40 招待
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
南山亭・一階食堂
旅人メンバーと冒険者メンバーの全員が一堂に会した。
俺、ハル、リョウ、タク、ケントさん、センリ、フウタ。そして隣の席で丼をかきこむゲンさん。
僧兵から書簡を受け取ってから二日後、ケントさんの回復を待ってようやくのお披露目。
まずはケントさんに優勝賞金の60万エルを渡した。
「「おおおー」」
一同の声が漏れる。ケントさんは割と平然としているがセンリは目をキラキラさせている。ゴクリと飲み込んでもいる。
「そしてこれが俺からのほんのわずかなお気持ちです」
「「「「おおおおおーーー」」」」
と、60万エル入り袋よりも倍大きく倍重たい袋を置くとさらに大きくどよめいた。
俺とタク以外の全員がどよめき、袋と俺とをチラチラ見比べる。
「カケルさん、これ、いくらあるんですか」
「133万6000エル」
「「「「「ええええ!!!!」」」」」
フウタの問いに答えると割れんばかりの驚愕が広がる。隣で丼をかきこんでいたゲンさんはブフッとむせて苦しそうに胸を叩きながら咳込む。
「受け取れません、私はなにもお金のために戦ったわけではありません」
「いやいやそれでも受け取ってくださいよ。これはケントさんが受け取るべきお金です」
「賞金だけで十分です。過ぎたお金は身を滅ぼします」
「それならなおさら差し上げます」
「いえいえ―――」
「いやいや―――」
ズズズ、グググ、と約134万入り袋をテーブル上で押しあう。
133万6000エルは大金ではあるけど、それは払戻金の端数。差し引いても500万残る。しばらくを過ごした間柄だから今更盗むとは思わないでもないわけでもないけど、全額を盗まれるリスクを考えれば分け前をはずんだ方が安全だともゲスく思う。
過ぎたお金が身を滅ぼすなら、少しでも分けておいた方がいいじゃないか。
「受け取ってくださいよ、これはケントさんのおかげで儲かったお金なんですから」
「それはそれ、これはこれです。あなたはあなたの勝負で勝ったんですからそれはあなたの物です」
「でもそれだと気持ちが晴れないし・・・」
「いいだろケント、くれるって言うんだからありがたくもらっちゃえば」
「センリ。それは違うぞ。相手の誘いに簡単にホイホイ乗ったら痛い目見るのは分かってるだろ。お前ついこの前ゲンさんに助けてもらったばかりじゃないか」
「うっ」
センリのアシストは空振り。それどころか手痛いカウンターを食らって沈黙した。呼んだか?とこちらへ振り向いたゲンさんは話が分からないながらもニカッと笑顔を向けてきた。
モヤモヤを抱えながら俺は頑として譲らないケントさんにどうしようかと悩む。
いろんな手を考えてみても、結局は受け取らないんだろうなと思うし、実際ケントさんの目から見える固い意志はそう簡単には揺らぎそうにない。
はぁ、と小さくため息をついて頭をポリポリとかき。
「・・・分かりましたよ、この件は一旦保留にしときます」
保留件数が増えたなと思いながら、話を変えようと俺は僧兵から預かった書簡を広げる。
「今日の本題はこっちです。おととい払い戻しに行った帰りにもらいました」
「何ねそれ」
「老師様からの招待状だよ」
「「「老師様」」から!?」
ええっと驚くみんなの反応にちょっとした気持ちよさを感じながらコホンと小さく咳払いをして内容を読み上げた。
時候の挨拶から簡潔な本題、長ったらしくなく読みやすい丁寧なその文章を読み終えるとケントさんが腕を組んでなるほどと言った調子で小さく頷いた。
「・・・それで私を待っていたんですか」
「まぁそういうことになりますね」
「お待たせしてすみません、もっと早く行くべきでしたね」
「いえいえあんな状態だったら無理もないですよ」
その書簡の内容はつまり、後日また日を改めてこの闘技場へ来てほしい。優勝された英雄・ケントさんに一目会って話がしたい。お仲間も皆さんご一緒にお越しくださいとのことだった。
