22 最善策
「おはようございます兄さん!お目覚めになられましたか!あの剣術はどこで!」
「おは・・え?なに、剣術?」
「はい!あの太刀筋、名うての剣士の方とお見受けしました!」
「えっ・・・ちょっと待って、何その口調」
「あぁこれは失礼しました!つい興奮してしまって・・・ゆっくり休んでてください!僕ちょっと外で素振りしてきます!」
目が覚めるとそこは興奮するタクの猛口撃の中でした。
・・・冗談はさておき、今俺はマエノ村の宿屋にいる。
同室していたリョウの説明によると、あの一騎打ちの直後気絶した俺を、村に助けを呼びに行ったタクと大人たちがこの宿屋まで運び込んでくれたらしい。
それから丸二日も寝込んでおり、今はマエノ村で三日目の昼となる。
タクが変なテンションだったのは、俺が宿屋に運び込まれたのと同時に数人の大人を連れて街道を引き返し、道中に置き去りにした俺達の荷車と、彼の長兄・タカの遺品である長剣、次兄タキからもらった盾を回収できたことが大きかったようだ。
また、覆面男を斬った瞬間の俺の太刀筋があまりにも速かった(タク談)から何としてもその秘密を知りたいとそわそわしていたらしい。
タクが物品回収と実況見分の道先案内で街道を引き返している間、ハルはつきっきりで俺の介抱をしてくれていたと。
「・・・つきっきり?」
「おう。あんちゃん全身汚れとったけん、脱がした服も洗うついでに体ば拭いてくれとったよ」
「・・・ハルが脱がしたのか?」
「うん、なんで?」
ちょっと待て。
うん、ちょっとこれは。緊急事態。エマージェンシーですよこれ。
いや、あのー、うん。あのね。あの時ね、うん。わざと。わざとなんだけど、そのー、漏らしてたんだよね?しかも盛大に。
最後、意識が飛ぶ瞬間にまずいと思って股間の濡れ染みがバレないようにあえて血だまりに向かってうつ伏せに倒れ込んで汚れに行ったんだけど、でもね、うん。
ちょっとそのー、アンモニア臭がね?残ってたらね?「うわ最悪、漏らしてたの」ってなるじゃん?
「なんで、お前やタクが脱がそうとしてくれなかったんだ、男だろ・・・」
「だって言いだしたんハル姉やし。カケルの面倒みるけん、タクは荷物取りに戻ってくれって」
「いや・・・それでもさ―――」
「あれはカケルが命がけで稼いだお金じゃ、取られでもしたらどげんすっとねって聞かんくて」
「じゃあリョウが代わりに―――」
「怪我人に介抱ばさせようと?」
と、包帯で巻かれた太ももを見せて来る。
「う、・・・ごめん」
筋が通りすぎ。もう言い返せない。
となると、いよいよまずいよな。
アンモニア的にも、ぞうさん的にも。
・・・いや。ひょっとしたらパンツまでは脱がされてないかもしれない。
服だけ脱がして体だけ拭いたって言うパターン。・・・・・・ないよなぁ・・・。
いや、・・・うーん。
「あ。カケルおはよう」
「ヘアァァッ!!??・・・おはよう!!」
「目覚めとったなら言うてくれればよかったとに。これからご飯やけん待っとって」
「う、うん」
ハルだ。
どうしよ。目合わせらんないよ。
ぞうさんが一般公開されちゃったのかそれ次第で対応が変わっちゃう。
いや。っていうか、アンモニア状態で服脱がされちゃった時点でそっち側でもう終わりだよね。
完全に漏らしたってバレるよね。泥も血も言ってみれば新鮮だったからさほど臭いはなかっただろうから・・・
はい、詰み!
あーあ!もうダメ。終わり。
「ハルの前ではかっこいいヒーロー計画」失敗ですよ。もう頓挫。これ以上ないくらいポッキリ行きましたわ。
はーあ。せっかくの異世界で新しい人生やり直そうと思ってたのになあ。
俺株大暴落。もう無理。取り返せないよ。
リョウが薬師を見つけて引き返した後、あわよくばヨウライで二人きりで暮らそうと思ってたのに。
独身コース決定。
どうせこのまま魔法使いギャンブラー内定しちゃいますわ。
「あんちゃん・・・?」
「いいよな!お前には未来があるからいいよな!」
「何言っとるん・・・?」
「あーあ、また一人だ!あーあ!」
「あんちゃん、何包まっとるん!カタツムリじゃあるまいし!」
俺は掛布団を被り、二度寝を決め込んだ。
飯?そんなものはいらん。ふて寝してやるったらしてやるんだ!
