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22 本戦1

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 さあ、いよいよだ。

 私・ケントがこの本戦に駒を進めてから待ちに待ったこの日。闘技場から真上に吹き抜けた空をこの身に受けながら心を静め出番を待つ。


 センリとカケルさんを無事救出し後顧の憂いを断ち切った今、万全の態勢で臨めるというもの。

 観客席にはフウタ達が揃っている。センリが来られなかったのは多少残念だが指名手配とあっては仕方ない。嫌でも飲んでもらう。



 本武闘会での最大目標は優勝。次いで熊野薬堂六代目の弟・伝助への勝利。

 ついでに言えば帝国の息のかかった参加者を多く倒すこと。まあこれは対戦相手を全員倒して勝ち上がっていけばおのずから果たされるでしょう。


 今年の第二十回大武闘会は記念大会と言うこともあり、種目は「抜き合い」となった。台座に刺さった一振りの剣を二人の対戦者が取り合い競い合って決着する。もちろん武器はフィールド上の剣一振りのみ。それ以外の武器は一切装備禁止だ。

 場外、戦闘不能、降参は予選と同様敗北とするが、本戦では"戦死"も含まれる。対戦相手を殺しても咎められない。それどころか、讃えられる。

 一振りしかない剣を取られては最後。素手の対戦者をなぶり殺しにするという絶望的な死合が繰り広げられる。



 私はこの競技が嫌いだ。

 闘牛か何かの、使い捨ての効く動物の娯楽と同じようにしか参加者を見ていない。


 "狂技"だ。


 毎年武闘会の種目はくじ引きで決められるが今年は運が悪かったと諦めよう。

 そもそもなんでこんな試合に出ることになったのか――。


 いや、それはもう考えない。

 そこにいかなる作為があったとしても、企みや手回しもろとも丸ごと踏みつぶせばいい話だ。




 二百人ほどがゆとりをもって整列できるこのフィールドはスピーディーに試合を進行するべく二面に区切られ、二カ所同時にトーナメントの第一回戦が行われている。

 第一回戦を見るべく二万数千の群衆が東西南北の観客席にひしめく。全体で見れば客席の稼働率は二、三割程度。まだまだ客席に余裕はあるがそれでも予選の時と比べれば大勢に膨れ上がった。

 そんな中、観客席にて隣のフウタに抜き合いの概要を聞きハルから驚きの声が上がった。


「えっ!?なしてそげん危なか勝負ばすっとね!?」

「なしてって・・・そういう試合になったんですよ、今年の抽選は」

「もしケントさんが負けたら――」

「ハルさん。死ぬ前に降参すればいいんです。降参さえすれば命は取られません」

 フウタは冷静にそう言った。

 同じく反対隣に並んで座るタクも会話に混ざる。

「フウタさん、降参をわざと受け入れないってことは一応あり得るんじゃないですか?」

「――理論上はあるけどまず無いね。武士道や騎士道に反するし、名誉を求める試合で名誉を捨てたら元も子もないからね、タク君」

「なるほど」

 タクが納得すると、ドリンクを片手にきなこ餅をもっきゅもっきゅと頬張るリョウが会話に混ざってくる。

「ほえ~、そうなんや。おらも出ようと思ったけどあんちゃんからきつく止められたとよ。往復ビンタも避けられんでどう勝つって。そん時はなんじゃっち思っとったけど、今んなって思えばそいが正解やったなぁ」

