割って入って先頭を走り、いきなりブオンと重たい風鳴りを響かせてロープのついた石を投げ飛ばした。

 真横の軌道を描いて飛んできた石をさっとかわすも、ケントの右脇そばを飛んできた。

 ドムッと重たいくぐもった音を立てて地面に落下する。


「へへへ・・・」


 これだけ重たい石を軽々と投げられるんだぞと力を誇示したいのか、流星錘の大男は格好つけて笑みを見せつけて来る。

 さあ震えろ、許しを乞え、とでも言いたげな大男であるが、その余裕たっぷりはこと戦場においては命取りだ。


 バツッ!!!


「―――なっ!?」


 ケントは腰の剣を抜くと同時にすぐ右脇を通り過ぎるように延びる流星錘のロープを切断。

 そしてそのままの勢いで大男に向かって踏み込み、真っ向から痛烈な縦斬りを浴びせた。


「ギャッ!!」

「ひっ―――」


 ドウッと倒れた大男に怯むが、残る四人と吹き矢の男の戦意はまだ潰えない。


「「おらあああああ!!!」」


 揃いも揃って馬鹿正直に大声を上げながら最上段に剣を構えて突っ込んでくる。

 剣術もへったくれもない。胴ががら空きだ。流れるように低い姿勢で駆け抜け、ズバババッと一気に四人の胴を斬り抜けた。


「う、う、うわあぁっ!来るなあ!」


 残された男は一人、吹き矢の男。五人をあっという間に倒されパニックに陥る。


「フーッ、フーッ!・・・あれ?あれっ!?フーッ!!」


 近寄って来るケントに向けて吹き矢を吹こうとするも矢が出てこない。


「や、やめてくれ、頼むお願―――ぎゃあ!」


 先に襲っておいて今更降参は虫が良すぎる。

 ケントは男が言い切るのを待たず袈裟斬りを浴びせた。



 野盗の頭の最初の号令から三十秒程度で十一人が倒された。残るは頭のいる中央、七人のみ。

 一分も経たないうちに三倍もの人数差を持ちながら手下の六割がたったの二人に倒され、かしらの額には冷や汗がタラリと落ちた。


「・・・ちっ、チクショウが!覚えとけよ!!」


 ここで戦ったら俺の命がやべえ。

 そう思った頭が捨て台詞を吐いて、自分たちがやってきた藪の中へと逃げ隠れようとするが。


「覚えてられるかーーーー!!!」


 ブオォンと重たい風鳴りを上げながら、半分の長さに切断された流星錘が背後目掛けて飛ぶ。


「「ぐぁぁあ!!」」

「生きて帰れると思うなよーーー!!!」

「「うわあああっっっ!!」」


 流星錘を投げて二人倒した直後、センリは逃げようとする野盗たちの後頭部あるいは振り向いた顔面めがけて鉄の膝蹴りの一撃を叩き込む。


「ひっ、逃げ―――ぐハァ!」

「やめろ、近づ―――うわぁっ!!」

「待てコラァァァー!!!」


 ガサガサガサと藪の中で音を立てながら断続的に聞こえてくる男の悲鳴。

 藪の中を逃げ惑う野盗たちはセンリの一方的な追い打ちに次々倒されていく。そして悲鳴はギャッと醜い声を上げたのを最後に頭以外の男は全員倒された。残るは頭一人のみ。


「やめてくれえっ!・・・・ハッ――――!」


 藪の中をセンリの追撃から遮二無二逃げ回って突き抜けた先はぐるりと回り回ってなんとタクの目の前。逃げ切ったどころか戻ってきてしまった。

 後ろからは姿の見えないセンリの追撃。少し離れた位置にはケントとフウタ。どちらも相当の手練れ。

 生き残るには目の前の子供タクを斬って敵中突破しかない。


「・・・・っくそがあああ!!」


 鎧を着たところで所詮ガキ。大人には勝てないんだと一気に斬りかかる。


「「タク!!」」


 抜刀せずに立っていたタクに野盗の頭が猛然と飛びかかる。

 ハルと共に名を叫び、カケルは咄嗟に初雪を抜こうとしたが。


 タクは鞘を持っていた左手をそのまま滑らせ柄を掴み、逆手・・で抜刀した。


 ――――ズァシュッッ!!


