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28 代理

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 闘技場・医務室


 準決勝後医務室に担架で運ばれたケントは医師からの処置を受け、ベッドで休んでいた。腹には包帯が巻かれていてついさっき処置を終えたのが見て取れる。

 そこへ関係者通路を「身内です!」とごり押ししてハル・リョウ・タクらが駆け込んできた。


「「「ケントさん!!」」」

「ああ・・・みなさん」

「大丈夫ですかケントさん!」

 タクが声を上げる。

「ええ。大丈夫ですよ」

 少し血色の悪い顔で微笑みかけながらケントはそう答えた。リョウとハルは到底大丈夫に見えない様子のケントに言い返す。

「そげん風には見えんよ!こげん血が出とうやんか!」

「ケントさん、これ以上はもう無理せんとってください、もう十分やなかとですか」

「・・・」

 止めようとする三人にケントは押し黙った。

 ケントを治療していた医師が戻ってきて、今ここへ駆け込んできた三人に語る。

「皆さん、彼は幸いながら臓腑には達する傷は受けていなかったものの相当量の血を失っております。なぜ立っていられたのか・・・。これ以上の続行はとても――」

「・・・そやね・・・」


 ケントを看た医師からのドクターストップにハルたちも暗い表情で同意。

 それもそのはず、ケントは腹部に何重にも包帯を巻いているにもかかわらず血がにじみ出ている。

 内臓までは斬られていなかったので命に別条はないが、腕や足などのように縛って圧迫止血出来ない部位、脇腹を殊の外広く斬られているため失血が著しい。

 太い血管を切られなかったのが不幸中の幸いだったとのことだが行動に支障をきたすのは言うまでもない。


「―――いや、出ます」

 制止を振り切るようにケントは落ち着いた声色で言い切る。

「ケントさん起きたら・・・」

「・・・ここまで来たんですよ、決勝まで。予選からやっとで。あと少しなんです先生」

 ケントは医師の目をじっと見つめる。

「でも、起きあがるんがやっとやんか!もう戦えんて!」

「・・・」

 リョウの至極当然の説得に思わず黙り込む。

 タクも同じくケントを引き留めようとする。

「ケントさん。もう十分戦いましたよ。ここで辞退しても誰もバカにしたりしません。勇敢に戦ったじゃないですか。僕は尊敬――」

「それじゃ駄目なんですよ」

「・・・え?」

「尊敬されたいわけじゃない。英雄だと持て囃されたいわけじゃない。私は勝つためにここに来たんです」

 上裸包帯姿のケントはベッドから立ち上がり、籠に収められた肌着と上着にゆっくりながら袖を通す。

「優勝でなければならないんです。二位じゃ・・・」

「そげん将軍になりたか?あん賞金ば欲しかと?」

「そのために・・・、いや。むしろそんなものはいらない」

 すぐそばにいたリョウからの問い、金目当てかという質問に対し目を合わさず少し語気を強めながら問う。

「君、この町には何をしにきた?」

「えっ・・・おらは薬を受け取りに」

「ならば今すぐやめなさい」

「・・・」

「わざわざ遠い道のり。危ないからやめなさい」

「そ、そげんこつ出来るわけ――」

「そういうことだ。・・・・・・誰かに止められたからと言ってやめられるほど軽い理由じゃないんです」

「じゃあ、どうして」

「それを言えば、大人しく引き下がりますか」

 上着の前をあえて開いたまま、包帯をのぞかせながら三人に問いかける。

「・・・」

「・・・」

「・・・それは」

「でしょう?みなさんにも譲れないものはあるはずです。私の譲れないもののひとつは・・・これなんですよ」

 ケントは自身の血が滴った皮の手甲をはめ、大きく一呼吸つく。

