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24 奇遇

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 維江原・闘技場前


「なあカケル、それどうすんだよ」

「うーん、どうしよっかw」

「使い切れる額じゃねえしなぁ・・・どうしよう」


 センリと並んで闘技場からの帰り道。

 ケントさんの武闘会本戦第二回戦終了を見て俺たちは帰路についている。


 三回戦以降は翌日からになるのでこれで本日分の試合は終わり。隠れて外出している俺達は、ケントさんはもちろんみんなが帰って来るよりも先に宿屋に戻っていないといけない。


 指名手配がかかっているので宿屋を出てから闘技場を去った現在に至るまで変装は解いていない。俺は白布の覆面でセンリは特徴的な赤髪を団子状にまとめそれを覆い隠すようにバンダナを被っている。


 顔を隠したい理由はそれだけじゃないんだけどね。なにしろ、今持っているブツがあれなだけに。




 あらかじめ俺はケントさんの第一回戦と第二回戦それぞれ計二回分の木札を買った。もちろんケントさんが勝つと予想して、両方ともケントさんの木札だ。


 武闘会での公認の賭け――木札のシステムはいたってシンプル、一対一の勝負でどちらが勝つかを予想するもの。オッズは基本的に両方1.9倍スタート。賭け金の移動は親と子ではなく購入者同士の奪い合い。購入された木札の票数によってオッズは上下するが今回の大金のぶち込みで少なからずオッズに影響を与えたようだ。


 第一回戦は四十八人のトーナメントなのでそもそもの票数が入っていなかったこともありオッズは大きく動いたが、第二回戦になると投票数が増えたのかオッズの傾きが少し緩やかになった。


 手持ち現金100万エルの内から55万エルを投資。

 第一回戦のケントさんの勝利で1.2倍、それをそっくりそのまま第二回戦に突っ込んで1.3倍の払い戻しを獲得。


 二回転がした結果、払い戻しは85万8000エル。

 純利益30万8000エル、資金増加率は驚きの百五十六パーセントだ。




「たったの二回で30万って・・・」

 センリは驚きのあまり言葉がぎこちなくなっている。もともと声は潜められていたが少し震えて聞こえる。

「いやでも正直俺はあんまり納得してないな。たったの55万でオッズがこんなに下がるとは思ってなかったんだよ」

「たったの?たったのって言ったなお前!」

 55万エルの大金をたったのと言ったカケルに思わずセンリは声が裏返った。

「リスクに見合ってないんだもん。どうせなら倍は行ってほしかったなあ」

「そんなに稼いどいて何言ってんだコノヤロー!」

「や、やめろ苦しい」

「ニヤニヤしながら言うなー!」


 センリは俺の襟を締め上げながらぐらんぐらんと首を揺らしてくる。

 そんなに激しく揺らされると頭痛くなっちゃうからやめろ。酔う。


 でも、こんなやりとりをそれなりの声量で公共の屋外でやるべきではなかったとすぐに後悔することになる。





 闘技場から数十メートルの距離で立ち止まってくっちゃべっていた俺達にかけられた声。

 それはやや二十センチ下方から聞こえてきた。


「お兄さん方、どちらに行かれるんで?」

「え、・・・ああ、南門そばの宿屋まで」

 身なりは多少汚れているがどこにでもいるような平民らしい格好の男。

 身長は中学生くらい?タクよりはでかいが俺とセンリよりも小柄で出っ歯が目を引く猿のような男だ。

「するってえと、南山亭ですかね」

「ええそうよ。なに?案内人?」

「いかにも。見たところこの辺の人間じゃなさそうだ。そんならヒミツの近道も知らねえでしょう」

「近道!そんなのあるのか!」

 おい言葉遣い。とセンリを咎めると、えへへとはにかむ。

 男は気にせず続ける。

「ええ。ここから一本入ったとこから、つつーっと行ったところにがらんと空いた道がね。この時期でも地元の人間以外は使わねえんで、混んでる通りを行くよりもこっちの方がだいぶ近道でさァ」

