25 開始
大変長らくお待たせしました!!!
ご心配をおかけしてしまいまして申し訳ございません!無事に生きております。
ある程度のところまでストック書こうと思ったんですが、難産すぎて開き直った次第です。
至らないところもあると思いますが、お付き合いいただけますと幸いです。
※過去話全てにおいて読みやすくするべくスペース・改行編集を行いました。
分かりやすくするために多少の表現追加も行いましたが、物語の大筋には影響ございません。
草花があちこちで萌え春深まりゆく季節。
夕方になっても日はまだ山や畑や村々を照らす暖かなこの村。夕食時を迎える頃にようやく日は沈み篝火が通りや店先に焚かれいよいよ夜本番ともいえる活気を帯びた姿に変わっていく。
夕暮れ前には山越えの旅人らを主とする門への出入りが治まり、夜時には落ち着きを取り戻す。
だが今日は心なしか村の通りには往来が多い。
目指すは酒場。
その入り口に次々と老若の男たちが吸い込まれていく。
普段よりも客が多い店内。誰もがそわそわと落ち着かない様子で壁やテーブルなどあちこちを見て酒を傾けている。
お目当てはカケルが二日前に行った"六連コイン"。
二日前に参加した者はもちろん、カケルの口コミを聞いた人や又聞きで知った人たちが押し寄せ、店内はごった返している。
その中、人混みの間をすり抜けて入店してきたカケルがマスターに手を振った。
「マスター」
「おういらっしゃい。すごいなぁ、もうえらい人集まっとるで」
「あぁ、すごいね。軽めの芋一つ」
カウンターに腰かけたカケルは人混みを見やって一度息をつくと、指を一つ立てながら硬貨を置く。
壁際の棚から度数が低めの芋焼酎の酒瓶を手にしたマスターはカケルの前で慣れた手つきで正方形の枡にとくとくと注ぎ、カケルは受け取るや否や一気に飲み干した。
「ふーっ。手あたり次第呼びかけしましたからね。やりすぎちゃいましたかね」
「ええよええよ。賑やかなんはありがたいこっちゃ」
フロアの一階には大勢の客とその間をせわしなく動き回る店員たち。全ての座席は埋まっており、壁際や隅の方で立っている客も多い。店員を呼びつけたり方々で会話したりするガヤガヤ声が騒がしい。
マスターは温かい笑みで眺めている。なかなか今日は儲かっていそうだ。
先日カケルは一回目の六連コイン終了後、カウンター越しにマスターと顔を合わせ、酒場の二階と運営の人手を借りるべくマスターに相談した。
小一時間ほどの対談の末いくつかの条件が双方で交わされ、無事成立。
めでたく本日開催の運びとなったがまずはその条件の一つ目の実行である。
「賭けに参加する人は二階に上がってくれ!マスターが困ってんだろ、他の客の迷惑にならないようにしてくれ!」
カケルは群衆に二階へ移るよう声高に訴えた。
それと同時にマスターが階段の近くにいた店員に目配せをすると、二階へ通じる階段への立ち入りを禁じていたロープが外され上へ上がれるようになった。
荒くれ者も多い酒場だが、二日間もお預けを食らっていたギャンブルにうずうずしていた男たち。カケルの呼びかけに対して待ってましたと言わんばかりにいともたやすく腰を上げ、すたすたと階段を上っていく。
条件一。
六連コイン開催に当たって、一階は酒場の営業に差し支えないよう二階のみでやること。
二階を貸し切って賭場を開くつもりだったカケルは二つ返事でOKを出した。
酒場の建物の一階は調理場とホールとで床面積を二分していたが、二階は全面ホールのワンルーム。階段を登り切って左手を向けば学校にあるような六レーン二十五メートルプールの半面程度のゆったりとした広さ。四分の一を主催側で陣取ってもフロアは十分にゆとりがある。
酒場として二階が通常営業されていた時に置かれていた十数個の長テーブルや角テーブルはコの字型に壁際に寄せられ、階段とは反対側の壁際の一辺を主催側のテーブルカウンターとして使用するためフロア中央に向かって押し出されている。
主催カウンターには様々な事務用品が置かれ、残り二辺の記入用テーブルには日本でおなじみの投票用マークシートさながらに置かれた、購入希望用紙と鉛筆が数カ所に数多く立てられている。
フロア中心部のがらんとした客用スペースと残り一辺の壁際には、長イスと一人用イスが多めに設置されている。
二階に上がった男たちは、主催カウンター越しに吊られた装置に目を奪われる。
天井に付けられた滑車を経由して奥と手前に二手に分かれ伸びる一本のロープ。その両端には大きな麻袋とカスタマイズ分銅が取り付けられている。
ロープの天秤である。
それがカウンターテーブルの上に6セット、横一列に並んでいた。
条件二。
六連コイン開催に当たって、大まかなオッズが分かる装置を手配、設置すること。
