25 無事
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
年末年始は多忙でしたが今週から投稿再開します!
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
昼・南山亭
南門から大通りを進み一本曲がった路地の奥にある宿屋・南山亭。
人通りは少なく宿屋の入り口に立てかけられた営業中の看板がわびしさを醸し出す。
「南山亭、南山亭・・・。あぁここや」
入り口の玄関は気軽に客が入れるようにと開け放たれている。ゲンが暖簾をくぐりながら宿屋の中に入ると、すぐそこの食堂の扉から一人の少年が顔をのぞかせるように出てきた。
「ごめんくだ――ッ?!」
「何の用ですか?」
レザーアーマーで武装したタクが腰の剣を半分ほどギラッと抜きながら来訪者を出迎えた。
まるでセールスマンをドアチェーン越しに出迎える住人の様であるが、右手はドアの取っ手。左手は逆手で剣の柄。
不穏極まりないポーズである。
ゲンはいきなりの対応に慌てた。
「ちょ・・・!まぁまぁまぁ待て、取って食おうって気はないんや、話聞いてくれや、な」
両手が塞がっているゲンは焦りまくりながら剣を抜きかけているタクを宥め落ち着かせようと必死の笑顔で説得。
そこへ後方からも気配。
「どなたですか?」
「ッ――!!」
スッ――。
背後から短剣をゲンのうなじに突きつけながら誰何する。
階下の訪問を聞きつけてすぐ脇の内階段から降りてきたフウタだ。
完全に抜き身の短剣。背筋が涼しい。
いや、それどころか全身血が凍る。
両手の荷物で逃げられないゲンは当然応戦するにも武器も出せないし第一ガードも出来ない。
とにかく害意はないことをアピールしつつ目的をハキハキと言いたいところだが。
鉄の胸当て。
革の手甲・足甲装備。
ムキムキの丸坊主。
浅黒肌。
明らかに素人には見えないゲンの風体。
タクとフウタ達にしてみれば、この状況をからして今のタイムリーなタイミングでのゲンの登場はだいぶクロい。
「待て待て待て待て!ちゃうって。聞けやお前ら何なん!ちゃんと見ろやコレ、連れてきてんねんか!」
こんなところで誤解で死んでたまるかと必死のゲン。
その両肩を一揺らししてコレを見ろと目で訴える。
幾許かの猶予もない。さっさと気付いてもらわないと死ぬ。
見ようによっては命乞いである。
「・・・ふむ」
その様子にひとまず警戒レベルを一段階下げ、扉越しにゲンを見ていたタクはフウタの目配せを受け幾分かドアを開く。
そろりとゆっくり、ドアの隙間から身を出さぬまま不信感と警戒感をあらわにしながらゲンに両肩から左右へ担がれている二人の顔を見る。
「!!」
はっと思わず息を飲む。
そこには人形の様にしなだれかかる意識を失った見知った人物がいたからだった。
「兄さん!」
抜きかけの剣を収めドアを完全に開け放ちすぐに駆け寄る。
まさかのタクの呼びかけにゲンの背後のフウタも驚く。
「え、じゃあこっちは・・・、センリさん!」
回り込んでその顔面を確認すると、長きを共に過ごしよく見知った赤髪の女性であった。
「「・・・すみませんでした」」
「まぁまぁええわ。事情はよう分かったわ。せやけどなんでそんな状況で外出歩いとったんやろなぁ」
「さあ・・・?」
カケルとセンリを二階のそれぞれの客室のベッドに運んだ後、タクとフウタは一階食堂で並んで非礼を詫びた。無事誤解は解け、あやうく殺されるところやったが助かったでとゲンはそっと冷や汗を拭う。
武闘会を終えたケントら一行が帰って来た時にはカケルとセンリが宿屋からいなくなっているのを知り、指名手配をかけた領主側の人間の犯行と推測した。
戻って来たばかりのケントが居つく暇もなく先に外へ捜索に行っている間、ハルとリョウを交えてフウタとタクは再奪還会議を行い、いざこれから捜索だと身支度を整えていた矢先にゲンが現れたのでああいう対応になったのだとか。
「てっきりボクは身代金要求の使者だと思いましたよ」
と辛辣にフウタは笑う。
「っは、現物を目の前に連れて来て要求する誘拐犯とはえらい親切やなー」
「すみませんゲンさん。こちらの早とちりで」
タクは頭を下げるがゲンは特段気にしていない様子で手を二回振る。
「ええ、ええ。言うても俺とあの兄ちゃんとは知らん仲やないしな。こういう巡り合わせもあるっちゅうことや」
