17 脱出3
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
抜け穴村(仮)から維江原に向かう。まだ夜には時間があるが日は傾いて来ている。さすがにもう脱獄したことはバレただろう。とすると、対応が早ければそろそろこの辺りまで手が伸びて来る。
逃げるか、隠れるか、それともやり合って切り抜けるか。
・・・三の策は下策だな。なし。
「ええっ!?」
「当たり前だろ!目立つことは厳禁」
「ええーなんでよー!?」
「なんでも!」
「うー・・。―――ふんッ!!」
センリは空中に膝蹴りを放った。
血気盛んでリベンジに逸るセンリは置いておこう。さっきから少し密集した草むらに入る時は手でかき分けるんじゃなく、戻ってきた鉄の膝当ての試着を兼ねた膝蹴りや回し飛び蹴りをやってるくらいやる気が上がっている。今こいつにGOサインを出したらどこまで行っちゃうんだろう。
維江原に向かってる以上変に逃げると遠回りになるし、下手に動くとかえって見つかるリスクとか危険度が増す気がする。でもこれから夜。真っ暗闇の中進むのはとても危ない。
例えるなら電灯もライトもない超田舎道。月明りだけではとても足元危うく進めたもんじゃない。となると、さっきの村に戻って潜伏するのかな?それともこの辺で野宿?
「フウタ君、追っ手の輪がここを通り過ぎるまでこの辺で隠れるの?」
「えーと・・・その必要はないんじゃないですかね」
「なんで?」
「そろそろ来ると思いますよ・・・ほらあれ」
と指差した向こうからは馬車が三台縦列に連なった商隊がこちらへやってきた。
何だと聞くと、武闘会特需に沸いて近隣の都市・町・農村からああやって荷馬車の商人が押し寄せるんですよとフウタが何でもなく返してきた。なるほどそうかと腕組みをしていると、フウタはその荷馬車に向かって走り出し、商人と思しき御者に手を振って声をかけた。
「すみませーん!」
「ん?どうした?」
「"兎を飲んだ大蛇を見ませんでしたか"?」
「・・・ああ、今日見たよ」
「そうですか、物騒ですね。お互い気を付けましょうね。ところで、お米は扱ってますか?」
「・・・玄米と雑穀米ならあるが」
「では白米が可能ならお願いします」
「ほう・・・」
商人は細目がちに俺達を一人ずつ見ていく。
足元から頭まで物色されるような、正直気持ちよくはない目つきだ。自身の顎を二本指で撫でながら値踏みしてくる商人はなんとなくグラビアの撮影現場に良そうなプロデューサーっぽいなと思った。
「何俵ほどで?」
「二俵お願いします」
「分かった。なら・・・」
商人はおもむろに左手の親指と人差し指を二本立てた。と思いきや、その二本指を小さくこすり合わせた。・・・なるほど。代金の要求か。
「カケルさん、20万エルありますか?」
「え?20万?!高っ――」
「理由は後で説明します。必要経費です。損はさせません」
「えぇ・・・」
「任せてください。道中の安全は確保できます。このまま徒歩で行くよりもずっと早く着きますから」
フウタはちらっと横を見るとそっと顔を寄せて俺に耳打ちしてきた。
「このままぞろぞろ四人で歩いてたらセンリさんが何するか分からないですよ。突拍子もないようなことをしでかすとまずいですし。こんな状況で勝手に単独行動されたら困るんですよ、お願いします」
「・・・そういうことなら、わかったよ」
目の前で奇行に走るセンリを見てたら少しでも早く帰れる方法にした方が良さそうだ。なんで20万もかかるのかはよく分からないけど、フウタのいう事だから変なことではないだろう。
フウタは額が額だけに申し訳なさそうにしているけど、そんなに気にすることはないと思っている。牢屋の中で一度は無くなったと思っていた金だ。戻ってきただけでも万々歳。そもそも、君たちに奢るつもり満々だったからこれくらいの出費はまぁ範囲内なんだけどさ。
ついでに言うと俺の金銭感覚は既に狂っていると言っていいと思う。
生前日本にいた時から最後の方は一般人と感覚が大きくずれて来ていたからだ。ギャンブルで負けが込むと10万円が端金に感じるんだ。ギャンブルって怖いね。熱くなると一回で20万とか賭けちゃうなんてこともあったよ。
だから今回承認に払う20万エルも200万円相当だけど、割と小さ目に映っている。額面が少なく見えるのかな、所持金がちょっと多めになっているせいもあるんだろうな。大学入学以降のここしばらくの俺史上一番財布が暖かいかも知れない。