これはカケルが店側に提示した要求である。
この装置の構想や理論のほとんどはすでにカケルの脳内に形作られていた。
競馬の様にオッズを小数点第一位までリアルタイム集計・計算することはこのアナログな世界では不可能だが、おおよその目安をつける装置は作れる。
ロープの片方に付けられた袋に購入者の硬貨を入れ、もう片方には対応した重さの分銅をつける。
五百グラム.一キロ.三キロ.五キロ.十キロの分銅と自在砂袋を用意し、六本すべてに同じ重量の錘をつけることでどれが一番売れているかが相対的に一目で分かる形式になっている。
六枚のコインの三連単予想では選択肢は百二十通りになるが、ロープ天秤を百二十セットも用意するのは難しいとのことで、単勝形式での目安オッズ装置とした(単勝は販売しない)。
※
例:A-B-Cの三連単を買った場合、一番最初に引かれると予想したAの袋に購入代金が入れられる。
◇
「押さんでくれ。もう少しで始めるんでしばらく待ってくれ」
カウンターの店員が群衆に呼びかける。
二階フロアはガヤガヤとにぎわうが群衆に混乱はない。
アナウンスに応じ、三々五々壁際や中央のイスに腰を預ける。
テーブルカウンターの向こうにはディーラー・金券発行・集計・払戻係として駆り出されたスタッフがせわしなく準備に取り掛かっている。
条件三。
六連コイン開催に当たって、運営の出来る相応の人員を提供すること。
これもカケルが店側に提示したものである。
今回カケルはディーラーやスタッフではなく、客として遊びたいのだ。
そのため、酒場のマスターにディーラーとその他の雑務や会計を引き受けてくれる人員を用立ててくれるよう交渉。
しかし、マスターとしては店員にただ働きはさせたくないというので、そこでカケルとの協議によって結ばれた新たな内容。
条件四。
六連コイン開催に当たって、主催は酒場とし総売上額の二割の控除は酒場側が給料その他の雑費として受領。その対価として六連コインに参加した希望者にはドリンク・フードを提供する(制限有)。
客同士のパイの奪い合いであるこのゲームでは、総掛け金の二割を主催が寺銭として控除し、残りの八割を的中票数で均等割りする。
今開催では、その主催と運営を酒場に委任すると言う内容だ。
カケルは自分がプレイするためには胴元を酒場にしてもいいと考えていたため、問題なく協議は成立。
だがそれだけでは面白くないし、負けが込むと運営に対してイカサマなどを疑ってくる参加者や二割控除に難癖をつける者もいるだろうと考え、参加者にも利があることを示唆する内容が欲しくなった。
そこでカケルはポイントカードやキャッシュバックなどのシステムを流用した。
はずれ金券を集めると、金券購入額の五パーセント相当額の料理や酒を無料でもらえるというもの(現金引換え不可・お釣りなし)。代金不足でなければもちろん注文時に追加代金は発生しない。
また、人員を割いていることと営業スペースである二階をまるまる提供していること、専用の道具を調達していることで二割控除の正当な理由をつけ、さらには低配当が出ても高配当が出ても二割控除で酒場側が受け取る額は変わらない=意図的に大穴を引き当てるような、店がイカサマをするメリットがないということを客側に伝達。
壁に張り出されているルールや注意事項の但し書きに沿って店員が説明する。
だが二日間もお預けを食らった客はそんな説明は良いと焦れまくっていた。
「いいから早くしろ!」
「いつまで待たせんじゃ!」
せっかちな男達はゆっくりとかみ砕くような説明をする店員をせっつくようにヤジを飛ばす。
酒場としてもこういった規模の大きい"正式な"ギャンブルを主催するのは初めてのことで慣れていないのは当然であるが乱暴な物言いはどうだろうか。
大勢の男達から、早く始めろ、ずっと待ってんだよ!ひっこめ!などと罵詈雑言を浴びせられた店員は、
「・・・後の詳しい説明は壁の紙を見てくだせえ。・・・オッホン!えー、それではこれより六連コインば始めさせていただきます。ごゆっくり楽しんでくだせえ!」
と説明を打ち切って半ば無理矢理締めた。湧き起こる歓声と拍手は純粋にギャンブルを楽しみに上がったものだろうがどうにもさっさと店員はそこからどけと言っているようにも聞こえる。
店員に何の恨みがあるのだろうか。
カケルは店員には世話になる立場なのでそこへは関与しないといった様子で群衆に混じる。
「ああ、やっとだ」
カケルはようやくプレイヤーとして参加できることに喜びをかみしめる。
武者震いしながら拍手する群衆に合流し、手が痛くなるほど笑顔で打ち鳴らした。
19/6/7 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正・酒場地図追加




