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5 開会

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 

 カケルが秘密の地下牢に人知れず拉致監禁されてから五日。


 残されたマエノ村冒険者組三人・カケルの旅の同行者組三人のうち一人計四人は街中で目撃情報をかき集めていた。


 闘技場カウンター、商工組合、冒険者組合、各種商店、衛兵詰め所、領主館。人通りの多いところをかたっぱしで当たったがようとして行方は知れず成果は得られなかった。


 せめてもと各所の掲示板や店先に貼らせてもらったビラでどんな些細な情報でもいいから提供してほしいと記したが、その些細な情報すらまともに入ってこない。

 薬屋で見た。闘技場前で見た。など、カケルが失踪する前のぼんやりとした記憶からの情報しか来ず、それ以外は全くと言っていいほど耳に伝わってこない。

 フウタが直接現場で見聞きしたこと以上の情報が一切街中には転がっていなかった。



 ケントたち冒険者三人はカケルの件に深入りする道理はないのだが、弱きを助けるヒーローを愛してやまないセンリが特に突出して張り切っている。


 荷物持ちのツケが残っているので消化してスッキリしたいのもあった。カケルの件が片付かなければ、冒険者三人は揃って足止めとなる。


 そうなれば一刻も早くカケルを見つけて、


 トオノ村に帰ろう(リョウ)、

 カケルに打ち明けよう(ハル)、

 カッコイイところを見せよう(センリ)、


 と考えた。



 そしてカケル不在のまま迎えてしまった武闘会初日。


 本戦出場枠は既に決定し、熊野薬堂六代目の弟・伝助は兼ねてより参戦の意志を固くしている。

 が、先日ケントとタクが聞き込みで薬屋に寄った際、六代目・平佐からその件で依頼を受けた。


「もし弟(伝助)と当たるようであれば、早々に負かしてほしい。頑固者の弟の事。言って聞かないのですから、当たった時はよろしくお願いしたい―――」。


 武闘会にエントリーしていないケントへの願いは暗に武闘会に出てくれ、である。


 幸いにしてそれは可能で、一日前申し込みでも参加は出来る。

 武闘会初日~二日目の予選で勝ち上がれば本戦に行くことも出来るのだ。


 今春の武闘会の競技は"抜き合い"。

 一振りの剣を素手の競技者二名による格闘で奪い合い、勝敗を決するという内容。


 剣対剣ではなく剣対素手の勝負になるこの競技は極めて逆転の目が薄い。

 だが王国内には「逆境を打ち破ってこそ真の英雄たりうる」の思想によって廃れることなく催されている。

 ケントはカケルと同様、この競技には多少の嫌悪感を抱いていた。

 剣を手にしたら最後、決闘ではなく一方的な虐殺になってしまうこの"狂技"は撤廃した方がいいとすら思う。


 母の病が完治するまであと一押し。この一押しさえ届けば完全に治る、と希望を持っていたリョウのためにも。

 もともと武闘会に参加するつもりだったケントは平佐の以来に参加の意志を強くした。


「武闘会、どうするんですか?」

「頼まれたんだ、出るしかないだろう」

「どっちが出ます?ボクとリーダー」


 フウタにそう聞かれるとお前フウタはまだ二十歳にもなってないだろ。こんな勝負はさせられないとケントは役目を引き受けた。


「分かりました。じゃあこっちは任せてください」


 それならとフウタは聞き込みではなく闘技場内部への潜入任務を買って出た。

 フウタもフウタで別ルートで不穏な情報を聞いていたのだ。




 聞き込みに先駆け、

「人さらいなら奴隷商じゃねえの?」

 と奴隷商に突然殴り込みをかけたセンリに同行したフウタ。


 維江原には主だった奴隷商は二つありその両方を腕っぷしと膝蹴りにものを言わせて半壊させたセンリだったが、その最中に命乞いをする奴隷商の手下からある有力な情報を耳にした。


