43 強化
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
夜・南山亭二階・客室
「えへへへ・・・」
「タク君、そろそろ片したらどう?」
「そやけど・・・いや、そうなんですけど、まだ見ていたくて」
「・・・タク君はなしてそげんかしこまった喋り方しとるん?」
「兄さんには恩がありますから」
「恩でそげん喋り方しとると?窮屈やなか?今、前の言葉出とったよ」
「あはは・・・、つい気が緩んで・・・」
食堂にて夕食を済ませ片付けが終わった後、タクは自分のベッドの上に四本の刀剣槍を置いて眺めていた。
後片付けなどを終えたハルが戻ってきて、横のベッドに向かい合うように腰かける。
「良かったね」
「はい」
「一人で持てる?」
「持てます。いや、持ちます」
両手をぐっと握りしめながらハルにはっきりと言い切る。
これまでタクが持っていたのは亡き兄たちが使っていた槍と長剣の他、自身で使っていたショートソードの三本だった。
そこにカケルがもう一本武器を買ってくれた。剣ではなく刀、しかも大人用の太刀だ。
「早う使えるようにならんとね」
「そうですねぇ」
今すぐにでもこの背が伸びてほしいと祈りながら、いつかこの刀を振るう日を想う。
「タク、なんかほしいものある?」
「欲しいものですか?えーと・・・水筒――――」
「す、す、す水筒!?」
「ななんですか、大きい声で」
「あ、いや、ごめん。え?なんだっけ、水筒?」
「あぁはい、ちょっと水筒が古くなってきたので」
「いや・・・そういうんじゃなくてもっと欲しいものないの?他に」
「他ですか・・・?」
リョウを見送った後、朝には遅く昼には早い時間帯の賑わう大通りを六人で歩きながら、隣のタクに何か欲しいものはないかと問うカケル。
自分たちだけ服を新調しといてタクには何もしてなかったのを思い出した埋め合わせに希望を聞いた。
「他は、ないですね」
「何でもいいんだよ?もっと言っていいのに」
「兄さんどうしたんですか急に」
「あのな・・・うん」
タクのことを忘れてたなんて言ったらどうしようと悩む。
決して忘れてたわけじゃなくて、そう、後回し。いや、後回しも聞こえが悪い。そうじゃなくて・・・二の次?
ダメだ。二の次もアウトだ。と頭をブンブン振りながら、脳内会議を繰り広げる。
変に取り繕おうとするのはまずいな。余計なこと言っちゃうといい結果にならない。と、カケルは早速本題を切り出す。
「武器を新しく買ってあげようと思って」
「えっ!?」
「あ・・・いや、要らないなら別にいいん―――」
「要ります!欲しいです!どんな武器ですか?選んでくれるんですか?それなら行きます!あぁでもプレゼントって事なら先に見ないほうがいいですよね。それなら・・・。でもやっぱりそれなら希望伝えた方がいいですよね!行きます!行っていいですか!」
「あ、ああ・・・じゃあ、行こうか・・・」
ずいと近づいて猛烈に喜びながら目を輝かせるタクにタジタジ。
俺が逆抜き不意打ち切りであの通り魔を倒した直後のあの頃と同じだ。技を教えてくれってしつこく食い下がってきたあの頃のテンションが戻ってきたぁ。と汗が垂れるのを感じながらカケルはタクと二人で別行動。
軽やかな足取りとニコニコ顔のタクはカケルの半歩先を行く。楽しみで仕方ないようだ。でもプレゼント選びは本当に悩む。武器となると殊更だ。
この調子だと時間がかかりそうだなと思い、
「タク、先に昼メシ挟んでいい?」
「んー・・・はい。分かりました」
少し早い昼を済ませてから武器屋へ向かうことにした。
武器屋
大通り沿いに軒を構える間口の広いいかにも品揃え豊富そうな武器屋。つい先日カケルとハルが服を新調した呉服屋の真隣にあった。
暖簾をくぐると中には男のロマンが広がっていた。
店内に所狭しと和洋さまざまな刀剣が飾られていて、暗器や短剣や槍や大振りのハルバードなんかも置いてある。この小さくて細い針状のものは何だろう?よく分からないけど武器屋にあるんだから武器なんだろう。多分毒塗ったりするのかな。
