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31 決勝

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 武闘会・決勝戦。


 正方形の闘技場から仰ぐ空は吹き抜けの様な開放感を醸し出す。予選と本戦の前半では二面に区切られていたが準々決勝から統合され一面となった石畳のフィールドは二人で競うには持て余すほどに広い。

 その場所に立つ者は予選から含めて約三百分の二にまで減った。

 残るひとつの椅子―――王座を競って争われる武の頂。

 これまでに倒れた参加者たちの夢の至る場所。試合で命を落とした者も多く、まさに無念の降り積もる墓場である。


 がらんと空いたフィールドには全方位からの歓声が十重二十重に降り注ぐ。


「「ケント!ケント!」」

「「アレッド!アレッド!」」


 東西・赤青の扉から現れた私達に向けて双方への応援が高い熱を持ってなされる。

 赤の扉から現れたアレッドは歓声を受けたと察するや否やすぐさま手を振りながら凱旋パレードのような陽気さを見せる。そこに緊張感はさらさらないかのようで言うなればもう勝者は自分だと疑うことなく破顔する。既にこの勝負は俺の勝ちだなとでも言いたげだ。


 壁際の赤青両扉から四、五十歩。

 長方形のフィールド中央に引かれた平行の白線に進み互いに向かい合う。

 私の目の前には赤い鉢巻が目を引く男・アレッドが着く。前年度の武闘会にて優勝した強者である彼は私に対して敵愾心を露わにしていた。


「おい。立ってるのがやっとじゃねえのか?あ?」

「・・・さあ。どうでしょう」

「担架は用意しなくていいのか?」

「それはどなたが使うんでしょうね」


 軽く肩をすくめ口だけで笑って返してやると露骨にむっとした顔を見せる。

 アレッドは腕組みしながら触れている二の腕の筋肉を思わずギュッと握る。苛立ちに握られた腕の皮膚がにわかに白ばんだ。


「ぬかすな手負いの怪我人が。付け上がりおって」

「これは失礼しました」

「まともに考える頭もなくなってんだろう」

「さあ。もしそう見えるのでしたらどうぞお手柔らかに」


 血を上らせようとあれやこれやと言葉をぶつけてくるが難なくいなす。

 そんなことをしても無駄ですよと気丈に振舞ってやればアレッドはギリと歯を軋ませ口の端をピクと不快に引き攣らせた。


 実際、多少は意識がふっと途切れる節が一瞬だけあるが決してそれは気取られないよう平静を装う。仮面が良い仕事をしてくれている。

 挑発に乗らない私を見てつまらなそうにペッと地面に唾棄するとアレッドは胡桃を握りつぶす動作さながらに両拳を握り直した。



 ドワァァァアァァァン!・・・ァァアン・・・ァン―――。


 会場全体に響き渡る銅鑼の音。

 客席にて隣の席や前後の仲間・家族と話していた観衆は揃ってその音の方向へ目を向けた。

 すると銅鑼を鳴らした兵士と入れ替わる形で司会が登壇。同じく壇の横の解説席に実況解説者が着席。司会の進行で前口上が述べられた。


「―――やはりやってきた。ここまで来たぞシアン川の怪物!楯割の異名を持つ帝国南方軍随一の突撃隊長。この世に破れぬ楯など存在しない。奴が過ぎれば防御陣は粉々に砕け散る!どこまで進むんだこの男!悲願の連覇なるか。赤コーナー、アァァァァァレッドォォォォォオオオオ!!!!」

「「「うおおおお!!!!」」」


 大層な煽てを盛り込んで前年度優勝者・楯割とも楯貫とも呼ばれるアレッドを持ち上げる文句に当の本人は巻き起こった歓声に両手で応えた。


「―――対するは突如彗星の如く現れた白い旋風。無意味な殺戮は美学に反する!振り下ろされるは愛の拳。闇切り裂くは不死鳥の舞。大劣勢から大逆転を演じた当代きっての英雄が覇を唱えるのか!在野の大器、稀代の強運!青コーナー、ケェェェェントォォォォォォォオオオオ!!!」

「「ワアァァァァ!!!」」

「「キャァーーーッッ!」」


 対する私への口上はやはり辛勝ながらも素手から勝利を掴んだ準決勝の戦績による英雄の二文字が盛り込まれていた。

 連覇がかかった試合にもかかわらず、私を持ち上げるべく英雄・・に強いアクセントを置いた選手紹介にアレッドの態度は不快を示した。私の呼び込み直後に上がった、アレッドよりも幾分黄色味の多い歓声に対してはさらにその不満が露わとなっていた。


 アレッドは肩を怒らせながら目をひんむいてこちらを睨んでくる。

 軽く飛び跳ねながら首をコキコキっと鳴らしつつ威嚇してくるがそれには乗らない。


「チッ、ムカつくなお前」

「・・・・・・」


 アレッドはぶっきらぼうにそう言い捨てた。しかし私は無言を貫く。挑発には乗らない。

 アレッドにとっては挑発に対して直視するでも露骨に目を逸らすでもなく表情の伺えない仮面越しのポーカーフェイスで無反応が返ってきたのだ。無視されれば気に入らないのは至極当然だ。




 双方の綺羅びやかな二つ名を呼び歓声を怒涛にまで押し上げた口上が終わると、司会はすうと息を胸にためた。

 時間一杯を仄めかし、目線のみで静かに観衆を高ぶらせる。

 間をたっぷり使って張り詰めた静寂を演出した司会はゆっくりと木槌を振りかぶりながら宣言した。


「英雄の楯が猛攻を退けるのか!猛虎の牙が楯を貫き通すのか!頂上決戦、これですべてが決まります!決勝戦、スタート!!」

 カァーーン!!


