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32 決勝2

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 闘技場・客席


 大盛り上がりも大盛り上がりの闘技場。

 替え玉作戦が間に合わなかった俺達は東側スタンドの客席に人混みを縫って這い出た。

 既に決勝戦の戦端は開かれ、ケントさんと前年度優勝者と言う対戦相手がフィールド上をまんべんなく使うように飛翔疾走している。


 スタンドは屋外とは思えないほどに熱気が満ちている。大歓声はまるでライブ会場にある巨大スピーカーの至近距離にいるんじゃないかと錯覚するほどで耳が痛くなる。満員電車と言っていいほどの超過密状態に思わず顔をしかめる。

「うわ。すごいなこれ」

「はぐれないようにね。人多いから気を付けようか」

「ありがとうございますセンリさん」

「たタク君。センリ姉、って呼んでもいいんだよ――」

「すみません通ります。すみません」

 フウタの先導に着いていく形で進む俺の後方で、タクと手をつないで歩くセンリの耳がほんのり赤くなる。

 センリは本当にどうしちゃったんだろう。なんか年下の男が絡むとおかしくなる節があるな。リョウがいたらもっとやばかったな。

 こら手をやわやわニギニギするんじゃない。引かれる前にやめろ。ヤバいぞお前。


 直線距離二十メートルほどの距離を人混みを縫うようにジグザグに進み、五十秒もかけながら進む。

 鰯玉に向かって泳ぐサメのようにスムーズに分かれてくれてすんなりと直進できればよかったがそうはさせてくれない。年末のアメ横さながらの賑わいを思わせる。

 渋滞で思うように進めないあのイライラと焦れをふと思い出しつつ、やっとこさフィールドを見晴らせる手すりの手前まで潜り抜けた。


 手すりにもたれ掛かりながらようやく俺、センリ、フウタ、タクの四人揃って落ち着けた。

「はあ涼しい」

「ああー風・・・」

 幾分か開けたこの場所には風がよく吹き抜ける。

 極端な人混みが恐らく二回目であるタクは六連コインで盛り上がったマエノ村酒場二階の時よりは多少耐性がついたのだろう。顔色は悪くはなっていない。

 とは言っても人口密度は前回の比ではない。何百倍もの差がある。

 俺も額にうっすらと浮かんだ汗を両腕の袖口で交互に拭った。



 決勝戦を目当てに超満員となった四方の客席はひっきりなしに声や鳴り物が響く。十万人収容と聞く客席のほとんどもしくは全部が埋まっているようだ。

 遠くに見える真向かいの西側のスタンドからはオイオイオイオイと男たちの野太いコールが聞こえてくる。

 南北のスタンドには手製の旗が多数見受けられ、一際大きな旗には「英雄降臨」「戦神爆誕」などと言った文字がたなびく。

 俺たちの横、手すり沿いに目をやると黄色い歓声を上げる女達のグループ。その傍らにかけられた横断幕には「ケント様がんばって」と甘ったるい筆跡と色使いでデコレーション。白色で統一した揃いの法被で応援しているが金髪赤髪の女性も入り混じるその和洋折衷の光景には複雑な感情が起こる。


「いつの間に親衛隊出来てんだよ・・・」

「親衛隊とは?」

 タクが聞く。

「んーと、熱烈なファンのグループみたいなやつ」

「そういうことですか。あっ投げキッスしてる」

「予選から勝ち上がったリーダーは全ての対戦相手に止めを刺さなかったのでとても紳士的だとして女性層を主にファンがいましたが多分昨日の準決勝が決定的でしたね」

 とフウタが解説。

「素手から大逆転して前回準優勝の相手に勝ったっていう?俺も見たかったなぁ」

「アタシも見たかったなー」

「無理言わないでくださいよ二人共」

「ちょっと、あの、両手で投げキッスしてますよあの人たち。どうなんですかあれ」

 タクが親衛隊を指差すとセンリは目を細めた。

「ハァ?んのヤロー、イイ身分になったもんだなぁ」


 ケントさんに固定ファンがついたことに対してアイドルと追っかけの構図を浮かべた俺とは対照的にフウタはある程度冷静に解説をしてくれたが免疫が少ないであろうセンリとタクは少し過敏に反応した。

 露骨なアピールをする女性ファンにセンリは必死になっちゃってと鼻で笑い、タクは平然とした風を装いつつ少々顔を赤らめながら恥ずかしさの篭った目でチラチラと見ている。その先で女性たちは投げキッスをしながら両手で手を振り、ピョンピョン飛び跳ねていた。


「ケント、結構善戦してないか?」

「そうだな」

「十分戦えてますね」

 センリの問いに俺とフウタが確かにそうだと返す。

「予選から戦い詰めなのにあの攻撃は・・・」

「頑張れケントー!」


 昨日の準決勝で負傷したケントさんは服の中に痛々しそうな包帯姿をしていた。

 血染みもそれなりに大きく不安と心配で一杯だったが結構あの相手にやれている。防具を着込めばきっちり隠れるし仮面もしてるから顔色もバレにくい。

 回避スピードは当然俺とは比べるまでもないな。怪我してるのに。


 俺達以外にも同じ感想を抱いたようで、

「なんだよあのスピード―――」

「ありえねえ・・・」

「楯割と五分五分、良い勝負だぞ」

「昨日最後あんなにボロボロだったのに、すげえ」

「バカっ!予選で負けたお前らとは違うんだよ!英雄様と比べんなダボ!」

 隣の方で観戦していた男達もあの戦いぶりに感心しているようだ。


 でもこいつらは予選にも出ていたのか。見るからにムキムキだったりしてるのに、ぱっと見標準体型中肉中背のケントさんが勝ち上がっちゃうんだから分からんもんだ。パワーだけに依存してるとダメだって事かもな。


