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11 理

 トオノ村で出会った少年はカケルの尽力によって金策が叶って借金と薬代の目途がつき、彼の母親の容態は快方に向かっている。

 カケルとハルは少年の様子を気にかけながらも日々をまったりと過ごしていた。

 昼はハルが炊事洗濯に精を出し、夜はカケルが酒場に働き(・・)に行く。

 偏った少量の食事にやせ細っていた少年の体はハルのバランスの取れた料理でだんだんと体力と肉付きを取り戻し、つれて笑顔が見られるようになった。


「なああんちゃん、おらも強くなりたい!」

「ダメだって、まだ本調子戻してないだろ」

「そうやなくて、ギャンブル!あんちゃんみたいにギャンブルさ強くなりたい!」

「ダメだ」

「なーしーてー!」


 ある日の夜、少年は酒場帰りのカケルに食って掛かっていた。

 部屋着に着替えて楽な格好になったカケルはハルの出した茶を傾けながらぼふっとベッドに腰かける。


「子供だからだ」

「答えさなってないよあんちゃんー」

「この前俺はなんて言った?大人の金の稼ぎ方を教えてやるって言ったよな」

「ギャンブルさ教えてくれるっちゅう意味でねえの?」

「半分合ってるが半分違う。手を出してみな」

 100エル銅貨を出し少年の手に握らせる。

「このコインが表か裏か当ててみろ。当たったらそのコインはやる。でも外れたら殺す」

「えっ!!」

「やるか?」

「・・・や、やらないよそげんこつ。100エルぽっちで死ぬなんて」

「じゃあ、当たったら100エルやる。外れたら一発殴る。それならやるか?」

「うーん・・・」

「どうだ?」

「や・・・・る、かも」

「・・・な?そういう事なんだよ。大人はちゃんとリスクとリターンを考えるんだよ。でも時として大人でも熱くなってそれが見えなくなるのがギャンブルの怖さなんだ。この前俺が戦ったあの鎧を着た人。途中から何が何でも負けを取り戻そうとして無謀な勝負をしてたろ?たった4000エルの勝ちのために50万エルも張ってた。こんなのはあまりにもリスクが大きすぎる。一旦勝負を切り上げるべきだったのにそうせずに勝負を続行した。その結果があの様だ」

「・・・」

「負けたら文字通り身ぐるみはがされるし、場合によっては命も取られる。勝てばいいけど、負けたらどうする?金がかかった勝負で命が売られる世界では日常茶飯事なんだ。泣き落としは通用しない。1エルにもならないからな。大人の金の稼ぎ方ってのはそういう事だ」

「・・・」

「表か裏か、当ててみろ」

「・・・・・・じゃあ、表!」


 少年の手が開かれる。

 コインが向いていたのは裏。

 期待が外れ残念、という表情の少年に拳が降りかかる。


 ゴンッ!!


「いったーい!なにすっとあんちゃん!!」

「外れたら殴るって言ったろ。飲んだのはお前だ。ギャンブルってのはこういうことだ」

「・・・・バーカ!ハル姉ちゃんに愛想ばつかされちまえアホー!!」

「ななな何言ってんだよちょっと!おーい!」


 悪口を吐きながら部屋を飛び出していった。元気有り余る年頃この上ない。

 100エル銅貨をそのまま持っていかれたのはともかく、その捨て台詞にカケルはぎょっとする。そろりとハルの方を見るが、今のやり取りを聞いていなかったのか特段変わった様子はなく胸を撫で下ろす。


「・・・なあハル」

「ん、どしたカケル?」

「最近、なんか調子落ちてる気がするんだよなぁ」


 カケル自身の運の調子は相変わらず絶好調。だがここ数日、連日連夜あまりにも勝ちすぎているので酒場での賭場が立ちにくくなってきた。参加者の入りが減り、短く少なくなり始めている。まるでバッターボックスに立っているのに三連続敬遠されているような心細い気分だ。


「もっと大きい町に行った方がいいかなあ」

「カケルの好きにすればええっちゃないと?」

「そうだなぁ・・・。町まではどれくらいあるんだろう」

 雑貨屋で購入した概略地図を広げトオノ村から町までの道程を辿る。

「三つ先か・・・」

「そげんあるんや」

「しかも山も越えなきゃいけないみたいだな。その大きい町からもそこそこ距離あるけど、やっぱり行きたいよなヨウライ」

「そりゃあ、カケルがあたしにした約束じゃけんね」


 隣り合って地図を見ているハルの小首がカケルの方へ傾げられ思わず距離をあける。

 また射抜かれそうになった。危ない危ない。と心の中でそっと汗を拭う。


「まぁ、急いでるわけじゃないけどさ、ほら、やっぱり大きい町の方がいろいろとやりやすいし」

「ふーん・・・」


 超至近距離で向けられるハルからの探りの目線。

 勝負の場ではポーカーフェイスを崩さないカケルの額から汗が垂れる。

 頼むからそれ以上近づかないでくれ。余計惚れる。


「・・・まあ、いいっちゃけど。カケルの好きにしちゃんない」

「ああ、ありがとう」

「いつまでここにおると?」

「明日か、明後日くらいには準備を済ませたいかな」

「分かった」

「・・・競馬、やりてえなぁ」

「ケイバ?」

「俺の国のギャンブルだよ。馬同士の競争でどの馬が勝つか予想すんの」

「かけっこみたいなもの?」

「そう。一日十二レース行われるうちの一レースだけで500万エルが動くんだ」

「えっ、すごか・・・」

「俺の国にはいろんなギャンブルがあるんだ。大きい町に行けばあるかなぁ」


 家でネットを通じて馬券が買えたが、この世界では当然ネットなんてものはない。

 デジタルで快適なギャンブル。また出来るだろうか・・・。




 ◇




 草木も眠る夜更けの草原。

 地面には息絶えた女子供。大きな刀傷から溢れた血が地面を汚す。

 短剣を手に抗う旅装の男たち。兄弟のようだ。


「なんじゃお前、ここまで追ってきおったんか!」

「金ば渡したやろう、なんの目的やが!」


 兄弟の声を無視し、刀に付着した血を死体の服で拭う男。鼻と口を黒色の長い布で覆い、結び目の先の布が風にたなびく。


「・・・ちょっち遊んでもらいとうてな」

「お前・・・!」

「200万もふんだくってまだ欲張るんか!」

「・・・200万?そげんこつ知らんわ」


 覆面男が一足飛びに十歩ほどの間合いを一気に詰める。

 兄はすんでのところで避けるが弟は避けきれず、血飛沫を上げながら首が胴から離れる。


「―――シン!!」


 三メートル先に首を飛ばされその場に崩れ落ちた死体の服にまたも刀の血を拭いつける。


「目的、目的はなんじゃ!」

「・・・」


 兄の呼びかけに返事はない。短剣を握る手が脂汗で滑る。全身が震える。


「ほんならなんじゃ、わしらに何の恨みばあるんじゃ!」

「恨みなんぞなか」


 バシュッ!!


 先程辛うじて一度は避けた踏み込みを今度は避けきれず、忽ち遺された兄は首にされる。

 見開かれた生首の前で拭われる刀。月光に煌めくまでしっかりと拭き取られ、覆面男の腰の鞘へと帰る。


「切れ味ば試してみたかっただけたい」


 ヒュンと冷たい風の中。

 兄弟の生首と家族の骸をそのままに、覆面の男は闇の中へと消えていった。

次話月曜18時頃投稿予定です。


19/6/5 加筆訂正・スペース改行追加等レイアウト修正

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