人を殺すのには抵抗があるけど武器自体には心ときめく。目を輝かせるタクと同じく俺もかなりテンションが上がった。
店内は割と空いている。武闘会の前だったら混んでいたかもしれないけど今は後。落ち着いて選べそうで快適だ。
入り口から向かって正面はカウンター。左右の壁には多数の刀剣武器が飾られていて、右の壁沿い奥側にある暖簾をくぐれば古今東西の防具が販売展示されているもう一つの部屋となる。
武器防具が一通りそろえられそうな店だ。
ひとまず店内にはなにがあるのかとさらっと一周。防具エリアを見て戻ってきたところへカウンターの店主が声をかけてきた。
「いらっしゃい、何が欲しいんだ?」
「この子へのプレゼントでして。何かいいのがないかなぁと」
「ほう。――どんなのがいい?」
「ええと・・・」
聞かれたタクはもじもじしながらおもむろに横の壁に掛けられた刀剣の区画をチラリと見た。
その視線の先を追ってほほうと納得した店主はカウンターから出て来て壁掛けから一振り取り出す。
「抜いてみな」
店主は真っ直ぐな剣をタクに手渡した。
長さは今タクが腰に差しているショートソードより長い。
シャキィッと剣を抜くと持ち手のグリップ感、長さ、重さなどの感覚を試している。
ショートソードより長いから持った感覚が違うのはもちろんのことだけど、まずまず好印象な様子だ。
「悪くないです」
そう言い鞘に戻すと店主に返した。
タクの様子からして及第点ではあるがこれではないか、と心の中で思った店主は別の剣をタクに渡して試させる。
「これはどうだ」
タクは渡された剣を抜いて感触を確かめる。
先程の剣よりも剣身が分厚く、どちらかと言えば重量で押し切るような剣。鋭さと言うよりはパワータイプな印象を受ける剣だ。
これにはタクは少し首をひねる。これではないようだ。
わりかし早めに剣を返した。
「・・・他のはどうですかね」
「ならこれはどうだ。軽いし使いやすいと思うが」
「――レイピアですか」
店主はとても細い剣をタクに手渡した。
その剣はフェンシングで使うような剣でこれまでの剣に比べたら軽くて使いやすそうだ。タクはしっかりと握ってレイピアを抜き、使用感を確かめ始めた。
店内は空いているので軽い素振りも出来る。ヒュッヒュッと何度か縦切りをすれば軽やかな風切り音が聞こえる。
タクの顔を見てみるとまずまずな反応。悪くはなさそうだ。だが一つ気になっていたことがあったのか店主の方へ向く。
「これって打ち合えませんよね」
「そうだな、あんまり打ち合うもんじゃねえな」
「それだと受け流すかかわすかしかないですよね」
「ああ、やったら折れるな」
「そっか・・・うーん・・・」
剣技の技術面とレイピアの強度面に不安を感じたタクはこれも選ばずそのまま店主に返した。
「どういう武器が良いんだ?希望は?」
「ええと・・・まず長くて頑丈なのがいいです。槍とか斧とかハンマーとかじゃなくて、剣で」
「ふむ。両手片手こだわりはあるか」
「今はこの片手剣なんですけどそれだと押し負けちゃうかなって。今は盾も使っていないのでいいかなと」
「そうか。成長も見込むなら両手がいいだろうな。その方がいいだろう。他は?」
「出来るだけ自由に使えるのがいいですね。幅が出るような」
「なるほどな・・・自由か・・・」
漠然とした要望をどう形にするのか。それに一番近い武器はどれなのか。
タクも店主も頭を悩ませる。武器のことはからきしのカケルは悩むことをもはや放棄しておとなしく佇んでいるのみ。
長く使うなら耐久性の高い肉厚な剣。しかしタクは難色を示した。
取り回しを考えればレイピアもあり得るが折れる不安のある剣を持って戦うには不足の懸念もある。
その中間。
切れ味がよく、長さもちょうどよく頑丈で、重さもちょうどいい武器。両手で使用するがもし片手を負傷した時でも片手で使えるくらいの重さなら理想。
しかし、そんな武器があるだろうか。
そんな都合のいい武器があれば・・・。
タクが考え込みながら店内を見回しているうち、なぜか俺の腰のあたりで目線が止まった。
「えっ?どうした?」とタクに声をかけようとするとタクははっとした様子で声を上げた。
