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俺は新世界の神になる

――新世界の神。こんな都合の良い響きの言葉はそうそうありませんね(笑)。

 俺は死んだらしい。


 理由は良く覚えていない。しかし、俺の目の前にいる、人という表現が正しいかは分からない人らしき女性が告げた。


「あなたは生まれ変わることができます。いえ、生まれ変わらねばなりません。私はあなたの不幸な死に納得ができません。だから、ここにあなたをお連れしました」


 女性の声が暗い空間に凛と響く。


 ただ、その落ち着いた声音とは裏腹に、俺は驚きを隠せなかった。


「不幸な死……って、俺はどんな死に方をしたんだ?」

 聞きたいことはは山ほどあるが、最初に気になったのは自分の最期だった。正直、訊くのは怖いがこれを怖がっていたら話が進まない。


「あなたは勇者だったのです。そして、最強のドラゴンを手懐けていました」

「勇者? ってことは、魔王にでも殺されたのか?」


 自分が勇者だったことは驚きだが、その不幸な死というのがそれくらいしか思いつかなかった。勇者が負けるのは魔王くらいのものだろう。


「いえ、魔王に殺されたのではありません。それはそれは無残な最期でした」

「えぇと、もう一思いにしてくれ。どんな最期だったんだ?」


 ちょっとタメが長くかったので、催促の注文を入れる。

 そして、彼女は重たい口を静かに開いた。


「あなたは魔王と戦うためにドラゴンに跨り、魔王のいる城へと向かっていたのです。そして――」

「そして?」


 向かっている途中? 何だ? 思わぬ強敵に遭遇して敗れたのか? でも、それは無残と言うには勇敢すぎるな。

 彼女のヒントで思考を巡らせるが、無残という言葉に相応しい死に様を思い描くことはできなかった。


 彼女は遂に答えを口にした。


「まぁ、早い話が、落馬ならぬ――落竜したのです。勇者であったにも関わらず、魔王と戦うことなく、その道中でドラゴンから落ち、あなたは即死しました」


「それは……あれだろ? 勇者じゃなくて、名前が勇者だったとかそういうオチなんだろ? それくらいは分かるぞ。なにしろ、きっとおそらく、俺は勇者君とか呼ばれていたのだ。いや、確認はいらない。俺は勇者君だったのだ。それ以外にドラゴンから落ちる勇者に心当たりはない」


 全く、人を騙すのも大概にしてくれよ。危うく、俺がただのうっかり勇者になるところだったぞ。


「あなたの名前は――レオン・カルデシア。カルネ村が出身地であり、そこであなたが生まれ落ちた瞬間に一つの大きな星が落ちたそうです。それは勇者が生まれた証拠であり――」


 俺は自分の名前だけは覚えていた。それは間違いなく俺の名だ。村の名前もなんとなく聞き覚えがあった。だから、これが嘘偽りない事実であると納得せざるを得なかった。


「ふっざけるなよ!? 俺が!? ドラゴンに!? 落とされて!? 死んだ!?」

「いえ、正確にはドラゴンに落とされたのではなく、あなたが落ちたのです」

「もっと、ひでぇよ!?」


 どんな人生だよ! 勇者で少し喜んでた俺がバカみたいじゃないか! ていうか、バカだ!


「だから、言っているじゃないですか。あなたは生まれ変わることができるのだと」

「俺を憐れんでいるのか? そんな施しを受けるくらいなら――」

「大人しく成仏すると?」


 うぐっ……くそっ! もったいないと俺の心が叫んでいる!


「できないでしょう? そう、あなたは死んでも情けない勇者のままなのよ。こんなチャンスがもったいないとか考えちゃう勇者なのよ」

「分かったよ! 生まれ変わります! だから、これ以上は勘弁して!?」


 死んじゃう、それ以上は俺をイジメナイデ……。


「早くそう言えばいいのよ。全く、これだから落竜勇者は……はぁ~」

「おい、対応が最初と比べて雑になってるぞ」

「疲れたんだもん」

「だもんじゃねぇ」


 なんなのこいつ? だもんとか……ちょっと可愛いとか思っちゃった俺は負けですか?


「それじゃ、あなたの生まれ変わりの儀式をはじめま~す。といっても、赤ん坊からじゃなくて、そのままの姿でやり直す感じです。だから、あなたの職業を決めなくてはなりません」

「それは俺が選んでいいのか?」

「えぇ、どうぞ。なんでもいいですよ。あなたの欲望のままにおっしゃってください」


 欲望のままって……もうちょっと言い方はないのかよ……。

 とはいえ、俺のやりたいことなんてないしなぁ~。勇者だけはもうやりたくないけど……。

 そして、なんとなく目の前の彼女を見たとき、俺はふと思いついた。


「あのさ、あんたの職業はなんなの?」

 俺を生まれ変わらせるという彼女の正体について知りたくなった。


「女神しかないでしょう? こんな慈悲深い女性は女神でしょ? なに言ってるの?」


 なんで俺がバカを見る視線に晒されてるのかは分からないが、彼女は女神であるらしい。


「へぇ~、職業って聞かれて女神って答えられるのか……」


 俺はなりたい職業を思いついた。まさに、これは天啓だった。


「何か思いついたようですね? あなたの職業は何ですか?」


 さぁ、俺が伝説になろう!


「――新世界の神にしてくれ」


 俺が世界の創造主だ。




 


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