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2 無念

毎週金曜投稿(ストック次第で可能なら月曜も投稿)予定です。

 六代目を継いだ平佐が商う"熊野薬堂"。


 元祖総本店を首都・遥礼(ヨウライ)の北方、西杜(セイト)に置き、遥華王国内に主要四店舗を展開する。開拓区への最寄りの拠点である維江原支店では開拓区方面の行商も兼務されている。

 これまでであればいつも通り行商担当の薬師が二交代制で維江原-サカモト村間を往復していたが、一人はカケルらが遭遇した無差別連続通り魔事件に巻き込まれ不慮の死を遂げた。


 開拓区全域での薬の消費量は人口に比例して少なく、各村の診療所のストックはそれなりの備蓄量ゆえ、もう一人の控えの行商担当は西杜本店への商隊へ同行してしまった。

 今、ここ維江原において二ヶ月間開拓区まで行ける手の空いた管理職の人間が存在しない。

 先の事件によって、こと開拓区での商売においては商人といえど自己防衛が可能であるべきと言う風潮が近隣の町や都市で流れ始め、熊野薬堂もそれに倣っていた。


 人材だけで言えば、いる。

 開拓区への行商に行けるだけの力と統率力を持った人物はいることはいる。


 だが。



「その行けそうな人が武闘会本戦に出場決定してしまったと・・・?」

「はい・・・私の弟なんですが。記念のつもりだったんですよ、これを機に冒険者を引退して家業に専念するための。それがこんなことになって―――」

「まぁ普通は連続通り魔事件(あんなこと)が起こるなんて思いませんからね」


 小さく肩をすくめるカケル。

 同意して平佐も頷いた。


「マエノ村からも伝染病対策で予防薬と消毒液が底をついたと先日知らせが来ました。本戦枠を取れなければすぐにでも行けるようには準備をしていたんですが・・・」

「では、どうするんですか?」

「武闘会需要で私もここを離れられません。ここへ来る商人は多いですが出る人はいません。ましてや何もない開拓区に今行こうと考えるような人は・・・」

「誰かを雇うというのは?」

「資格持ちなしの商隊は組めません。それに武闘会の賞金に遠く及ばない賃金では人は集まりませんよ」


 ハァ・・・と深いため息に暮れる平佐。カケルも腕組みしながら考え込む。

 リョウは小さく手を上げながら平佐に問う。


「申し訳なかやけど、弟さんに武闘会諦めてもらうっちゅうことは出来ませんか?」

「本戦出場が決まった今はもう辞退できない。重い疾病・死亡以外での自己都合辞退は莫大な違約金が発生するんだ。それを君たちに払えるかい?」

「うっ・・・」


 平佐の答えにリョウは押し黙り、返す言葉も見つからずに俯いてしまう。


「一個人では町の経済には太刀打ちできないんですよ」


 諦観に染まり切った平佐の眼はカケル達の横の窓から空を遠く眺めた。

 しかしリョウは食い下がる。


「じゃあせめて薬だけでん売ってもらうことは出来ませんか、七香散と蓮華散ば二十八日分」

「それも出来ません。第一種薬は医者の処方箋と監督者の許可なしでは、誰にも」

「そ、そんなぁ・・・!」


 指の間から砂のように零れ落ちる希望。

 両手を床の土間に力ない張りを加えながらリョウはその場に膝折れた。

「そこをなんとか」とリョウに付き添って膝立ちのハルが懇願するも、平佐は伏し目がちに首を横に振った。


「―――行こう」


 ここで無理押ししても平行線。ごねても駄目そうだとカケルはリョウとハルの肩に手を添える。

 カケルは柔らかい笑みでもって二人を宥めつつ、介添えながら立ち上がらせる。


 次の手がある。

 これで終わったわけじゃない。


 と、二人とタクを連れて店を出た。



 すると。



 ドンッ―――!




 店から出たカケルは、表通りを歩いていた二人組の男の片方と出会い頭にぶつかってしまう。


「あ、ご、ごめんなさい!」

「お、おう」

「すいませんでした―――!」


 咄嗟に謝りぺこぺこと頭を下げつつ、ハルとリョウとタクを連れてその場を去る。

 リョウの事で頭がいっぱいいっぱいになっていたせいで注意散漫になっていた。


「・・・ん?」


 ぶつかられた男の方はそそくさと去るカケルの背に何か引っかかるものがあったのか、もう一度振り返ってじーっと注意深く見るや、隣の男にぼそっと耳打ちする。


「なあ・・・」

「なんだ?」

「ひょっとしてあいつは―――」


 目配せしながら相手の男に含めると、同じように去るカケルを注視。


 ん・・・?

