21 暇
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
無事維江原の宿屋・南山亭に戻ることが出来た俺とセンリ。
今は脱獄したせいでザノによって指名手配がかかっているらしく、外に出ることはできない。
建物の中―――宿屋の客室と食堂、風呂、トイレくらいしか動けないけども、そこまで不自由と言うわけでもない。
この町の麺料理がなかなか口に合っていて、食に楽しみを見出しているからだ。
まさか近くの店からそばやうどんの出前を取ることが出来るとは思わなかった俺は、思わずテンションが上がった。
フウタ君から聞いたところによると、武闘会シーズンはどこの宿屋も多数の客で満室になりがち。大通りに面していたり宿の格が高いところから埋まっていく。
この南山亭は路地にある宿で少し古い建物。素泊まりの宿ではあるが外食・買い食いの他食堂で調理しても出前を取ってもいい。深夜以外なら食堂も厨房も使い放題だ。
だからこそこの繁忙期にもかかわらず空室があり、運よくそこに滑り込めたわけだ。でもなんで俺たち以外に客がいないんだろう。悪くない宿なのにな。
チェックインチェックアウトのお客さん対応のために毎日女将さんが出勤してるのに他の客が来ないから暇そうでかわいそうだ。年は二十二だっていうのに、苦労してるんだな。
話は戻して、開拓区での俺達の食事は惜しい食事が続いた。ハルの手料理でなく外で何かを食べた時にしばしば感じた。
現代日本の感覚で判断したから贅沢舌なのは分かってるけども、村の料理は味付けがなんとなく足りなかったりして高得点が出ない。
だからこそ俺はめんつゆに感動している。
めんつゆにだ。
ちゃんと味が濃い。
出汁も醤油も砂糖もケチらずちゃんと入ってる。
そば通なんて気取ってそばつゆにつけずに食べるなんて真似俺はしないぜ。
じゃぶじゃぶ浸して食ってやる。これこそがまさに贅沢ってやつだね。
五月の現在、ざるそばを食うには全く問題ない気温。
維江原に帰って来て俺は五食連続で麺。そばうどんそばそばうどんだ。
・・・やっぱり、近世日本にすっごい似てる。
窓から見える金髪の白人が和服を着て通りを歩いていたり、西洋風イケメンが飛脚をやっていなければ、過去にタイムスリップしたんじゃないかと思うくらいだね。
・・・さて、なんで俺がこんなことを話しているかと言うと、話題がないからだ。
ずっと俺は宿屋の中から出られないので新しい話がない。
強いて言うなら俺とセンリが戻ってこれたおかげで当面の目標がケントさんの武闘会本戦勝ち抜きに統一されたということくらいだ。
あ、そうそう。
冒険者グループのメンバーの敬称も自分の中で定着した。
リーダーのケントは二十代後半なのでさん付け。
フウタはちょい年下なので親しみを込めて呼び捨て。
センリは同年代だし、キャラ的に呼び捨て。
今回の救出のお礼にお金を渡そうとしたけどやっぱり固辞された。
そのくせ「荷物持ちがまだ二日残ってますから」と義理立てされた。
くそっ、ケントさん良い人過ぎて怪しい。
俺の疑り深さが俺を素直で居させなくする。
俺とセンリは宿屋で待機。
他のメンバーは、武闘会本戦に出場するケントさんの応援・観戦に闘技場に行っている。
開会式を見ていたメンバーにハルを足した形だ。
「・・・あ」
「どうしたカケル?」
ここで一つ重要なことを思い出した。
「俺・・・最近ギャンブルしてない」
「――はぁ?」
センリはあきれた声を出した。
マエノ村の六連コインを最後に、半月近くギャンブルをしていない。
山越えの途中の荷物持ち云々は小学生の電柱ランドセルと同じでノーカウント。
あんなのは賭けじゃない。合法的に金を渡そうとしただけ。でも結局全部勝っちゃったし。
命懸けの脱出とかももういい。二度とやりたくない。
いのちだいじに。金だけを賭けてギャンブルしたい。
リョウの薬の件で気が逸れたのもあるけど、開拓区の小さな村よりも大きな町――維江原に来れば何か面白いギャンブルあるかなと思って来たのに。
町に入ってからそういうギャンブル全くやってないじゃないか!
「なあ、なんかない?」
「なんかって・・・出られないのに?」
―――そう。出られない。指名手配されてるから。
指名手配なんかしやがって。
いや、そもそもなんで捕まったんだって話だよ。
俺何もしてないはずなんだけどなぁ?
えーと、ザノ男爵、だっけ?
いつかとっちめて聞いてやる。
・・・いや、そうじゃない。
ギャンブルの話だよ。
「なんかさ、でっかい賭場立ってないかな?なんでもいいんだよ。命のやり取りさえしなければ」
「えー?うーん・・・じゃあ武闘会の木札でも買うか?」
「木札?なにそれ」
センリは風景を切り取るカメラマンの様に両手の人差し指と親指で四角を作り、だいたいの大きさを見せながら喋る。
「武闘会本戦は一対一の勝負なんだけどな、どっちが勝つか予想して、こういう形の木札を買って賭けるんだよ」
「へえ、意外にシンプルなんだな。」
「オッズは対戦表が出た時に基準が出るぞ。そこから票数で上下する」
「固定オッズじゃないのか、面白そう。でも参加者は当然として関係者は買えないとかあるんじゃないの?」
「本人と家族は買えないけどそれ以外は買えるぞ」
「じゃあケントさんの応援木札なんかも買えるわけだ」
「そういうことだな」
なるほど・・・
俺も買っていいんだ。
ガタッ。
「ん?ちょっと待て。カケル、何をしようとしてる?」
「いいいや?なにも?」
「声、震えてるぞ。大丈夫か?」
「おおう大丈夫だ大丈夫」
「アタシはおとなしく武闘会が終わるまでここにいようって決めてるんだぞ?付~き~合~え~よ~?」
とセンリが肩を組んでくるが
「あー悪い悪いちょっと急用がぁー」
「ちょっ!待っ――」
するりと拘束を逃れる。
食堂から二階の客室へ上がり、覆面用の布を取って戻って来る。
食堂に戻ってきた時には既に顔に巻いた形だ。
「大丈夫。バレないようにやるから」
「おいおい、二回目の救出は御免だぞ」
「二回も捕まる程アホじゃないよ。じゃあな!」
バタンッ。
「ええ・・・?」
嵐のように慌ただしく去っていき、武闘会で出払った宿屋の食堂に一人残されたセンリ。
茫然と固まる。
このまんまここにいたらリーダーに怒られるよな。
かといって出るのも・・・
うーん・・・
よし!
連れ戻すってことで出ればまだなんとかグレーだ!!
踏ん切りをつけたセンリは、目立つ長い赤髪を後ろで団子にまとめる。
その上から三角に折った布を被って後頭部できゅっと結んだ。
「うん、まあまあね!」
食堂においてある水桶に映った自分を見て満足気に手をパンパンとはたくように二回打ち鳴らすと、カケルを追うと言う名目の割にはゆったりとした歩調で宿屋を後にした。
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19/6/23 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