「リョウ君には武闘会は合わないよ。剣には自分の命と他人を守る責任がつきものだから」

 タクは少し決めながら冷静に呟く。それにリョウは目を輝かせた。

「・・・なんやそれ、かっこよかぁ・・・!タッ君がうらやましかよ!一つしか年も離れちょらんのに大人びとるわぁ」

「大人っ・・・、一つしか違わないでしょう。僕の場合は仕方なく冒険者になったってのもあるし」

「・・・そういえばタッ君はなして冒険者になったんや――」

 とリョウが質問をしかけた時、フウタから声がかかる。

「あっ、始まるよ。二人共」

「ええっ!ほんまや!タッ君!」

「う、うん」

 フウタに声をかけられたタクとリョウは会話を打ち止める。

 タクは多少の背伸びをなんとか咎められずに済みほっと胸を撫で下ろしながら、前下方に広がるフィールドに目線を移した。






 今武闘会"抜き合い"の本戦は実力者揃い。優勝は狭き門。

 AB各トーナメント各二十四名・計四十八名。そこへABトーナメントに各一名・計二名のシード枠を加えた総勢五十名によって争われる。

 ABトーナメントともにそれぞれ一対一の試合で勝ち上がりとなる。

 第一回戦(四十八名)→第二回戦(二十四名)→第三回戦(十二名)→準々決勝(六名+シード枠二名)→準決勝(四名)→決勝

 前回優勝者・準優勝者の二名は抽選によってABどちらかのシードを獲得し前半三回戦をパスすることが出来る。

 ケントは当然、第一回戦からの参戦だ。




 二面に区切られたフィールド上、AトーナメントとBトーナメントの試合が同時に行われている。

 そこで行われていたのは――



「死ねええええ!!!」

「や、やめっ・・ぐああぁぁぁっっ・・・!!」

「・・・ふ、ふひっ・・・ふひひひひひひっっ」

「・・・う・・・・・・ぐ・・・」

「ハハハハハハハハ!!!」


 試合開始直後、早々に台座の剣を手にした参加者の男はタッチの差で剣に届かなかった対戦相手の男を至近距離から一方的に追い詰め、尻餅をつきながら後退る素手の男の腹に何のためらいもなく剣を突き刺す惨状が繰り広げられている。


