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13 火種

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 猛獣剣闘は第六試合に差し掛かった。

 ここまで人間側、全敗。

 戦った者逃げた者は結局みんな揃って猛獣たちの胃の中。人間が勝つと期待を込め青札を手にしていた客は悲嘆に暮れた。


 各試合ごとにフィールドの清掃・・撤去・・の時間があるのですぐにカケルらが出てくることはなかった。だが順番におおよその目星のついているセンリおよびカケルにさらに輪をかけて気が気でないのは、出て来る順番を把握していないフウタとタク。次か次かと緊張しては違う人だったと脱力を繰り返し、精神的な疲労が溜まり始めていた。闘技場に潜入中の二人は牢獄はおろかその入り口にすら未だにたどり着いていなかったのだ。


 猛獣剣闘開始前までに助けると言う目標を達成できなかったのは千歩譲って仕方ないとして、結局助けられずにみすみす目の前でこれ見よがしに殺戮の血劇を演じられるのは腹に据えかねる。

 出番が来る前になんとしても助けなければと二人はさらに必死になって闘技場内を捜した。



 フウタとタクが闘技場東側の関係者通路を捜索していたところ、場違いに武装した兵士を見つけた。歩きながら横や後ろをしきりに向いて警戒する兵士二人組。反対側からはもう一組武装兵士が現れたが、そのもう一組の兵士は二人の間に挟むように手枷をはめた囚人と思しき男を連れていた。その男は生気を失い青ざめた顔をしていた。

 囚人を連行している兵士二人と先に発見した兵士二人計四人がすれ違いざま小さく礼をしてすれ違うと、囚人を連れていないほうの兵士二人組は明らかに過剰な警戒を周囲に向けながら扉の奥へと消えていった。



「―――まさか?」

「うん。何かありそうだね」

「はい」

「気づかれないように行こう」


 フウタの先導で兵士たちのあとをつけ、同じように扉をくぐった。



 薄暗い螺旋状の階段を数十段下る。

 無音靴と忍び足で気配を消していよいよやってきたが。


「これは――」

「・・・っ!」


 舗装されていない掘りっぱなしの真っ直ぐな坑道。


 三人横並びで歩くのがやっとというほどの狭い通路で、身を隠せそうな物陰は一カ所もない。直線の通路上には一切の遮蔽物がなく、ここから先は隠れながら進むことが出来ないのだ。


 坑道の突き当たりにはたった一枚、なんの変哲もない木の扉。だが、その扉を武装した兵士二名で守っているのは怪しすぎる。



 地下。


 薄暗い下り階段の先。


 掘り抜きの坑道。


 武装兵士。






 ・・・ここだ。


 ここにきっといる。




 薄闇の中お互いを見つめあった二人は、決心したように頷いて――、


 すらりと短剣を抜き放った。





「なんだお前は――ぐあっ!!」

「こんなところで何を――ぐふっ!!」


 ドゴッ!バギッ!ズバッザシュッッ!!!!



 二人は直線の坑道を一気に駆け抜けその勢いを十分に乗せた足蹴りと膝蹴りを浴びせた。そして前のめりに屈曲した兵士たちの背後に回り込み、二人同時に喉笛を掻き切った。

 大動脈に達した剣閃によって夥しい量の血が壁から天井に吹き上がり、瞬時に絶命。兵士二名はバタバタと地面に崩れ落ちた。


「――行くよ!」

「はい!」


 フウタが扉を一気に開け、中に二人揃って突入した。




 迅速かつ慎重に。

 次の曲がり角までの直線を疾駆する。


 違和感を感じて出てきた男もいたがフウタが一撃で刈り取る。

 フウタの短剣から滴る血は慣れた血振りの手つきで振り飛ばされた。


「すごい・・・」

「え?・・・そ、そんなことないよ――」


 タクはフウタの素早い動きと剣の冴えに感嘆。

 思わぬ賛辞に驚いて思わずぷいっと顔を背けるフウタだが、なかなか満更でもなさそうに頬をかく。


「そんなことより、ほら」


 フウタが指差した方向には半開きの扉。

 その奥は部屋だろうか、机といろんな書類などが見られる。

 先程斬った男が出てきた部屋だが何か手掛かりが見つかるかもしれない、とタクを連れてその部屋に侵入。


 二人は部屋中の捜索を始めた。

 部屋は、階段を下りて以降続いている掘り抜きの坑道の壁面と同様だった。壁も天井も茶色の土。床は整地され絨毯が敷かれており、家具や机などが置かれている。壁面には書庫や棚がぎっしりと並ぶ。


「ここは管理室かな?」

「そうかも知れないですね」


 ここなら手がかりがあるに違いないと次々に机やタンスの引き出しを引っこ抜き、ばっさばっさと中身をひっくり返す。タクもそれに続いて手あたり次第目に入った戸を開け放ち、ものの一分もしないうちに大量の書類や衣類が床に散らばる。

 ここに来るまでに既に三人も斬っているのだ。もうこれまでと同じように隠密重視でいたずらに時間をかけてはいられない。多少手荒だがとにかくスピード重視。後片付けは一切考えない荒々しさでくまなく捜索を行う。


