9 計画
毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。
宿屋・南山亭
猛獣の存在を確認して戻ってきたタクとフウタをハルが出迎える傍ら、リョウは新たな情報を伝えた。
「・・・え!?な、なんで!?」
「おらにもよう分からんけど、そうやって」
「なんで僕たちがいない間にそんなことに・・・」
「そげんこつ聞かれても困るよタッ君」
宿屋に情報を持ち帰ってきたフウタとタクに齎された情報。
"センリがひったくりを捕まえたごたごたに巻き込まれて捕まってしまった"。
宿屋の女将を経由して、留守番のハルとリョウに伝えられた突然の知らせ。
仲間のフウタはまたかと言った顔でうんざりしたような声を出す。
「なにやってるんだよもう~~」
「ま、まあ、落ち込んでもしょうがなか。探すしかなかよ」
「二人同時か・・・」
「厳しかね――」
頭を抱えるフウタを励ますリョウ。ハルは二人同時に探さなければならない状況へ難色を示すタクを労わる。
初日の予選第一試合を終え予選決勝を明日に控えたケントが混乱動揺する場を仕切り始める。
「起こってしまった事はもう仕方ありません、新しく対策を練り直しましょう」
「あの、よければあたしも手伝って――」
「それはダメですハルさん。リョウくんも」
「ええっ!なして??」
「あなたたちは民間人です。私達は冒険者だしタク君も若いけど冒険者生まれ。センリが捕まった今取れる手段はさらに少なくなました。これ以上人を減らすわけにはいきません。お二人は宿屋で待っててもらいます」
ケントが割り振った宿屋待機兼連絡係。危険から最も遠く、それでいて浮かないよう役割を持たせた。きちんと仕事を与えて宿屋に縛りつけた上で不要不急の外出はさせないという計画・配慮である。
しかしハルは納得しきれず反論する。
「それでも、カケルがまだ捕まっとるんよ。カケルがこのままやったらあたし――」
「・・・ダメです。一人で戦えない人に。フウタよりも年下で女の子でしょう?」
「――ボクとしても許可できません」
「そんな・・・」
「もしあなたも捕まったらどうするんです?命の危機に晒されますし、そうなったら一人で脱出できますか?抵抗できますか?既に二人捕まってる。これ以上誰も捕まらない保証はどこにもありません。私やフウタなら。タク君ももしかしたらいざそうなった時逃げ切れるかもしれない。でもあなたは?リョウくんは?きっと満足な抵抗も出来ずに捕まるか・・・殺される。もしカケルさんやセンリが無事に帰って来た時にあなたが捕まっていたら?殺されたとしたら。どう思いますか?きっとあなたが今感じていることを感じるんじゃないんですか?あなたが殺されたと知ったらこれから先ずっと深い悲しみに苦しむことになりますよ。もし捕まっていることを知ればすぐにでも助けに行こうとするはずです。あなたを助けるためにまた危険を冒すんですよ?そうなったら――」
「リーダー!それ以上は・・・」
「・・・・・・失礼しました」
熱が上がりすぎていたところをフウタに咎められた。
経験則からよかれと思ってした助言だったが自らも思わぬ暴走に驚く。
我に返り、ハルに一度頭を下げると椅子に座ったケントはコップの冷水を一気に飲み干した。
・・・
カケルさんが捕まったと聞いてどこか他人事に感じていたがセンリが捕まって迷いが生まれた。
冒険者としてみんなを取りまとめないといけない。でも、助けに行きたい。私が行ければいいが・・・。
動けるのはフウタとタク君だけ。私は動けない。
なぜなら、私が武闘会に出ないと"国が消える"かもしれないからだ。
熊野薬堂の六代目平佐の弟・伝助を対戦で当たった場合は負かしてほしいと依頼されたケントだが、実は武闘会に出るべき決定的な動機が他にあったのだ。
『この武闘会、帝国に縁のある参加者が本戦に多く入り込んでいる』。
カケルが失踪した段階で方々で聞き込みをしていたケントが耳にしていた噂だ。
カケルの居場所は掴めなかったが並行して調査をしていくうち、複数人から同一の内容を聞き込むことができ、噂の概要が信憑性を持ってまとめられた。
