11 予選2
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
武闘会・予選決勝。
フィールドでは男達の熾烈な争いが繰り広げられ、観客は大いに沸き立つ。
予選第一試合で八組のグループから勝ち抜いてきた八名。
同じくバトルロワイヤルで、決勝へ進む二つの席を奪い合う。
他人同士の二人が手を組んで共に勝ち上がりを目指す者。
自分一人で周囲全ての敵に挑む者。
ケントと、あるもう一人の男は後者であった。
「ふふ、やるやんけ」
その男はケントがここでも初戦と同じく張った煙幕をなんと自分のものとし、他の敵を次々と倒していく。
他の参加者と思しき靴が石畳とこすれて発したジャリッというほんのわずかな音を正確に聞き取り、その方向に薬包を投げつける。
「うわっぷ!?・・・ぐ・・・?」
命中した拍子に薬包の紙が破れ中身の粉末がそのまま顔面にかかる。
次々と顔面に向かって投げられた薬包はたちまち被弾者を即座に眠りに落とした。
即効性のあるしびれ薬と次いだ速度で即時効果を現す睡眠薬を絶妙な塩梅で配合した特製の「不動弾」である。
サイズはゴルフボール大。重さや形状も投げやすく計算されつくされている。
「やたらめったら鋭い武器やら剣の腕やらあげつらっとるが。使えんかったら無駄な自慢やな」
ニヤッと笑った男はどんどん減っていく参加者の声を聴きつつ白煙の中で右手の不動弾をポンポンと小さく投げながら手遊ぶ。
「せやけど、兄ちゃんは違うな」
目の前に向かい合う仮面の男に言い放つ。
何度も顔面を狙って不動弾を投げ続けたがその全弾を避けられた。
それも無理はない。仮面に顔を隠してこの煙幕で場を支配している張本人・ケントなのだから。
「自分で掘った落とし穴にはまるほど柔じゃないですよ―――」
「ふっ、せやろな・・・ッ!!」
短い会話の最中に二発ほど不動弾を顔面めがけて投げつけているが、それも難なく避けられる。
そしてケントの仮面の奥の声はまだ落ち着いている。
白い仮面でケントの表情が窺えないと余裕の避けなのかギリギリの避けなのかが分からない。仮面をつけているというだけで表情が涼しげに見えてしまい、攻めているはずの男の方が逆に追い詰められそうだ。
ケントの避けた流れ弾に被弾して倒れる者もあり、確実に生存者は減ってきている。
ケントとこの男を含めて後一人か二人。
―――煙が晴れた瞬間がタイムリミットだ。
それまでにケリ付けるで―――。
思考が一致した二人。
同時に右足を踏み切った。
「ぐあっ・・・!!」
バフッ―――!!
ケントに殴り倒された別の男の声。
一方で不動弾がぶちまけられ音もなくその場に眠る他の参加者。双方これも同時。
残っているのは―――
「最後は・・・!」
「お前やぁーーー!!!」
ダダッッ!!
薄まっていく白煙。
最後のチャンスに駆け出した。
両手五本の指すべてに挟まれた八発の不動弾が一斉にケントに向かってビュンと唸りを上げて投擲される。
これが最後の一撃であると理解した双方の攻防。
ケントの顔と胸のあたりを集中的に狙った不動弾の弾道は鋭い。
にもかかわらず両腕を顔の前で交差させながら不動弾の弾幕の真っ只中に全速力で突っ込む。
「なっ!!」
「・・・・っっ!!」
両腕、胸元、首元、仮面、髪に至るまで不動弾の粉を浴びながらもケントは一気に間合いを詰め―――
ダシャアァァァン!!!