それでもやっぱり30万の鎧二着キャッシュで買うのはないよなぁ・・・。あいつら・・・。
俺は1万エル銀貨の袋から二十枚の銀貨を表立った抵抗もなく取り出し商人に渡した。
「ひい、ふう、みい――、確かに、二十枚。じゃああんたら、積み荷運ぶの手伝ってくれ。そうだな、あそこの草むら辺りが平らそうだな。通りの邪魔にならなそうだからな。こっちだ」
「はい分かりました。行きましょうみんな」
わざとらしい口調で聞こえよがしに独り言ちた商人の手招きにフウタを先頭にして俺ら四人はついていった。
「さあ、こん中に入んな。二人だろ?」
「えっ?どういうこと――」
「カケルさん、ちょっと」
草むらに着くと商人から謎の促しを受けた。ハテナが浮かんだところフウタから呼び出され、説明を受けた。
―――世界には表に出せない商品を秘密裏に運ぶことを兼業している商人がいる。もちろん王国にも多くおり、ここ維江原の近辺にもそういった商人は存在している。それを識別する方法があるんですよと声を潜めるフウタは俺だけに説明した。
まず「兎を飲んだ大蛇を見ませんでしたか」と聞いて、密輸を行っている商人かを確認する。もともとやっていない商人、稼業としていてもその日は裏営業をしていない商人は「今日は見てねえな」と帰って来る。そもそも暗号を知らなければ当然兎を飲んだ大蛇なんて見るわけないからノーだ。
密輸を行う商人であることが確認出来れば次は商談となる。この近辺で用いられる隠語は「お米」だ。玄米は金や貴金属などの貴重品を差し、雑穀米はその他各種のアブない小包を差す。そして白米は「人の密輸」であり、白米を取り扱っている商人は比較的少ないのだと。
また、「お米」だから単位は俵。中身が「白米」だから当然人では数えられないしそこから下手に嗅ぎつけられて足がついてはたまらない。
良く考えられてるんだなぁ。納得納得。
「フウタ君、よく知ってるなあそんなの」
「生きる術ですよ。僕は裏方の仕事が多いもので」
「あー。かなり目立つ表方がいるもんなあ・・・」
「おーい!見ろよコレ!ピッタリだぞー!あはははは!!!」
とセンリを見やると、既にセンリは空の俵の中にすっぽりと収まっている。
秘密基地にピッタリの穴場を見つけた小学生男子か、はたまた良さそうな段ボール箱を見つけた飼い猫か。大声で俺を呼びながら大盛り上がりで大笑いしまくってるけど、状況考えろって。テンションが上がりまくる気持ちは分かるけどね。
「さあ、次はあんただろ?とっとと入った入った」
「あ、はい」
「うおーっ!!フウタ!カケル!すごいぞ!!めちゃめちゃ暗いぞ!!どこからも光が入ってこない!すっごいなコレ!!」
「シーッ!!静かにしてくださいセンリさん!」
「センリ、シャラップ!」
「しゃらっぷってなに!」
促され、俺も俵の中に入ると商人たちの手によって俵の口が縛られる。藁しか使ってないはずなのになかなかの密封感。一気に真っ暗になったのでおおと思ったが高揚してワーキャーと声が上がるセンリを静かにさせるフウタの声が外から聞こえる。思わずセンリに向かって声を上げたけど声が反響してびっくりした。え?この反響しまくる空間の中でセンリは騒いでんのか?えぇー。大丈夫かよ。
「兄さんどうですか」
「んー、まぁいけるかな。思ったより悪くない感じ」
タクからはほんの少し俺に心配したような声で様子を聞いてきたが大丈夫と答えた。
俵の中は狭すぎないし寒くない。膝を抱えて寝転がる姿勢だから長時間はきついかも知れないけど、割と悪くない感じだね。
ただこれ俵だから、荷台の上で転がって車酔いしないようにだけ注意しよう。
そうして諸々の準備が整ったのか、しばらく後にギギィと馬車が動く音と共にゆっくりと動き始めた。かくして維江原に向かう商隊に同行し、フウタとタクは"白米"の荷馬車の左右を護衛。
途中、荷台でテンションが上がった"片方の白米"を何度も黙らせようとする会話が繰り広げられるという稀有な光景が繰り広げられるのであった。
評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。
19/6/22 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