「以前どこかで?」
「ちょっとな。はは」
へぇ、と小さくフウタのため息が漏れる。
その視線はツルツルの頭へと降り注ぐ。
磨いたようなツルツルである。
高身長。
ムキムキ。
こんがりと焼けた健康的な肌。
ツルツルは珍しさゆえ見入ってしまったがそれは差し引いて、かつて憧れを抱いていた冒険者像――夢見ていた姿に瓜二つのゲンの男らしい体躯。
黒光りするツルツルに見とれるフウタは、
「いいなぁ」
「?・・・そうか?」
思わず独りごちる。
それに引き換えボクは。
低身長。
痩せ型。
日焼けしても一時的に赤くなるだけの白い肌。
今でこそリーダーに裏として影として適性を見いだされ引っ張りあげてくれたものの、幼い頃なりたかった自分が今目の前のそこにいるとやはり思うものがある。
さっき玄関で背後から並び立った時からもう身長差を感じていた。
やっぱりもう一回―――、
・・・いや、やめておこう。
と、椅子を立ち上がりかけて、思い止まったフウタであった。
フウタは理想的な男・ゲンに遠い目で物憂げな様子で着席した。
「じゃあ僕はケントさんを呼び戻しに行ってきます。フウタさん後お願いします」
「あ、うん、分かった」
タクがケントを呼び戻しに行ったあと二人残された食堂は。
「ツルツル・・・」
ゲンのスキンヘッドが上等の黒真珠の様に黒光っていた。
宿屋二階に運ばれた俺ことカケルとセンリはそれぞれの部屋で目覚めるまで看病を受けた。
センリにはリョウ、俺にはハルがついていた。
「・・・」
「・・・おはよう」
「おはよう。ハル」
ハルの背中越しに暮れる夕日。
ベッドで目覚めた俺を見下ろしているハルは、不安の余韻を残したようなぎこちない笑みを浮かべた。
「?どうした、ハル」
「え・・・。んー・・・と」
バッ―――!!
まさかと思い、俺は急いで起き上がった勢いそのまま掛布団をめくって自分の下半身を確認した。
・・・
・・・・・・大丈夫だよな?
「――着替えさせたのか?」
「ううん、覆面は取ったけど他はなにもしとらんよ」
「そ、そうか」
また漏らしたのかと思った・・・
そしたらもう完全にやっていけないよ。完全にオーバーキルです。
「じゃあなんでそんな浮かない顔をしてるんだ?」
「え・・・っと」
そう問うと言葉に詰まったハルは胸の前で所在なげに五本の指先を合わせながら視線を泳がせる。
ハル――女の子が自分の口から言い出しにくいこと。
俺に対して言いづらい・・・ああ、あれか。
思い当たった俺はすぐに枕元や近くのミニテーブルなど数カ所を視線で彷徨い、窓際に目当てのものを発見する。
「あの、ね、カケル。あたし――」
腰掛けていたベッドから立ち上がりその袋を手に取るとずっしりとした重みとチャリンと小気味いい金属音が漏れ聞こえた。
「大丈夫だよ。金なら無事だ」
「へ?」
「それどころか今日は増やして帰ってきたんだぞ」
「あ・・・・・・へえ。そうなんやね。どれくらい勝ったと?」
「30万エルだ」
「えっ、そげん!?すごかね!」
金額に驚きはしたハルだが。
「聞きたかったことはそうやなかやったけど・・・」
と内心は一旦押し込める。
そんなハルの様子は気にすることなく、せっかくの勝利の体験談を思うままに吐き出し始める。
「凄いか・・・いやぁでもね、あっちだったらもっと儲けられたかもしれないなぁって思うんだよ。そもそも投票数が少ないからオッズが簡単に動くし、こっちで大金ぶち込みの勝負はなかなか―――」
喜び切れない勝利と大規模に客を巻き込むデジタルの世界に慣れた故の価値観からくる発言を語るカケルの言葉をハルは重心の高すぎる不安定なアタマで聞いている。
面接官を前にして緊張した就活生が、相手の話を聞いているようで実際は話の細部は全く覚えていないこととほぼ同じような状況になっているのだ。
何を考えていたのかと言えば一つだけではなく複数の思考と感情がないまぜになって混乱した状態ではあったが、ただ言えることはハルはお金の事は今は別にそこまででなくても良かったということ。
かつては貧乏暮らしだったからもちろんお金自体は大切だということは重々分かっているが、今はもう最優先ではない。
「やっぱりニブイチの勝負って向かないね。やっぱりこういうギャンブルってハズレ票が多くないと配当金がつかないじゃん。それこそ三連単みたいなのがあれば――」
今ハルにとって大切なのは自由に渡り歩き毎日を謳歌する旅と、カケルの存在。