片手で手首を掴みぐいっと腕を引き込んで男を一気に背負い投げた。
晴れていく煙幕と比例して外界から届く光と観客の歓声。
ケントによって背負い投げを食らった男は仰向けで苦悶の表情。
男の右腕を投げた形そのままに巻き込みつつ、ケントは自身の横腹から背中を男の仰向けの胴体に押し付け寝技ながらに組み敷く。
ついたった今不動弾を食らってしびれ薬と睡眠薬の粉末がびっしりと付着した髪を男の鼻先に近付けながら。
「ぐっ・・・!」
ケントからマウントを取られ動けず抵抗を試みるも、何度も自らの不動弾の性能を実験したせいで良く知っているあのしびれと眠気が襲ってきた。
「やる、やん・・・」
してやられたと言う表情で笑って見せた。
「俺、接近戦は・・・苦手なんや―――」
男は、ガクッと意識を手放した。
その瞬間、完全に視界が開けたフィールドは一気に観客席からの大歓声に包まれた。
「予選決勝、優勝者はケント選手!準優勝はゲン選手です!こちらのお二人が本線出場決定しましたー!!」
「「おおおおぉぉぉっっ!!!」」
実況アナウンスに一層の盛り上がりを見せる闘技場内。
すっと立ち上がり仮面のこめかみの辺りを親指と中指の二本指で小さく直しながら、ケントは群衆に向かって拳を突き上げた。
そして全身に空気抵抗の風を浴びに行くように早足で歩きながら腕をはたきつつ、選手控室の方へはけていった。
「ブハアッ・・・!危なかった・・・・!!」
腕を交差させながら先程の男――ゲンに向かって睡眠薬の弾幕の中を走り出した瞬間からずっと息を止めていたケント。
控室に着いてから着ていた服を素早く脱ぎ、粉薬が舞わないように流れる手つきで内側に畳んだ。
「あの人はなかなか遠距離攻撃に秀でた人だったようだ。いい腕だったな」
先程予選のトップ通過を争った男の事を思い出しながらつぶやく。
「しかし本戦は抜き合い。接近戦が苦手、投射に頼るあの戦法でどこまで通用するでしょうね・・・」
武器の持ち込みが許されない苦境の本戦に思いを馳せながらケントは畳んだ服をそおっと袋に詰めて控室を後にした。
試合直後の貴賓席。
「・・・いかがでしたか、ズーイ老師」
「なかなか興味深い戦いでしたな。しかしながらああいう戦術は実戦ならばともかく、試合を楽しみに見に来ている観客に対しては些か不親切でしょうな」
「!・・・誰か」
「はっ」
予選決勝のみを観客席の中の貴賓席で観戦していたザノとズーイ・コージャ老師の二人。ザノはおもむろに人を呼びつける。
現場担当者に次回開催――来年以降煙幕とそれに準ずる視覚阻害行為は禁止だと伝えろとザノは耳打ちし、側近を走らせた。
「こちらの不手際でございました。平にご容赦を――」
「よい。多種多様な戦術は人類を進歩させますからな」
「寛大なご配慮痛み入ります、ズーイ老師」
「次は、もっと面白いものが見られると?」
「ええ。流石お耳が早いですな」
「してそれは」
「は、明日の十時開始となります」
数珠を通した腕を包む広い袖をばっさと捌きながら顎元を撫でるズーイ。
「無益な殺生はしてはならぬという教義であるが?」
「"無益"ではございません。もちろんご配慮してございます」
「ほう」
「死体からは肉や毛皮や牙や骨はもちろん採取致します。そして"抜き合い"同様勝てば英雄の称号を手に出来ます。しかしそれは叶いません。なぜなら―――」
悪代官に寄るかのような越後屋の秘密。
口元を右手で隠しつつズーイの耳元に寄ったザノ。いやらしい笑みだ。
「―――いかがでございましょう?」
「・・・私は関知せぬ。勝手にされるがよろしい。観客に徹するとしよう」
「・・・は。どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」
事実上の黙認。
つまり老師は止めはしないとザノは受け取った。
極限まで腹を空かせた猛獣の荒れ狂う様が目に浮かぶ。
あの泥棒猫はどこまで耐えられるかのう?
一合でも迫り合えば御の字か。
「くっくっく・・・!」
小さくほくそ笑むザノの隣、ズーイは浮かない顔で手元を見つめる。
いたずらに生き物に無用な空腹を強いるなど――、
と内心で苦言を呈しながらもそれは表に出さず、側の高坏からひとつ饅頭を手に取り食べる。
口に広がる甘味。なめらかな餡の口当たりのよさ。
味の主役ながらも主張しすぎない餡子の引き際のよさに心休まるが。
生きとし生けるもの、食べることこそに至上の喜びを感じるであろうに。
人間を殺す為に。観客を楽しませる為に。
人間の勝手な都合でこんな責め苦を味わわされるだなんて。
おかわいそうに――とズーイはかじった饅頭を悲しげな目で見つめた。
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19/6/15 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




