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10 脱出準備

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 ???・牢


 土の通路内に人知れず固い物音が響く。


 ガンガンッ!

 ガンガンガンガンッ!!


「くっそぉ、どうなってんだよぉ!!開けろよぉ!!」

「無駄だよ、そんな簡単に壊れないって」

「せめてノコギリがあればなあ」

「十分すぎるよ。妥協してないじゃん」


 独房の内側から格子を蹴るセンリ。

 ノコギリなら俺だって欲しいよ。とカケルは内心で呟く。

 二人は隣り合って別々の牢の中にいて、姿は見えないが会話は出来る。


「くっそぉ!!このままじゃ――」

「―――るせえ!おとなしくしろ!!」


 遠くから曲がり角を二個経由し反射して聞こえた牢番の叫び声にセンリはしゅんとなる。


 俺の牢屋と同じく、センリの牢屋もたぶん時代劇の座敷牢で出てくるような木製の格子。金属製じゃないなら何とかなるかなと思って俺も何度か試したけどびくともしなかった。

 カケルは早いうちから見切りをつけ、無駄なことをして体力を消耗しないようにシフトしていた。


「どうしようこのままだとアタシたち―――」

「聞いたよ、知ってるから」

「さすがのあたしでもヒグマは無理だよ!!」

「ああ、うん。でけえもんな・・・」

「でけえじゃすまねえよ!あいつらはな、食うんだよ!人間を!」

「お、おう」

「しかも取り逃した獲物はどこまでも追ってくるって言うじゃねえか!怖くてたまんねえよ・・・」

「執着心すごいもんな・・・」

「・・・なんだよ、知ってんのか?」

「ああ知ってる。ヒグマが人間を襲ってそのまま何人も食っちゃったって話は」


 北の大地生まれの友人が熊害の恐ろしさを画像付きで教えてきたもんだから夢に出てきたほどだ。それまでクマと言ったらツキノワグマだったけどその日から第一位はヒグマになっちゃったね。危険度的な意味で。

 執着心の強さならあいつ(ザノ)とヒグマは良い勝負だな、とカケルは思った。


「どうにかしないと・・・。あーあ!出してくんないかなぁ!」

「出せって言って出す奴がいるかよ。そうしたら捕まえてる意味がないだろ」

「そうだよなぁ。出してくんないよなぁ。はぁ・・・」


 先程、食事を運んできた牢番にセンリがなんでアタシたちをこんなところにぶち込むんだよ!と問い質すと、

「猛獣剣闘に出すために捕まえたんだよ。良い見世物になりそうだし」と聞かされた。

 それからセンリは俺と何度も同じやり取りをしている。

 やばい→どうしよう→どうする→どうしよう→だってやばいんだぜ?→どうしようの無限ループ。

 話が一向に前に進まない。やることもなく取れる手段もなく完全に手詰まり。なんの意味も解決にもならないことをああだこうだ言っている。



 脱獄しようにも、一日二回出てくる食事も木の器と木の匙で来る。ナイフ・・・じゃなくても、せめて金属の食器があれば何とか出来たんだけどなぁ。


 金属・・・ん・・・?



