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6 投獄

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 ???・牢


 地上とは音も光も隔絶された土むき出しの地下坑道を慌ただしく進む。

 ランプを手にした男ともう一人の男は間に赤髪の女を挟んで逃げられないよう腕ずくで連行する。


「くそっ!離せ!離せよ!」

「大人しくしろ!」

「どこ触ってんだ!アタシは女だぞ!」

「女だったらもっと女らしくしろ!」

 ドンッ!!

「痛っ!!」


 二人がかりで両脇を抱えて連れて来られた女は、扉を開けられた冷たい牢獄の床に突き飛ばされ倒れ込んだ。

 一切の武器防具を没収されたセンリであった。

 急いで起き上がってまだ開いている扉の方へ向かうが、牢番によって扉は無情にも閉められあっさりと施錠されるのがわずかに早かった。


 カシィン!


 鉄錠の屈辱。

 太い角材の格子の間から牢番を睨みつける。


「こんのッ・・・!」

「おお怖い怖い。そんな目で見られたら怖くてたまらん。やはり猛獣は檻に閉じ込めるに限るわな!食われたらかなわん、さあ行こう行こう」

「なんだと!くそぉっ、開けろよ!出せ!出せこらー!!」

「「ハッハッハッハッハ!!」」


 わざと震えて見せた牢番たちは高笑いしながら去っていく。

 センリはその背に罵声を浴びせるが牢番は通路の曲がり角の奥に消え、自分の声だけがフロアに虚しく反響。

 力なく床にへたり込んだ。


「くっそぉ・・・なんでなんだよぉ・・・!」


 角材の格子にもたれながら両膝を抱える。

「牢屋にぶち込まれるほどの悪いことしてないだろぉ」と泣きそうな声で独り言ちた。






 投獄される二時間前。


 武闘会参加のため闘技場に向かったケント、開催中の闘技場に隠密潜入したフウタ・タクを見送り、街中で聞き込みがてら一人歩いていた。


「うーん、全然知ってる人いないなぁ。どうすりゃいいんだ。アイツどこにいるんだろう―――」

「キャー!!引ったくりよ、捕まえてー!!」

「なにっ!」


 後方から聞こえた悲鳴に振り返ると、女性の指差す先にカバンを手に全力疾走する男。

 進行方向はセンリのいるこちらの方向。

 通りを歩く民衆を蹴散らしながら猛進している。


「どけどけえ!!」

「・・・」

「どけっ!どけっつってんだろうが!!」


 男は避けることなく通りの人々を蹴散らしながら真っ直ぐセンリの方へも突っ込んできた。

 センリはスッと男を避けるが・・・爪先はその場に残した。


 ――ガッ!!

 ガランゴロンガシャーンパリーン!!!!


 男はつんのめるようにド派手に店先に突っ込んだ。



 進路を一旦空けたセンリだがそれはフェイク。

 男の踏み出した足元に自身の足を引っかけ、走り込んできた慣性そのままに豪快に素っ転ばせた。

 店先に転がりながら派手に突っ込んだ男の手をひねり上げ女性のカバンを取り返し、手首を極められ地面に倒れ込んだ男の背中を踏みつける。


「いででで!は、はなせっ・・・!」

「白昼堂々ひったくりとは良い度胸じゃんか。捕まらなきゃもっと良かったけどな!!」

「ウッ・・・!」


 センリは足元に散乱していた中にあった適当なロープで男を後ろ手に縛りあげる。

 男を縛り終えた頃、遅れてやってきた持ち主の女性が追い付き、


「ああぁ、ありがとうございます、ありがとうございます。本当に助かりました、なんとお礼を言えばよいのやら・・・」

「フフフ、お気になさらず。人として当たり前のことをしただけですから。では」


 女性から直角のお辞儀で何度も感謝された。

 良いことをした誇らしさもありまんざらでもないセンリはいつものようにカッコつけて去ろうとしたが。


「―――ちょっと待った。これ、君がやったの?」

「話聞かせてもらえるかな?」

「え」


 騒ぎを聞きつけてやってきた役人に止められたのである。




 ひったくりの一件は割とスムーズに片付き窃盗犯の男はそのまま連行され持ち物は被害女性に無事返還された。

 だがセンリはその場に留め置かれ別件で聴取を受けていた。


「・・・いやいやちょっと待ってそれは違うだろ!」

「じゃあどうするんだこれ」

「それはアタシのせいじゃない!あいつが―――」

「君が転ばせなきゃここまで壊れなかっただろう?」

「・・・っ!」


 センリの足払いで転ばされた男が盛大に突っ込んだ店。

 店頭に陳列されていた商品の大半が落下破損し、見るも無残な有り様。棚は倒れ地面は粉々になったガラス片が散乱。伝統ガラス工芸品を扱うその店の賠償問題に発展していた。


「だからってそれをアタシが払うのは違う!」

「君が転ばせなきゃ壊れなかった。君が転ばせたからこうなってる」

「それはひったくりを捕まえるためにやったこと―――」

「言い訳は聞きたくないんだよ。この店の商品を台無しにしたのは君の責任だ」

「き、詭弁だ!!」


 通りの真ん中で言い争っているうち、途中からどんどん応援の役人が増えていく。最初は二人くらいだったのが周りをきっちりと囲まれ余計脱出できなくなっていった。


「君がやった事なんだからちゃんと責任果たさないと」

「このまま逃げたら君も犯罪者だよ」

「ちゃんと筋通さないと」

「この街で生きていくためには大人しくした方がいいよ」

「君もいい年した大人なんだからさあ―――」


 三十分以上も役人たちから至近距離で取り囲まれ、商品の賠償をしろ責任を取れと詰め寄られた。逃げようとしても囲みは解けずむしろ間合いを狭めて圧迫してくる。進路へ立ちふさがり逃げられないようにしてきた。

