38 何故
「ここは払いますよ」
「良いって!アタシが出すよ」
「お金が返ってきたのはあなたのお陰ですから」
「いやたまたまだから!いいからそんなの!」
「いやいやせっかくですから」
「いやいやいやアタシらの食費くらいアタシらで出すって!」
「いやいやいやいや拾い主は報酬として総額の一割を主張する権利がありましてね」
「いやいやいやいやいや一割でも貰いすぎだから!その中身は何かだいたい分かってんだよ!」
「・・・・・・まあそう固いこと言わずに!」
「引き下がれよ!!」
居酒屋のレジ前のような光景を演じるカケルとセンリであった。
四日目の山越えを終えた今、山小屋で売られている握り飯を誰が買うかでもめている。
カッコつけたいセンリと借りを作りたくないカケルのせめぎ合い。
軍配は―――
「あんたたち!後ろの並んでる人たちに迷惑だろうが!どっちでも良いからさっさと買ってどけ!」
恰幅の良い山小屋の店番かかあに上がった。
チックショー、何て頑固なんだ。当然の権利主張してきても良いだろ。
そっちにデメリットは一切ないんだからおとなしく俺に奢られれば良いのに・・・!
"考える人"のポーズで眉を顰めながらブー垂れるカケル。
同じテーブルのハル・リョウ・タクは仲良く握り飯を食べている。
どうやら俺が金を持ってることはもう向こうにはバレてるみたいだ。覆面してたけどタクがいたからそこから繋がったみたいだ。もう次からはどこに行くにも一人で行こう。
・・・こうなったら、少しでも早く奢って三人を懐柔しないと。じゃなきゃまた盗まれたりしたらたまらん。もう今度こそ次はないって。
くっそ・・・、どうすればいい?どうすれば俺は三人に奢らされるんだ!!
拳を握りしめ手汗を滲ませながら悩み続ける。密室殺人のトリックの謎にぶち当たった探偵のように、手かがりを探る。
そしてとうとうカケル、閃く。
抜け道のような妙案。
完璧なグレーゾーンへの到達。発見。
思い立ったら即実行。すぐさま三人のもとへ早足で向かった。
「なあ、ちょっといいか!」と勢い良くテーブルに手をついて身を乗り出す。
丸テーブルで揃って食事をとっているケント・センリ・フウタは驚いて振り返った。
「今から、俺と賭けしようぜ!!勝ったら明日荷物持ち。負けたら三食付きで宿代三人分奢るぜ!」と意気揚々と言い放った。
十分後。
「なんで勝つんだよおおおおお!!!!」
勝者らしからぬ悲痛な叫びを上げてうずくまるカケル。
手押し相撲三回勝負、見事に全員抜きの完封。
カケル、めでたく荷車引き係三人ゲット。
「いやあお強いですねえ」と大人な対応のケント。フウタは驚きに満ちた表情。善戦及ばず僅差で負けた大将のセンリは、それ以上に悔しがるカケルに混乱していた。
一般人を自負しているカケルと現役の冒険者なら体力的体格的に確実に不利な勝負を選んだのに、ふたを開けてみればカケルの完全勝利。あてがものの見事に外れた。
カケルがケント・フウタと対戦して勝ち越した瞬間「まだだ!最後勝った方が三ポイント!」とバラエティ番組的なことを言い出したがはからずも最後も勝ってしまい結果オーライ。
カケルの勝利を喜ぼうとしたハル・リョウ・タクは、目の前でその勝利に悲しみ悔しがるあまり床を殴るカケルに当惑していた。
混沌の極致。渦巻く謎。満ち満ちるカオス。
冒険者グループとハルたち合わせて六人は互いに目を見合わせ、苦笑するのであった。
山越え最終日。
これからの道中は山脈の麓から丘陵を下り、市区へと向かう街道を目指す。
下り坂であるし、荷物も多くないので荷台引き係ははっきり言えばいなくていい。
しかしカケルが持ちかけた賭けは荷物持ちなので冒険者三人はそれを順守している。
「このまま町まで行くんですよね?それならこのまま行きますけども」とケントは言った。
手短に「わかりました」と伝えて、引き続き荷車をゴロゴロと引いてもらう。
ケントたち三人も周りの旅人同様、町で行われる武闘会を目指して進んでいた。薬師の確保のために進むカケルらと同じ道をたどる。
せっかく知り合った仲だ。わざわざ目的地が同じなのにあえて別れるのはなんとなく気まずい。
それになによりも、盗まれた金を結果的に取り返してくれた恩がある。
いや、純粋な恩だけではなく、何とかして奢って口止めしたいという不純な動機もある。
手に余る大金。いずれ手元を離れるとはいえ狭い世間で荒稼ぎした大金は遅かれ早かれバレる。ならばできるだけその口を塞ぎたい。
ところが、カケルの思惑通りにはやはりいかない。
山小屋を発つ際に山小屋で求めた朝食と昼食二食分の握り飯も冒険者三人とカケルら四人は当然別会計にされる。奢ると言ってもノーサンキューで返されるのだ。
なんだよ強情だな!奢られろよ!と内心で的外れな苛立ちを覚えるカケルであるが、そう簡単に諦めるわけがない。カケルは性善説など信じていないのだ。
何の得もなく、謝礼をそっくりそのまま辞退する聖人君子などいるわけがないと思っているカケルにとって、センリの取った"名乗る程のものではございません去り"は疑う以外にない。
単にカッコつけたかっただけで先の事を深く考えていなかったセンリだが、カケルは存在しない裏の意図を読んで目を血走らせているのだ。
カケルが渡そうとした150万エルの一割15万エル。日本円換算にして150万円は三人で割っても一人アタマ50万円相当で、給料の約二か月分。
飯には当分困らない。武器や装備も新調できる。タダであげるって言ってるのになんで受け取らないのか。損しないだろ。なんでだ。
・・・全部盗るから今は要らないってことか。
そうはさせないぞ。
カケルは全く見当違いな疑心暗鬼に陥り、三人をどうにかして懐柔しようと画策。
そして夜、山越えを完遂したカケルらと冒険者三人は遥華山脈東側入り口麓の小屋で宿泊。
「明日の荷物持ち賭けて腕相撲しようぜ!負けたら二泊六食三人分奢るから!」
さあこい、と腕まくりしたカケルは右肘をテーブルに置き、三人を誘う。
テーブルの上で食事していた三人は小さくため息をつく。やれやれと言った面持ちでテーブルの上のスペースを作る。
先鋒・フウタ。中堅・ケント。大将・センリ。向かい合うはカケル一人。
フウタと、むき出しの上腕が躍る右手をがっぷりと組む。
「ようし。次こそは―――」
負けるからな。
カケルが小さくそう呟いて、リョウの合図で腕相撲対決三番勝負の火蓋が切られた。
が。
「ふぇっくしゅっ!!」←フウタ
「ぐっ!左腕の古傷が・・・!」←ケント
「テーブルのささくれが刺さった・・・!」←センリ
リョウの合図と同時に三人が三回戦とも全く同じタイミングで不慮の脱力。戦闘不能。
カケル、またしても完全勝利。翌日も荷車係三人ゲット。
「どうして勝つんだよおおおおお!!!!」
番狂わせに身悶え叫ぶカケルであった。
そうこうしているうちに無事山越えを果たしてここから平坦な街道を二日かけて進み、カケルら一行は遥華王国北方領・市区一つ目の町、維江原へとたどり着いた。
第一章・開拓区編 完
もちろんこの後もまだまだ続きますが一旦区切りとさせていただきます。
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19/6/9 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