 どこにでもいそうな女と子供二人連れの若者じゃねえか。


 普段なら気にするような風体ではないから意識の外に追いやるが。

 だが耳打ちの意図と脳内の記憶とすり合わせていくうち、その真意をくみ取ったのか頬の内側を舌で転がしながらニヤッと笑った。


「なるほど」

「これは報告せねばならんだろう?」

「任せた。俺は後をつける」

「おう、後で落ち合おう」


 男は西と南の二手に分かれた。






 ◇





「ハァ?!なんで諦めなきゃなんねえんだよ!」

「いやあの、諦めるというかその」

「諦めるって事だろうが!あ?!」

「いやあの・・・」

「お、落ち着きましょう、伝助さん」


 六代目の弟・伝助を見つけたのは闘技場前。

 武闘会本戦に出場決定した伝助は対戦表が張り出されていた掲示板の前にいた。

 羽織の背中の"丸に五つ星紋"をちょうど薬屋の帰りに見かけたカケルに「もしかしてあなたは」と声をかけられたのだが。


「せっかくの本戦蹴って行商なんかやれるかアホ!こちとらこれが最後なんじゃい!」

「あ、は、はい・・・」


 大喝を食らってしまい全身をビクッとさせるカケルであった。

 そして目の前に張り出された掲示板をバンと叩きながら伝助はカケルらの目線を促す。


「ほらこれ見てみい!」

「・・・?」

「今回はAトーナメントに決まったんじゃ。優勝候補は軒並みBに固まっとる。優勝は出来んでも、準優勝は不可能やない。30万エルも獲れれば十分じゃ!」


 本戦参加者はAトーナメント・Bトーナメントに二分され、その勝者で決勝戦を行う。

 優勝者は賞金60万エル。 二位は30万エル、三位は10万エルとなるが、伝助は今回入賞狙いで行くとのこと。


 武を志した以上優勝出来ればこの上ない栄誉だが、これを最後に家業を手伝うという条件で出させてもらった武闘会で将軍位を貰って登用されてしまってはいろいろまずい。


 兄貴のこと考えるとなぁ・・・。


 伝助もそういう意味ではどこにでもいる弟。

 約束した手前兄には頭が上がらないのだ。




 この武闘会はオリンピックの様に複数日にまたがって開催される。

 決勝戦が行われる最終日よりも本戦一回戦の初日に負けてもらった方が、伝助には悪いがリョウにとっては都合がいい。その分早く薬の手配がついて早く村に帰って治療できる。


 ・・・しょうがない、やるか。


 気持ちに区切りのついたカケルは「お騒がせしてすみませんでした」とおとなしく引き下がり、リョウとハルとタクを連れてあっさりとその場を去った。


「・・・じゃあみんなは先に宿屋に戻っててよ。俺はほかで用事を済ませてくる」

「カケル、その・・・用事って?」

「あー、まぁ、なんでもないような用事だよ」

「では兄さん、僕も行きます」

「駄目。ハルとリョウの護衛してくれ」

「あんちゃん、護衛されるほどもう弱ってなかよ!」

「剣振れるようになってから言えw・・・ああそうそう、これ宿代と食費。あの三人の分も入れてちょっと多めに渡しとく」


 腰の硬貨袋から適当に掴み取って出す。

 タクは護衛したいがカケルが不要と言うので黙ってすんなりと受け入れ、リョウは子ども扱いされほっぺを膨らまして不服を露わにする。まだ何か言いたげな様子だが、それを遮るように横からハルの手が伸びてカケルからの預り金を受け取る。


「分かった。じゃあ買い物して先帰っとるね」

「ああ。気を付けて行けよ」

「ハル姉、ほんならお菓子でも買うたろうや・・」

「聞こえてるぞ。買ったらお仕置きだからな」

「じょ、冗談やってぇ」


 カケルは三人と軽口を叩きつつ、今夜の食材や日用品などの買い出しをハルたちに現金を渡しながら任せ、その背中が見えなくなるのを確認すると踵を返した。


「さてと―――」


 これからもう一度闘技場の方へ戻るべく一歩踏み出した。

 するとすぐ後ろ、至近距離に立っていた男にぶつかりそうになり思わずたじろぐ。

「わっ!ごめんなさい」

「・・・・」

 咄嗟にカケルは謝ったが、その男は黙ったまま立ち尽くす。

 表情はなくただこちらを真っ直ぐ見て来る。笑いも怒りもせず、何も言わずに見つめて来る男はカケルの呼び掛けには答えない。

「・・・なんですか」

「・・・」

 半ばカケルの進路に立ち塞がったままの男は何か用事があるのかと問いかけるが黙ったまま。

 なんなんだいきなり。どうしたんだよ。そう思った瞬間。



 ガバッ―――!!



 目の前の男に注意が行っていたところに突然建物の陰から別の腕が伸び、背後からカケルの口を塞ぎながら裏道に引きずり込んだ。


「んー!んーー!!」


 うめき声をあげて抵抗しようとするが、その思考を先回りするように喉輪で的確に頸動脈を絞められ、意識を一瞬にして奪われた。




「・・・よし行くぞ」

「おう。そっち足持て」



 謎の男達はカケルの両手と両足を二人がかりで持ち運ぶ。

 僅かな隙を見逃さず完璧に拉致をなし遂げた。

 カケルが目立った抵抗する間もなく意識を奪ったので大きな音は立てられることはなく、表通りから少し奥まったこの場所では誰にも気づかれなかった。


 カケルはいともたやすく囚われの身となり、ものの数秒で裏道の奥に消えた。



「っ!・・・・・・どうしよう―――――ー」


 だが、その現場の一部始終を目撃した人間がすぐ近くにいたのは男たちにとって想定の範囲外であった。

評価・ブクマ・感想やご意見などお待ちしております。


19/6/10 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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