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19 帰還

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 維江原に着いたフウタとタクは、自分たちが泊まっている宿屋・南山亭に荷馬車から移した米俵を二つ運び入れた。その米俵は人が入れそうなほど大きく、中身もさぞ重たいことが想像できる。

 一階で居合わせたケントがフウタ達を出迎えた。

「随分遅かったな・・・ん?米か?」

「運ぶの手伝ってください」

「ああ、構わないけど――」


 宿屋の一階食堂から出てきたケントに手伝ってもらい、階段を上って大部屋に運ぶ。

 計二往復。運び終えたフウタとタクはあからさまに「ふうー」と大きなため息ながらに汗を拭った。

 ハルたち旅人グループの泊まる大部屋に二俵運び込まれ、ハルは二人を気遣う。

「――おかえり。そげん重たかったと?」

「ええ・・・」

「まあ重さと言うよりは・・・」

 責任と緊張がのしかかっていた、である。


 出迎えられたハルにねぎらわれた二人の傍ら、リョウもこの部屋にいる。

 ハルはここ数日見るからに気落ちしていた。カケルが行方不明となってからは家事の手も遅くなり、食欲も減った。リョウやタクらの年下の少年の手前頼れる年上らしくあろうとしたがその笑顔には陰りが見え始めていた。

 力ない顔と声はまるで病人のよう。ハルさんの望む相手がもし目の前にいてくれたならこうは、とケントは武闘会の傍らで心配を胸に過ごしていた。


 米俵を二俵搬入し終えたタクはほんの少し開けた客室の扉の隙間から頭を出して廊下を窺う。左側、右側、階段の方へと気配を探り他に誰もいないのを確認すると扉を閉め、フウタに頷いた。


「じゃあ、開けますよ」

 とフウタが呼び掛けると

『おう!』

『頼むぜ!』

 ()()()()()()返事が返ってきた。


「えっ?」

「は?」

「何?なんね今の?」

『フウター、早くー』


 驚くハルやリョウをよそに()()()()()()急かす声が続く。


「分かりましたよ、今やりますから」とフウタが側面の紐をほどきにかかる。あっちからこっちへ、こっちからあっちへ。

 寄木細工を解くように俵の紐をほどき、ものの一分ほどで中身は姿を現した。


「ふあー暑い!!肩凝ったぁーー!!」


 腕をぶん回しコキコキッと首を鳴らしながら米俵から出てきたのはセンリであった。ぎょっとしたケントは思わず目を見開いてセンリを見た。


「お前っ!!」

「や、やあケント。ただいま」

「ただいまじゃ・・・こんなにみんなを心配させて!」

「ごめんごめん、それは後で謝るから――」


 チラッともう一つの米俵を見た。

 それにハッとしたハルは、



 ―――ガバッ!!



 飛びつくように俵をほどき始めた。


 慌ただしい手つきで残る一つの俵を開封していく。いつものハルからは想像できない荒々しい手つきと焦ったような表情。リョウは驚きの目でハルを見つめ、ケントはまさかと言うような視線をフウタに向ける。

 冒険者のフウタよりも開拓農民だったハルのほうが慣れているのか米俵を解くのに三十秒と、半分の時間で済んだ。俵を再利用することなど全く考えていない一心不乱のハルは藁の絡まった部分や固い結び目はほどく時間すらも惜しいと力任せに引きちぎり、難しければ小刀でブツリと切る。

 そうしてハルに開けられた俵の中から、髪の毛に小さな藁の破片を付けながら這い出て男が現れた。

 囚われの身となっていたカケルであった。



 ◇



 ――ようやく荷馬車から降ろされて宿屋に着いた。日中から夜まで二、三時間はかかったんじゃないだろうか?その間、米俵だけど缶詰状態。ずっと出られなかった。お母さんのお腹にいる赤ちゃんのように膝を抱いて長時間縮こまっているのはきつかった。

 だからやっと出られて背伸びをしようとしたんだけども。



 ぎゅっっ・・・!!