「・・・・ぐはっ・・・!?」


 逆手の左手で抜刀し、刀の峰に右手を添えて左に押し斬った軌道。もはや生還不可能なレベルの傷の深さであることは誰の目にも明らか。


 タクは、カケルがマエノ村の前で魅せた「逆抜き不意打ち斬り」で野盗のかしらの右脇腹を深く切り裂いたのであった。


「う、そ、だ・・・ろ・・・」


 なぜ斬られたんだ、と驚きの表情のままバタリと斃れ、やがて野盗の頭の男は目を開けたまま動かなくなる。

 それを見届けるとタクは血振りをして唐紅を鞘に納めて呟いた。


「はぁ・・・・・・もっと速く出来たなぁ――――」


 会心の一撃に見えた剣閃に見えたが本人は納得いっていない。

 浮かない顔で左手の握り方を今一度確かめ始めた。素晴らしい一撃だったのにタクは首をひねる。もっと無駄のない動きでもっと素早くやれた、と反省すらしているようにも見える。


「「・・・・・・・・・」」


 カケルとハルは目まぐるしく移る展開に、無言のままぱちぱちとまばたきをするしかなかった。





 無事野盗の襲撃を防ぎ切り、ケント・フウタ・センリは仕留めた男達を藪の中に隠す。息があった者はセンリとフウタが短剣で止めを刺して回る。ケントは道の方に出て警戒をしている。

 そこまでしなくてもと思うカケルだったが、生かして帰す方が危険なのでここで根絶やしにしますとフウタは冷淡に言った。報復に来ないとも限らない。逃がせば他の人を襲うこともあるだろう。

 殺しに来た時点で殺されても文句は言えないでしょうとさっぱり言ったフウタは手慣れたスピードで憂いを断って行く。センリはひたすら悪人は滅べと叫びながらその通り有言実行滅ぼしている。


 後ろの方で反撃もとい蹂躙していく様を傍観していたハルとカケルはほんの僅かの間にあっさりと決着してしまった現実と、転がる死体に呆然としていた。

 タクが戻って来ると少し正気に返り、先程の技について問う。


「―――タク!あれ、いつの間に使えるようになったんだよ」

「いつの間にというか、ずっと練習してましたよ。両刃の剣だと右手切っちゃうんで練習では四割も出せませんでしたけど、やっぱり片刃の刀だと抜きやすいし安心して繰り出せますね。でももっとやれたんじゃないかとは思うんですけど」

「は、はは・・・」


 もっとやれた?あれでも十分なスピードだったのに。

 逆抜き不意打ち斬りをやってくれと乞われて目の前で何度か見せたことはあっても指導と言う形で教えたことはなかった。

 昔の俺のように、目で盗んでものにしたのかよ。

 カケルは喜びと驚きや才能を垣間見た空恐ろしさ、いろんな感情が複雑に入り混じって、結局渇いた曖昧な愛想笑いをするしかできなかった。



 それにしても・・・。と呟いて見渡した光景は圧巻の一言に尽きる。


 二十名弱の野盗に襲われながら全てを返り討ちにした挙句こちらには負傷者は誰もいない。全員が無傷で完全勝利している。戦闘中から戦意を喪失し逃げ惑う野盗が続出したのもケントさんたち三人には勝てないと感じさせるほどに強かったからに他ならない。

 これがもし俺とハルとタク三人だけだったら。そう考えるとカケルは背筋が凍るのを感じた。


「よっし!終わりー」

「ふう、こっちも終わりました」


 掃討と後処理を終えたセンリは手をパンパンと叩き払い、フウタは使い捨ての布で手と短剣の刃を拭う。ケントは引き続き周辺の警戒に当たっている。


 それを見ていたカケルはどことなく焦りを感じていた。


 暴徒化したファンに逐われて維江原を共に脱出してまもなくここで野盗に遭遇した訳だが、もしまた次同じようなことになればどうなるか。

 第一ケントたちは維江原までは同じ道のりだったがこれからはどうする?これからケントさんたちは別行動をとるんじゃないか?


