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 いつもは可愛らしい小鳥たちのさえずりさえも頭に響いて煩わしい。

 そこにテーナが現れ、大きな大きなため息を吐いた。


「リリス様、まさかとは思いますが、あのりんご酒一本をお一人で飲まれたのではないのですよね?」

「……一人で飲んだのよ。でも、お小言はあとにして。今は……無理」


 呻くようにリリスは答えて、レセの介抱を受けた。

 それから再びベッドにたどり着き、横になる。

 そんなリリスを呆れた様子で見ながらも、テーナは用意した薬湯を差し出した。


「さあ、これをお飲みになってください。少しはご気分も良くなるはずですから」

「…………臭いが酷い」

「安心してください。味も酷いですから」

「……勇気づけられたわ。ありがとう」

「どういたしまして」

「――うぉうぇっ」

「淑女として、今のお声はどうかと思いますが、まあ今回は仕方ありませんね」

「み、水を……」


 やれやれといった態度でテーナがリリスに水を渡す。

 それを飲み干して、リリスは布団にもぐり込んだ。


「今日はもう起きない。何もしない。起こさないで」

「またしばらくしましたら、今の薬湯をもう一度飲んで頂きます」

「いや」

「ですが、お飲みにならないと、お昼までにご気分は良くなられないと思います」

「いいもの。今日は何もしないんだから。私は病弱なの」

「では、先ほどご連絡があったのですが、皇太子殿下とのご昼食はお断りしてよろしいですね?」

「ダメよ! ――っつぅぅ……」


 テーナに言われて昨夜の約束を思い出したリリスは、飛び起きた。

 そして、頭の痛みに呻く。

 それでも深呼吸を何度か繰り返して、痛みを落ち着かせる。


「昨夜……約束したの。だから……あれ、ちゃんと飲むわ」

「かしこまりました。それでは、しばらくおやすみください。またお時間になりましたら、軽くお声をかけさせて頂きますから」

「わかったわ。ありがとう、テーナ」

「大したことはしておりませんから」


 そう言って、テーナはそっと離れた。

 きっと何かあった時のために、またすぐ傍で控えてくれるのだろう。

 リリスは目を閉じて、確かに先ほどより気分が良くなっていることに気付いた。


 それからどれくらい時間が経ったのか、テーナにそっと声をかけられて、リリスは目覚めた。

 夢を見ることもなくしっかり眠れたせいか、あの薬湯のせいか、頭痛もかなり軽くなっている。

 わざとらしい笑みとともにテーナから差し出された酷い臭いの薬湯を、今度はリリスも素直に飲んで、また横になった。


「ありがとう、テーナ。本当にかなり良くなったわ」

「それはようございました。では、お支度までにまだお時間はございますので、もうしばらくおやすみくださいませ」

「ええ、そうするわ」


 答えて目を閉じたあと、リリスは今さら気付いた。

 テーナはあの薬湯が酷い味だと知っていたらしい。

 いつ飲んだのだろうと考えて、テーナの結婚歴のことを思い出した。


(そうね……テーナにも色々あったものね……)


 あの時、自分がもっと大人だったら、テーナの力になれたのにと考えて、結局今の自分でもダメだなと反省する。

 たった今も絶賛迷惑をかけているのだ。


(……あんなことぐらいで、やけ酒なんてするんじゃなかったわ。これは政略結婚なんだから。私が目指すのは、子作りと国造り。それでいいんだもの……)


 うとうとしながらも自分にそう言い聞かせているうちに、再びリリスは眠りに落ちた。

 だがどうやら、今度は夢の中に入り込んでしまったらしい。

 これでは体力を使ってしまって、ジェスアルドとの昼食に集中できないかもしれないとは思いつつ、好奇心は抑えられなかった。


(ここって、昨晩――ううん、今朝方に訪れたばかりの場所だわ)


 ふわふわと移動して、あの建物へとリリスは向かった。

 そこでは、焼き物の素地が作られていたのだ。

 リリスの知識では、素地は土を捏ねて粘土として器の形を作るものだと思っていた。

 しかし、ここでは石を――白い岩を砕いて細かくし、水を張った大きな器にその粉末を入れ、上澄みを取り出して水分を抜き、粘土にしていたのだ。


(なるほど、それであの白い器が焼けるのね……。でも、それだけじゃ光沢も模様もないし、どうするのかしら……)


 リリスはそれからの工程もしっかり眺めて勉強した。

 だが当然、一度で覚えられるわけはない。


(でもきっと、またここには来ることができるはず……長期保存のできる食品の時だってそうだったもの)


 根拠のない自信を漲らせて、リリスは目を開けた。

 すぐさま枕元に置いていた用紙にメモをする。

 声をかけかけたテーナはその様子を見て口をつぐみ、そっと部屋を出ていった。

 時間的にもそろそろ支度にとりかからなければならない。


「リリス様……大丈夫でしょうか?」

「ええ、ありがとう。少し疲れてはいるけれど、気分も良くなったし、大丈夫よ」


 洗面具を持って戻ってきたテーナの問いかけに笑顔で答えると、リリスはベッドから起き出した。

 今日、この夢を見たのもきっとリリスの決断を後押しするためだろう。

 そう判断して、リリスはジェスアルドに〝お願い〟するために、勇気を奮い起こしたのだった。




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