「あっ!!!」

「わっ?!なんだよいきなり!!」


 アレを思い出した俺は慌てて靴を脱いで中敷きを取り出し、靴をひっくり返してパンパンと叩く。


「あった・・・」

「なんだよ?おい!どうした??」


 武器と大袋は取られたけど服はそのままだったからもっと早く気づけばよかった。

 両足の靴底に隠しておいたとっておき。


 1000エル大銅貨二枚。



 カケルは肌身離さず金を持ち歩くようになったが、それは腰に固く結ぶだけではない。

 こうしていざという時の対策も考えていたのだ。最後の望みがあったことに安心した。




 ・・・さて。どうしよう。


 金銀に比べれば硬いけど鉄よりはもちろん柔らかい。

 この大銅貨で外せるネジ・・・はない。

 ピッキングできそうなところもないし、窓もない。


 ・・・どうしよう。



 とりあえず、研いでみるか。

 ここ数日お世話になってる壺でそこそこ研げそうだな。水は・・・。


 ・・・しょうがない。汚いとか言ってる場合じゃないからな。

 サバイバルと割りきろう。



 シャーコ。シャーコ。シャーコ。シャーコ。


「え?なに?何の音?え?ちょ、何やってんの?ねえ」



 研ぐ。ひたすら研ぐ。



「ねえってば。ねえ、聞いてる?何やってんのちょっと!」



 どんどん研ぐ。この調子。



「ちょっと!聞いてんの?おーい!!?」

「―――何だ!!うるせえって言ってんだろうが!静かにしろよ!!飯ならあと二時間後だ!」

「・・・聞いてるから。センリ、シャラップ」

「しゃらっぷ・・・?」


 ・・・牢番に目つけられちゃうから静かにしてくれ。


 シャーコ。シャーコ。シャーコ。





 ・・・よし。

 どれぐらい時間かかったんだろう。だいぶ没頭してたからわかんないけど、でも体感一時間くらいかな?まぁそれくらいかかったけど、一応出来た。


 大銅貨2枚をそれなりの鋭さにまで研ぎ終わった。

 片刃だけど、ナイフ>大銅貨>ペーパーナイフくらいには切れるだろう。


 一枚1万円の銅貨二枚で合計2万円のナイフ。額面的にお高いナイフだ。2万もあれば十分なナイフが買えるよなー。いや、そんなことは考えちゃだめだ。

 この際もったいないとか贅沢なことは言ってられないし・・・。



 さて。これでどうやって脱出するか。


 格子を叩き切るのは無理だからチマチマ切れ目を入れて木の格子を切ってく方向かな。

 でも一日二回の食事の時間で牢番が来た時に一目見ただけでバレることのないようにしないと。


 ・・・どうしよう。




 ―


 ――


 ―――




「――――困っとるようじゃの」

「―――ハッ!?」

「見とったぞ。随分な牢屋じゃのう・・・茶でも飲め」

「神様・・・」


 まさかのしばらくぶりに来た天空の和室。


 いつの間に来てたんだろ。今俺起きてたよね?あれ、うたた寝しちゃってたっけ・・・?

 っていうかこの神様いつもせんべい食ってんだな。お茶も。


 それよりここ数日日の光も差さない真っ暗な牢屋に入れられてたから、前後左右真上の五方向に広がる限りない雲海と青空が感動的過ぎる。眩しくて目が眩みそう。床の畳も土の床なんかと比べたら断然柔らかい。寝っ転がって伸びしたくなるよ。


「いただきます」

「おう」


 お茶がうまい。あったまる。

 せんべいもあの粗末な食事と相まって余計にうまく感じる。

 慣れ親しんだ醤油味。やっぱり日本の心って感じだ。ひょっとしてこの神様も日本人だったりするのかな?何の神様なんだろう。でも神様っぽい格好じゃないし、甚平着てるしなぁ。まったくわからん。


 ・・・じゃないよ、なんでここに来てんの?これまでは寝てる時に来てる感じだったよね?

 今寝てなかったよね?正式な手順踏まなくて大丈夫?


「神だからおーけーなんじゃよ」

「神だからっすか・・・」

「じゃが今回は手短に行くぞ。今お主の体は空っぽじゃ。早く戻さんと死ぬぞ」

「え!?嘘ぉ!?」

「無理矢理連れてきたからの。緊急避難じゃ」

「あぁなるほど・・・、じゃあいつもは?」

「では言うぞ――」

「無視かよ・・」




「―――覚えたか?」

「えぇ、まぁ・・・」

「必ず覚えてもらわにゃならん。覚えたか?」

「はい、多分大丈夫です」

「そうか。ならよい」

「あの、神様」

「ん?なんじゃ」

「いっそ、斧とかくれないですかね?チェーンソーは望みすぎなんでそれくらいあると嬉しいです。あと神様ならワープとかもさせてくれたりとかしないんですか?」

「無理じゃよそれは。知識はやれるが物はやれん。ワープも無理じゃろ。普通に考えて」

「えぇ・・・」


 神が普通言うかね?さんざん普通じゃないことしてるじゃん。ほらそうやって飲み干したお茶も復活させてるし。神の普通ってなんなんだろう。分かんなくなる。


「魂だけを呼んどるんじゃ。体はまだあそこにいたまんまじゃよ」

「そっか・・・」

「適当に死にかけの鹿にでも着地させようかの?」

「いやいやそれは――」

「はは、冗談じゃよ」


 談じゃよ・・・じゃよ・・・・ゃよ・・・・・・・・・



 ―――


 ――


 ―



「―――ハッ!?」

「どうしたんだよお!!返事しろよお!!心細いよぉぉぉ!!!」


 格子をガタガタさせながら叫んでるお隣さん。


 臭くて狭くて薄暗い空間に戻ってきたようだ。ハァ。

 そんなに言うほど俺留守にしてたのか?えー?

 呼び方も戻し方も急すぎるよ神様。もっと穏やかな感じでお願いしますよ。


「おい、大きい声出すなって」

「あっ!カケル!お前・・・っっ」

「泣いてんのか?大丈夫大丈夫。うん。ちょっと気を失ってただけだから」

「それ大丈夫って言わねえよ!!あとアタシ泣いてねえし!フリだし!」

「ごめんごめん」


 今心細いって言ってたよね・・・

 それ追及すると長引くからやめとこ。俺やさしいから。面倒になるとかじゃないから。



 なんとかセンリを落ち着かせた俺は神から教えてもらった方法で脱出を試みようと思う。

 タイムリミットも近い。外からの救助も期待できない。自力での脱出になるけどだいぶリスキーな方法だと思う。でも今はもうこれしかない。




 さあどう転ぶか。

 読んで字のごとく命懸けの脱出だ。



 ・・・出来れば、命なんか賭けたくないんだけどなぁ―――

所持金・2000エル


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19/6/15 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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