「刀!刀がいいです!ありますか」
「・・・刀か、ちと値が張るが―――」
「ああ、大丈夫ですよ。俺が出すんで」
「えっ!」
「武闘会で勝ちましてね。十分すぎる額の資金は持ってますんで大丈夫です」
「・・・そうか、よっしゃ待ってな」
店主は一度カウンターの奥に引っ込む。
「悪いですよ」
「いいんだよプレゼントなんだから」
「でも」
「子供は気にすんな」
「こっ子供じゃないです!剣持ってますから!」
「細かいことは気にすんなよ、甘えとけ甘えとけ」
いいんだろうかと嬉しさ半分申し訳なさ半分のタクを押し切る。こういう時はおとなしく奢られとくのも奢られる側のエチケットだぜ。
タクと小競り合いをしているうち、両手に二振りの刀を持って店主が戻ってきた。
「うちにあるので一番いいのがこっちだ。こっちはお手頃で使いやすいだろう」
赤と白、二振りの刀を持って現れた。
その長さはいずれも成人男性にはちょうどいい二振りで、見た目も艶やかに美しい。
赤色の刀は鞘には一点のムラもない精緻な漆塗りが満遍なく施され、柄にも同じ色合いの紐で菱形が綺麗に縦一列に整列するように巻き付けて縛られている。
白色の刀は鞘はとてつもなく目の細かいやすりを丹念にかけ続けて布や革で磨き上げた大理石を思わせる輝きを放つ。柄にも同じく白の紐が巻き付けられている。
店主の手元を見れば先程は素手だったが両手に手袋が着けられていて、それだけでこの刀が価値のあるものであると分からせるには十分だった。
「凄い刀ですね」
「ああ、自慢の一品だ。これで家一軒はあっさり立つな」
「はあ・・・」
差し出された刀に魅せられながらタクはもう一セットの手袋を受け取って装着し、赤の刀を抜く。煌めく銀色はやはり素晴らしい。刃紋一つとっても他の刀とは違うと思わされる。
興奮の中、次いで白の刀を抜く。
するとどうしたことか、刃は銀色ではなく白。鞘と全く同じ色合いの、大理石を磨いたような白である。光の加減かと角度を変えてみるが、やはり刃は白だった。
俺達がその刀を見て戸惑う様子を内心で面白がる店主は口の端を小さく曲げながら笑い、種を明かす。
「その刀はな、総象牙なんだよ」
「「総象牙!?」」
「えっ、これ全部象牙ですか!?」
「そうだ」
「鞘も、刃も?」
「その通り」
店主はえっへんと自信満々に言い切った。
総象牙ってどういうことだよ。そんなデカイ象がいるわけねえだろぉぉ。
いや、いたとしてもなんでこんな刀にしたんだ。もっと他に用途なかったのか?
にしてもこれは明らかに美術刀だろ。切れ味はどうなんだ。実用に耐えられないだろ。
「そんな象いませんよ!普通に考えて!」
「そりゃあ現在の俺たちが考える普通だ。だが、これが出来た時代は伝説の巨摩久良象がいた太古の昔。何せこれはその巨象の魔象牙から生まれた八十二番の初雪だ。そんじょそこらの刀と一緒にされちゃ困る」
「な、なるほど・・・それなら納得です」
タクの問いに対しては八十二番、に強くイントネーションを置きながら意味深な笑みを浮かべる。
タクは分かったみたいだが、何の八十二番なのか俺はその意味を分からないまま黙って店主の話を聞き続ける。
「土地柄、ここには業物が特に集まりやすいんだよ。交易の拠点で国境間近だからな。つったって、ここまでのものはそうお目にかかれねえ。そこのあんちゃんも分かってんだろ?」
「え?」
俺ですか?と指を顔に差しながら店主に聞き返す。何を分かってるって言うんだ?
いきなり話を振られてハテナが浮かぶ。
「腰に差してるそいつだよ」
「これが・・・どうかしたんですか」
「どうかって、よくもそんなものを差していられるよな。見せびらかしか?イミテーションか?」
「見せびらかしって何ですか。これは自分で買ったんじゃないですよ。その・・・まぁ、奪い取ったようなもので」
マエノ村の通り魔事件の黒覆面の男が持っていた黒刀。
居合抜きの勝負で渡されたのはヤクザが持つような鍔のない木の柄・木の鞘の粗悪な刀だった。
護身用としてそれを持つくらいならと丈夫そうな黒刀のほうを鹵獲したに過ぎないんだが、そんなにすごいのか?