「・・・ん?」


 手分けして部屋中を捜索していると、壁面の一部に違和感を感じた。周囲と比べてどことなく壁の雰囲気が違う。フウタはその壁を小さくノックしてみた。


「!これは何かあるぞ」


 ある一部分だけ高い反響音が返ってきた。空洞であることを即座に見抜き、ベタベタと壁面を執拗に触りその正体を求めた。すると金属製で三十センチ四方の小さい扉が土壁の中から出現。土をかぶせたというよりは土をカモフラージュ用に張り付けたような扉だった。


「なんだこれは・・・」


 その扉を開けると中には鍵がずらりと並んでいた。どうやらこれは隠しキーケースだったようだ。


「何の鍵でしょう・・・?」

「―――よし全部持って行こう」

「全部!?」

「こんな地下の奥深くで鍵が必要なものって言ったら・・・」


 流し目でタクを見やるとハッと理解が追い付いた。


「そうですね。分かりました」

「タク君はここからそっち。ボクはこっち」


 二人は急いでキーケースの中に吊るされていたすべての鍵を根こそぎ取り出し、鍵の紐の輪を左腕にまとめて通した。


「じゃあ行きましょうか――」

「っっ!!タク君!!」


 管理室の扉を開けた瞬間、通路には何かが燃えているような臭いと煙が天井を伝って流れ込んできた。


「口を覆って伏せて!」

「は、はい!」


 腰からハンドタオルを取り出して口と鼻を覆い、すぐさま姿勢を低くする。そしてどこからこの煙が来ているのかと左右の通路を確認。


「奥から来てるな・・・」


 二人が入ってきた入り口の方はまだ煙が薄い。

 奥と思しき通路の方はどんどん煙が濃くなっている。


 普通こういう状況なら身の安全のために逃げなければいけないが、そもそも今自分たちは何のために来ているのかということを思い出す。

 今ようやく鍵が手に入った。ならば危険を冒してでも往かなければならない。きっと奥にはいないだろう、大丈夫だろう、では済まない。

 もしもこの地下の中にいれば焼死か窒息死。もしも救出が間に合わなければ助かったとしてもそのまま猛獣剣闘に出されてしまうかもしれないのだ。

 管理室を出たフウタはそのまま先を歩き、煙がどんどん増す通路の中を中腰で進んで行った。





 ◇




 一人、二人と猛獣剣闘に連れていかれる人の叫び声を聞いて、アタシは慌ててどうにもできなかった。あと何人で自分の番が来ちゃうんだろう、順番どおりに来たら・・・いや、わざと順番をずらしてきたら。


 そんなことを考えてたら昼飯なんか喉を通らない。

 隣のカケルなんかは話しかけてもろくに返事もしてくれない。何かしてる音は聞こえるけど、それだけだ。


 自慢の蹴りで牢をぶち抜こうと試したけど、無理だった。びくともしないし、短剣どころか鉄の膝当てすらも取り上げられたからどうにもできない。

 このまま死んじゃうのかなぁ・・・。

 なんでこんなことになっちゃったんだろうなぁ・・・。



 そんなことを考えてた時。



「ぅっつ!熱っ!!!」


 カケルの叫び声が聞こえたんだ。






 火溝式の火起こしを行って半日。

 執念のピストンによってようやく念願の火種が生まれた。


 俺はそれを崩さないように、うっかりで消さないように木くず玉の中に慎重に落とし入れ、ゆっくりと、強く、フーッフーッと息を吹き込む。


 吐息に合わせて赤く光り出す火種。一回二回と繰り返すごとにどんどん煙は多く吹き出る。深く息を吹き付け、顔を煙からそらすべく横を向いて大きく息を吸って、また吹き付ける。目と喉が痛くなるのを我慢しながら何度も何度も火が点くのを心待ちに息を吹きかける。



 そして――



 ボウッッ!!!



 火が点いた!!!!



「ぅっつ!熱っ!!!」


 持っていた木くず玉が燃え盛り、近づけていた顔と持っていた手をすぐパッと離す。燃える玉が地面に転がり落ちる。


「やべっ!早く早く――」


 残りの木くずを火にくべ、火勢を維持する。そしてぐるぐる巻きにしたゴザで火の玉を突いて格子の根元に追いやる。


 土壇場でやっと灯った。最後の命の炎。

 もうこれが最後のチャンスだ。


 唯一の突破口。蜘蛛の糸。

 何が何でも絶やすものか!!


 とにかく燃やせるものは何でも燃やす。

 このゴザも縦に細かく裂いて火の中に入れ、とにかく火を強くする。


 火がついた時点ではまだゴールじゃない。

 火をつけたら、それで"この格子を燃やす"。

 神様に教えてもらった、今の俺が出来る唯一の脱出法だ。



 格子を削ったのは木くずを獲得するためでもあり、火溝式の溝を作るためでもある。でも一番は格子自体を細くして燃えやすくするためだ。枝葉は燃えやすいけど丸太や角材はなかなか火がつかない。逆に、一旦燃えてしまえばあとはこっちのもんだ。


 問題は――、



「ちょっ!ゲホッ!なにやってんだよカケル!・・・おい!大丈夫か!」

「ああ、大丈夫だ」

「大丈夫じゃねえだろこの煙・・・コホッ!何したんだよ!」

「ああ、ちょっとな・・・。格子に火ぃつけた」

「ハァ!!!???」



 ――この格子が燃えるのが先か、火と煙に巻かれて死ぬのが先かってことだ。

評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。


19/6/20 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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