◇
・・・あたし、死ぬかて思うた。
せっかく村から出られたとに、ヨウライにも着けんで。
逃げることも出来んで死ぬ覚悟ば決めた時、カケルは勇敢に立ち向かった。剣なんて持ったことなかとに震えながら剣で挑んだ。
涙目になって、膝もがくがくになって、漏らしてしまうほど怖かったはずなんに。
それなんにあたし達ば守るために死ぬ気で戦うてくれた。
いつもんカケルとはかけ離れた姿やった。泣くところも、震えるところも、初めて見た。
勝てっこないってリョウ君は言うとったけど、内心あたしもちょっと思うとった。やけん戦わんでって言いたかった。
サカモト村での時もそう、本当ならカケルは関係なかとに助けてくれた。泊めてもろうたお礼だなんて言うて。
襲うてきたあん人ん狙いはきっと冒険者やったタク君。冒険者やけん戦うのが仕事で、戦いんために命ば落とすこともようあること。それが世ん中ん当たり前やし、あたしも当然やて思うとった。
でもカケルは、タク君が"子供やから"助けた。冒険者でもなければ剣なんて振っとうところば一度も見たことがなかカケルが、タク君が子供でカケルが大人やけんちゅうただそれだけん理由で戦うた。
カケルは・・・なしてそげんも頼もしかと?
なして自分が死ぬかもしれん勝負にも飛び込んでいけると?
かっこよすぎるよ、カケル・・・。
全身血だらけ泥だらけやったけど、怪我がのうて本当に良かった。無事で本当によかった・・・。
お医者様はリョウ君の傷も太い血管までは達しとらんですぐに治りそうやって言うとったし、カケルも少し休めばきっと大丈夫。
でも、タク君は一度に二人もお兄さんば亡くして・・・。
だめだめ、あたしが落ち込んでどうすると。
あたしはなにもしとらんやなか。今回もずっと助けられてばっかり。サカモト村ば出てからずっとカケルに頼りっぱなしやなか。
次は、絶対にあたしがカケルば守る。カケルん力になる。
カケルん力になって、カケルに・・・
認めてもらうんだ。
◇
ハルに出された粥を針のむしろで平らげた後。
宿から出たカケルは酒場の客がまばらな二階で一人、人知れず落ち込んでいた。
運よく全員無事にマエノ村にたどり着くことができたが、好きな子の前で漏らすという粗相をしでかした。
助かるためだったとはいえ、もっと他に方法はなかったんじゃないかと今更思案を巡らせる。
過去の出来事の最善の対処法は常に未来で見つかるものだ。
あの時こうすれば良かったと自力で答えを導き出せたとしても、実際にその時の自分がこの答えに辿り着けなかったから余計に悔しさが募るのだ。
人間は弱いもので、それが分かっているのに最善の選択ができた理想的な架空の現在と現実の今とのギャップに苦しむ。
ストレスしか生まない反省会である。
塩気の効いた干し肉を苛立ちとやるせなさに任せて噛みちぎり、グチャグチャと音を立てて咀嚼する。
このジャーキーと酒がなかなかいい取り合わせだ。
この一帯では芋焼酎が盛んに生産されている。
生前の日本ではあまり飲まなかったが、案外行ける。アルコールは何パーセントあるだろうか。十五パーセント?十七パーセントくらいか。
・・・いや、そんなことはどうでもいい。
とにかく酔えればいい。酔って早く忘れてしまいたい。
やけ酒なんてしたくないがせざるを得ない。
ここまでハルと良好な関係を築けてきたのに。
山越えで町に着いたらリョウと別れるから、そこからは二人きりだ。
ハルにとっては気分のよくないことだろう。悪いことをする。
小便垂れ野郎が隣にいるなんてね。ははは。
しょうがない。
ハルをヨウライに送り届けたら、旅に出よう。
その方がきっとお互いにとってベストな選択だ。
また一人に戻るだけだ。寂しくなんてない。
次話23日(月)18時投稿予定です。
19/6/6 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正