柄も黒。鞘も黒。刃もギラついた黒。暗闇の中で落としたら見つかるのに苦労しそうなくらいに真っ黒なのに。
これまでこの刀で誰かを斬ったことはないぞ?抜いたことくらいしかない。
店主は心底呆れたように腰に手を当てながらため息を吐くと子供に説明するような口調でゆっくりと話し出した。
「そいつはな、九十九神刀の四十九番・式狂と呼ばれる刀だ」
「は?」
「ええええっっっ!!!」
素っ頓狂な声を出した俺を瞬時にかき消したのはタクの絶叫だった。
すぐにバッと俺の方へ振り向くと、まさかこれが。と口をあんぐり開いた。
「知らなかったみてえだな・・・」
「あの、さっきからよく分かんない数字いろいろ言われてますけど。そんなにすごい刀なんですか?その象牙の刀も、ちゃんと実用に耐えられるんですか?折れたりしないですかね?」
タクと店主はなぜか目を見合わせて、もう一度こちらへ目線を戻した。
本当に知らないのか?との目線は語る。
「兄さん。この刀も、その刀も、すごいどころの話じゃないですよ!とんでもない業物です」
「今まで神刀を知らなかったなんてよっぽどの田舎に住んでたんだなあ・・・」
店主は憐みの目を向けて来る。なんだその目は。やめてよ。
ハルからその辺の説明は受けてなかったんだからしょうがないじゃないか。
「知らにゃあそう平気な顔して差していられるよな。そいつは300万は下んねえぞ」
「「さんびゃくまん!?」」
刀一本が300万エル。円換算で3000万円。国宝クラスじゃないか。
マジで?これが?ひたすら真っ黒なこの刀が?
そんな刀をしれーっとむき出しで帯刀してたのか。ひえーーっ・・・。まさかのオープン・ザ・プライス。
「無理もないですよね・・・神刀ですもん」
「タク知ってたんなら教えてよ」
「知ってるには知ってましたけど、まさか実物がこんな近くにあるなんて思わないでしょう・・・」
「あのさ、俺よくわかんないんだけど、そもそも九十九神刀ってなに?」
「えっと・・・それはですね―――」
「それはな。古代から伝わる神から授けられた刀のことだ」
タクは話し出そうとしたところへ店主が割り込んでそのまま説明を始めた。
九十九神刀とは、古の時代に十柱の神によって生み出された百一本の刀の総称。
それぞれの刀には番号と名前があり、零番の天照と百番の百々目鬼以外は対魔戦争において神帥・神将・それ以外の配下に下賜されたという。零番が最高として番号が進むにつれグレードが下がり、若い番号は優先的に有能な将たちに渡ったらしい。
現在に至るまで度重なる戦災や激しい使用、盗難、紛失によって失われたのも少なくなく、比較的グレードが低めの五十番台以降は戦場の前線で多く使われたためか二十一本程度しか現存していない。
神帥・神将に下賜された神刀はその後彼らによって建国された王家などに伝わり、国宝あるいは有力貴族の家宝となって現在まで伝えられている。
四十九番に数えられるこの式狂は全体からすれば中程度となるがそれは神刀と言うハイグレードの中でのこと。並の刀剣とは言うまでもなく一線を画す。一介の旅人がおいそれと持っていていいような剣ではない。
「ただな―――」
「なんです?」
「そいつは妖刀だ。持ち主の魂を食んで弄ぶ。そいつで人を斬れば斬るほどに血が欲しくてたまらなくなっちまうらしい。最期は自分で自分の体を切り刻んで血をすすりながら死んでいくって言うじゃねえか。そいつには神話時代の対魔戦争の時に切り殺した悪魔が憑りついてるって伝承だ」
それを聞いて思わずぞわっと鳥肌が立った。
そう言えば確かにあの時のアイツは狂気に満ちていた。
服の返り血はそのままで、汚れた覆面はあえて洗わないようにしていたような印象を受けた。それなのに刀の血だけは執拗に拭っていて、それがとても不気味。血を、人の魂を欲しているような感じだった。
「悪いことは言わねえ。手放しちまった方がいい」
「うーん・・・」
「今んとこ何にもねえみたいだが、何かあっちゃ手遅れだ。よしこうしよう。その刀を俺に譲ってくれ。なんなら、この二本と交換と行こうじゃねえか。損な話じゃないと思うがどうだ」
そう言うと店主は赤と白の刀を目の前に差し出すように打診してきた。