ケントさんが主役だから怪我がある程度回復してからになるわけでその分待たせてしまうことになったけど、あの決勝戦を見てたんだったらその辺の事情も汲んでくれるだろ。うん。なんならもっと長くても・・・あ、それはダメですか。フウタ先生の目線がちょい鋭いです。
「・・・そういうわけで、今日これから闘技場に行こうと思うんだけど、来る?」
みんなに聞くと概ね同意ムード。だがリョウは少し難色を示した。
「・・・」
「どうしたリョウ」
「あー、ええと、おら早う薬ば受け取りに行きたいんじゃけど」
「あっ!」
やべ!しばらくリョウのこと忘れてた。
そうだ。リョウはこの町にお母さんのための薬を受け取りに来たんだった。でも武闘会が忙しくて手を離せないとか、薬の運搬は監督者じゃないとダメとか言われて断られて、じゃあ誰だって聞いたら居るには居るけど弟の伝助が武闘会に出るからそれをどうにかしなきゃいけないだので散々後回しにされまくってたんだよな。
でも武闘会が終わった今ならある程度落ち着いてるからそれももうクリアされてるだろ。さすがに。
「ごめん気が利かなくて・・・じゃあ・・・タク、着いて行ってくれるか」
「はい、兄さん」
「あ。あたしも行くよ」
「え?ハルも」
「子供だけで行かせるんな不安やし、いろいろ話すこともあるやろ?」
「んー分かった。じゃあ、他のメンバーはみんな一緒に行くって事でいいのかな?」
聞くと揃って首を縦に振ったので俺はパンと手を一叩き。
「よしじゃあ決まり。これから闘技場に行って老師様に会いに行くとしますか」
善は急げ。数日も待たせてるから今すぐに行こうと一同は闘技場へ向かった。
ハル・リョウ・タクが残され、リョウが少し声を落として話しかける。
「―――ハル姉ハル姉」
「ん?なぁに」
「・・・いつあんちゃんに言うん?」
「えっ、な、な、なにを?」
「なんやろうね~ぇ」
「ちょっ・・・えっ!」
「分かっとるやろ。おらが行く前になにかしらん結末は見たかね~」
「そ、そそげん分かっとるよ、早う言わなって思うと」
「思うとるだけやったら進まんよ、もう手伝えんくなるばい」
「そやね・・・」
うーんと悩まし気な顔のハルは熊野薬堂を目指して数歩先を歩き始めたリョウにはっとして慌てて駆け出す。
タクは何を言うでもなく黙ってハルの顔をチラリと見た。
応援しているような心配しているような、物憂げでやさしい目線であった。
闘技場入り口に着いた俺達一行は既に待っていた黄を纏う僧兵に出迎えられた。
「これはこれは皆様」
「あの、ひょっとしてずっと待たせちゃってましたか・・・?」
「――いえ。仕事ですから」
お気になさらずと右手で制しながら柔らかく笑う。
仕事だからって言っても、書簡をもらったのがおとといだからそれまでここで俺たちが来るのをずっと待ってたのかな。まだちょっと日がかかるともすぐには行けないとも返事してなかったし・・・ずっと待たせちゃったよなぁ。
「すいません・・・」
「大丈夫です。さ、こちらへ」
平然とした様子で歩き始めるのに着いて行く。
そのまま闘技場のメインの入り口に入るのかと思っていた俺の予想に反して、横の壁沿いに伝って数十メートル。人一人分の扉の前に着くと僧兵は鍵を開けて中へ案内した。
「通用口かな?」
「おそらく」
「おー。なんか作りがしっかりしてるねーお城の中みたい」
「センリ、声が大きい」
一般客が入れるフロアとは違った作りの通路を俺、フウタ、センリ、ケントさんの順で一列になって進む。
僧兵の案内で扉をもう一枚潜るとそこからはがらりと雰囲気が変わった。床には赤絨毯がずっと奥まで長く続き、まるで高級ホテルの中のような豪華な廊下と空間に様変わりしていく。
そして見るからに豪華な両開きのドアの前で立ち止まると僧兵が到着を知らせる。
「老師様。ケントご一行が参られました」
「―――通せ」