 剣はもちろん木刀でも演武用でもない。真剣だ。


 台座の剣を手にする序盤の応酬―――スタートダッシュを決める俊敏さ、近距離に肉迫した時垣間見た体術とオーラ―――力量差を思い知らされて以降逃げ腰。

 わずかばかりの可能性に頼りながらなんとか助かりたがっていた男の顔は、愉悦に見下ろされる恐怖に支配される。



 腹から広がる激痛。恐怖感。

 抜かれた剣の創傷から噴き出る大量の血液。

 硬直、脱力。



 腹を突き刺し一旦抜かれて上段の逆手に構えられる。

 血塗られた銀の刃は陽光を反射させながら煌めく。

 逆光で深くは窺い知れぬが勝者となる男の顔には細く覗かせた歯だけが白く映えていた。


 腹部の傷を土下座然にうずくまりながら庇っていた男ははるか上から見下ろされる絶望に悔いた。


「こんなことになるなら、武闘会なんかに出るんじゃなかった」と。




 逆手に高く構えた剣を、腹を庇いながら地面にうずくまる男の背中をめがけて追い打ちとばかりに一気に突き刺す。


 二度、三度、四度―――、十回以上。


 狂気に満ちた笑みで繰り返される刺突は二十回目に届きそうだ。




 背中側から胴体に突き刺す度、おびただしい量の血とうめき声がフィールドの石畳に広がる。


 片方の手で届かない背中を剣から庇おうとする無駄な抵抗。

 グッチャ!グッチャ!とリズミカルに刺される剣に手足の動きや生命反応はみるみる弱まる。



 ピク・・・ピク・・・。



 ヌチッ、クチャッ―――・・・。



 いつしか声も消え、石畳の上に朱を散らした骨付きの肉塊から抜かれた剣は生々しい音を立てながら再び現れた。


「フフフ・・・!」


 男は血に汚れきった剣をスッと上空に掲げた。



 二面に区切られたフィールド上。

 観客の目線も二分されているが、決着を見届けて相当数の歓声と拍手がその男に向けられた。


 武威を示すかの如く男は血塗られた剣を振って自らを誇り、四方向の観客に対して四度剣を掲げてから頭を垂れた。





 意気揚々と剣を台座に戻し入場門へと帰っていく男を見て吐かれたのは、誰ともない観客たちのため息であった。


 強さへの感嘆であればよかっただろうが。





「私は、ああはならない―――」


 沈んだ観衆たちの見守るフィールドのそばの陰。

 次戦をすぐに控えベンチに座っていたケントは、忌々しげな顔で小声でつぶやいた。


 いたずらに命を散らすなど。

 見ているだけで気分が悪くなる。


 ケントは瞳を伏せ、予選の時から着用している白の仮面ハーフマスクに手を添えながら先程の惨状から目を背けた。




 今は亡き父の遺したこの名。


 "正々堂々戦う男になって欲しい"。

 そう願われて名付けられたケントの名。



 正々堂々戦う。立派に矛を交える。

 健闘こそが生まれながらの願い。

 今生に定められし宿命。カルマ。



 正々堂々とはかけ離れたこの殺戮遊戯。


「一瞬で終わらせる。余計な血などいらない――!」



 まさかこんな戦いに身を投じることになるとはとわずかに思うがそれまで。

 悔いはしないが信念はより固まった。



 無駄に命を散らせるこの道楽めいた"狂技"を私は完全に否定する。


 私はあいつらと同じ所には何があっても堕ちない――。





 先程すぐ隣で行われていたBトーナメントの血海の創造劇。

 命のやり取りは軍人も冒険者も平等、そこには不満はないが余興にするなど冒涜以外の何物でもない。

 深呼吸の後ベンチから立ち上がり、落ち着いた足取りで一歩二歩と進み出る。


 石畳の長方形のフィールドを二分割して用意されたABトーナメントのバトルフィールド。相似のフィールドの中には台座に差さった剣と、二本の平行な仕切りの白線。

 対戦者同士のスタート位置である二本の仕切り線と台座とは二等辺三角形の位置関係。向かい合って立つ対戦者同士の距離の方が近く、挟み合うように斜め横に安置された剣の方が遠い。


 試合展開は先んじて剣を奪い合う短期戦勝負か、剣よりも先に相手を制す格闘戦勝負かに分かれる。

 相手の挙動次第の側面もあるものの、いずれにしても初動が遅れれば敗色濃厚だ。



 係員から武器類を持っていないかなどのボディチェックを済ませ、青コーナーから片方の仕切り線にケントが着いた頃と同じく。赤コーナーからやってきた対戦者も対の仕切り線の前に立った。

 言葉もなくバチバチと交わされる目線。両手の指をポキポキと鳴らし拳を握り込むのを繰り返しながら一定のリズムで小さく体を揺らす。


 あからさまに対戦者は闘志をむき出しにしていた。

 対してケントは平静を保ったまま真っ直ぐ肩幅に立っているが、その立ち姿には思いのほか隙が無い。

 四方からの攻撃にもすぐさま対応できるであろうその立ち姿は、多少武術をかじったものが見れば決して棒立ちだなどとは言わないだろう。


 対戦者が広く大きく燃える赤い炎であれば、ケントは一見して小さく薄目ながらもさらに熱く燃える青い焔である。ケントの白のハーフマスクの奥にて眼光が強まった。




 対峙した二人。

 動きが静止した二人にゴングが打ち鳴らされる。



「Aトーナメント第一回戦第五試合、開始!」

 カァーン!!



 ゴングが高らかに響き渡り戦闘開始が告げられたと同時。



 ダンッ!!!


「っ!」



 石畳の表面に粉塵が舞うほどのケントの強い踏み込み。

 向かい合った対戦者の方向に一直線に突進。


「おおっとォ!?格闘戦を仕掛けたぁー!!」


 アスリート系番組さながらの熱い実況音声が響き渡る。

 その声とその内容に相手の男は慌てて防御態勢を取る。突き飛ばされないよう重心を低く身構えた瞬間。

 ケントはなぜか九十度左転し、物凄いスピードで別の方向へ疾駆した。


「いや・・・?!これは!フェイントだ!真っ直ぐ台座に向かっているぞ!!!」

「何っ!?」


 ケントが一直線にこちらに向かってきたため格闘戦に出たと把握した対戦者は臨戦態勢を取ったが、ケントはそれを確認するや否や対戦者の方ではなく剣の差さった台座へ向かった。格闘戦ではなく陽動短期戦。

 男はケントからの突進から防御態勢を取るために半歩下げて腰を据えて全身を固めたのが仇となった。


「くそッ!!」

 ダッ――!


 フェイントと気付いた頃には既に七メートル以上の差。

 完全に対応が遅れた対戦者は歯噛みながらも駆け出すが。


 あっという間にフィールド中央の台座へと手が伸び、


 ―――シャキィンッッ!!


 台座から剣が抜き放たれた。

 すぐそこまで追いついた時には一歩遅かった。


「チィッ!」

 ―――ヒュッ!!


 もうすぐで追い付くかといった距離まで詰めて来ていた男だが台座から抜き放たれた勢いに繰り出された斬撃にはすぐさま飛び退いて避けた。

 目の前で剣を取り逃した対戦者はそのまま間合いを開ける。

 剣を取られまいと必死に追走して詰めた距離だったが剣を奪われた今となっては安全マージンを取らなければならない。


 と思った矢先、たった今抜かれた剣が顔面めがけて投げ放たれた。


 ビュッッ!!!