 とはいえ、ケントさんは負傷中。心配になる。

「やっぱり時間はそうかけたくないな」

「出来るだけ早めにケリをつけたいところですね」

「リーダーはただでさえ全力が出せない状態ですから消耗戦は不利でしょう」

「んなこた分かってんだよ!ああもうアタシが間に合ってりゃ・・・いや、ケントがこっそり抜け出したりなんかしなけりゃ―――」


 フィールド上では多種多様な攻防が繰り広げられており、剣の台座には近づかせないよう心理戦が行われている。

 近付けば阻み、近付けば阻まれ、背を取り回り込み今か今かと剣を手にするチャンスを窺っている。

 だがその隙はないし与えようともしない二人のデッドヒートは観客のテンションを大いにぶち上げまくっていた。


 ただ、ここで一つなぜか心にしこりのような言葉にしにくいものが残っていたことを自覚した。

 後悔と言うか無念と言うか、そう言った感情がなぜかほんの少しあったのだ。


「試合開始に間に合えばな・・・」

「過ぎたことはしょうがないですよカケルさん」

「せっかく有り金かき集めてきたのに」

「え?」

「いや、木札買おうと思ってさ」

「オマエ何考えてんだよこんな時にー!」


 基本的に所持金の大半は肌身離さず持っているが、以前牢屋に囚われた時フウタ達への預り金と靴底に埋め込んでいたとっておきのように、いざという時の為にあえて手元から離したところに一部を疎開させている。今回はせっかくの決勝戦だから分散させていたその全ての所持金・全財産を回収して持って来た。

 決勝戦、全力を出して戦うんだから俺も全力で応援ベットするつもりでと。


「中身がケントさんでもセンリであっても木札を買うつもりだったんだ。本当」

「もう・・・」

「それにな。理由は明かせないけど、俺が応援すれば勝つんだよ」

「は?何言ってんだよカケル」

「それはどういう意味ですか?」

「うん、うん、オカルトだって言いたいのは分かる。信じられないのはよく分かるでもな、俺のここぞって時は勝つんだよ、一世一代の大勝負とか、全身全霊を込めた大博打とかは。そうだよな!な!」

「あ、あぁ。はい・・・」


 ホントに?と言った目を向けて来るセンリとフウタに対して思わず俺はタクに同意を求める。

 ほら、あの時大逆転勝利したよな!あと、あの時も爆勝ちしたし!と期待を込めた眼差しにタクは苦笑ながらも同意はしてくれた。

 だが俺はふうっと息をつき、遠い目で寂しげに呟く。


「でもそれはもう、過ぎた事だよ。もう始まっちゃったから・・・」

「なんで?」

「なんでって、木札買えないじゃん。試合始まっちゃったし」

「カケル、決勝戦は決着の鐘までならいつでも買えるぞ」

「え、ん!?どういう事だそれ、決着の鐘まで!?」

 ビンタでもされたかと思うほどの高速で首が声の主に向く。

「そうですよ。決勝だけは試合開始が締切じゃなくて、決着の鐘までが受付時間だそうです」

「決勝が一番盛り上がるから絞れるだけ客から絞ろうって腹なんだろうな。あのガメツイ領主のやりそうなことだよ」

「マジかよ・・・でも、それなら好都合」


 木札のシステムは赤青どちらが勝つかの勝者予想。1.9倍スタートで票数によりオッズは変動する。どっちが勝っても総売り上げの五パーセントは胴元に行く。十万人が1000エルずつ買ったとして1億エルの五パーセント、500万エルの収益となる。締め切り時間を延ばせば延ばすほど領主サイドの売り上げは伸びるんだからボロい商売だ。

 カネスキー領主がそういう意図で時間を試合決着まで伸ばしたのは露骨に思惑が見えるけど。


「間に合うんだったら話は別だな。あいつの性格はおいといて」


 こっちにとってはラッキーこの上ない。

 この人混みではそもそも試合開始までに発売所まで着けそうになかっただろう。

 決着までにって事ならまだ時間的猶予はありそうだ。


「勝てるかな」

「どうしようもねえだろ、こうなったら祈るしか」

「・・・そうだな。行ってくる」


 分かった、と返ってきたセンリの返事を背中に感じながら、人混みの中で全財産入りの皮袋をスられないようバチバチに周囲を警戒しながら進む。


「「ウワァァァァァァ!!!」」


 数メートル先が見えない大混雑の壁に向かって苦悶の表情を浮かべつつ一歳児のよちよちもかくやと言ったスピードで何とか割り込もうとした瞬間、爆音にも似た悲鳴と興奮の入り混じった鯨波が至近距離から超遠距離まで満遍なく巻き起こった。

 何事かと振り返った目線の先、実況席でヒートアップしている実況の男性が指を差しながら声高に叫んでいた。


「倒れた!倒れました!ケント選手がアレッド選手の一撃を受けてダウン!立ち上がれるか!?・・・おっと!その隙にアレッド選手が走り出す!台座の剣に手を伸ばしたーー!」

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19/6/26 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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