ドアの奥から聞こえた声に合わせて内側から二人がかりでドアが開けられる。
俺達を案内してきた僧兵は手を小さく出して中に入るよう促した。
廊下が廊下なら部屋も部屋。超VIP。豪華なスイートルームという表現がぴったりの部屋だ。
町並みは瓦葺きの建物が目立つ近世日本の江戸の風景なのに対して、この闘技場自体がコロッセオに近い建築様式。それだけあってその内部のこの超豪華な部屋は洋風なスイートルームだ。
白と薄いベージュのカーテンは綺麗にまとめられ、ガラスの窓から薄く差し込む日光は室内を明るく照らす。
テーブルとイスは猫の足のようなしなやかな曲線を描き、飾られている照明・家具・絵画・陶器・食器は何から何まで一目見ただけで高級品だと分かる物ばかり。
俺はほう・・・と息をついた。センリは落ち着きない様子できょろきょろと目をあちこちに向ける。
「うわ。デカッ―――」
横の壁の近くにはハムがつるされている。それもかなりでかいやつ。フレンチとかイタリアンとかで見るような本場のやつ。横にはでかいハムに見合ったでかい包丁を持つ料理人もいる。
「カケルさん」
「あ、あぁ」
隣に立っていたフウタから肘で小突かれるとともに小声で注意され俺は襟を正す。目の前に立っていた人物の事を思い出したからだ。
闘技場で一度だけ、遠くに見た姿。
中央奥の椅子に座っている高齢の男。恰幅よく法衣を着ているその左手には長い数珠が目を引く。右側に立つ側近は預かった杖を大事そうに抱えていて、それだけでなく側近・召使・メイド・僧兵などざっと見ただけで二十名。広い部屋なのにそれを埋めるほどの威圧感と圧迫感が風のようにやってきた。
フウタ、ケントさんが歩み出す。遅れてセンリと俺も続く。
数歩進んで片膝を着いた二人に合わせて真似るように俺達も横に並んで片膝を着く。
「お招きに預かり参上致しました。ケントでございます。まずこの度は怪我の回復のため参ずるに日を要しました事、ズーイ・コージャ老師様を始め皆様にお詫び申し上げます」
既に目を伏せていたケントさんはそう言うと深く頭を下げた。さらに続ける。
「老師様に直にお会いいただくまたとない貴重なご機会を与えてくださった事。一同を代表いたしまして感謝申し上げます。このケント、終生忘れません」
綺麗に言い切ると、周囲からは感嘆が広がるのを感じた。
数名のメイドは言葉を発さないながらもケントさんに憧れのような目線を向けている。側近・僧兵たちもうむと頷いて満足な様子だ。
老師も同じくケントさんに好印象を抱いたのかふっくらと柔らかな笑みで受け入れた。
「―――やはり英雄ですな。斯様な場所においても物怖じせず堂々たる振舞い。感服しました」
「恐れ入ります」
平民の出であろうや肝が据わっている。見事だ。とズーイは思った。
「此度はあれほどの戦いぶりを見せてくれたそなたに一目会いとうてな。近う」
「はっ」
数歩前進し再び片膝をつく。
横から酒器を手にした召使と思しき男性がケントさんに盃を渡し、清酒を注ぎ入れる。
同じくしてズーイの盃にも清酒が注がれ、老師はにこりと笑って小さく盃を掲げた。
両手で盃を掲げたケントさんは一拍遅れて老師と同じ酒を口にした。
飲み干すと小さく、ふぅ、と双方から息が漏れる。
「そなた、ハムは好きか」
「はっ」
「ならばワインじゃな。誰かこれへ。せっかくの機会じゃ、英雄のそなたに私が自ら授けよう」
席から立ち上がった老師は盃を返しながら部屋の横側にある生ハムの原木の方へ向かい、傍の料理人から大ぶりの包丁を受け取る。
そばにはワイングラスが二つ置かれ両方に注がれていく中ケントさんは少し慌てた。
「老師様のお手を煩わせるわけにはまいりません、ここは私が」
「良いのじゃ。皆も余計な気遣いは無用。下がっておれ」
「「はっ」」
ワインボトル、酒器を持つ召使、包丁を渡した料理人、側近、召使、メイド、僧兵などは全員老師から離れてドアの方へと向かった。