「そうか!じゃあ頼もうかな!いいよなカケル」

「ええ?・・・まあ」

「ありがとうございます。ささこちらへ」

「あの、代金は――」

「それは後でいいですよ。持ち逃げとか怖いでしょ。ちゃんと案内しますよ」


 鼻を手首の付け根でしゃくるよう擦り上げながら得意げな顔の出っ歯男は自信満々に道案内を買って出た。

 センリは何の疑いもなく二つ返事で買い、俺たちはその男についていきながら大通りから裏通りへと進んでいった。





 入り組んだ狭い裏道をくねくねと進む。

 左右から天にそびえる建物によって一帯は日陰。肌に触れる空気にどことなく肌寒さを感じる。


 すると。


「・・・ああ!道が塞がれとるわ。こりゃ遠回りせんとあかんわ」

「えっ行き止まり?」

 細道の曲がり角の先にて木箱が積み上げられて通れなくなっている袋小路に出くわすと出っ歯男は額に手を押し当てながら嘆くような口ぶりでぶつくさ言う。

「はあ、しょうがねぇ・・・こっちから行きましょう。ささ」

「あぁはい」


 先頭を歩いていた出っ歯男は後続の俺達二人の間を縫って進路を反転。手の平を先へ示しながら俺達を促すように先頭を進んで行った。



 これ以降も何度か袋小路や行き止まりにぶち当たり進路を変えさせられた。出っ歯男の先導で迂回反転を繰り返すうち、方角と現在地が完全に分からなくなる。標識も案内もない暗い裏道。すぐ横には建物がある圧迫感のある狭い路だ。


 一言で言うならそれこそ町の区画ひとつ丸々使った巨大迷路と言った感じだ。


「ったく、どこなんだよここは・・・」

「それお前が言うか?道案内頼んだのお前だろ」

「アタシのせいにすんのかよ」

「ああもう早く戻らないとまずいのに――」

 と後ろの方で小声で話していた俺たちに出っ歯男は振り返った。

「お二人さん!見えましたよ!!」

「!!・・・びっくりしたー・・・」


 案内人の男を糾弾しているともとられかねない話を聞かれたかと思ってぎくりとしたが、出っ歯男の指差す先には細く暗い裏道が終わりを見せ、空からの光が注ぐ開けた場所が見えた。


 俺たちはやれやれと言った調子で裏道から抜け出る。

 そこは複数の長屋のような建物に囲まれた、中庭ともいえる小さな広場だった。


 だが、気づけばそこは狼の巣だった。






 広場の中央、俺たちの前方十メートル弱の位置で五、六人の男が武器を手に俺たちの進路を塞ぐ。

 それと同時に後方に仲間と思しき男達が回り込んで退路を断つ。

 左右の建物の物陰からさらに男たちは増え、数にして二十人ほどの悪党に囲まれたのである。


 四方から取り巻いてあちこちからグヘヘと気分の悪くなるような笑い声が聞こえる。

 その集団の方角に向かって出っ歯男は声を上げた。


「来やしたぜ!親分」

「――っ!?」

「おう、ようやった」


 俺たちの前にいた出っ歯男は悪党の出現に怯むどころか真っ直ぐ駆け出して親分と呼んだ男の側へするすると走り寄った。

 飼い慣らされた猿の様に駆け寄るこの出っ歯男には主人の様に一瞥をくれ、親分は下卑た笑みを浮かべる。


 五個の木箱を二段のピラミッド状に積み、さもこの場の支配者の様に君臨するがごとく頂上に座っているのだ。

 しかしその男の服は土や汗によって隠せぬほどの汚れがあり、裾や袖はよほど着倒したのかほつれが酷く、膝などは小さな穴が開いている。

 着ている革製の防具も細かい傷だらけで縫い糸などはほつれかかっている。どうひいき目に見ても立派とは言えない。追いはぎか落ち武者といった方がぴったりだ。


 他の子分はそんな親分よりもさらにひどい服――端切れの接ぎ合わせに身を包み、切れ味の悪そうな包丁や物干しざおの様な長い棒を手にして立ちはだかる。もちろん防具の類は一切ない。

 鞘付きの刀剣持ちの男は親分以下数名のみだ。


「信じてたのに」と、まさかの裏切りに遭って失望と怒りの混ざるセンリは道案内をした男に食って掛かる。


「き、貴様!なんのつもりだ!」

「なんのつもりって、こういうつもりでさァ」

「まさか・・・騙したな!」

「今更お気付きとは・・・お人好しが過ぎませんかねェ」

「なんだと!」


 センリが短剣を抜こうと柄に手をかけた瞬間四方の二十人が一斉に得物を構えた。

「くっ・・」


 剣槍無数の鋭利な先端がこちらを見据える。こちらから動けばたちまち串刺しになってしまうだろうと感じさせる機敏な反応だ。


 いかに弱そうな敵でも束になってはさすがに多勢に無勢。目配せで周囲を牽制・警戒しながらそろりと短剣の柄から手を放すと、四方の二十人もゆっくりと構えを解いた。





 闘技場の木札カウンターにてカケルが儲けた事を偶然目撃した一味の手下はすぐにここ根城に情報を持ち帰り、親分の男はカケルの大量の現金をかっさらおうと画策した。


 早急に誘導役として出っ歯男を立て、闘技場前で接触に成功した後は人気の少ない裏道からこの中庭へと向かわせる。途中、別行動をとる他の手下たちが手分けして裏道の一帯数カ所を木箱や樽などで思うままに遮蔽し、そうして作られた道は一本道となって同志がひしめくモンスターハウスへと繋がっていた。