 遥礼までの道のりはまだ長い。それまでの旅の安全をタクだけに押し付けるのは大きな不安が残る。まずはそれとなく探りを入れよう。


「ケントさん、これからどうしようとか考えてますか?」

「まずは足早にここを去りましょう。安全とは言えませんしまた何かに見舞われないとも限りませんから」

「そうですね。・・・今後の旅の予定は?」

「詳しくは決めていません。が、出来るだけ帝国領からは遠ざかりたいです」

「どうしてですか?」

「――――国境ですから、いつ戦争が始まるか分かりませんので」


 武闘会も帝国生まれの人間がどうこう言ってたからやっぱりあの辺は危ないのかもな。そう言われると確かに近づきたくないかもしれない。

 カケルは今した質問でやや陰ったケントの表情を見てそう思う。


「次はどの町に行くとかは?」

「まだ決めていませんね。気の向くままに必要に応じて寄っていこうかと」

「なるほど・・・」


 それなら、と期待を募らせたカケルはケントに一つの提案をした。


「よければ、俺達の旅に正式に同行してくれませんか。その・・・護衛として」

「護衛ですか」

「はい、やっぱり三人だけの旅だと今日みたいに襲われたら危ないなと思って。俺なんてこんなの持ってますけどまともに戦えるかって聞かれたらアレなんで」


 腰に佩いた初雪を目でチラリと見ながら日本人特有の自嘲と謙遜の混ざったような笑いを浮かべる。

 ケントはこの打診が自分一人だけの引き抜きなのかそれとも丸ごとの勧誘なのか内心測りかねている。もちろん前者であった場合答えはノーだ。

 ケントの思惑を敏感に察したかそれともたまたまか、カケルはその部分についてタイムリーに説明を付け加えた。


「遥礼までは出来れば安全に行きたいのでケントさんだけじゃなくてみんなもお願いしたいんです。三人全員。難しいですか」

「・・・・・・一旦話し合ってみてもいいですか?私の一存では決められませんので」

「あ、はい。どうぞどうぞ」


 ケントは離れて座るフウタとセンリの方へ向かい、今持ちかけられた護衛依頼の話を相談する。


「・・・今カケルさんから護衛依頼があった。遥礼までだ。どうする」

「遥礼・・・結構長いですね」

「ん?遥礼?いいじゃん」

「えっ?」


 フウタは冷静に受け取ったがセンリは深く考えることもなくサバサバとケントからの相談を聞いた。


「ほとんど王国縦断コースですよ」

「うん、だから?」

「だから?って・・・」

「別にいいじゃん。武闘会終わったんだし特に行き先もないんだし。それに遥礼っつったら首都だろ。面白そうなのいっぱいありそうだし、せっかくだから旅行代わりに行こうよ。―――そうそう、護衛依頼ってことはちゃんと金も出るんだろ?」

「え?・・・あ」

 センリからそう言われたフウタははたと気付いた。

「だろ?食いっぱぐれることはないって事じゃん。むしろ遥礼まで飯と宿がずっと保証されるって事だろ?いいじゃ~ん」

「ええ・・・いいんですかねリーダー」

「私はどちらでも良い。現状次の目的地がないのは言う通りだし、一人でも強く反対すれば断ろうと思っている」

「いや・・・う~ん・・・」

「いいじゃんフウター。討伐依頼でも潜入依頼でもない、普通の護衛依頼なんだから。それに、せっかくのハネムーンになったんだよ?悪い虫が寄って来たらハルちゃんたちがかわいそうだと思わないの~?今日みたいなことがあったら守り切れないでしょ。確かに遥礼までは遠いかもしんないけど、それでアタシたちが損することはないんだからさぁ」