「死にませんよ。安心してください。こんなところで死ぬつもりもありませんから」

「・・・」

「それに、まだ荷物持ちが残っていますしね」


 ふふっと小さく笑ったケントの唇は少し白味がかっていた。




 宿屋・一階食堂


 今日の武闘会準決勝が終わり夕方頃、ケントさんを連れ帰ってきたみんなを迎えた。

 ドアを開けて先導したハルの向こう、左右のタクとリョウに両肩を預け帰ってきたケントさんは明らかに元気がなかった。


 なぜ?・・・そうか、なるほど。

 納得した俺とセンリは浮かない様子のケントさんに気を回した。


「ケントさん・・・まぁそういう事もありますよ。死ななかっただけ良かったじゃないですか!負けちゃったのは残念だと思いますけどなんとか三位なら入賞賞金は出るん――」

「負けとらんよカケル」

「ん?」

「勝ったであんちゃん」

「勝ったの?!・・・じゃあなんでそんな沈んでんの」

「ちょっと待っててください兄さん、客室に連れていってからで」

 タクとリョウは二階の客室へ手負いのケントさんを運んでいった。


 ・・・何が起こったんだ?

 昨日までは割と楽に勝ててたのに、一目見ただけでボロボロ。ケントさんは一人で歩けない状態になっていた。まさかあんな状態になるなんて。そこまでの相手にぶち当たったのか?

 会話も辛そうにしていて、黙って呼吸だけをしているケントさんを初めて見た。

 いつもは冷静でいてメンバーには厳しい一面も見せたりしてる彼が、青ざめた顔で力なくいわば背の低い二人の肩から引きずられる形で二人に連れられていた。


 センリは帰ってきたハルの両腕をガシッと掴んで詰め寄る。

「ハルちゃん、なにがあったんだ!?」

「センリさん」

「あんなケント見たのは・・・いや、まず何があったか教えて!」

「ええ・・・準決勝で当たった相手が、その――」

「――なかなかの手練れでしたか」

 離れたところから呟いたフウタの声が静かな部屋に響いた。

「マジかよ・・・」と呟いたセンリの吐息は消え行った。

 朝にケントさんを見送ってからほんの数時間、やっと帰ってきたと思いきやぐったりと変わり果てた姿を目の当たりにしては動揺は隠しきれない。

「でもAトーナメントの最終戦ですよね?Aトーナメントにさしたる有力候補はいない。それなら相手は帝国派じゃないはず――」

「それにしてもだいぶ手こずったことには変わりないよ。多分賞金目当てだったんだろうな・・・二位と四位は月とすっぽんだから。30万エルとゼロはすげえ差だよ・・・」

 フウタは口許に手を運び考え込む傍ら、センリは考え込みながらどっかと机に腰かける。


 空気がみるみる沈むのを感じた俺は少し無理に明るく断ち切りに行った。

「・・・まあでもケントさんが無事帰ってきて良かったよな!」

「おいカケル。全然無事じゃないぞ」

「え、ああ」

 呆気なくピシャリ。

 ハルは小さな声で呟くように言う。

「ケントさん、先に剣取られて素手で立ち向かって。なんとか勝ったけどお腹ばちょっと大きゅうケガしとって・・・」

「ハル、それって」

「いっぱい血が出とった。なんとか捨て身ん場外で勝てたけど、血が出すぎて自分では立ち上がれんくて、担架で運ばれて行ったんよ」

「「・・・」」

 ハルの説明を聞いた俺とセンリは黙り込んだ。


 準決勝勝てたのはいいけど、ギリギリすぎて決勝にすら立てるかどうかが危うい状況ってことか・・・。

 連戦前提ってのが厳しいな。余力を残しながら勝ちきるのって難しそう。

 全力出して勝っても次の体力を残してないと最後まで勝ちきれない。余力を残そうとセーブしたら戦闘は長引くだろうしうっかりミスで負けることだってあるかもしれない。

 うーん、難しい。俺には向かないな。


 と考えていた俺は耳を疑う言葉を拾った。


「よし!アタシが出ようじゃん」


 は?