武闘会で優勝した者は賞金と将軍位が与えられ正式に登用される。だが、上位入賞者も場合によっては仕官の目がある。新人歌手発掘オーディション番組で優勝した者以外にも、準優勝者・入賞者に各社からスカウトが来るようなものだ。
そこで気になるのが「帝国に縁のある」参加者が本戦に「多く入り込んでいる」ことだ。
王国出身者の出場枠を減らす?それはまあ有り得る。
グループで参加して賞金を山分けする?それもまあ有り得る。
しかし常に危険と隣り合わせの生活の中で最悪を想定して暮らしていたケントが考えてしまった一つの仮定。
―――帝国に縁のある武勇に秀でた者を将軍として抜擢し、同じく帝国に縁のある有能な兵をその指揮下に入れ、帝国の息のかかった軍隊を維江原に組織。そしてやがては国家転覆を企んでいる。
そう考えると脳内に散らばっていた様々な噂や憶測が磁石の様に一斉にガチガチッと集まり、ジグソーパズルのように次々にピッタリとはまっていく。
「・・・まずいな」
王国で一旗揚げたいと思う者が帝国から来るのはあり得ないことではないがそれにしてはあまりにも数が多い。
帝国は王国とは残り一年の停戦中とはいえ別で国境を接している連邦戦線では領土を順調に拡大している。今代の皇帝は飛ぶ鳥を落とす勢い。全く落ち目とは言えない。
賠償金と新規獲得地で帝国領は潤っている。政情不安でもないのになぜこんなにも流入してきているのか。
・・・内から崩そうとして来ている。
停戦中だから表だって帝国軍を動かせられない。そこで民間人を装って王国に雇わせる。
そうすれば王国の軍部に帝国側の人間が入り込むことになる。
一旦入り込んでしまえばそこからさらに帝国側の人間を引き込んで帝国にとって都合の良いように軍備を増強出来、ひいては過半数を奪い取った軍部が王国を内部から崩壊させることが出来る。半数とまでいかなくとも、一定数の軍隊を確立できれば早くに反乱だって起こせてしまう。
―――ダメだ。考えれば考えるほど違和感のないとんでもない計画が組みあがってしまう。
どこにも引っ掛かりがない。引っ掛かりがないということは、正解に近い・・・?
王国の生まれではないがこれまでの旅の道中、王国のいろんな町でいろんな人と触れ合い何度もお世話になってきたケント。
大陸一の帝国が世界最小の王国に攻め入ればどんな結末になるかは言うまでもない。
そうなる前に、私が止めなければ。
カケルさんの救出も大事だが私も手は離せない。大事の前の小事という訳ではないがこれはやらなければいけない仕事。
明日の予選決勝を勝ち抜いて、本戦に出る。
本戦で勝ち抜いて、絶対に優勝する。帝国の息のかかった連中に渡してはならない。これ以上目の前で帝国に人々が踏みにじられるのを見たくない。
もうあんな地獄は二度と―――。
「・・・リーダー、ボクたちの報告もいい?」
「ああ、そうだったね。なんだい?」
一人熟慮にふけっていたケントにかけられたフウタの声。
邪念を振り払うよう努めて明るい声で受け答える。
「闘技場の中にはやっぱり猛獣がいた。檻の中で、多分数日間食事を与えられてない」
「何?」
「こっちを見つけたらすぐ檻を破るほどの勢いで暴れられたよ。ボクたちを食い殺そうと」
「それは・・・」
「剣闘に使われる猛獣で間違いない。三頭もいたから絶対そうだと思う」
「そうなるといよいよまずいな」
「リーダー、どうしよう」
腕組みしつつ目を瞑ってうーむと思慮。フウタはじっとケントの顔を見つめる。
「フウタとタク君はそのまま明日以降も闘技場内に潜入し続けてくれ。中に猛獣がいるなら剣闘奴隷の牢獄もあるはずだ。タイムリミットは―――」
予選終了後、本戦開始までの中一日に開催予定となっている猛獣剣闘。
明日の予選決勝を終えた後の、血色の変わった娯楽。
予選決勝前夜の今から数えて丸一日と夜明けまでのわずかな時間。
「明後日の日の出だ」
これを過ぎれば、命はない。
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19/6/15 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