僧兵たちは部屋の内外に分かれ、残りの使用人や部下はドアの内側直ぐ近くに待機。老師とケントさんのいる位置から部屋の対角線に揃って固まった。
「ケント殿」
「はい」
「―――感謝しておるぞ」
「・・・は」
小さく呟かれた言葉。
部屋の隅、二人の空間。
ケント以外の誰にも聞き取られないようにとかすかな声。ケントもつられて声を潜める。
「そなたが勝ってくれなければこの国と民は動乱に苦しむところであった。感謝しておる」
「もったいなきお言葉、私はそこまでの働きはしておりません」
「何を申される。そなたとあそこのカケル殿はザノの謀略を見事粉砕してくれた。一兵たりとも動かさず未然に防いだその武勲、三軍五団の長に匹敵する」
「褒めすぎでございます老師様。私はただ―――」
「良い。黙って受け取ってくれ。私に出来るのはこれくらいしかないのだ」
ケントの皿に切りたてのハムが三枚盛られる。薄すぎず厚すぎずちょうどいい塩梅。
自らの皿にも生ハムを盛った老師はワイングラスを手に取る。
「筆頭老師とは申せ父には敵わない。教会の力は父にある。父は皇帝のために皇帝は父のためにお互いを利用し合っておる。じゃが私はあの皇帝は好かない。知っているだろう、ライア湖の件は」
「はい」
「当代の皇帝はわがままが過ぎる。兵も精強、日の出の勢いじゃ。あの調子で他国に強圧で迫り続ければやがてはドイ属州の二の舞が各地で起こる」
その言葉を受けたケントは雨の中の廃墟と化した村に思いを馳せる。
同じく帝国に蹂躙されたドイ属州の貧窮はこれまで何度も聞いてきた。見ずともその語りから光景を思い浮かべるだけで帝国の暴虐をありありと感じる。あの日目にしたあの有様と同じようなことが日々起こり続けているのだと感じずにはいられない。
「私には実のところ皆が申すような力はない。父から与えられた七光りと借り物の地位だ。実子の私とていつ消し飛ぶともわからぬ」
憂いを流し込むようにズーイはワイングラスを深く傾けた。
ゴクリと喉が大きく鳴り、つかれたため息は強くなにかを吹っ切りたいとの意思の表れかやや乱暴だった。
床の豪華な赤絨毯と自身の爪先に目線を落としたズーイは小さな声で呟いた。
「そなたのような国憂の義士が現れることを切に願う」
ズーイの言葉にケントはグラスと皿をテーブルに置いて俄かに一歩下がり、片膝を着けて頭を垂れた。
左手と右拳を合わせて顔の前で結んだケントはズーイの言葉に心して受け答えた。
「ありがたきお言葉。老師様におかれましてもご壮健にあらせられることを」
何かを話していた老師とケントさんの二人の会話は終わり、その後俺たちは感謝の言葉を一通り受けてその部屋を後にした。
「ふー、これで一通り片付いたね」
センリが背伸びする。
「みんなはどうするの?この後」
「そうですね、ひとまずリーダーの全快を待ってからと思います」
「武闘会のために来たんだもんね。これから行く所とかは?」
「まだ決めてませんよ。カケルさんは」
「ええと、遥礼・・・とか」
「遥礼ですか!いいですね」
フウタはワクワクしたように笑った。
「―――ちょっとカケル、ちょっと」
世間話の横合から手をチョイチョイとセンリが呼び出してくるのでどうした?と聞く。
「何?」
「あのさ、明日か明後日ちょっと付き合ってくんない?」
「なんで?」
「ん?えー・・・・・・・」
「なになに?ちょっとなんか怖い、変なことしようとしてない?」
「いやっ、変なのとかは全然ない!怖いのもない!ちょっとだけ、ね。付き合ってよ!」
「えー・・・?」
まぁ、いいけど。と返すとセンリはホッとした様子で肩を落とした。
小さくガッツポーズしてるけどなんだそれ。何か企んでない?
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19/6/29 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




