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33 決勝3

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。


「本気で戦ったらどうです―――!」


 とるに足らない会話で怒りを煽動しようとしたアレッドの胸ぐらと腕をがっしと掴む。

 身長は私よりは十センチから十五センチほど高い。メイス使い・楯割と呼ばれるだけあってパワータイプであり重量級の体躯。

 スピードが乗れば乗るほど急には止まれないもの。突っ込んできたスピードをそのまま生かした円運動を行う事で豪快にアレッドを投げ飛ばした。


「「「おおおっ!!」」」

「・・・ふ・・・う」


 薄砂を巻き上げて滑り転がるアレッド。歓声が上がる。

 追い打ちをかけようと思ったが薄煙とはまた違った要因から目測距離が測れなくなる事態。

 直後、アレッドの重たい体を投げようと歯を食いしばって踏ん張ったのがまずかったことを悔いた。


 グラリ、と視界が回った。

 脳に血が急激に上ったことで頭痛と眩暈に襲われ、平衡感覚のずれと脱力感から足元がふらついたのだ。


「うおりゃああ!!」

「うぐっ!!!」

 ドゴズザァァッ!!!


 そのわずかな隙をアレッドは見逃してはくれなかった。

 背負い投げからすぐ回復したアレッドからの突き上げるような右フックは左頬を直撃。脳を突き動かし糸の切れた操り人形のようにフィールドに崩れ落ちた。


「倒れた!?倒れました!ケント選手がアレッド選手の一撃を受けてダウン!」


 視界が黒味を帯びてぐらつく。

 歓声が実況が遠くに聞こえる。

 ふわりと嫌な浮遊感と地面に転倒墜落した痛みが全身を襲った。

 転倒の瞬間首を曲げて頭から突っ込む事だけは避けたがそれでも意識は半分奪われたまま、視界は晴れない。


「立ち上がれるかケント選手!?・・・おっと!その隙にアレッド選手が走り出す!台座の剣に手を伸ばしたーー!」

「「ケントーー!!」」

「「立てえええ!!」」

「「行けアレッドーーー!」」

「・・・くっ」


 視界を奪われた中、絶対に追い打ちをかけて来るだろうと防御態勢を取っていたのに攻撃が来ない。

 なぜだと耳をすませば、なるほどなと思わざるを得ない理由が実況から語られた。

 実況の熱高い叫びと観衆の悲喜混じる大声の中、私はいいように地面に転がされてその剣を奪われるのをやけにゆっくりと回りながら黒い靄の中を流れて進む視界で見ていた。


 先程の数言のやりとりの後に繰り出された突発的な攻撃。初撃を受け切った途端準決勝で負った傷からくる貧血によってもたらされたあの頭痛と眩暈に襲われぐらりとふらつき、攻撃の第二波を受け損なった。


 左頬のズキズキとした痛みを自覚したのが先か、真横へ倒れたのが先か。それはもはや定かではない。しかし九十度傾いて広がるフィールドには自分に向かってくるどころかある一カ所に遠のくように向かう男の姿のみがあり、それに気づいた時には。


 シャキィィ!!