 ハルに抱きしめられたんだ。




「カケル・・・よかったよ・・・カケルぅ・・・!!」

「あ、ああ、ごめんな・・・」

「ずっと心配したとよ。ここ一週間、"無事かな、ちゃんと生きとうかな"って」

「・・・うん」


 ・・・ハル、俺のことを心配しててくれたのか??血色も悪くなって、頬もこけて。目の下にほんのり隈も出来てるじゃないか。


 俺を抱きしめる腕がきゅっと強められる。

 ひょっとしてハルは俺を、と思い、恐る恐るハルの背に両腕を回そうとしたら――、


「まだ話しとらんことあるけん。そん前にカケルがおらんくなってしもうたらって思うて」

「話って・・・?」

「こ、こげん所じゃ話せんよ。みんなおるけん」

「そうか――」

「それに、そげん大金もって出歩いたら危なかよ。次からは気を付けてね。でもちゃんと戻ってきたんじゃなあ。よかったよかった」



 ・・・



 ・・・






 ふふふふふ。


 そうか。


 そうだよな。



 やっぱりそうなんだろうなと思ってたよ!


 分かってたよ。やっぱりお金が心配だよね。

 俺じゃなくて、俺が持ってる金が心配だったんだよね。



 そうだよね。

 まだ話してないこと―――あとは一人で旅がしたいなんて話、俺以外の人には聞かれたくないよな。


 これからのハルの生活費もあるしね。

 一文無しになったらいよいよ本当に価値なし男になるもんね。


 でもせめてもの面目は果たしたよ。

 いくらか減らしちゃったけど、ハル一人なら十分にやっていけるだけのお金は確保したから。

 ちゃんと、ハルだけでやっていけるお金。



「あーあ、そげん服汚して。ほら。風呂入っていらっしゃい。そん間に洗濯しとくけん、ゆっくりしとってな。カケル」


 ハルは泣き笑いながらにこやかな顔を向けてくる。疲れた顔でもそんな疲れが今吹っ飛んだかのように。そりゃそうだ。一度はなくなったと思った大金が今こうして戻ってきたんだから。

 再会を喜んでくれて嬉しかったけど、俺自身にじゃなかった。ほらこうしてすぐにでも部屋から追い出そうとしてるじゃないか。

 うん。やっぱりポーズだったか。いいよ。大丈夫。他の人もいるしね。俺は慣れてるから平気だよこういう扱いは。ちゃんとお金だけでも取り戻して帰ってきたから、最低限ハルの望みは叶えたよ。


 これからの旅。

 ハルが・・・、ハルは、俺に見切りをつけて新たに旅を始めたいって事だったね。うん。覚えてる。忘れてたわけじゃないから大丈夫。安心してくれ。



 今すぐここで金を叩きつけて去る程子供じゃない。ちゃんとリョウの薬の件を片付けてまっさらになったら俺はおとなしく身を引くよ。だからそれまでは付き合わせちゃうことになるね。