 上手く運べばいいと思っていたが、こうも描いた通りに上手く行くとは。と親分の男は内心で笑った。



「さあて、分かってるよな?」

 ドンッ!と鞘に納められた剣の先をピラミッド状に積んだ1段目の木箱に突き鳴らして威圧する。

「ここまで案内したんだ。道案内の料金きっちり支払ってもらわねえとなぁ」

「え~ぇその通りぃ」


 出っ歯の男をちらりと見ていやらしく笑う親分。

 腰巾着よろしく親分に寄り添うように立つ出っ歯の男はにへらとした底意地の悪そうな表情でこちらを見ていて、


「いやあ骨の折れる大変なお役目でしたわぁ。こりゃ100万エルはいただきてぇですわな」

「ひゃ、100万だと!ふざけるな!」

「ここまでどれだけの時間と手間を費やしたと思ってるんですぅ?何度も行き止まりにぶち当たってェ」

「それは関係ないことだろうが!何を言っている!カケルからも何とか言ってやれよ!」

「うーん・・・俺としても案内料は当然だと思うけど、100万はやりすぎだし・・・そもそもここ南山亭じゃねえし。()()()()()か?ねーぇ。()()()()()かこれー」

「うるせぇ!!ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!ナメんのも大概にしろよ・・・払えねえなら、分かってるよな?」


 俺達の抗議をかき消すかのように発した親分の恫喝。目配せと同時に四方の悪党が一斉に俺達に向かって得物を構えた。


「う嘘ぉ、冗談も通じないの?もっと平和に話せるかと思ったんだけどなぁ。暴力はんたーい!―――」

「カ、カケル!あおるな!」


 慌ててセンリは短剣の柄に手を添え咄嗟の抜剣体勢を取る。すると呼応して二十人は得物を構えた。

 途端場の空気が脅しのものから明確な殺意へと完全に変わったのを感じた。

 全身を鳥肌と悪寒が電撃的に突き抜ける。



 もはや交渉の余地はない。

 剣を交えれば最後。

 始まればとことんまで行ってしまう。


 どちらかが完全に死ぬまで終わらない。



「マジかよくそっ・・・やるしかないのか・・・!」

 シャキィ・・・ッッ!


 俺は護身用に腰に差していた黒刀を抜き放った。


「「!!」」

「おま・・・!」


 四方の悪党は俺の抜刀を見て剣持ちの男は同じく抜剣し、それ以外も構えが完全に戦闘態勢に入った。

 センリは驚いたような顔で俺を見て「なんで抜いちまうんだよ」とかきむしるように額を覆った。


 抜刀体勢を構えるだけならまだ間に合うものを、抜いてしまってはもう戻れない。なんで抜くんだよ、冒険者なら当然だろお。とセンリは内心で嘆きながらも仕方なく短剣を抜いた。





 じりっ、

 じりっ。



 砂を踏みしめる双方の足摺り。


 数的不利に先んじて踏み込めないセンリと俺。

 個における力量不安で我先にと踏み込めない四方の悪党二十数名。



 臨戦態勢。

 皮一枚の冷戦。

 しかしそれは親分の号令によって――



「よしお前らァ!!やっちま――」

「伏せろォォォォ!!!!」



 戦端が切り開かれる寸前、別の男の声が空間を劈く。

 カケル達と悪党は同時にその声の方向を見上げた。



 中庭の広場を形成する長屋の屋根の上にその男はいた。



 バッ――!!



 屋根の上にいた丸坊主の浅黒肌の男は両手に持っていた無数の球体を空に放った。


「「!?」」

 バフゥッ!!