「うおっ!!?」


 高速で飛来する剣。

 横に逃げるためのわずかな余裕もなく、咄嗟の後ろ仰け反り回避。

 ブーメランのように回転しながら投げ放たれた剣はつい一秒前まで男の首があった位置を通過していった。


 間一髪ケントの投擲を避けた対戦者であったが、顎先を掠めるまでの超至近距離に迫る剣を避けるべく、有名な洋画さながらの後ろ仰け反りで避けたため、無理な体勢にバランスを崩して後ろに倒れていく。


 もちろんそれを見逃すケントではなかった。


 剣を投げたのはいわば目くらまし。本命はこの後。

 ダーツの様に直線的にではなくブーメランの様に剣が回る。その刃の切れ味を十分に発揮しうる回転運動をもって投げられたのは横に安全に避けられないようにするため。危機感を与えて無理な回避をさせ、そこに隙を作らせる目的があった。


 仮にも本戦出場者であるし間合いの距離から言って避け切れないわけはないだろう。

 この剣擲で倒せるとは思わないが、十分に付け入る余地を生み出すことはできる。

 そう画策し剣を投げた瞬間に駆け出していたケントは、剣を避けるために体勢を崩し後方に仰向けに倒れ込む対戦者に追撃をかける。



 ズドッッ!!

「ぐうっ!!!」


 一瞬にして対戦者に接近したケントはそのまま右足で腹部に飛び蹴りを打ち込み、呻き声をあげて男は蹴っ飛ばされた。


 仰向けに転がりついた対戦者が左手で腹を押さえながら起き上がろうとしたのを制すよう、男の右腕を踏みつけながら馬乗りになり、ケントは右手の親指と中指で鉤爪を作り対戦者の首に突きつける。



「グォッ・・・カハッ・・・!!」



 二指は対戦者の気道と頸動脈を圧迫。素手にもかかわらず首に食い込む指の堅さ鋭さは、首をちぎられて殺されると思わせるに十分すぎた。


 蹴り込まれた腹、踏みつけられた右手首を上回る痛み。

 死の恐怖。


 圧倒的実力差を上乗せされた対戦者はケントの勧告にあっけなく戦意を喪失した。


「――降れ」

「ケホッ・・・・・わ、か・・・た・・!降・・・参・・・!!」



 止めを刺すことなく降参を促したケントの勧告。

 死が目前に迫り恐慌していた心中の男は渡りに船、地獄に蜘蛛の糸とばかりにその勧告に従う。

 殺されるとばかりに思っていただけに助かるのなら助かりたいという一心で、踏まれて動かせない右手に代わって膝蹴りを受けて腹部を庇っていた左手でフィールドの石畳をタップ。


 それを見届けられ、ゴングが四度鳴り響いた。



 カンカンカンカーンッッ!!

「Aトーナメント第一回戦第五試合・勝者はケント選手!」


「「ウオオオオーーーーッッ!!」」

 決着を認めた実況の声が高らかに響き渡り、地鳴りのような歓声が沸き上がった。


 秒殺。

 大歓声。

 大喝采―――!


