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19 襲撃

 

 野営地から這々の体で逃げてきたカケルたちは、次の村を目指す街道前方の野営集団に、襲撃を受けたことを伝えながら逃げ続けた。


 報せを聞いたその集団は避難を急ぐべく、寝ている者を叩き起こす怒号や避難指示が飛び交う。リョウは伝えて回る人々に混ざろうとするがカケルはそんなことをしている場合じゃないと阻止。四人は足早に集団の中を突っ切った。

 追い越したカケルたちとの距離が離れ、耳に聞こえていた集団内でのやりとりが遠く小さくなっていった。


「ここまで来ればだいぶ距離は稼げたか??」

「ハァ、ハァ・・・」


 タクの兄が命を捨てて退路を切り開いてくれたお陰でそれなりの距離を稼げたはずと、多少足を緩めた。


 ―――キャァァァアア!!


「「っ!?」」



 安心したのも束の間、カケル達の後方が急に騒がしく、具体的な悲鳴に変わった。



「嘘・・・」

「ここまで追ってきたのか」



 ガシャン!ガラン!と何かが倒され壊れる音が悲鳴に混じり聞こえる。

 会話すらしている時間も惜しいとカケルらは互いに目を見合わせ頷き合い、すぐさま再び全速力で息を荒らげながら走り始めた。








 なんだよ。なんなんだよこの世界は!!

 狂ってる・・・こんなの絶対おかしい!!



 冷や汗に額を濡らしながら走る。


 断末魔の叫びが僅か二百メートル後ろに聞こえている。

 カケルはもちろん、ハルもリョウもタクも懸命に走り続ける。


 他の野営集団を見つけたことで、始めカケルは安心感のようなものを感じていた。

 自分達以外の人間に会えたことから助かったような気がしていたが、それはとんだ間違い。

 追い越した集団は覆面男に食い破られ、押し止めること叶わず命を散らし続ける。

 抵抗むなしく、無関係な人々の尊い命が次々と失われた。



 覆面男は街道沿いに次の村へ向かっている。

 すなわち、その先の町を目指して街道を先行している自分達に追い付かれるのも時間の問題だ。




 複数の悲鳴。

 後方から耳を劈く数十色の声はいつしか五、六色程度に激減し、ものの五分程度で訪れた静寂はすなわち全滅を意味していた。


 逃げ切ったことからくる静寂ならどれだけよかっただろうか。

 遠くながらも聞こえていた声がブツリと聞こえなくなったのは逃げ切れたからだ、などといったおめでたい結論には当然至らせてくれない。


 いつ斬りかかられるか。

 逃げ続ける全員の背中が焼けるように痛烈な熱に焦がされる。

 その幻の痛みが現実のものとならぬよう、金も荷物もすべて捨てて逃げた。





 ◇




 ―――ふひっ。ふひひひっ。

 面白い。どんどん死んでく。


 血塗られた刀を振り回し、たちまち地面の至るところに肉塊を形成していく覆面の男。

 黒の脚絆と所々擦り切れている黒の忍者服。そして朱殷しゅあんに染まった布の覆面。亡霊がそのまま刀を手にしたかのような風体の男は全身の至るところに返り血が付着しているが、あえてそれは落とさない。

 覆面の赤黒さはこれまでの血の歴史。汚れの深さは誇らしい勲章であった。


 但し刀の血は過剰に拭き取る。

 死体の服で執拗に拭い去る。僅かな曇りすらも許さない。

 鞘と柄と刀身までもが真っ黒の刀は男の愛刀にして名刀。血の赤は好きだが色彩乱す沈着は認めない。


 横たわる死体の服に刀を拭いつけている背中に隙有りと見て男に斬りかかる冒険者はものの数秒で首と化し、覆面男の血拭きは妨害と再開を繰り返し延々続く。



 カケル達が突っ切った集団にいた冒険者グループが壊滅し、周囲は農民など非戦闘員のみとなった。冒険者が倒してくれると期待して踏みとどまった者達である。


 ―――まだおった。


 当然のようにその刀は無辜の民に振るわれ、やがて、滅んだ。



 血をきれいに拭き取りギラギラと黒光を取り戻した刀を納めると、大地に転がる骸、この数分の結果を眺め悦に浸る。

 皆殺しは一定の満足感が訪れるが、この頃どこか物足りない。言ってみれば残念とも思っている。


 男は血に飢え力に喘いでいた。

 強くなりたい。もっと殺したい。一日にどれだけ殺せるか試したい。

 抵抗むなしく死ぬ様を見たい。腕自慢がその腕の未熟を呪いながら首になる瞬間を見たい。



 強い奴。



 もっと強い奴に。



 会いたい。




 会いたい。会いたい。アイタイ。アイタイ。アイタイ、アイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイ。



 朱殷の覆面の内側を舌でレロレロと舐め回して染み込んだ返り血と汗の味を楽しみながら、イェっひェッヘぁと猟奇的な笑みを浮かべて打ち震える。




 街道を進むいくつもの集団に遭遇し、そのすべてを蝗のように食い尽くしつつも満たされぬまま進み続ける。

 勢いそのままに、たいした足止めも叶わない。傷ひとつ負わせられないのだ。

 一人残らず殺すという純粋な執念ゆえの匍匐前進と返り血に服はボロボロになっているが、無傷。


 そして、もし逃げる者がいれば追う。決して生き残らせない。

 若い三人の男と一人の女が先程逃げた方角へ進み続ける。

 道中出くわした木っ端を蹴散らしながら、貪欲かつ執拗に。

19/6/6 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正


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