 言いながら強く振り下ろした木槌によってゴングが高らかに鳴り響いた。



 と同時、立っていた位置には舞い上がる二つの砂埃だけが残り、目にもとまらぬロケットスタートから馬上槍試合のごとく互いへ真っ直ぐに突っ込んだ。


「おおっと格闘戦を選んだ!迷うことなく一直線に殴り込んだぞォォ!!」

「「うぉぉおお!」」

「行けー楯割ー!!」

「やっちまえ英雄ーー!」


 待ってました!この展開になってこそ決勝がさらに盛り上がる!と喜色満面でハイテンションの実況に触発されなお熱化する観衆の下、重たい拳が交差する。

 私よりずっと丸太のように迫り上がった腕の筋肉に血管が幾筋も浮かび、繰り出された負荷が骨を震わせる。

「フッ・・・!」

 にやっと笑ったアレッドは重たいパンチをラッシュで打ち込んできた。

 真正面から受けては消耗必至。最大限回避に専念するが狙いがなかなか正確。口が悪いだけかと思っていたが大言壮語は伊達ではないようだ。流石前年度優勝者。

 乱打の中、とりわけ重たい一撃は避けきれなさそうであれば勢いを逸らして受け流し、なんとか間合いを図る。


「させるかっ!」

「くっ」


 少しも休ませてたまるかと言わんばかりに上半身下半身へ別々あるいは同時に攻撃が飛んでくる。

 本命に見せかけたジャブ、ジャブに見せかけたフェイク、フェイクに見せかけた本命などなど織り混ぜた多彩な攻撃は敵ながら天晴れと言わざるを得ない。


「五月雨と呼ばれたこともあるんだ、ぜ・・・ッ!」

「そうです、かっ!」

 攻撃のラッシュの中でも喋る余裕があるぞとばかりにアレッドは笑った。


 隙を見てカウンターを打ち込むが痛打にはならない。アレッドの芯を捉えきれてはいないがその間だけ攻撃が止まる。とにかく流れが反転する機を窺う。


 一進一退の攻防が続き、まずまず互角とも言える試合展開。

 攻撃が繰り出される度、受け切り、反撃する度に観衆はワアッワアッと反応する。


「なんだよあのスピード―――」

「ありえねえ・・・」

「楯割と五分五分、良い勝負だぞ」

「昨日最後あんなにボロボロだったのに、すげえ」

「バカっ!予選で負けたお前らとは違うんだよ!英雄様と比べんなダボ!」

「イテッ」

「だってよお」

 どこかで名もなき男たちの頭が空になったカップでパカンと叩かれたがその音はまるで最初からなかったかのように幾万の声にかき消された。




 ズザァ!ザァ!

 ドゴッ!ガッ!!シャァッ!!


 激しい格闘。靴底が磨り減るほどの熱戦。息つく暇もない攻撃の応酬が続く。

 スピードも早く重たいアレッドの一撃がどの角度からでも飛んでくる。

 その攻勢をカウンターで切り崩して反撃するのもやっとだ。


 やはり万全ではない。少なくない血を失っている影響が出てきている。大分重心がふらついているような感覚。頭も少し痛い。込める力も普段の七割も出ていれば良い方だ。

 止めてかわして切り返し、避けて受け流してバックを狙う。が、不発。

 展開としては相手が主導権を握り思うままに運んでいる。まずい。

 押し飛ばす形でアレッドとの間合いをこじ開けると、その間合いをまたすぐ詰めてくるかと思いきや一呼吸の後に小さくほくそ笑んだ。


アレッドは客席の方へちらりと目をやる。

()()()()だってよ」

「そうですね」

「分かってんだろ?」

「・・・さあ。何を言ってるか分かりませんね」

「なら、自分の胸に手当てて考え―――ろッ!!!」


 石畳のフィールド随所に散らばる削れた白砂が踏み切りに舞い上がる。



 ・・・アレッドは明らかに手を抜いている。

 決勝だからか、それともそれ以外の何かか。だがどうせ娯楽としての一興を演じるべく買って出たのだろう。いずれにせよ気分のいいものではない。

 拮抗しているように見せかけてその実拮抗などしていないのは早期から感付いていた。終始アレッドの顔面に迫真がないのだ。

 一撃一撃は重いが命懸けではない。重いがそこに想いはない。


 瞬殺してしまっては面白くないとでも考えているのか。

 昨日の準決勝の影響ダメージはまだ引きずっているかと聞かれれば残念ながら応。余波は大きい。コンディションは決して良くなくそのため周囲からの諫言も強い。だがしかしそれに合わせて意図的に手を抜くなど冒涜が過ぎる。


「考える暇があるなら―――」


 やはりここでみすみす負けるわけにはいかない。

 私はこの決勝で必ず勝つ。

 勝ってこの狂技を否定する。あの帝国を否定する。外患誘致を企む例の男も。この狂った常識を全て。

 人をおちょくって遊んで、それを慰みにする性根は見下げたものだ。


「本気で戦ったらどうです―――!」


 私の方へ余力を残しながら突っ込んできたアレッドの胸ぐらを下から突き上げるように掴み、真っ直ぐ突進してきたスピードそのままに後方へと投げ飛ばした。

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19/6/26 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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