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18 脱出4

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 

 しばらく荷馬車に揺られて今では夕暮れ間近。


 維江原の東門前には門の通行審査待ちの行列が出来ていた。カケルらが最初に南門から入った時よりも警戒が厳しくなっている。もちろん方角や門の場所のせいではない。


 カケルたちの脱獄を受けたザノの命令によって、追撃部隊が町の外四方へ散った。それと平行して現在ここ維江原の三ヶ所の門には兵が詰められ、検問を実施している。


「よし、次!」

「へ・・・へい」


 鎧姿に剣で武装した兵長と思われる門番長は腕組みしながら次に行列に並んでいる人を呼ぶ。周囲には槍で同じく武装した部下を十名弱連れて東門の警備に当たっている。

 手荷物検査と身体検査を手分けして行う兵士たち。男の足先から髪の中までパンッ、パンッ、と手の平で異物を確かめるべく押し当ててボディチェックをしている。

 注意深く両足を足首の方から両手で絞るように触っていた兵士がふとズボンの中に違和感を感じた。


「おい、なんだこれは?」

「ヒッ・・・」

「何か隠してるな?」

「・・・」

「出せ。何を入れ――」

「ひ、ひいい!!!」

「逃げたぞ!追え!!」


 咎められたある男は後ろ暗い所があるのか、部下の詰問に思わず逃げ出してしまった。兵長の指図で二十メートル走ったところであっさり追い付かれて捕縛。男はあっさりとお縄に。果たしてズボンからは個包装で連なった怪しげな粉末の束が出てきたのだ。


「ち、違う!紛れ込んだんだ!俺は何もしてない――」

「紛れ込んだぁ?ふざけるな!」

「じゃあこれは何だ!」

「答えろ!」

「し知らない!俺のじゃない!信じてくれ!」

「聞くな、早くしょっぴけ!」

「はっ!」

「や、やめろお!離せえ――」

「よし、次!」


 抵抗する男の声が遠ざかる。目の前で繰り広げられた手荒な連行劇に行列がどよめいた。そのやりとりを見せつけられた行列の一同には冷や汗がタラリと流れる。自分には後ろ暗い所はないが、それでも捕まったらどうしようと。

 東門に限らずどこの門でも出入警戒中に門番に捕まれば間違いなく投獄されるのは既に維江原の常識。そして捕まった人間は闘技場で行われるなにがしかの催し物に参加させられ、慰み者となってしまうのだ。


「ああはなりたくねえな」

「んだんだ」

「こん街ん中に持ち込めるわけねえべ・・・」


 顔を歪めながら列の後ろの村人たちはささやき合った。



 そして、とうとうカケルたちの順番が来た。

 武装兵士たちの槍が遮断機のように下ろされ、進路の目の前で交差する。


「止まれ」

「ああ隊長さんどうも。お大変そうで・・・これは何の騒ぎですかな?」

 明るく答えたのは小太りの商人。御者台の上から問う。

「知らないか。ちょっといざこざがあってな、ここを通る全員の身分証明と荷物検査をしておる――」

「まあそれは大変ですな!せっかく私どもはさるお偉いさまのために南からはるばる特上の品をお持ちしたと言いますのに!このままでは日が暮れて目の前で門が閉まってしまいましょう?一日も早くお届けしたいこの忠心、汲んではいただけませんでしょうか?期日も迫っております。まさか目前に迫りながらこんなところでご迷惑をかけてしまっては。それではあのお方に顔向けできませぬ!」


 立ち塞がった兵士と兵長に遭遇するや御者台からそそくさと降り、喜怒哀楽豊かに古典演劇の様に身振り手振りを大きくして事のあらましを門番の兵長に語りながら、大げさに慌て困り果てて両手で顔を覆って見せる。それは、カケル達・・・「白米」を運んでいる商人だった。