 ごめんよ、ハル。






 ・・・久々の風呂が沁みる。




 疲れかな。


 今日の風呂はいつもより浸かってた時間が長かった気がする。




 ◇




 カケルが風呂へ向かった後の宿屋の客室。

 明日に控えた武闘会本戦トーナメントに向け鋭気を養っていたケントと、無事帰還してきたセンリ・フウタ・タク。宿屋で待機していたハルとリョウが一堂に会した。


 ハルはフウタとタクの方に頭を下げる。

「今回はどうもありがとうございました」

「いえいえハルさん、当然のことをしたまでです」

 ケントは多忙ゆえ捜索に参加できなかったことを詫びる。

「すまないフウタ、私も行けたらよかったんだが・・・」

「しょうがねえんじゃねえの?ケントは武闘会に専念しなきゃいけなかったんだし」

 とセンリが喉元を過ぎ去ったような他人事のトーン。

「おいセンリ、手間を倍にしたのはお前だぞ?ん?」

 ケントは目の奥が笑っていない笑みで静かな怒りを湛えてセンリの顔を正視した。

「ごごめんってケント。・・・ハルちゃんもさ、もうちょっとその不器用直したほうがいいんじゃないかな~?」

「え、えっ?なんのこつですか?」

「ん~?なんのことだろうね~?」

 ケントから逃げながらセンリは意味深な笑みをハルに向けた。

「か、からかわんでください」

「ふふ~、おぼこいのーハルちゃんは」

「・・・もうっっ!!」

 ハルがその羞恥に耐え切れずたまらず部屋を飛び出した。


 去っていくハルのその背を見てセンリが「もうちょい、素直だったらよかったんだろうけどねぇ・・・」と物憂げに調子を変えて遠い目で呟いたのは誰の耳にも入らなかった。



 同室の他方、任務の凱旋をねぎらうリョウにタクが疲れ顔ながらにこやかに手を振る。


「タッ君もお疲れさま~」

「うん。リョウ君は調子どう?」

「まあまあじゃね。だいぶ戻ってきたとよ」

「特にこっちは変わりない?」

「そうね。・・・でもここだけの話、ずっとハル姉が元気なかったんじゃ」

「へえ?」

 リョウの隣に並ぶようにタクもベッドに腰かける。

「あんちゃんが連れ去られてから元気なかったんや。みんなん前とかタッ君がおった時とかおらと待っとった時はそげん見せんことにしようとしとったけど、一人ん時ずーんと落ち込んどった」

「そうか・・・」

「タッくん、心当たりはなかと?」

「・・・」

「なんね?何黙っとるとね?」

「ええと・・・」

「なんやの、知っとるなら教えてーや!」

「それは、無理だよ」

「なしてー」

 タクは少し考える。努めて落ち着いた声色で、茶化さないようにリョウへゆっくりと伝えた。

「・・・これは兄さんとハルさん二人の問題だと思う」

「え?」

「・・・兄さんは今距離感を図ってる。兄さんのタイミングとかペースがあると思うから、それをまわりがああだこうだ言う事じゃないと思う」

「・・・?」

「他人が良かれと思ったことでも、本人にとってはありがた迷惑ってことがあるんだよ。リョウ君もボクも、兄さんとハルさんのことで無理に関わらないほうがボクたちにとっても兄さんたちにとっても良いと思う。―――病気を治すにはまずおかゆからだよ。いきなり肉は食べられない。強い薬もある程度にまで体力が回復してないと飲めない。今の兄さんはおかゆから取り戻さないといけないほど弱ってる。それを無理に肉を食べて強い薬で治そうとしたらかえって体に毒になっちゃう。・・・リョウ君なら分かるよね、ボクの言ってる事」


 タクの言葉を噛み締めるように受け止め、リョウは自分の中で整理する。

 病弱な母を持ち、カケルに会うまでやせ衰えていたリョウだからこそ分かる薬と毒の例え。


 開拓村での貧しい暮らし。

 生まれてからずっと薬とその日の食に喘いでいたリョウだからこそ、直接的な原因は分からないとしてもタクのその説得にはある程度の納得を伴った。

 解決には何をどうすればいいか分からないものの、むしろ何もしない方がいいのではないかと言ったことをリョウはぼんやりと受け取った。


「よう詳しいこつ分からんけど、これは二人ん問題じゃから、二人に任せろっちゅうこと?」

「そう。二人のペースで、二人がいいと思ったタイミングが仲直りの一番良いタイミングなんだ。だからそれまで僕たちは何もせずそっと見守ってあげよう」

「――わかったよ。タッ君ん言う通りする」

「うん。・・・ありがとう」

 タクは安堵の溜め息をついた。



 ―――無事救出出来てここに帰って来られてよかったけど、まだだ。解決してない。まだ心は戻って来てない。なんとか解消してくれればいいけど・・・。

 たとえどれくらい長くなったとしても、僕はいつか兄さんがまた心から笑える時を待ってます。

 だから。どうか戻ってきてください。兄さん――。


 タクは膝の上で小さく両手を結んで胸の中で祈りを込めた。

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19/6/23 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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