いわく付きの刀だって言うんなら誰かに渡しちゃった方がいいかなとも思えてくる。そもそも入手経路がアレだしな。
それに、なかなかいい刀を二振りと交換ってことは実質得してる気がする。あくまでも護身用だし思い入れもない。最低限使えればいいんだから。
しかもタクのプレゼントをタダでもらえるようなもんだ。ただ、総象牙の刀ってのはどうなんだろう。
「疑ってるのか?まぁ信じられねえことの連続だとは思うがな。九十九神刀は広く知られてる名刀だがその実物をお目にかかったのはほんの一握りだけだ。今俺が持ってる初雪は八十二番だが、四十九番ったってそのやべえ式狂に比べりゃずっと優等生だ。おいたしねえんだから」
「・・・そっちの赤い刀の方は?」
「こっちは名のある刀鍛冶の打った至高の一振り・唐紅だ。人間が作ったからそりゃ神刀には及ばねえが、自信を持って送り出せるぜ」
どうする?とタクの方へ目を向けると異存はなさそうな様子。判断を委ねているようだ。
とすると、やっぱりアレがネック。
「・・・本当に折れたりしないですかね?護身用なので折れると困るんですけど」
「護身用とは罰当たりな・・・。オホン。まぁいい。こいつは伝説の魔象を討伐してその牙を神が練り上げて作ったとされる一振りだ。普通象牙は二本一対だが、この初雪はその二本の象牙をこの胸ほどの高さしかない刀一本に圧縮して作ってるんだと。製法は知らんがさすが神刀、試したが強度靭性は折り紙付きだ。丸太なんてまるで空気だし鉄剣が泥のように斬れる。ちょっと持ってな」
唐紅と初雪をタクに持たせると店主はカウンターの奥に引っ込み、すぐに手に黒味ががった銀光りする物体を持って戻ってきた。
「鉄のインゴットだ。五キロはあるだろう」
レンガのような直方体を手にしながら店主はタクの方に手を出して初雪を渡すよう催促する。
すんなりと初雪を返すと、店主は右手に鉄のインゴットを持ったまま初雪の刀身を少しだけ左手だけで抜く。鞘の先端はテーブルの上に着いて真横に橋を架けたような状態で、刃を上に峰を下に持つ。
刃を上に向けた初雪の刀身の真上五十センチほどの位置に鉄のインゴットを構える。
「ちょ、ちょっと。大丈夫ですか?まだ交換するなんて言ってませんよ。それに壊れでもしたら」
「大丈夫だ。心配するほどヤワじゃねえ。見てな」
心配する俺にフッと不敵に笑みを浮かべ、初雪を持つ手に目線を戻す。
刀身の上空に構えられた鉄のインゴットの位置を再確認すると、俺とタクに向かって、行くぞ。と一声かけた。
店主はそっと右手を離し、インゴットは真っ直ぐ初雪の刀身目掛けて自由落下した。
パキィン!!
ゴァンッ!
鉄のインゴットはそのまま真っ直ぐ床へ落下した。
刀身に接触して反発するような跳ね返りなどなく、そもそもそこに障害物などなかったかのようにインゴットは通過した。
本当は刀に当たってないんじゃないかと思い床のインゴットに近寄ってみてみると、豆腐をまな板に置いて切ったように真っ直ぐ切れていた。二つに分かれたインゴット自体も斬られたことに気付いていないかの如く、一つに隣り合っている。
インゴットの片方を持ち上げてみれば初雪の鋭い切れ味によって断面はとてもなめらかで、そこだけ粗砥をかけたような輝きすらある。
「見てみろ」
店主はそう言うと初雪の刃、インゴットが通過した辺りを近づけて確認させてきた。
通常鉄の塊が直撃すれば刃こぼれはして当たり前。角度が悪ければ曲がったり折れたりもする。
しかし初雪の刀身にはどこにもそれらしき傷はない。それどころか鉄のインゴットが当たったような痕跡すらも見つけられない。
「な?」
「「・・・」」
すげえだろ?と店主が布で刀身を拭いながら目を向けて来る中、俺とタクは呆気に取られて言葉を失った。
見た目に反してこれほどの切れ味があるのか。とんでもない刀だと。
それよりも今俺が持っているこの式狂の方が切れ味が鋭かった場合、俺はあの時とんでもない勝負をしていたことを思い知る。刃先一つ、かすり傷であってもかすり傷では済まなかったかも知れない。ぞわわと悪寒が走った。
いや、それよりも、今目の前で見せられた初雪の鋭さにプラスして人間の心を食い荒らすような悪魔が本当にこの式狂に憑りついているならただ事ではない。すぐに手放すべきだ。