「しかしな、我々の任務は――」

「分かっております。しかしこちらも特別な荷を仰せつかっているのです。こちらが通行許可証と特命認証でございます。ご確認ください」

「特命認証だと」


 と、布にくるまれた何かを袖で隠しながら兵長に渡した。

 その布の中身を開くや、兵長は目を見開いて商人の顔を見る。


「我々はいち早くこの荷を届けることでございます。どうか寛大なそのお心で。どうかご容赦願えないものでございましょうか」


 兵長の手に握られた布包みの中――。



「あれって・・・」

「うん。さっき渡した――」


 カケルの渡した1万エル銀貨。その数十五枚、15万エルである。

 まさかここで出るかと驚くタクに対して、ある程度予想出来ていたフウタは何でもない様子だ。


「あのお金は賄賂だったんですか・・・それにしても渡し過ぎじゃ?」

「チッチッチ。タク君は分かってないなぁ」

「どういう事ですか?」

 舌打ちの様な音を立てつつ、細目ながらに指を横へ三回振ったフウタは珍しくしたり顔でタクに説明した。

「賄賂って言うのはね、必ずしもその人だけに渡すものじゃないってことだよ」

「??」

「つまり、個人ならその人だけでいいけど組織で動いている人にはその上の人間の賄賂まで包まないといけないって事さ」

「!」

「本人の分と上司の分。存在すればさらにその上。町の入り口の門をすり抜ける程度ならこれで済むだろうけど、国境越えだとこれの倍・・・いや、三倍はいるかもね」

「な、なるほど」

「ほら、噂をすれば――」


 賄賂を受け取った兵長の挙動が少々怪しくなる。

 兵長本人は平静を装っているが、考えている間髭をなぞったり部下や商人を見る目が少し落ち着かない。が、まんざらでもない様子である。


「う、うむ。確かにこれは特命認証であるな。確かに。うむ」


 兵長のその言葉はどこか自分に言い聞かせるようにも聞こえる言葉だ。厳格そうな表情を作ろうとしているが、隠そうとすると余計に不自然な表情が見え隠れしてしまう。

 兵士たちは兵長の様子をその場で窺い、この商隊をどうするかの命令を待つ。


「・・・・・・よし、通っていいぞ。おい」

「「はっ」」


 部下に命じて道を開かせる。

 パアッと華やいだ面貌の商人は深々と謝意を述べた。


「どうもありがとうございます兵長さま。これでお叱りを受けずに済みます・・・!今後もまた特命を帯びることがあるやもしれませぬ。次からもどうぞよしなに」

「お、おう!気を付けて行けよ!」


 兵長は任務中の部下の手前たどたどしい笑顔と態度で商人を見送る。右のポケットに突っ込んだ15万エル入りの布の包みを大事そうに隠しながら、兵長は三台の荷馬車を門の中へと送った。

 門をくぐりながら、荷馬車の隣を歩くタクはこっそりとフウタに話しかける。


「・・・フウタさん、本当にあの門番は上司に賄賂を渡しますかね?」

「渡したほうが丸く収まるから渡すだろうね。黙ってたら後でバレた時とんでもないことになるし。さすがに上司と比べれば自分の分け前は少なくなるだろうけどもそれでも相当の額だよ。あの門番が独り占めしてもこっちは困らないし、上司と分けてもそこそこ。どっちにしても、賄賂は多くて困ることはないよ。結果がすべてだからね」

「そうですか・・・ボクも覚えておきます」

「うーん・・・あんまりこういうことは覚えなくてもいいんじゃないかなぁ」

「え?どうしてですか?」

「えーとね・・・その、んー・・・うまく言葉にできないけど、タク君の領分じゃないよ。こういうのは」

「はあ――」


 と会話する二人に前方の御者台の商人から先程の兵長に対していた態度とはガラッと変わった調子と雰囲気で横槍が飛ぶ。


「おい、お前ら!そろそろ着くから、荷下ろししたらすぐ配達だ。今日の分は二人だけで運んでもらうからな。ちゃんとやれよ!」

「は、はい!」

「分かりました!」


 親分風を吹かした商人の叱咤が二人の背筋を正す。

 彼の吐く言葉はリアリティよりも多少の説明的単語を交えた、即時の分かりやすさに振った内容。たまたま会話を聞いた第三者にとって間柄が分かりやすく、その内容で関係性を一瞬にして理解させ警戒心を持たせない。そのあたりの配慮は流石商人といったところだ。

 フウタ達は大金を預けてくれた客なので商人は本来丁寧に接するべきだが、今回のようなケースでは目的を重視するので当然形式は譲歩・軽視される。客として接すると他人行儀になってしまい、せっかく商隊に同行する若い下働きの男という偽装工作をしていても周囲がその違和感距離感に感付かれてはアウト。

 商人はそこをきちんと理解したうえでの行動発言をしている。裏の経験が豊富だからこそだ。



 とても自然だ。

 発言の節々、一挙手一投足には周囲を騙くらかす意図が強くにじみ出ている。それでいて、フウタとタクにだけわかる暗号めいた以心伝心が行われるのだ。


 フウタとタクには手配がかかっていないとはいえ目立つことは避けたい。

 下働きに扮している二人は、道中から門前~今にかけて商人のコロコロと代わる面相と声色に本心かそれともフェイクかに正体を掴めず翻弄されていた。

 だがこうしてようやく維江原に戻ってきた。



「もうそろそろだね」

「そうですね」

「こんな時間なのに配達なんて、いやだなあ~~」

「しょうがないですよ~、命令には逆らえませんから~」

「そうだね。さっさと運んで寝るかなぁ~~」


 うんざりした様子で、不特定多数の誰かに語り掛けるようにフウタとタクは大袈裟に愚痴を叩いた。



 日はもうじきに暮れ、門が閉められる頃。

 ギリギリ滑り込みの帰還であった。

所持金・約100万エル


評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。


19/6/22 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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