1 維江原
お待たせしました!第二章スタートです。
毎週金曜更新(ストック次第で可能なら月曜も)を目指して進めていこうと思います。
維江原。
遥華王国市区・北西に位置し、平野に広がる一万人規模の町。
北方郊外にはシアン川と呼ばれる大河があり、そこを国境としてシュトライル帝国がさらに北に広がる。
西方郊外には海岸沿いに遠大な砂浜が広がり、南方・東方にかけては肥沃な農地が広がる。
町の中心地は何といっても巨大な四角形の闘技場。和風に統一された街並みの中で異彩を放つ洋風建築の石造で、町のどこにいてもその大きさには気づく。道に迷ったら闘技場へ向かえば必ず知っている大通りに出られるので北極星のような役割も果たしている。闘技場を中心に町が形成されて行っていると言っても過言ではないほどの存在感だ。
町の住人を全て入れてもなお余りあるキャパシティのその闘技場は、近隣の町や村から多くの観客と参加者を引き寄せる催し物が定期的に行われている。
年に一、二回開催される武闘会では遠くの都市からも押し寄せた多くの人で賑わい、平時の十倍以上の規模にまで経済が回る、まさにこの町のランドマークだ。
闘技場を交点として北南東へ伸びる三差路の大通りは、町を西部・北部・南東部に三分する。
維江原西部には領主館が堂々たる防壁の囲いをもって鎮座。
そこを中心として、領主の直属の家臣と配下や兵士らの宿舎・住宅が並ぶ。
領主館・各組織支部・家臣住宅・兵舎・調練場を合わせて統監区と呼ぶ。
維江原南東部には町人たちの住宅街。
北部の闘技場や西側の統監区に近いほど地価は高く、郊外に行くほど閑散としていく。
高級住宅とスラムを合わせて居住区と呼ぶ。
維江原北部には闘技場に合わせてあらゆる店がしのぎを削って商いを行っている。
闘技場に必要不可欠な武器屋防具屋の他、商店・酒屋・定食屋などが所狭しと軒を連ね、武闘会などの大きなイベントに合わせては広場に見世物小屋や旅芸人・曲芸団なども巡業に来る。
それらを総合して商業区と呼ぶ。
開拓区から山を越えて辿り着いたカケル達一行。
町の南門から町へ入った矢先、カケルは思わず言葉を漏らす。
「な、なんだこれは・・・?!」
カケルは目の前に広がる町の光景に衝撃を隠せない様子でいた。
町並みは何の変哲もない古きよき日本の風景。
瓦葺きの建物が通りに面して整然と規則正しく建てられており、どの建物の前も綺麗に掃き清められている。
大通りは定規で線を引いたかのように真っ直ぐな直線だ。
広い通りには紙の風車を手に走り回る着物の子供たち。
通りですれ違い様に会釈していく、風呂敷包みを前に抱えて歩いていた婦人とその知り合いの婦人。
なんとも平和な光景。
賑やか極まりない呼び込みの声も相まって、そこはよくある映画の中の世界であった。
だがカケルが本当に驚いたのはそれではない。
見事なまでに完成しているといって良いこの日本の江戸の景色に、一人二人のレベルではない相当数の外国人種が入り込んでいる。
キリスト教伝来か、はたまた黒船来航かといった絵図さながらである。
それらの人たちは和服は着ていない。
それぞれの国の服装に身を包んだ東洋風・西洋風の男女がそこかしこを闊歩している。
白人黒人黄色人が一緒くた。人種の坩堝だ。
中心部に行くにつれ人はさらに増えた。
闘技場近くの路上は多くの人でひしめき合い、北側の商業区沿いの露店商店は大いに賑わっていた。
茶屋の店先で三色団子を供に緑茶をすする金髪の壮年男性と赤髪の妻と思しき女性などは、天国かのように穏やかな笑みを浮かべている。
それはまるで、
「映画村かよ・・・」
旅行に来た外国人そのまんまであった。
観光地で珍しいものに浮かれるのは古今東西変わらないようだ。
カケルのイメージにある外国人像―――サムライ&フジヤマとはしゃいでないのは多少残念ではある。
開拓区では日本と似た服がない(そもそも現代日本の洋服なので周囲から浮くことが主要因だ)からと野良着に野袴と農民風の服を着ていたが、ここなら最初に着ていたパーカー・ジーパン・シャツでも案外行けるんじゃないの?と考えた。
あちこちで洋服の白人黒人が歩いているが、さすがにファスナーが付いた服を着ている人はいない。
やっぱりやめとこうと思い直した。
パーカーはここではオーバーテクノロジーだった。
「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!うちの鎧は軽くて堅いよー!」
「うちの刀剣と槍はしなやかで切れ味抜群!いらんかね~」