 センリの言うことも一理ある。

 維江原からは漠然と東か南かと見当をつけていただけに南の遥礼はやぶさかではない。ただ、王国の国土をほぼ縦断する遠い道のりというのが引っ掛かっている。

 無言で腕を組んで悩み始めたフウタを見てセンリは「じゃあ聞いてくるよ」とひとっ走り。カケルから雇用条件を聞いて戻ってきた。


「三人まとめて雇う。仕事はカケルとハルちゃんとタクの旅の護衛。期間は遥礼に着くまで。日数は未定。その間の飯と宿はカケル持ち。支払いは前金で100万払うってさ!」

「100万!?」

「食費宿泊費あっち持ちで100万はすごくないか?」

「それは破格ですね・・・」


 その金額に驚いたフウタは真剣に検討し始めた。

 先程までの後ろ向きな様子とは打って変わって肯定的な雰囲気。頭の中で色々と計算し問題ないかを確かめる。

 しばらく考え込んだのち、フウタは小さく頷いた。


「・・・分かりました。いいですよ」

「よしっ!ケントもいいよな!」

「――――。」


 ケントがゆっくりと瞼を深く閉じて見せるとセンリの顔がぱぁっと華やぐ。

 喜色満面そのままカケルの方へ走っていった。


「いいぜ!アタシ達はそれでオッケーだ!」

「ちゃんとみんなに確認とったか?」

「大丈夫だよ、フウタも分かったって言ってるしケントも任せるって言ってるし!」

「ふうよかった。これで安心できるよ」

 腰帯からあらかじめ取り分けていた100万エル入り銀貨袋を取り外す。

 いそいそと受け取ろうとしたセンリだったがその手の横からにゅっと伸びたフウタの手がそのまま銀貨袋を掠め取る。

「ボクの方でしっかり管理しますからね。安心してください」

「お、おう」

 ニッコリと笑いかけながら無言の圧力をかけるフウタに引き攣ったような笑みを浮かべるセンリ。

 センリに100万も渡したら何に使うか分からないから賢明な判断だな。しっかりと財布の紐を結んでおいてくれ。とカケルは思った。


「―――そろそろ出発しましょう。ここに長居するのはよろしくない」

「あ、はい分かりました」


 ケントさんに言われ俺は荷物を持ち出発の準備を整える。ハル他四人もそれぞれ地面の草地に置いていた荷物を持ち始めた。

 急いでいたとはいえ荷車を持たずに出てきたのは失敗だったな、と後悔した。




 ・・・なんにせよ、無事ケントさんたちを繋ぎ止めることが出来て良かった。

 金もしっかり渡せたし、残りは約400万エル。

 一番の心配だったハルとの関係も考えられないほど改善したし、騒がしい昼になったけどトータルで見れば良い出発になったんじゃないかな。


「次はどこに向かうんですか?」

「そうですね・・・ここからだと四日の位置に犀丘さいきゅうという大きな町があります。途中の村や野営地で休憩も挟みながらまずはそこに向かいましょう」

「はい」


 準備が済んだのを確認するとタクとフウタが先行して歩き出す。

 俺とハルが二列目を歩き、後ろをセンリとケントさんが歩く。


「カケル」

「ん?なに?」


 隣のハルに呼びかけられ横を向く。

 ハルは俺の名前を呼んだと思ったらそのまま他に何を言うでもなく、黙って小さく笑いかけてきた。


「ふふっ」


 俺もハルに笑いかける。

「良い旅になるといいね」「そうだね」と目だけで以心伝心したような照れくささ。嫌じゃない。むしろ楽しい。


 ドタバタだったのが嘘のように空はすっきりと晴れ渡り、五月末の暖かな風は草原の青臭さを運んでくる。

 低い草原の中を数知れない馬車が通ったのだろう轍の形に土がむき出しになって生まれた二本のベージュ色のレールの上を二列縦隊に進んでいく。

 これから梅雨がやって来るんだろう。もしかしたらこのまま雨など降らずに夏に向かっていくのかもしれない。降ったら降ったで風物詩として睦むことも出来る。空も心もとても澄み切った旅立ちだ。

評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。


カケル所持金・約410万エル


19/7/1 加筆訂正・所持金追加・スペース改行追加等レイアウト修正

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