護身用の刀なのにそれに襲われたらたまったもんじゃない。すぐに渡してしまおう。
「分かりました。では交換しましょう」
「ああ。じゃあ初雪はお前にやろう。―――少年。そいつ、大事にしてくれよ」
「は、はい!ありがとうございます」
俺はすぐさま腰から式狂を抜き外し店主に渡す。受け取るとすぐさま鞘に納めた初雪と取り換えてきた。
店主は別段驚く様子はなくすんなりと受け入れていた。むしろ最初からこうなることが分かっていたように。
唐紅を預かったままになっていたタクの方を見ると店主はそのまま渡すと言い、タクは謝辞を述べた。
「あの、代金は―――」
「いいって。言ったろ、交換だって。こっちとしてもこんな名刀には会いたかったんだぜぇ・・・」
受け取った式狂を抜き放ち、その刀身を見ながらうっとりとした様子で答える。心底嬉しそうでまんざらでもない様子だ。もう完全に目を奪われていて話す時もこっちを見てさえくれない。
とはいえタダでしかも二対一の交換、あまりに好条件過ぎてこっちが少し負い目を感じてしまう。
「いいんですかね・・・」
「うーん・・・タクはどっちがいい?」
「僕はこっちでいいですよ」
「えー?うまく使えるタクの方が持ってた方がよくない?」
「兄さんが持っていてください。神刀なんて怖くて持てません」
「・・・でももうもらっちゃったしなぁ。まぁいいか」
初雪は俺、唐紅はタクの腰に落ち着いた。
神刀っていってもさっきの式狂よりもグレードが落ち着いたと考えれば気が楽かな。
でも腰に象牙と考えるとすごく不思議な感覚。ボーンソードとでも捉えればいいのかな。うん。そうだな。
「あ。じゃあ、タクに合うような防具一式もお願いしようか」
「えっ!?いいんですか?」
「俺はいいよ。それよりここで何か買ってあげるべきだよね。せっかくお世話になったんだし」
式狂をうっとりと眺める店主を見やりながら言う。
本来使うべきだったプレゼント代がそっくり残ってしまったんだから、この際ここで防具も揃えようと思う。プレゼントなのにタダの刀を渡してはい終わりというのは違うからね。
俺とハルが格好を整えたんだし、タクの新しい防具もセットで買おう。決定。
「すみません、タクに合うような防具も一式でお願いできませんか?この、唐紅?に合うような。予算はあるんで」
と、銀貨袋をジャラリと揺らせば、片眉を上げながら店主は頷いた。
「・・・おう。いいぜ。腕によりをかけて最高の男にしてやるからな。待ってろよ少年」
「あはは・・・お手柔らかに・・・」
そこからは上機嫌な店主の着せ替えが延々と繰り広げられた。
色んな手頃な防具を着けては外し、着けては外し、長時間とっかえひっかえし続けてやっと落ち着いたのは何の因果か戦国時代を象徴するような具足だった。
やっぱり刀を持つ者は和風の調えになるのは必然らしい。すでに俺がそうなってるからな。隣にある呉服屋とも往復し出して共同戦線でタクを飾り付ける。
最終的に武器屋の店主と呉服屋の店員が太鼓判を押したのは紺糸威黒漆塗横矧二枚胴具足という鎧だった。ツヤツヤとした黒漆で塗られた胴と随所を紺色の紐で彩られたカッコイイ鎧。
それにしたって名前長すぎだって。一発で聞き取れない。呪文かよ。
ついでに鉢金も新調、黒の鉢金とセットで着ることにした。ど派手な目立つ兜を被せられてあわや総大将にされかけたので咄嗟の妥協案だった。
黒の具足に黒の鉢金。紺色の威しとついさっき貰った唐紅の赤色が入るととても見目鮮やか。派手ではないのにすらっとして清冽な印象。凛々しい若武者の完成だ。
良い買い物になったと俺満足。
良い商売が出来たと店主たちも満足。
タクは少し青ざめてた。疲れたのか何でかは分からない。
式狂が300万と聞いてびっくりはしたけど、それに比べれば安い買い物だった。
具足一式と服合わせて20万エルとお買い得だったんだからいいよね。
格好よくなったし、俺たちの護衛としての戦力強化です。頑張ってくれたまえタクくんよ。
評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。
19/7/1 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