「アレッド選手が剣を先取!ケント選手はまだ地面についたまま!!どうするんだぁぁーー!!」


 今の自分が最も避けたい戦況へと変貌してしまったのだ。




 先程までの俊敏たる激戦とは打って変わってとてもゆったりとした歩調でこちらに進んでくる。

 その一歩一歩は秒刻みのようにゆっくりとしかし確実に進み、剣を手にした姿を括目せよと言わんばかりにザッ。ザッ。といたぶる様な牛歩。

 それはこれまでに予選本戦で自身がやってきたことの鏡写しを意図しているかのような嫌らしさは容易に把握した。

 全ての敵を殺してきたアレッドにとって私のようなスポーツマンシップに則った綺麗な戦い方はさぞ嫌いなことだろう。



 昨日の準決勝は前年度準優勝者に挑んでギリギリの勝ちを拾えたがそれはまだ余力があったからで、今のように負傷していたわけではない。

 去年の試合が何だったかは知らない。抜き合い以外の何かだろうことは察しが付くが、準優勝と優勝の力量差はまずあっていいと考えるべき。

 昨日ギリギリ負かせた男より格上の目の前の相手が今目立った手傷もなく挙句の果てには決定打たる剣も手にしている。



 まず勝てない。

 それは分かっている。

 だが。


「お?・・・やるつもりか」


 たとえ圧倒的劣勢でもまだ勝ち筋が絶たれた訳ではない。

 まだ血は流れていない。新たな傷もない。

 体力的にも、まだ戦える。戦えるはずだ。


 それにまず第一に剣を先に取られたからといって。


「―――ケント選手が立ち上がった!?ケント選手、どうやら試合は投げない!続行!前年度優勝者に素手で挑むつもりだぁぁぁ!!!」

「「「うおおおおおおおお!!!!!!」」」


 諦める理由にはならない。


「「ケント!!ケント!!ケント!!ケント!!」」

「「英雄!!英雄!!当世英雄!!」」

「「行け行けケント!勝て勝てケント!!」」

「「勝利!勝利!逆転勝利!!」」

「「諦めないでケント様ーー!!」」


 剣を奪われたのを理解しつつも立ち上がった私へ絶叫ともいえる大合唱が闘技場中から沸き立ち、手拍子や太鼓が強く打ち鳴らされ随所にて大旗が左右へ振られる。

 武闘会で最高潮と言っていい大歓声。地面と空気中を伝わって全身の肌にビシビシと感じる振動にしびれすら感じる。


 指先で口の端を拭うも血は流れていない。

 不覚を取ったがさっきの攻撃は仕留めるべく放たれたような本腰は入ってなかったようで致命傷にはならなかった。

 服の砂を手先の動作を大袈裟にして払い去る。


 剣を取ったからなんだ。

 そう言外に笑いつけてやりながら挑発的にアレッドの目を見やった。


 ただで負けるわけはありませんよと。




「てヤァ!!ハァァッッッ!!!」


 ヒュウッ!ヒュウッ!ヒュシャァッ!!

 ズザァア!!ヒュアァッ!!


 剣を手にしたアレッドの苛烈極まる攻撃が始まった。

 一方的な攻撃を止める術なくひたすら回避一択のみを強いられる。


 準決勝で下した飛神より何枚も上手の剣撃は完全に避けきることは出来ず、ものの数分で服や手甲に細かな傷が二、三十。

 呼吸を落ち着けようと間合いを取れば砂埃を蹴り上げて視界と安息を奪って一気に間合いを詰めてくる。

 明らかに苦戦している。どう贔屓目に見ても優勢だなどと誰が言えようか。剣を取られて以降一度たりともカウンターすら放つ機が訪れない。前髪も斬り飛ばされるほどのギリギリの戦いをしているのだ。


「逃げてばっかりじゃ勝てねえぞ!!オラ来いよ!!」


 鋭い袈裟斬りが笛のように唸る。

 近付こうにも近づけない。フィールド上にある武器が今アレッドの手中の剣しかなく場外を狙おうにもまず半径一メートル以内への接近を拒絶される。

 完全にアレッドの望む展開にさせられている。


 もし逆転の可能性があるとすれば、アレッドの攻勢が鈍るのを待つしかない。

 体力の消耗を待って――。


 ・・・いや、それまで私の体力は持つのか?


 あの傷は癒えていない。手傷は増えるばかりでアレッドは無傷。消耗が早いのはこちらだ。相手の消耗を待つ戦術は下策。

 とは言ってもこちらから仕掛けることは出来ない。剣を奪い取るにも、どうやって?

 万全の相手が振るう剣を素手の怪我人がどうやって奪い取ろうというのだ。何かまぐれが起こらなければ。そもそもまぐれとは起こりうるのか。この状況で。


 しかし、縋るしかない。

 不確定極まりないまぐれに期待して。精神と体力を削りながら。最後まで絞り尽くしながら。

 アレッドのミスを。千載一遇の好機を。


 何に祈る。神に祈ると言うのか。

 救導のお導きに。御神のご加護を授けよと。



 ・・・何が等しく武を競うだ。

 一方に圧倒的不利を強い、一方には圧倒的優勢という胡坐をかかせて勝って当たり前の経験の積まれない勝負をさせる。どこが等しいというのか。


 だめだ。止める。止めなければならない。

 あれもこれもそれも、全てこんな狂った催しがあるからだめなんだ。

 いたずらに血を流しそれを肴にと腐った意識がいつしか何の疑問もなく受け入れてしまう常識に定着してしまう前に。

 既にそれはもう始まっている。原状回復とまではならずともせめて歯止めをかけなければ人間としての尊厳と矜持は終わってしまう。禽獣と何ら変わりないではないか。私はそんな獣ではない。考え選び進むことのできる人間である。そうありたい。



 必ず勝つ。


 勝つ。勝つ。勝つ。


 そのためには何を擲っても良い。

 家族を、村を、友人を失った私にはもう何も失うものはない。


 帝国にはこれ以上奪われてなるものか。

 目の前で倒れようとしているものをこれ以上見過ごすことなどできない。


 ・・・いいだろう。

 祈ってやる。あの日以来祈ることをやめた私がもう一度だけ祈ってやろう。




 水の神よ。火の神よ。風の神よ。土の神よ。金の神よ。

 武の神よ。智の神よ。信の神よ。義の神よ。


 私に力を授け給え。

 正もて邪を打ち払いし九十九の聖なる術を。


 祓え給え。授け給え。

 守り給え。救い給え。



 あの日あの時私を救わなかった神々よ。



 今度こそは誰ぞ私を救い給え――――!

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19/6/26 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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