 ケントが馬乗りを解き、止めを刺すことなく地に伏せる対戦者の手を取って立ち上がらせると、歓声はもう一段盛り上がり、大いに沸いた。


 対戦者の男は痛みの残る表情ながら、ケントに小声でエールを送る。

「っ・・・勝てよ」

「――はい。もちろんそのつもりです」

「あっさり負けたら、許さねえからな」


 俺を負かしたからには勝ち上がってもらわないと晴れない。

 納得のいく負けだったと思わせてくれ。と男は自身を納得させた。

 応援はしないがそう簡単に負けるなよ。勝てよと。


 負けを受け入れ半ばさっぱりとした面持ちの対戦者は土埃をはたくと、痛みの残る体を抱きながらフィールド外の通路へ向かった。





 ・・・観客たちはあからさまにつまらなさそうにする者と強く手を打ち鳴らして賛辞を送る者の二極。

 血を見たい者と見たくない者である。

 本戦から戦死が解禁されるためそれを目当てに来る者もいた。

 予選同様あくまでも殺し合いではなく催し事として捉えている観客は、ルール上仕方ないとはいえ流血はあまり見たくないと思っている。

 ケント戦の直前の愉悦じみた死合に顔を歪めながら目を背けていた平和派の観客などは、これが見たかったんだとばかりに爛々と拍手を向けていた。

 反面、止めを刺さなかったケントに悪態を吐きながら地面に唾する観客も少なからず存在していた。


 全ての観客を満足させることはできないし全員に好意を持って迎えられるのは不可能であるのは十分承知していた。

 全員をファンにはできない。アンチは必ず生まれるものである。

 ただ、客のために戦っているわけではないケントは、そんなことはどうでもいいとばかりに歩き出す。

 ケントは対戦者からのエールに心を新たにし、観客へはただ一礼の後に特段何かをアピールすることもなくすたすたとフィールドを去った。




「すごか・・・かっこよか!」


 観客席から試合の一部始終を見ていたリョウは開いた口が塞がらない。

 ダダ漏れの感嘆を述べている。


 フウタはまるで自分の事の様に誇らしげに鼻の下を指でふふんとこする。

「でしょう?うちのリーダーはやる時はやるんだ」

「大丈夫かっち思っとったけど全然平気やったねハル姉」

「そうやね!やる時はやる・・・。そ、そうね、カケルも、やる時は、やってくれたとよ――」

 後半は顔を赤らめながら小声でもじもじとしながら一騎打ちの光景を思い出すハル。

 周りはそれを特段見聞きしている様子はない。

「意外でしたよ、ケントさんがあんなに動けるなんて。そういうのはセンリさんの役目だと思ってました」

「そう見えてるならそこそこ狙い通りだね。リーダーはセンリさんの陰に隠れてるだけで、一人でも強いから。そもそもボクたちは表と裏を使い分けてるグループだからそういうのが分かりにくいんだろうね」

「使い分けてる?」

 タクは小首をかしげた。

「誰かがボクたちを狙おうと思った時、センリさんがあからさまに強くて目立つとセンリさんだけに注意が行くけどリーダーとボクに対してはあいつよりは強くないって油断してくるでしょ?だからこそ便利な時があったりするんだ。目立つ人が近くにいると周りの印象が薄くなるって言うメリットがあるから、特に裏の仕事をやるボクなんかにはセンリさんみたいな人はかなりありがたいんだ。それはこの間の潜入でも生かされたと分かると思うんだタク君」

「・・・つまり、目に見えて強いってことはプラスにもマイナスにもなるってことですね?」

「――まあ、そういうことかな」

 武闘会で勝ちすぎて目立っちゃうとそれはそれでヤなんだけどね。とフウタは独りごちるがリョウは憂鬱を吹き飛ばすように無邪気に笑った。

「な、何言っとるかよう分からんけど、すごかね、みんな!」


 と言いつつも、リョウの草だんごを食べる手と口は会話に一旦口を動かしたのみですぐ再開、食指は止まらないのであった。





 ―――観客席で談笑するフウタたち四人から離れた物陰。

 ついたった今対戦相手を殺さず次戦へと勝ち上がったその人物を見送る男はニヤリと笑った。

 鼻まで口元を白布で覆ったその男は一言「よし」と呟くや、木札入りの袋から一枚、木札を取り出す。

 先程戦い勝利した青コーナーのケントと同じ青の木札である。


「行くぞ」

「お、おう」


 四角形の闘技場の中、東西南北に分かれた観客席の後方にそれぞれ配置されている木札発行&払戻カウンターを目指す男。

 その男の連れはほぼ同じ背の丈。声自体は低くなく響きは中性的な耳触り。

 バンダナで頭を覆っており歩調も武辺者特有の足運びであるが肌のキメや輪郭の丸さ、傍から見た体躯の肉感が女性らしくふっくらとしているのでおそらくは女性であろうことが推測される。


 その連れの人物は現在、覆面の男の傍らでいささか冷静さを欠いている。


「な、なあ。その木札、何枚分あるんだ?」

「んーどうだろ。多分五、六十枚くらいはあるんじゃない?」

「ちょ、ちょっと見せて」

 男の木札袋から一枚木札を取り出す。

 手に取りそれを確認した連れは目を見開いた。

「これ、特木札じゃねえか・・・!」

「ん?なにそれ、すごいの?」

「っ・・・なんなんだそのキョトンとした顔は―――!」


 木札には購入金額によるグレード分けがされている。

 特木札・大木札・中木札・小木札の四種が発売されており、最小金額では10エルから買い求めることが出来る。

 これらの木札は十進法によって上の木札に繰り上がり、10エルで買える小木札から考えると


 小木札・10エル(銭貨)

 中木札・100エル(銅貨)

 大木札・1000エル(大銅貨)

 特木札・10000エル(銀貨)


 となり。


 その特木札(10000エル相当のベット)が五、六十枚―――。


「・・・おい。いくら買ったんだ」

「―――――ん?」

「いくらケントが勝つかに賭けたかって聞いてるんだよ」

「―――――えへへ」

 明言を避けヘラヘラと笑う男に、なるほどなと何かを察したバンダナの女。

「ありえねえなお前ってやつは・・・」

「うん、自分でも時々そう思う」

 さっぱりと男は笑った。

「これ、いくらになるんだよ・・・?」

「う~んいくらになるんだろうねえ」


 連れは飄々とした男の手に握られた特木札入りの袋を見やり、恐ろしさも混じったような心境で小さく息を吐いた。

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19/6/23 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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