「猛獣用の剣闘奴隷ならもうお貴族様に売っちまったよ!」

「なんだと!!」



 猛獣相手の剣闘。


 問い詰めたところ、武闘会の予選と本戦の間の中一日、ハーフタイムショーの様な扱いで行われる一種の余興と判明した。

 猛獣相手に剣闘奴隷をけしかけどちらが勝つかを見物とする。


 センリが先頭切って潰した奴隷商たちはいずれも女や子供を主とした拉致誘拐を行っていたが、武闘会シーズンには一般男性の売買も行うそう。

 こいつらがカケルを拉致したと完全にアタリをつけたセンリは鉄拳を用いての尋問を行った。

 拷問さながらの詰問であったが、終始「居ない知らない」と一貫して主張。

 知らないわけがあるかとセンリにボコボコにされ続けた奴隷商たちは半殺しの憂き目に遭った。



 ・・・奴隷商自体は悪事に手を染めていたが、実は今回のカケルの件とは無関係だった。


 領主館のごく一部の人間だけで行われた拉致事件であったのだが、奴隷商がまさかの濡れ衣で壊滅させられたというのは闇の中の真相である。



 女子供は残っていた。

 剣闘奴隷は売った。


 その言葉と現状から判断して、真相を知らないセンリたちはカケルが闘技場の猛獣相手の剣闘に参加させられるのではと推測。

 センリたちは宿屋に情報を持ち帰ってメンバーと共有した後対策を協議。



 結果。


 ケント・・・武闘会に参加。主目標は本戦出場。可能であれば伝助と対戦し"平和的に"負かす。

 センリ・・・街中でカケルの監禁場所を捜索。可能なら救出。

 フウタ、タク・・・闘技場に潜入。剣闘奴隷として捕まっていれば隙を見て救出。

 ハル、リョウ・・・宿屋で待機。目撃情報提供者を待ちつつ連絡中継係に専念。


 上記の役割分担となった。







 サッカースタジアムを思わせる長方形の闘技場の客席には一万人もの観客が詰めかけ大盛況。

 軽食や飲料を背や腹に担いだ売り子が客席を縫って声を張り上げている。

 人だかりで二メートル先が見えない大混雑。一度はぐれてしまっては迷子は必至。親子連れなどは双方の手首をひもで結んだりして対策している。


 フウタとタクは潜入任務があるが開会式だけは見る予定なので、リョウを連れて観客席に三人並んで座っている。

 武闘会の予選にエントリーしているケントは闘技場のグラウンド・競技フィールド内だ。


 闘技場の中心部。

 四方の客席から囲まれた中央フィールドは石畳で作られた長方形。

 二、三百人くらいなら余裕をもってゆったりと整列できるスペースがあり、十分に武術を競い合える広さだ。


 体育祭の開会式の如くケントを含んだ三百人ほどの参加者が整然と並び、主催運営席から司会がステージの壇上に上がった。


「紳士淑女の皆様。少年少女の方々。本日は第二十回・維江原大武闘会にようこそおいでくださいました。本日はお日柄も良く絶好の武闘日和―――」


 つらつらと述べられた前口上に観客席は落ち着いた賑わいに変わる。



 しばらく続けられた司会の口上と事前紹介。

 日程と行程の説明があらかた終わると、この町で誰もが知るその名が高らかに告げられる。


「それでは開会宣言をこちらの方々にお願い致しましょう。維江原領主・ザノ男爵。そして今回は特別にズーイ・コージャ老師直々のお越しでございます。どうぞ!」


 司会の呼び込みに先に反応したのはザノ。

 ザノは主催席に座る黄土色の豪奢な法衣を纏った男、ズーイ・コージャ老師を伴い、二歩ほど先を進む。


 壇上に上がる際、ズーイのもとへ差し出されたザノの手つきは敬愛する国王に向けるような頼もしさと恋人に向けるような柔らかさを持っていた。

 もちろんズーイは介助を受けるような年齢ではなく、むしろまだ若さの残る貫録のある壮年男性。

 周囲の反応と対応はそのまま彼らとズーイとの間にある階級格差を物語っている。


 ザノの手を掴みながら壇上へ上がったズーイは司会の深い礼を受けつつ参加者の前に現れた。

 ズーイが立ち位置に着いたのを確かめるとザノ自らはズーイの隣の下座から一同に呼びかける。



「この度は畏くも救導教総本山から輝かしい次代を担う我らの救い、ズーイ・コージャ老師が直々のご光臨にて恐れ多くも我らと共にご観戦くださる。実に恐悦至極の至り。またとない光栄。共に噛み締めよう。そして諸君が正々堂々戦い、存分にその武勇を遺憾なく発揮できることを願う。諸君の健闘と武運を祈る」

「「ワァァァァーー!!」」


 手短に済ませたザノは一礼のうちに後退り、左手で小さく促す。

 うむ、と満足げにうなずいたズーイは大勢の参加者の方へ進み出でる。

 観客席でそれを見ていたリョウは隣のフウタに耳打ちで質問した。


「ねえ、あん人は誰?」

「救導教のズーイ・コージャ老師。教皇様のご子息で、若手の老師様の中でも抜きんでた存在だよ」

「へえー。救導教?って、すごいの?」

「すごいって、当たり前でしょう?・・・リョウ君は無宗派?」

「うーん・・・今まで母ちゃんと飯んことしか頭になかったもんで・・・あはは・・・」

 と、リョウは後頭部をかきながら苦笑いする。

「開拓区生まれなら、まぁ、しょうがないかもね。――救導教はヤマトの第一派にして最大宗派。ほとんど全ての人が信仰してると言ってもいい。開拓区にはなかったけどこの町には支院があるから行ってみるといいよ」

「うん、分かった」


 と一段落した頃、司会とザノの合図を受け取ったズーイは壇上から参加者と観客に落ち着いた声色で呼びかける。


「私がズーイ・コージャ老師である。このザノ男爵のお誘い喜んでお受け致す。私も斯様な催しは兼ねてより興味があった。参加者諸君、存分にその武をこの場にて天下に広く知らしめるが良い。頂を目指す汝らに、天の救いと我らが御神のお導きを―――」


 両手を広げ天高く掲げたズーイに合わせ、ザノ・主催・スタッフ・衛兵・観客・参加者全員が右手の手の平を左胸・心臓の位置に当て四十五度最敬礼―――救導礼を取った。

 それをぼけっと見ていたリョウには少し慌て、フウタはリョウに自ら救導礼をやって見せ、倣うよう目線で示す。

 リョウは慌ててフウタの姿勢を真似つつ、群衆と同様に救導礼。にこやかに穏やかに貴賓席に戻るズーイを送った。




 ズーイ及びザノの開会の挨拶が終わる。

 二人が着席したのを確認すると司会は声高らかに開会を宣言した。



「それではこれより第二十回・維江原大武闘会を開催することをここに宣言致します。本日と明日の二日間は予選を行います。本戦参加者の皆様はごゆっくりお休みいただくも良し。予選から対戦相手の技量をはかるも良しです。予選参加者の皆様はフィールド上へそのままお集まりください。悔いのないよう、全力を出して頑張ってください!」




 会場は、わああっと大歓声に包まれた。

評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。


19/6/14 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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