きっとカケルがいなければハルの世界は狭く暗い、血と土の味のする闇の中だったに違いない。
そんな夢も希望もない場所から連れ出してくれて命を張ってまで守ってくれたカケルをどうして二の次に考えられようか。
ふと出た言葉がカケルを傷つけてはいないだろうか。
コミュニケーションを取りたいがカケルはそれをどう思うだろうか。
農業一つで生きてきたが、普段からしばしば脳内で大会議を開く辺りこと恋愛に関しては十代後半少女の年相応である。
発案、撤回。
発言、後悔。
実行、反省。
行ったり来たりの堂々巡りだ。
「トーナメントだとやっぱり勝者予想と優勝者予想になるのはしょうがないよな。でももっと射幸心をあおるような券種を発売できるんじゃないかと思うんだよ。例えば・・・そうだな。日本で人気があったのは確か――」
リョウやタクならばフラットに話しかけられるのにカケルにはうまく自然に話しかけられない。
さんざん悩んで引っ込めたりつい飛び出た言葉に思い悩み悔いる日々。
だから。
「そん話もっと教えて!」
「お?・・・おう!ええと、そうだな!―――」
聞き上手を目指してハルはカケルの話を引き出すことを覚え始めた。
(自分から話しかけようとしてぐちゃぐちゃになるくらいなら聞き役に徹した方がよかね。カケルんタイミングで話したか時に聞いてあげられればカケルもそん方がよかね?)
件の引け目から間合いを開けていたカケルに対して、ハルも間合いを開ける選択を取った。
こっちから詰めるとその分開けられてしまうから、話したくなった時に来てもらう形を取ったのだ。
「俺がいたところにはブックメーカーって賭けがあって、事前に配当金が決まってるギャンブルなんだ。途中オッズ更新があるんだけど、一番オイシイオッズを見つけられるかが鍵にもなるんだ。でもそれだけじゃなくて一番の味噌は"勝ち方まで予想する"んだよ。今回の武闘会で言えば、試合開始一分以内に赤の選手が勝つとか、赤の選手の降参で青の選手が勝つとか。格闘戦の末、赤の選手が圧勝とかいろんな賭け方があるから、その辺の試合展開も読んで予想を組み立てる楽しみがあるんだよ」
カケルは楽しそうに残念そうに情感豊かにハルに語り続ける。
「でもまぁ難しいだろうなぁ。そこまでの選択肢を提示して客も運営も混乱しちゃわないかな。そもそもアナログだもんな。あれはデジタルだからこそリアルタイムで票数も計算出来るしオッズも見られるから良いけど、全アナログじゃかなり大変そうだ。もしやるならどうしよう―――」
「・・・ふふふ、カケルってばよう考えるね」
「ん?何?」
「んーん。なんでもなかよ。それで?」
久々に自分に向けられるカケルの笑みはハルのしばらくしゃちほこばっていた心をほぐしたようだ。
隣室のセンリが目覚めたのはここから三時間ほど後の事。
ゲンの放った不動弾に含まれる睡眠薬としびれ薬の影響を少し強めに受けたセンリはカケルに遅れる形となったが幸い薬湯によって後遺症などはなく十分な食事もあり全回復した。
二人揃って気絶していた間、あの盗賊の隠れ家から運んでもらったのが彼だと聞いてカケルは思わず食堂で歓談中の彼の前へと小走りで歩み寄った。
「すみません、その、運んでもらっちゃって」
「ええ、ええ。あれ食らっちゃあ自分じゃ動けんやろう。よう知っとる」
不動弾の開発途中、何度も自分でその味を知っていただけあってゲンは共感深い笑みで出迎えた。
「随分寝てたみたいで・・・お待たせしませんでした?」
「話しながら待っとったから大したことあらへん。ところで、覆面の下は結構若い顔立ちしとったんやなぁ」
はっはっは!と笑うゲン。少し居心地の悪いカケル。こめかみをポリポリとかきながら苦い笑みを浮かべた。
先程カケルが食堂に降りたところ、ケントとフウタの二人がゲンと話しているのを見つけ、そこにハルと合流した。
もちろん今は覆面はつけていないがゲンはすぐにカケルが射的で勝負を繰り広げたあの覆面の男だと察した。
まさかあのゲンがここにいるとは思わずちょっと慌てたわけであった。
「・・・武闘会に出てましたよね?どうしたんですか?」
「ん?ああ・・・負けたで」
「「えっ!!」」
カケルとケントが驚きハモる。
その驚きはすなわち、敗北=死を意味しているはずの武闘会で負けたのにもかかわらず、今もこうして生き残っているという事への奇跡。どうして生き残ったのか?