 カケル達を囲んでいた男達の体に接触した途端、その球体は炸裂。

 そこかしこから白い粉塵が濛々と吹き上がる。



「うわっ!なんだ・・・!ゲホッ!!」

「なんなんだこの煙ぐほっ!」

「ゴホゴホ・・・見えねえ・・・!」



 その粉塵はたちまちカケルたちの頭上を舞い、覆い隠す。

 謎の男の伏せろの一言にすぐさま反応したセンリがカケルごと押し倒すように這いつくばったのだ。



「スンスン・・・はっ!こ、この匂い・・・は・・・」

「うっ・・・!まさか」

「ハハ、気付くのが遅かったみたいやなぁ―――」

 ドサッ!

 バタッ――!


 四方から囲む悪党達の中の隊長格の男がその粉塵の正体にわりかし早く感付くが後の祭り。

 一帯のいざないの濃霧に晒された男たちは例外なく軒並み倒れて行った。


 悪党の親分はその光景に呆然としてただ立ち尽くして見ていた。


「な、なんだこれは・・・」

「おっとお前は死にな」

「なっ?!」


 濃霧の圏外で木箱のピラミッドの上に君臨していた親分がいきなり目の前で巻き起こり始めた光景につい一言漏らした瞬間、突如後方から聞こえてきた声。

 剣を抜こうと振り返ったが、その何者かに至近距離から顔面めがけてパイ投げのように粉を浴びせられた。


 毒薬である。


 バフゥッ――!!

「うぉえっ!ぐっ、おぉあぁあア?!!!ア゛ァ゛!!」


 即効性の毒薬を目鼻口から粘膜吸収してしまった親分は君臨していたお山から墜落してもがく。


「ごほぉあァろロ゛ロぁア゛アっっ!アア゛ァァア゛ァッッ!!!ア゛ア゛ッ!!」


 顔の激痛、呼吸困難、発赤、痙攣。

 あらゆる症状が一斉に強烈に襲い掛かり顔面を覆いながら地面で虫の様にじたばたと暴れるが。


 ズル・・・ピク・・・。


 ほんの二十秒ほどで親分の息は絶えた。



 霧の中、センリとカケルは周囲の状況と盗賊たちの安否が分からないままこの事態に瀕してなんとか打開策を探っていた。

「ちょっと、なんなんだよこれ・・・!」

「いざとなったら、アタシが、切り抜けるから。アンタはその隙に――」

「おおい、聞こえるかー?しゃべらず息もせずそのままこっちに這って出てこれるか」

「「!?」」



 男は、晴れつつある粉塵の中から聞こえた男女カケルたちに向けて緊張感のない声色で投げかける。


 数秒の沈黙があったが、カケル達は周囲から聞こえていた盗賊の濁った悲鳴がだんだんと減ってきていることに気付く。呻き声すらもかすれ行く。

 思考がやや落ち着き追い付いてきた二人は、ひとまずこの霧の中から出ようと無言のまま一致した。

 その霧を生み出した張本人の男は夜の灯台の様に目印となるよう声を発し続け、少しあってその通りに男女は濃霧から這い出てきた。


 と、同時に。



 バタッ――。

 センリが倒れるながら意識を手放した。


「お、おい!センリ!どうした!?」

「気にせんでええ。単なる眠り薬や。薬湯を飲ませればなんてことあらへん。しばらくすれば動けるからな」


 大金を持っていたので用心として覆面をしていたカケルとは違い、頭はバンダナだが素顔だったセンリはその薬効を強く受けていた。

 しかしそれでも同じく素顔を晒していた悪党よりも粘ったのは長年の冒険者の鍛練とカケルをなんとか逃がそうという強い精神力の賜物だった。


 男は左手に残っていた余りの弾――不動弾を晴れかけた視界の方へ追い打ちとばかりに全弾盗賊の方へポイポイと投げ終わるや、カケルの手を取り立ち上がらせる。

 カケルは男の顔を見てハタと気付いた。

「あ、あなたは」

「・・・ん?どっかで見たことある覆面やな?奇遇やなぁ」

「ああ、前に・・・、どこかで――」


 ズルッ――。


「おっとと」

 覆面で眠り薬の即効性はなんとかしのいでいたカケルも次いで意識を失った。

 男はしなだれかかってきたカケルを抱き止めた。

「はは。大変な荷物運びになりそうやな」

 小さく笑った彼は地面に倒れていたセンリを起こして左右の肩にセンリとカケルを担いだ。



 盗賊の襲撃に際してカケルとセンリを救った彼こそは、一度カケルが対戦したナカノ村の射的の名手にして武闘会の予選でケントと最後の二人にまで生き残った男・ゲンであったのである。

評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。


カケル所持金・約131万エル


18/12/13

年末年始リアル多忙のため更新を一時中断します。


19/6/24 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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