「ちょっと待てなんで」

「ケントが出らんないってんならアタシが出るしかないじゃん」

 センリ、立候補。自信満々の挙手。

「いやいやいやそれは無理でしょ」

「は?なんでよ!アタシが弱いって事!?」

「そんなことはまったくないけど、その頭は目立つって」

 牛まっしぐらのセンリの赤髪はただでさえ目立つ。色もそうだし何より長さが。

「じゃあ・・・なんか被るよ」

「えっ?」

「あの白い仮面もつけるし!」

「あのさちょっと待って」

「なによ」

「手配中って忘れてない?」

「・・・・・・」

「手配中ですよセンリさん」

 フウタも加勢。二対一だ。

「でも・・・あんなんじゃ無理でしょ決勝。カケルもそう思うよな?」

「うーん・・・」

 そうは思うけどね。でもそれとこれとは。

 俺たちが軽々しく外出して捕まったら全く同じ流れになるぞ。もう死にかけたくないよ。大人しくしたいよ。

「俺とリョウは弱すぎて無理だし、タクは身長が足りない」

「ボクもリーダーには身長では届かないですね」

 替え玉を認めないフウタは間髪入れずに言い切った。

「・・・替え玉って事なら髪色と声と態度とスタイルさえどうにかなればセンリでもいいんだけど」

「全とっかえですねカケルさん」

「はぁ!?ちょっと待ってよ!」

「こればっかりはどうしようもないって――」

「いーや!アタシが出る!!」

 台所に駆け出したセンリは包丁を取り出す。

「おいおいおい何するつもりだ」

「危なかよセンリさん!そげんのしまって」

 俺とハルは俄かにざわついたがフウタは冷静に窘める。

「センリさん、そんな脅しには乗りませんよ」

「違えよ!」


 センリは真っ赤なポニーテールの結び目すぐに包丁を当てると、一思いに赤髪を断ち切った。

 ブズバッ!と音を立てて、左手には先程まで生えていた赤い髪の束が握られる。


「これで兜でも被れば問題ないだろ」

「・・・」


 右手に包丁、左手に髪束。

 大将首を挙げた武士の如し気迫と威圧感。

 不言実行を見せたセンリに言葉を失う面々。


「ケントは試合中無駄口は叩かなかったからアタシも黙ってればいい」

「・・・」

「体型も出来るだけサラシ巻いて絞る」

「・・・」

「ケントのことなら幼馴染のアタシが良く知ってる。動きだけならいくらでも真似できるさ」

「・・・」

「・・・」

「頼むよ」


 一同の無言に気圧され、髪の束を握り込んだ腕がしおれるように垂れ下がる。

 勢いを持って説き始めたセンリだったが、やがてすがる子犬の様な目で見つめた。

 センリの見るその先を追って、その場の目線は自ずとフウタに注がれた。


 俺もハルもセンリの心意気を汲んでやりたいと思っている。

 でもなにしろセンリは指名手配中。見つかったらただでは済まない。


 これから行く所は闘技場のど真ん中。きっと決勝戦ならあのザノとか言う冤罪領主が観戦に来てるに決まってる。

 なんとか決勝戦でセンリが勝ってもあの領主の事、センリだとバレたらああだこうだ言って優勝を撤回するだろうしなんならそのまま投獄、処刑だってあり得る。


 ケントさんが戦える状況じゃないのは百も承知。

 次に戦えるのはセンリになってしまう。


 ・・・・・・もういっそのこと棄権しよう。

 違約金なら手持ちがあるから俺が払うよ。


 そう言おうとしたその時、フウタが口を開いた。


「・・・分かりました」

「「えっ!」」


 まさかの回答。

 俺とハルは同時にフウタへ振り向いた。


「ちょっとフウタ大丈夫かよ。センリは指名手配掛けられてるんだぞ?それ一番言ってたのお前だぞ、分かってるよな」

「はい。でも他に方法がありません」

「棄権しようよ。違約金がいくらかは知らないけど――」

「そんなお金はありません」

「その違約金は俺が―――」

「そんなお金はありません」

「いや、俺が払うから――」

「ないんです。必要ありません」

 まあまあと手を二度動かしながら俺達を座らせるとフウタも座り、そこへ二階に行っていたタクとリョウが合流。

「兄さん、今日の武闘会でケントさんが」

「・・・ハルから聞いたよ。とても決勝には立てそうにないって」

「そうなんよ。ほんで、どうしようってみんなで相談しとったんだけど・・・そうやカケル!ゲンさんはどうやろう」

 ハルはパチンと手を叩いて提案してきた。

