39 勝利
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
大武闘会の三日後。
俺は闘技場の払戻カウンターの行列に並んでいる。
決勝戦で投票された票数が膨大だったためか、それとも維江原のトップであるザノが連行されたからなのか当日中の払戻は行われず数日の猶予をと運営からのアナウンスがあった。
その間俺は相変わらず宿屋の中に軟禁されてた訳だけど、買い出しに行っていたフウタから「どうやら指名手配が解除されてるみたいですよ」との朗報が。
そして今日やっと心待ちにしていた払戻と解放の日が訪れた。
大金の携帯が予想されるので前回の轍を踏まないように腰にはもちろん黒刀を提げ、タクを護衛として連れている。センリの方が冒険者歴の長い大人な分頼もしかったけどケントさんのそばにいてやりたいとか言ってるから、それは無碍には出来ないからそっとした。
それに街中を歩くのに武装した人をぞろぞろ連れた戦力過剰状態はどうなのとも思うからこれでいい。大人数でうろうろするのも目を引くしね。
「そう言えば六連コインの時の払い戻しも二人だったな」
「たしかにそうですね兄さん」
「屋外で良かったな」
「っ!兄さん!」
タクはほっぺをプクーとふくらましながらこっちを睨みつける。
超過密状態の人混みで蒸しあげられてヘナヘナになったのをみっともないと思っているタクはニヤニヤする俺からいつしかそっぽを向いてむくれた。
人は多い。でもマエノ村酒場二階のように狭くないし密度も高くない。
町のランドマークであるこの闘技場は十万人ぐらいを収容できる大きい施設なので広めにとっているこの空間においてはゆとりのある行列と言える。
それに今回の払戻は決勝戦の的中票・ケントさんの青札のみの払い戻しになる。あれほどの劣勢だったから終盤以降大半の客は赤札ばかり買っていた。
そんな経緯からのケントさんの勝ちとあって行列に並ぶ人の総数は思っていたよりは多くはない。ざっと二万数千人くらいという数ではあるが、四カ所にカウンターがあるからそれなりのスピードで捌けるだろう。
行列に並びながら交代で俺とタクの軽食や飲み物を買いつつちまちまと進むこと二時間。
俺は待ってましたとばかりに百三十二枚の特木札入りの袋をカウンターに置いた。
「「え!?」」
「ちょ・・・おい!手伝ってくれ」「これ全部特木札だぞ」「ほ、本当か」「ああ間違いない」「ってことは・・・」「後ろ詰まってんぞ、早くしろ!」「「は・・・はい!」」
途端、カウンターの係員はざわつき、一気に慌ただしくなった。
木札の集計をする人。払戻額を計算する人。払戻金を用意する人。払戻金を集計する人。てんやわんやだ。
あぁ、これどこかで見たことあるな。と思ったらタクも同じことを思ったのか俺に苦笑いを向けて来ていた。違いはあの時は俺たちが最後の客だったけど今回はまだ後ろに列が続いているくらい。
やっぱりこういう時ネットバンキングとかあると便利だよなーと思う。結果が出たらすぐに口座に反映されて、受け取る手間も渡す手間もなくて両方楽チンでWINWIN。
アナログは大変だなーと思いながら目の前に現金が積み上げられていくのを眺める事十分弱。
「ハァお待たせしました・・・、ご確認ください。633万6000エルになります」
「「「えええ・・・・・!」」」
後ろに並んでる人たちの驚きが背中からビシビシ伝わる。
そりゃあ、6336万円って言ってるようなもんだもんな。十枚セット六十三本の銀貨タワーは、こう・・・クるね。なんかクる。
次々にカウンターに積まれてく銀貨はずっと見ていられそう。酒でも飲んでひたすらじーっとね。
・・・防犯面でしっかりしてればの話だけど。
集計から袋詰めまで汗して頑張った係員さんにはご苦労を労わるよう笑顔を向けながらも「そんな大金を口に出して言うなよ」と思いつつ大金入りの袋を受け取る。
・・・重てぇ。
札束ならもっと軽く済んだんだろうなぁ。全部銀貨と大銅貨だもんなぁ。
ヂャラァッ!と重厚な金属音が鳴る六百三十三枚の銀貨と六枚の大銅貨入り袋に後ろのやつらは目を奪われている。ねこじゃらしを追うネコのようにホーミングアイだ。
また帰り道襲われたらヤダな。拉致とかはもってのほかだ。
そういった面倒ごとには二度と巻き込まれたくない。命懸けの脱獄とかはもう十分だね。
と思った矢先タクが少し大きめの声で話しかけてきた。
「兄さん、すごい大金ですね!」
「え?あ、ああー・・・うんそうだな」
「もしもこのあとこれからの帰り道でそのお金を誰かに盗まれちゃったりしたらどうします?」
やけに細かくて説明口調だな。と引っ掛かり、いきなりこんなところで何を言い出すんだとタクの顔を見れば、ウィンクを返してきている。
ふざけてるのかと思いきや、真面目な顔で二度三度と長めのウィンクをしてくる。
なんだ?ウィンクと言うよりは目配せ?目配せなら、なんでそんなことを目配せしながら言っているのか。やけに説明じみた言い回しとそのウィンクの意図は?
