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 はっと大きく息を飲んだのは妹姫のダリアだった。

 どうやらダリアもまだ話を聞かされていなかったらしい。

 その愛らしい顔は真っ青になり、普段は野イチゴのような紅色の唇は色を失くして震えている。

 ダリアは金色の髪と白い肌に映える青色の瞳を持った、皆が夢見るままの美しい王女だった。

 性格もおとなしく素直。幻想でもなんでもなく、民の人気を集めている。

 そんなダリアから視線を国王へと戻し、リリスは肝心の問いを口にした。


「皇帝は、どちらをお望みなのですか?」

「あちらとしては――」

「お姉さま! そんな質問は不要です。この国にとってお姉さまは必要な方ですもの。皇帝陛下がどちらを望んでいようと、私が参ります」


 国王の言葉を遮り、ダリアは強い決意を口にした。

 ダリアがそんな無礼な態度を取るなど今までにないことであり、それだけに強い意思が感じられる。

 国王はしばらく黙っていたが、重々しく口を開いた。


「あちらとしては特に指名はしていなかった。ジェスアルド皇太子の年齢は二十八歳だから、年齢で言えばリリスのほうが似合いなのだろうな。だが、リリスは体が弱いと有名だ。事実は別にしても、そう考えられている以上はダリアを嫁がせるべきだろう。もちろん、この話を受けるとしてだが」


 国王の言葉をダリアはぎゅっと両手を握って聞いていたが、最後に付け足された言葉に少し力を抜いたのをリリスは見ていた。

 そのため、リリスはずっと内緒にしていたことを公にすることにした。


「では、このお話を受ける、受けないかはまた後で結論を出すとして、受ける場合、ダリアはダメです」

「リリス?」

「お姉さま?」

「だって、ダリアにはもうすでに心に決めた人がいるもの。アルノーという立派な方がね」

「お姉さま!?」

「ダリア! それは本当なのか!?」

「それでリリスはアルノーとの縁談を渋っていたのか……」

「お姉さま、見たの!? いつ!?」

「まあ、ダリア。あなた……」

「まだ何もないわ! アルノーは紳士だもの!」

「ダリアとアルノーか……それは気が付かなかったな……」


 リリスの落とした爆弾発言で、その場は混乱をきたした。

 国王はショックを受けたように口をぽかんと開けたまま、スピリス王太子は驚いてダリアを問い詰め、エアム王子は冷静に呟き、王妃はダリアの淑女としての振る舞いを心配している。

 そしてダリアは顔を真っ赤にして立ち上がり、リリスに抗議しながら王妃に自分の名誉を訴えた。


「とにかく、二十歳のアルノーともうすぐ十六歳のダリアはお似合いだと思うわ。年齢だけでなく、この縁談に問題はまったくないはずよ。そもそもわたしとアルノーは合わないわよ。それは小さい頃からわたしにはわかっていたわ。ただ言い出せなかっただけ。ダリアが十六歳になったら、アルノーがお父様にお願いするつもりだったのよね?」

「お姉さま! そんなことまで知っているなんて!」

「心配しないで。私が見たのはその場面ともう一場面だけだから」

「もう一場面って!?」

「それは言わないでおくわ」

「お姉さま!」


 普段はおとなしいダリアの狼狽ぶりがおかしくて、ついついからかってしまう。

 それから幼い娘に――年齢的にはもうすぐ成人の立派な淑女なのだが――恋人がいたことがショックで呆然としていた国王に、リリスは生真面目な顔に戻って向き直った。


「お父様、このお話を受けるのだとしたら、私が嫁ぐわ。向こうが血縁関係による同盟を望んでいるんだから、私が子供を産めるだけの体力はあるという医師の診断書を返書に添えればいいのよ」

「リリス! これは簡単に答えを出せることではないんだぞ? なぜ今まで皇太子が独身だったと思うのだ? いや、正確に言えば独身だったわけではない。一度結婚しているが、婚姻後まもなく妃は亡くなられたのだ。噂では皇太子の粗暴さに耐えられず自ら命を絶ったのだと」

「でも噂だわ。以前にもみんなに伝えたと思うけれど、エアーラス帝国はここ何十年かでたくさんの国を征服し、国土を広げてきたわ。それを非難する人は多いけれど、実際に征服された土地に住む人々は今、とても幸せに暮らしているのよ。エアーラス皇帝が征服したのは圧制に苦しんでいた国だけ。だからこそ、帝国は今もさらに栄えているんだわ」

「僕たちはリリスの教えてくれたことは十分理解しているよ。何も夢で見るだけが世界情勢を知る手段ではないからね。だが、父上のおっしゃった通り、これは簡単に出せる答えではない。僕たちにとってはリリスもダリアも大切なんだ。だからエアーラスと同盟を組まなくても何とかフォンタエからの侵攻を防ぐ手立てを探るだけは探りたいと思う。ただ、この現状を――エアーラスからの使者がしばらくこの城に滞在することは知っておいてほしい」

「スピリスの言う通りだ。リリス、ダリア、いいかい?」

「はい、お父様。スピリスお兄様もありがとうございます」

「わかりました、お父様。あの、アルノーのことは……」

「そのことに関しては、今は忘れなさい」

「……はい、お父様」


 それからリリスとダリアは退室の礼を取り、二人で国王の私室を辞した。

 二人ともしばらく黙っていたが、やがてダリアがリリスに話しかけた。


「お姉さま、お部屋に行ってもいい?」

「もちろんよ。ごめんね、秘密をばらしちゃって」

「ううん。私も謝りたいと思っていたの。だってアルノーは――」

「ダリア、部屋まで待って」

「はい」


 また二人の間に沈黙が漂ったが、それは周囲を気にしてのことで、仲違いをしたわけではない。

 そしてリリスの部屋に入ると二人きりで長い間、話し合いがなされたのだった。




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