23 マエノ村
コミカライズされた本作を読む夢を見ました。
そうなればいいですね。これからも頑張ります。
サカモト村・トオノ村・ナカノ村などからなるここ開拓区から王国本領・都区市区に出るには山越えの必要があり、開拓区の入り口に建てられた第一開拓拠点の村・マエノ村。
馬屋、馬具屋、馬車屋が多くあり、食料品店や日用品店も多く並ぶ。
そのどれもが賑やかで昼夕には通りに面した店先からの呼び込みの声がよく通る。
夜には酒場に出入りする男たちが足元をふらつかせながら飛び出してきたり、円陣を組んで何かを決意表明するなどと、飲み屋街のサラリーマンのような光景が繰り広げられていた。
そして色めき立つは酒場の一階。
金銭飛び交う鉄火場の渦中、白布の覆面の青年が躍動していた。言わずもがなカケルである。
酔った勢いでしきりに「殺し合いなんかダメだ」「もっと平和なギャンブルを」と管を巻きながら賭けに興じる。
ここはデジタルとは縁のない中世~近世日本のようなオリエンタル世界。
どうしても賭けの内容はシンプルかつ原始的になりがちになる。
今もカケルの手持ちの銅貨二枚、銭貨四枚を使った順番予想の賭けをしている。
500、100エル銅貨と50、10、5、1エル銭貨を各一枚ずつ用意し、ABCDEF六種のコインを袋から取り出した際の三連単予想が賭けの内容となっている。
競馬に飢えたカケルはこんなものを産み出して紛らわしているのだ。実に涙ぐましい。
ディーラーが六種のコインの内3枚を無作為に選び、客がその順番を正確に当てるこの「六連コイン」では、百二十通りの中、的中はひとつ。
序盤は「A-C-B!」と勘だけに頼ってベットしていた客たちに"ボックス"、"流し"、"フォーメーション"の概念を教えると賭けは急加速した。
※
ボックス・・・複数のコインを選択し、選んだコイン全通りの組み合わせが購入可能。的中確率は高いが購入点数が増える。
(ABCをボックスで買うとABC.ACB.BAC.BCA.CAB.CBAの六通りが買える。)
流し・・・軸にするコインを選択し、それ以外のコインを相手に選ぶ。
(A-BCDを流しで買うとABC.ABD.ACB.ACD.ADB.ADCの6点が買える。二着流しでA-BCを買うとBAC.CABとなる。)
フォーメーション・・・複数のコインを選択し、選んだコインの組み合わせが購入可能。
全通りではない為ボックスよりは小点数で買える。
(A-BC-BCDEをフォーメーションで買うと、ABC.ABD.ABE.ACB.ACD.ACEの六通りが買える。)
※
―――村の男たちが知らない新しいタイプの遊び。
二分の一での切った張ったの勝負が主だったこれまでの賭博とは違った射幸性の高い遊戯。
一口10エルで買える券が1000エルにも化けた時は大きなどよめきが広がった。
それを見ているカケルは心なしか苦虫をかみつぶしているような表情になっていた。
何故ならカケルは発案者であり六連コインのディーラーであるため、プレイヤーとして参加できないからだ。
酒場で飲んだくれた翌日、日用品店で買った業務用の大天秤の目盛に数字を書き込みゲーム仕様に改造して意気揚々と酒場に乗り込んだものを「お前が持ってきたゲームでお前がやったらイカサマするだろ」と男達から一斉に疑われてはディーラーを引き受けざるを得ない。
ただし転んでもただでは起きないカケル。ディーラーを引き受ける代わりに賭場開帳手数料と設備投資回収費用という名目で払戻金の二割控除と変動オッズ制を飲ませた。
これはつまり、コイン六枚=六頭で行われる競馬の馬券購入者と主催者の関係性をそのまま反映させたようなものだ。
いや、六枚ならまんま競艇か。まあそれは置いといて。
六枚のコインが入った袋の口をすぼめながらおみくじよろしく振るカケル。
開始後二時間ほど、五レース目から参加者はすでに六十人を超え、一回の総掛け金は1万エルを超すようになってきた。客たちは次第にルールと傾向を掴み始める。
硬貨の重みは500エル銅貨A>100エル銅貨B>50エル銭貨C>10エル銭貨D>5エル銭貨E>1エル銭貨Fの順で変わり、逆さに袋を振ってコインを出したら高確率で重たい銅貨ABが出やすくなる。本命が存在しうるわけだ。
だがあくまでも"高確率"であって、"絶対"ではない。一番最初にEFが出ることだってあるのだ。
それが現実のものとなった時、ABのどちらかが必ず出ると予想し突っ張っていた多くの客は頭を抱えてその場にうずくまる。
三枚のコインが全て卓上に転がり出た瞬間、カケルの発行した馬券ならぬ金券を天高く突き上げて男が歓喜の雄たけびをあげる。二割控除を差し引き約8000エル(日本円で約8万円相当)を一人のさえない名もなき村人が総取りしたのだ。
普通ならあり得ないCDEFの大穴ボックス。どこの世界にも大穴党はいるものだ。
胴元であるカケルはこれまでの六レースで1万エル弱程を稼いでいた。が、しかし。
満たされない。
胴元をやれば安全に安定して稼げるのは分かる。が、違う。これじゃない。
やはりギャンブルはやってこそ面白い。他人がやってるゲームを見ているだけしかできないほどつまらないものはない。
高配当が飛び出し沸き立つ酒場。
次だ、次は勝つと熱気が増す室内。財布の中身を確認したり両頬をぱちんと叩いて次戦に意気込む一同。
しかしここでカケルは待ったをかける。
「悪いな、今日はここで打ち止めだ」
「・・・なっ!なんだよー!」
「これからって時にー!」
「もうちょっと、な!いいだろ?!あと一回」
ギャンブルの負けを取り返したい男たちの哀願。一日の負けをその日のうちに取り返したがる心理が働く暫定敗者の面々。
「今日はこの辺で終わる。でも明後日の同じ時間またここに来る。今この時点で財布の中身がもうない人もいるだろう。そこで、明後日また仕切りなおすからもし参加したいというものがいればそれなりの用意をしてきてくれ。その時は存分に楽しもう!望むならその日は夜が明けるまでやるぞ!」
カケルの提案を受けた男たちは隣の者と目を見合わせ「分かった」「待ってろよ」「楽しみにしてるからな」と口々にしながらやがてちらほらと席を立つ。
「約束だぞ」「次は勝つからな」「絶対に来いよ」とカケルに釘を刺しながら騒がしく酒場を出ていった。
群衆が一斉に帰りがらんとした酒場。
コイン引きからそのまま席に戻り飲み始めた者も少々いるが、負けたのだろう、顔は浮かばれない。
カケルは天秤や袋などの一式の片付けを始めつつ周囲にご迷惑をおかけしましたと目で謝る。
「すみません騒がしくしちゃいまして」
「よか、楽しく見してもろたで」
カケルはマスターに軽く会釈し、ヒラヒラと手を振り返される。
「あれは君が考えたんか?」
「いえ、俺の国で楽しまれていたギャンブルをアレンジしたんです」
「そうか・・・面白そうやな」
「面白いですよ、やってみます?」
「そやなぁ・・・休みやったらやりたかったな」
「ですね・・・あ」
ひらめいたように膝をポンと叩くと、カケルは少し乗り出してマスターに一つの提案をした。
「もしよければ明後日の賭け、ちょっと付き合ってもらえませんか?」
19/6/6 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