気になる。でも何の意味もなくそんなことをするわけはないよな。余計なことはしないはずだから、きっと意味があるはず。
「そうだなぁ・・・あ」
そうか。
なるほど。これはタクから仕掛けられた一つの牽制かと思い至った。ここで強めの予防線を張れってことだな。
うってつけなのはあれだろう。山越えの最中、いつかハルやリョウと雑談して聞いていた、トオノ村のあの事を言っているんだな。まだハルと二人で旅を始めたばかりのあの話を。
そういう事ならと俺は、血滴る生肉を貪り食いそうな笑顔でもってタクに返答した。
「逃げた先まで徹底的に追いかけて、全額奪い返すに決まってんだろ?もし使ってたんなら、身ぐるみ剥いで売っ払ってでも、なんなら命を奪い取ってでも回収してやるよ。今まで何度もやってきたようにな・・・!」
腰の刀に左手をかけニタニタと不敵な笑みを浮かべる。
行列の男達の顔をなぞるように流し見てやると、睨まれた男達はウェーブを起こしながら次々に縮み上がった。
それを横で聞いたタクは震えて見せた。
「怖いですねえ。お金を盗んだだけでそこまでやっちゃうんですかあ?」
「当たり前だろ。大金は命よりも価値があるからな。コソ泥の命が大金よりも価値があると思うか?」
「そう聞くってことはそうは思ってないんでしょう?」
「だけどそんな手荒なことはしたくないから、おとなしくしてて欲しいなぁ。そっと見逃してくれればこっちも・・・ね。そう思うよなあ?」
「「「「・・・!」」」」コクコクコクコク
痙攣するかのように小刻みに頷いた行列の男達の額から汗がタラリと落ちる。
金を盗んだサカモト村の村長家族が逃げ込んだ村に俺らが着いたのはたまたまだし、徹底的に追い回して命を奪い取ったのはマエノ村の連続通り魔だけど、今回は存分に恐怖を駆り立てる役に立ってもらおう。
でもそこまで極悪な顔してないよ。気持ち後ずさってるし怖がり過ぎだって。そんな人殺すような顔に見える?
「兄さんのあの刀さばきは痺れましたよ~、また見たいなぁ」
「・・・」
見せないよ。絶対。それにこのタイミングでの投下は絶妙すぎだ。震えあがってるから。
よほどのことがない限り戦いたくないんだよ。人も殺したくないし。マエノ村のあの時は人を殺しちゃったショックよりも助かった安心感とアンモニア事件のドタバタでそれどころじゃなかったから綺麗に飛んでっちゃったのさ。
それ以外の状況で殺し殺されを演じろって言われてもやりたくないし、今度まともに何事もなく最後まで通しちゃったらそれこそショックで立ち直れなくなっちゃうよ。
・・・いや、それはもういいんだよ。何をくっちゃべってんの。
「―――行こうか」
「はい!兄さん!」
払戻行列が緊張感漂う訓練中の一列横隊になった目の前を作り笑いのまま過ぎ去る。
「ふうう!怖ええ・・・」
「無理だってあんなの!」
「盗んだだけで殺すとか血の気多すぎだろあいつ!」
「でも600万だからな」
「わかる。殺すには十分な理由だ」
「オレ会いたくねえ。ってか会わねえ」
「俺も。お前らも変な真似すんなよ」
行列の男達はカケルの金には一切手を付けないでおこう協定を満場一致で締結した。
俺は足早に人混みをすり抜けて闘技場を出た時、大きなため息とともにドSサイコ軍曹顔を解除した。
「はあぁー。何やってんの急に・・・」
「ふふ、良い脅しになりましたね!兄さん!」
「やりすぎだよ、俺まで嫌な汗かいちゃったよ」
「とか言いながらノリノリでしたよ」
「そんな訳ないだろ――」
牽制です。あくまでも牽制であってそれ以外のなにものでもありません。途中から楽しくなったとかは全くないので。自己防衛のためのアレだから誤解しないように。
「また兄さんの刀さばきみたいなぁ。武闘会も終わったことですし、どうです?一戦」
「しないよ!」
「えーー」
マエノ村でしつこく逆抜き不意打ち斬りをねだられたあの時のように、なんとなくタクのこの距離感が当初のようで懐かしいなと思いつつ宿屋の方へ足を踏み出した時、後ろから唐突に呼び止められた。
「もし。あなたは英雄・ケントのお仲間のカケルさんでは?」
「えっ・・・・・・・・まぁ」
「やはり!ではあなたもお仲間ですね」
「は、はいそうです」
さっきの話を聞き付けてきたやつかと警戒しながら振り返ると軽鎧姿の兵士が立っていた。
維江原の門や通りにいる一般兵とは違い、黄色を主体とした服装で軽鎧が覆う面積は少ない。言うならば文官のような装備で見た目としてのファッションは派手すぎず質素過ぎず。機能面も動きやすそうで鎧姿ながら全体的に落ち着いたきらびやかさがあった。
「老師様からの書簡をお預かりして参りました」
どうぞ、と僧兵は戸惑い顔の俺に一通の書簡を手渡してきた。
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19/6/29 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