「・・・予選を勝てたんはたまたま運がよかったんやろな、本戦は二回戦で負けちまったよ。せやけど、相手がなかなかいい男でな。とどめは刺さへんでくれたわ」
「それは良かったですね。負けた人の死傷率は高いのに・・・」
ケントは実感の篭った声色でそう言った。
ゲンは見よがしに両手を広げ五体を示す。
「見ての通り傷一つなしや。―――三回戦からも見とったけど、自分もそういう戦いしとったやろうが」
「ええ・・まぁ・・」
ケントはゲンの目線を避け、憮然とした様子で目をそらす。
決して格好つけてるわけではないと心の中で言い訳しかけながら湯呑みの茶へ避難した。
「そういう奴のおかげでこうして生きてられるわけやな。感謝感謝」
ゲンとしてはナチュラルに放った褒め言葉に対して、むず痒さを感じたケントは照れ隠しに問う。
「ところで予選決勝の時、接近戦は苦手って言ってましたよね?」
「おう。不動弾さえあればそんじょそこらのやつには負けんよ。・・・やけどよう考えたら武器の持ち込みが出来ん"抜き合い"に遠距離戦の要素全くあらへんから勝ち目なんてそもそもなかったな!はっはっは!」
豪快に笑い飛ばすゲンをケントは少し困ったようなニコニコ笑顔で見る。
するとゲンはカケルの顔を見て数秒動きを止めると急に何かを思い出したのか腰に手を運ぶ。
「おう、そやそや。これ返すわ」
ジャラッ――。
布袋入りの現金がテーブルに置かれた。
「なんですかこれ」
「村で賭けしたときの金や。返すわ」
「!!」
ナカノ村での射的で先攻のカケルが自身の投げた矢が既に的に刺さっていた金属の矢に跳ね返されて不的中となり、後攻のゲンの最後の投擲を待たずして負けを察して去った時の賭け金である。
「―――受け取れません」
「なんでや」
まさかここで突き返されるとは思わずカケルはそれらしい言葉を探した。
「――負けたからですよ。あの局面で次に投げるはずのあなたが的を外すわけなかったじゃないですか」
「いや、分からん。まだ決着してへんやないか。最後の一投」
「・・・受け取ってください。賭けですから、負けを認めた以上あなたのものです」
ずずずっ、とテーブルに置かれた金の袋をゲンの方へ押しやる。
押しやられた金の袋とカケルの顔を見たゲンは小さくため息を吐く。
無理強いしたところで受け取らないと見たのか、俺は絶対に受け取らないぞと決め込んだカケルの顔と金の入った袋を見比べると渋々といった様子で袋を手にとった。
「・・・ほんじゃあ、一旦預かっとくわ。いつ要るか分からんしな」
預かっとくを強調しながら、ゲンは再び腰に金の布袋を括った。
この後、せめてもの気持ちと言うことでカケルはゲンの宿代の支払いを提案。
断る理由のないゲンはあっけなく二つ返事でOK。
ゲンも同じ宿・南山亭にて宿泊することになった。
なんで同じ宿に泊まるんだ?・・・まぁそれはいいか。払うって言っちゃったからここだと思っちゃったんだろう。それはしょうがない。
ゲンが客室に向かうべく離席、メンバーだけとなった食堂。
「さーてと、夕飯どうしようか」
「んーとね、アタシはね~」
「―――二人共!立ちなさい!!」
「「!?」」
無断外出をしたセンリとカケルにケントからの雷が落ちる。
センリの鼻先すぐにケントの顔面が迫る。
「あ れ ほ ど 出 な い で く だ さ い ね と言いましたよね?」
「う、いや・・・その、なんで敬語―――」
「問答無用!!」
ゴキィ!!
センリの脳天に鉄拳制裁。
「痛~~~~っ!!なんで殴るんだよケントぉ・・・!」
「胸に手を当てて考えろ!・・・・カケルさんもですよ?」
「ヒッ」
「反 省 し て く だ さ い ね ?」
至近距離から見下ろさないでください。息が出来ません。
許してください。すんませんした。すんませんした!
見せしめに殴られたセンリとともに三十分もの間みっちりと説教。
外出禁止令は強化され、勝手に外出しないようにフウタが看守として宿屋に張り付くこととなった。
「出たら・・・」
ギラッ―――。
ケントは腰の剣をぬらりと抜いて銀の光をセンリとカケルに反射させながら威圧。
横目でセンリと通じ合い、すぐにケントに揃って一度頷いた。
暴力、イクナイ。
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19/6/24 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