「うーん、ゲンさんは無理じゃない?」

「ええ?」

「だってゲンさん自身本戦二回戦で負けちゃってるから決勝となるとどう考えても力負けしちゃうし、何よりがっつり日焼けでムキムキすぎるから覆面してもバレるよ・・・」

 線の細いケントさんとゲンさんでは覆面しようが一瞬でバレて退場になっちゃうよ。

「んん?誰か呼んだか――」

「ああいやなんでもないです!ゲンさんこっちにどうぞ!」

「おう。邪魔するで!」


 あせあせと取り繕うように椅子から跳ね上がったタクは、顔まで覆うほどの大入り買い物袋を抱え込んで現れたゲンを食堂の奥へと案内していった。

 ケントを二人がかりで運ぶタク・ケントとは別行動を取り、怪我の回復を早め血肉になりそうな食材を手あたり次第買い込んだわけである。

 リョウは目の前を通り過ぎるゲンの紙袋の中からみかんを一つくすね、さわやかな甘酸っぱい香りをまき散らしながら一房ポイと口に放る。

 噛み締め思わずこぼれる笑顔。おいしそうでなによりです。


 みかんを頬張りながらセンリの髪を見てリョウは指を差した。

「・・・あれ?センリ姉どげんしたとそん髪」

「せ、センリ姉?」

「ん?ああ。それが、今回の事でこうなってね」

「どげな意味?」

「センリがケントさんに変装して決勝戦に出るつもりなんだ」

「へー」

 俺はリョウ達に掻い摘んで説明する。

 みかんを口へ運ぶ手は止まらない。

「まぁ確かにショートヘアにした方が隠しやすくはなりますね」

「タクもそう思うか」

「センリ姉・・・」

 センリは小さく呟く。

「背も同じくらい高かし、強かけん安心やなあ」

「あれ?リョウ君は賛成と?」

「ケント兄は怪我しとーし、出来るならセンリ姉でもよかて思う」

「では、リョウ君とハルさんは賛成と言うことですね?」


 フウタの問いに「うん」「はい」と揃って頷く。

 戻ってきたタクからは「兄さんが出ないのならどちらでも。ケントさんには休んでもらいたいですが」、ゲンさんからは「好きにせえよ」とありがたいお言葉を頂いた。


「三対一対二ですね」

「なにが?」

「賛成と反対と委任です。実質三対一で賛成多数ですね」

「・・・」

「これが民衆の総意ですよ?どうしますかカケルさん」

 ハル・リョウ・タク・センリ・フウタからの眼差しが刺さる。

「「「「「・・・」」」」」

「・・・分かったよ!そうしよう・・・」

「分かりました。では満場一致でセンリさんの参戦決定と言うことで」

 解決を迎えた溜め息が方々で漏れる。

「そうするしかなかね」「他に手はないですしねぇ」とハルとタクが頷き合う。


 ・・・無駄に声大きくしてじゃあお前が戦えよとかなるのはちょっとアレなんで結局ヘタレました。

 ごめんよセンリ。人身御供にするつもりはないけど・・・頑張ってくれ。


「じゃあ明日に備えて早めに寝られるよう、早めに夕食にしますね」


 この宿・南山亭は一階のリビング&食堂と二階の客室フロアに分かれているが、食事はセルフ。

 武闘会シーズンにもかかわらずこの宿だけが空いていたのはそこに理由があると思うんだけど、出前とフウタ頼りの俺達にとっては全く問題ない。

 深夜さえ使わなければ食堂の台所は使い放題。綺麗に使った上で置きっぱなしにさえしなければ勝手に捨てられることもなければ文句も言われないのだ。


 慣れた手際で調理を進めるフウタを手伝うハルによってわりかし早く夕食が完成。

 牛赤身とほうれん草の卵とじ丼・あさりの味噌汁・レバ刺し・小松菜の和え物・切り干し大根。


 ちょっと鉄分欲しがり過ぎじゃないですかね・・・


 ケントさんは丼ではなく牛赤身とほうれん草の卵粥にして一式を二階の客室に運んで食べてもらう。

 他のメンツは食堂で揃って夕食だ。


「ね、ねえリョウ君」

 センリがリョウに話しかける。

「ん?なに??」

「そ、そのー・・・もう一回センリ姉って言ってくれるかな――」

「えー」




 ・・・黙って食ってさっさと寝ろコラ。死ぬぞオイ。

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19/6/25 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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