 センリはここでずっと正義のために粘るよりもいっそ不本意ながらも信念を曲げてやった方が早く終わるんじゃないかと思い至り、しぶしぶながら折れた。


「・・・いくら払えば解放してくれるんだ?」

「10万エルだな」

「はっ!!!???」


「高すぎだろ!そんなお金持ってない!」と叫ぶも、役人たちは一切譲らない。


 とにかく賠償。金を払え。


 それのみをマニュアル通りにセンリに通告し続ける。


 カケルが残した活動資金は十分にあるので宿屋に戻ればあることはある。

 しかし10万エルの支払いはあまりにも法外。


 絶対に払うもんかと一度は腹に決めたがまたそこからさらに三十分もの間続けられた役人の尋問に疲弊したセンリは、


「もう・・・分かったよ、払うよ・・・。でも今は手持ちがないから、取って来るから―――」

 と折れるも、

「駄目だ」

 と却下。

「えっ!!??なんでよ!!」

「そう言って逃げるつもりだろう」

「逃げないよ・・・取って来るって言ってるだろ」

「そう言って逃げるつもりだろう」

「逃げないって言ってるだろ!今持ってないから取って来るって!!」

「駄目だ!」

「なんでダメなんだよ!」

「駄目なものは駄目だ!」

「だからなんでダメかって聞いてるんだよ!!」


 全く話が通じない役人にいよいよ焦れたセンリ。


 金払え→持ってない→払え→取って来る→駄目→なんで→駄目だから。


 支離滅裂なやりとりに声を荒らげ始めるが、役人たちは落ち着いた声色。

 役人の上長と思しき男が部下の顔を一通り見回し小さくため息を吐くとやれやれと言った調子で命令を出した。


「―――連行しろ」

「はっ!?ちょ、え?なんで!?払うって―――」

「反省の態度が見られない。連れて行け」

「払うって言ってんだろ!なんでそんな―――くっ!離せ・・・!」

「行くぞ!!」

「うわあああ!!」


 抵抗するもあっさりと後ろ手に縛られ、前後左右を至近距離で挟まれて連行された。

 途中から目隠しをされて数分、階段を下り町の賑やかさから離れていくのを感じながら辿り着いたのは全く見当もつかない暗然たる牢屋であったのだ。

 目隠しと後ろ手のロープをを外された時には前にも後にも暗い地下坑道が大蛇の胃袋の中のようにひたすら続いていた。



 今投獄されてから気付く、空気の流れのないじめじめした臭いと肌触り。

 先程まで縛られていた手首のロープの痕をさすりながら涙目になる。


「なんでだよ・・・人助けしただけだろぉ・・・なんでアタシがこんな目に遭うんだよぉ・・・」


 思わず涙声になってしまう。

 自分なりの正義を貫いたつもりなのに。


 訳も分からない牢獄で一人これから暮らすのかと将来に悲嘆しかけた時、()()()()()声が聞こえてきた。



「・・・何をして捕まったんですか?」

「え・・・?誰?」

「お隣さんですよ」


 若い男性と思しき声。

 比較的落ち着いた声色が聞こえてきた。


「アンタは・・・?」

「・・・さあ。気がついたらここにいました」

「そう・・・随分平気そうだね」

「平気ってわけでもないですよ。どうも出来ないから、諦めに近いですかね」

「・・・」

「あなたはなぜ捕まったんですか?」

「アタシか?それはな―――」


 ・・・


「―――それは大変でしたね」

「だろぉ?そうだろぉ!?おかしいよなぁ!そうだよなぁ!?」


 聞かれるまま経緯を話すとセンリの望む通りの反応が返ってきた。センリに共感してくれる声に喜びがあふれる。

 やはり自分がおかしかったのだろうかと思いかけていたがそうではなかったと安心感が広がった。


「アンタは話が分かる人だなぁ!良かったよホントに!」

「いえ、これは普通ですよ。むしろその人たちが異常なんじゃないんですか?」

「ホント・・・!そうなんだよぉ・・・!」


 うんうんとしきりに頷く。

 まさに自分と同じ意見を述べてくれる隣からの声が胸をすく。


「アンタも、マトモだから捕まっちまったのかもな?いや、マトモだから捕まるってなんだよ!ハハッ」

「ははは、どうでしょうね」

「なあ。アンタ、名前なんていうんだ?」



「カケルって言います」




「カケル・・・?!」


「あなたは?」




「――――センリ」






「・・・センリ?」




 石壁に姿を阻まれつつも、二人は驚きの内に互いを見合った。

評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。


19/6/14 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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