15 脱出
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
牢から脱出直後、通路の先から二人組の牢番と遭遇。
出会い頭に奇襲を仕掛けて接近中の牢番を戦闘不能にしてから脱出しようとしたが、牢番と思っていた二人組は実は牢番じゃなくてフウタとタクだった。
「フウタ!なんでここにいるんだ!」
「何でって、あなたとカケルさんを助けに来たんでしょう」
「うそ!?よくここが分かったな!」
「大変でしたよもう」
フウタは両手を腰に当てながら呆れた様子でセンリを見る。この人はボクたちの苦労も知らないで何をしてたんだとでも言いたげだ。
至近距離で格闘していたのがフウタと分かるとセンリの警戒は解けた。だが、最初に足払いで転ばせたのは―――。
「イテテテ・・・」
「――タクじゃないか!大丈夫かおい」
「はい、大丈夫です兄さん」
「ほら掴まれ。よいしょっと!!」
「えっ?・・・あっ!タク君だったのか~!ゴメンね!」
「あぁ・・・、いえ、いいです。僕も不注意でしたから―――」
思い切り尻餅をついたせいで尻をさすっていたタクに気付いた俺はタクの手を引っ張り起こした。
暗闇から完全に不意打ちを食らわせて素っ転ばせたくせにあまりにもあっさりとした軽すぎる一応のゴメンにタクはやりきれないモヤモヤが湧き上がる。
こんな何があるか分からない所で呑気に歩いて油断してた僕が悪いんですと大人の対応をするタクはよっぽど出来たやつだなぁと俺は思った。
足払いを仕掛けて転ばせてきたのにアフターケアも満足にできないセンリを糾弾しないなんて、タクは随分と出来た男だ。俺なら可愛げのないことのひとつやふたつは言っちゃいそうだ。
思わぬ遭遇に驚いた四人だったが、奥から流れ込んでくる煙にフウタははたと思い出したように声を上げた。
「二人共無事に生きていてくれてよかったですがそれよりも今は――」
「そうだ、くっちゃべってる場合じゃないな」
三人はハッとした様子で会話を中断しフウタに揃って意識を集中させる。
「ここに来るまでに兵士や牢番に遭いましたが僕とタク君で倒しました。ルートの安全は既に確保してます。事が知られて増援が来る前に早くここを出ましょう」
「あの、他に捕まってる人は?」
「・・・いや、俺達だけだ。―――二人だけだ」
「そう、ですか・・・」
ここに捕まっていた人は、みんなあの猛獣たちに・・・。
間に合わなかった・・・!
タクは悔しさに唇をキュッと締め、カケル達しか救助出来なかった無念に打ちひしがれた。
僕達が牢獄に入る途中出くわした、兵士に連れられた男の人。
たぶん、あの人もきっとあの猛獣たちに殺されてしまったんだろう。
潜入任務が優先だったとは言っても、もっと早く助けに行けばもっと多くの人たちを助けられたんじゃないか。
そう悔しさの募るタクの肩をフウタはポンと叩きながら、小さく首を横に振った。
しょうがないことだったんだ。タクが気にすることじゃないよ、と言っているかのようだった。
それでは脱出しようと一歩踏み出したフウタは「あっ」と一言。
何か思い出したのか俺とセンリに向き直る。
「さっき途中の格納庫で見つけたのでここを出る前に先に二人に渡しておきます」
フウタは背中に結んでいた風呂敷包みの中からセンリの短剣と鉄の膝当て、カケルの奪われた所持金を取り出した。
「うおおっ!よくやったぞフウタ!いい子いい子~!!」
「ちょ、待って、セ、センリさん~・・・!」
またしても背後を取られたフウタはセンリの猛攻を今度は回避できなかったようで、左腕で後ろから腕ごと胴を抱かれ、右手でフウタの髪をわしゃわしゃと撫でまくる。
仲の良すぎる姉弟かはたまたおねショタか。
こっちをチラチラ見ながら嫌がりつつもフウタ自身はまんざらでもないってなんかこう・・・うん、まあいいや。
フウタ自身愛されてていいねと結論付けておこう。
タクからは、その背中に紐で括られていた俺の黒刀が返される。
「兄さん、どうぞ」
「おう・・・ありがとうな」
「いえいえ、当然のことです」
腰に黒刀を差すと、なんとなく腰回りがシュッとしたような感覚に襲われる。
おさまりがいいって言うのかな?なんか精神的なフィット感がある。安心感がすごい。
武器はあんまり持ちたくないタイプだけどあんなことがあったらやっぱりここは日本とは違う物騒な異世界なんだなと再認識してしまう。頑なに丸腰を貫こうとするのは危なそうだ。
「やっぱり武器は持っといた方がいいのかな。これまでと同じようにはいかないか・・・。丸腰よりはだいぶマシだからな。・・・タク、よくやった」
「そんな、たまたま押収品の格納庫をフウタさんが見つけてくれたおかげです。ボクはなにもしてませんよ兄さん」
「それでもだ。わざわざ探して来てくれただけでも嬉しいんだから。ありがとう」
「・・・当たり前です」
タクはニコッと小さく笑って返した。
そして、
「これくらいではまだ返し切れませんから――」
と、カケルには聞こえないよう誰に言うでもなく小さな声で自分に言い聞かせるように一人呟いた。
◇
闘技場・VIPルームそば通路
カターンッ!!