「ちょっとやそっとの切り傷ならたちどころに治る膏薬!どんな病も和らげる西杜秘伝の薬湯!おすすめだよー!」
通りの左右から威勢の良い呼び込みがこだます北側大通り。
そこに差し掛かるとリョウがザッと駆け出した。
どうした?!と声を発しそうになるが、つい今呼び込みをしていた薬屋に向かっていくリョウに得納得した。
それに続いて中へ入ろうとしたカケル、ハルに後方から声をかけられる。
「荷車はどこに置きましょうか?」
ケントが代表してカケルたちに問う。
開拓区から維江原までの山越えの道中、カケルが持ちかけた連日の賭けによってカケルは残念ながら全戦全勝。荷物持ちのツケがまだ三日も残っている彼ら。
「どこか適当な宿屋でお願いします。日没前に南門で合流しましょう」と一言、いくらかの支度金を持たせてケントたち三人を見送り、後に続いてカケルとハルは薬屋に入っていった。
リョウたちが入っていった薬屋は落ち着いた雰囲気の瓦葺き木造平屋。
手前側、間口と同じ横幅の土間が来客スペース。
一段上がった板張りが商談スペースとなっており、奥の壁一面に縦二十段×横四十列の薬用箪笥の引き出しがずらっと敷き詰めるように並んでいる。
パッと見下駄箱みたいだなぁと思うが、某ジブリの作中に出てくる風呂のかまど番のおじいさんの部屋にそっくりだと思い至るカケルであった。
板間から土間にかけての段差に腰かけながらなんでもない世間話をしているお婆さんの応対をしていた店員が、ひょいと店内に軽やかな足取りでやってきたリョウに気付いた。
「あれ、いらっしゃいリョウ君」
「こんにちは。六代目は?」
「奥にいるよ。呼んでこよう」
「おねがいします」
接客応対していた男の店員はリョウの訪問に明るく対し、奥の暖簾をくぐっていった。
気さくに会話を交わしていたリョウに話しかける。
「随分慣れた口調だね?」
「うん、あんちゃん。あん人、前にトオノ村さ来たことあっからね」
「へえ。あの人が薬師?」
「あん人はお手伝いみたいな感じでくる店員さんよ。薬師さんやないよ」
「んんそっか」
今話した店員はトオノ村に来ていた商団に同行していたこともあり顔なじみらしい。
リョウは慣れた口調でさっぱりと言う。会話の距離感からしてどこか常連ぽくて顔が少しばかり誇らしげなようにも見えた。
まもなく店員は身綺麗な若旦那を連れて戻って来、慣れた手つきで膝元をさばいて板張りの床に座った。
「遠い所からわざわざありがとうございます。六代目・平佐でございます」
軽く一礼した若旦那は「本日は何の御用でしょう?」と好感の持てる笑みでリョウに正対する。
表の看板に彫られていたものと同じ"丸に五ツ星紋"と、屋号の入った羽織物が似合ういかにも期待の若手といった雰囲気だ。
同じく一礼で返したリョウは遠慮がちに言う。
「トオノ村ん薬が少なくなってきとって。交代の薬師さんが来ちょらんもんで、どげんしたか気になって来ました」
「交代の薬師が来ていない?はて・・・」
「旦那、それはですね―――」
横の店員から耳打ちされ、その内容に表情を曇らせる平佐。
いくつか店員との間でこそこそ話が往復され、終わった頃にリョウに向き直り申し訳なさそうに目線を落とす。
「すまない。この前亡くなったよ」
「えっ!?」
「ナカノ村へ差し掛かる手前、人斬りにあったようで・・・」
「・・・それはいつ」
「半月ほど前だ」
「それって―――」
カケルら一行が遭遇したあの連続無差別殺人に、交代の薬師も巻き込まれていた。
持参していた薬を積んだ荷車ごと失われたと聞き、
そう言えば事件が終結した後タクが遺品回収を兼ねて街道を引き返している途中、横倒しになった荷車を見つけていたことを思い出した。
もしかしてあれだったのかと思い当たる。
リョウが必要な薬があの中にあるとそう知っていれば回収していたのにとタクは申し訳ない気持ちに包まれた。
「お願いします!やっと、あとちょっとで治りそうなんです!今薬ば無うなったら母ちゃんはまた―――!」
平佐に風が当たるほどの勢いで九十度に頭を下げ、強く懇願する。
その背を抱きながらハルは、
「出来るこつば何でもします!なんとかしとってください!」
と同じく頭を下げて涙ぐむ。
「そうしたいのは山々なんだが・・・」
「そうできない理由が?」
カケルの問いに平佐は、無念そうにこくりと頷いた。
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19/6/10 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