取り落とした杖の音が三重に反響した。
「なんじゃと!!!!」
「現在、地下牢は半分程度が完全に焼け落ち、捕らえていた男女二名は既に脱獄した模様。警備も牢番も全て息絶えておりました」
「おのれっ・・・あんの薄汚い泥棒猫めが・・・!!」
ダンッ!!と壁を殴り青筋を浮かび上がらせる。
「すぐに追っ手を放て!ただで逃がすな!!」
「はっ!」
闘技場の関係者区域奥にあるVIPルーム―――ズーイ老師をお迎えしていた高級ホテルと見紛うほどの豪華な部屋―――から少し離れたこの通路。
忌々しげに壁を殴りつけたザノは側近にカケル及びセンリの追跡を命じ、側近は慌ただしくその場を去った。
帝国から救導教に至るまで各所に働きかけて骨を折りに折り、ようやくこの武闘会に招くことに成功したズーイ老師の歓待の最中にザノへ齎された凶報。
地下牢で火災が発生し、それに乗じ捕らえていたカケルとセンリが脱獄。監視を全て斬り殺して行き、行方知れずとのこと。
その火災が自力によるものか内部の犯行によるものか。牢番が死んでいる時点で後者は薄い。ならば自力で・・・いや、外部からの手引きもあり得る。
幾許かの逡巡の末、ザノはこの後三度に渡りカケルとセンリの追跡を相次いで命令。維江原の町中に指名手配がかけられることになる。
無論、猛獣剣闘は残る二試合は対戦者不在につき続行不能となりあえなく中止。猛獣剣闘自体が武闘会の予選と本戦の合間の息抜き的内容であるので「動物の体調が優れない」という理由で半ば強引に中止に押し切れたし、総括的に見て運営上はさほどの問題はなかった。
とはいえ、ザノの心中は穏やかではない。
通常の開催ならいざ知らず、今回は節目となる第二十回の武闘会。さらには次期教皇候補のズーイ・コージャ老師直々のご観戦とあっては余計神経が張り詰めるのはごくごく当たり前の事。
いつも以上に失敗は許されない状況の中、とんだ厄介事を引き起こしてくれたなとザノは激昂した。
ただでさえ奴は方々で面倒事を起こしてきておるのじゃ。トラブルメーカーとはよく言ったものじゃ。野放しにしておったら何をしでかすかわかったもんじゃない。このまま逃がしてたまるか。
すー・・・はー・・・
すー・・・はー・・・
側近に呼び出されて離れた廊下にいるがもともとズーイ老師の歓待の最中。報告と指令が終わった今となっては早く老師の元へ戻らなければならない。平静を取り戻すべくザノは意識的に深呼吸を繰り返し、回復に努めた。
両眉のあたりを指圧し怒りに上がった眉を揉み解す。大きな姿見の前で襟を正し、胸のあたりの服をサッサッと払う。
「ふう・・・よし」
不慮の事態が起こったがまだ挽回は出来る。
ここからでも儂は成り上がってやるぞ。と、ザノは貴賓室へと向かった。
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