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「もし……本当に、もしもの話としてだが、私との間に子ができたらどうする?」

「可愛がります! もう、むっちゃくちゃのめろめろに甘やかして――しまいそうなので、その時は止めてくださいね」

「それは……」


 予想していた答えと違う。

 どうにか頭を整理し、ここはリリスの話に合わせようと判断したのだが、ジェスアルドはまた間違ってしまったらしい。

 ここはもうはっきりと口にすべきだろうとジェスアルドは決意した。


「あなたは私が恐ろしくないのか? 私の瞳は紅く、皆が呪いだと恐れている」

「呪い……とは何だと思いますか?」

「は?」

「世界にはたくさん、呪いだと言われているものがありますよね? 呪いで髪の毛が伸びる人形や、持ち主に死をもたらすダイヤモンドだとか……。それで、殿下の瞳には何かあるのですか? たとえば目からビームが出たり、目が合った人を石に変えてしまったり?」

「……ビーム?」


 はっきり訊いたはずなのに、やはり予想外の反応が返ってきてしまった。

 リリスの言葉はわけがわからない。

 本当に世界にはそんな呪いの品があるのだろうかと、疑問に思い、つい聞き慣れない言葉を繰り返した。

 すると、リリスははっとして手を振る。


「あ、それは忘れてください。とにかく、何かあるんですか?」

「……特にはない……つもりだが、睨みつけると石のように固まってしまうやつはいるな」

「ああ、それは呪いとは関係なく、ただ単に殿下が怖いんですよ。殿下のお顔は綺麗に整っていますからね。美人に睨まれると、普通の人より怖く感じてしまいますもの」

「美人……」


 褒められたのか、貶されたのかよくわからず、ジェスアルドはぼんやりとリリスを見返した。

 もはやすっかり彼女のペースである。

 リリスは真っ直ぐにジェスアルドの目を見てにっこり笑うと、ベッドをちらりと見て、すぐそばにある長椅子を見て、それからベッドへと腰かけた。

 そして、ジェスアルドに座るように、とんとんと隣を軽く叩く。

 どう考えても、恥じらいある乙女の行動ではない。


「先日も申しましたが、殿下は私をご覧になって、がっかりなさったのでしょう?」

「……がっかり?」

「はい。噂されるような儚げな美人ではありませんから、私」

「いや、特にあなたの容姿については何も……」

「そんなにも私に興味がないんですね。そうですか……」


 促されるままジェスアルドが隣に座ると、リリスはまたまた予想外の質問をしてきた。

 思わず正直に答えれば、リリスは目に見えてしょんぼりしてしまった。

 そこでなぜかフォローしなければと思ったジェスアルドは言葉を紡ぐ。


「いや、そうではなく……ただ、あなたの瞳は綺麗だと思った」

「そうですか? そうですよね? だって、私の唯一の自慢なんですもの。よくエメラルドのようだって褒められるんです。よかった。せめて、それだけでも目に留めてくださって」


 萎れた花が水を得たように、途端に元気になったリリスがおかしくてつい笑ってしまった。

 にやりと口角を上げただけだが、リリスはさらに顔を輝かせる。


「殿下はもっと笑うべきです」

「何だと?」

「先日も申しましたが、殿下の笑顔をほとんど見たことがありません。きっとこの皇宮の人たちもそうですよね? だからとっつきにくいんじゃないですか? いつも不機嫌な人って近寄りがたいっていうか……。でも本当は憧れもあるかも。だって、殿下の瞳はルビーのようでとても綺麗ですからね!」

「……何を言ってるんだ?」

「ですから、私は殿下の瞳はルビーのようで、とても綺麗だと言っているんです。この赤い髪と合わさって、ちょっと幻想的でさえありますもの。人は美しすぎるものには畏れを抱きますから」


 急に不機嫌になったジェスアルドにかまわず、リリスは手を伸ばして赤い髪に触れた。

 はっと身を引いたジェスアルドの態度に、リリスも慌てて手を下ろす。


「すみません、勝手に触ったりして……。でもあまりに綺麗だから、つい……」

「あなたは本気で言っているのか?」

「本気? もちろんです。どうしてそのようなことを訊かれるんですか?」

「それは……」


 本当に不思議そうに問いかけるリリスに、嘘はないように見える。

 それともやはり嘘なのだろうか。

 だとすれば、よほど演技が上手いのだろうが、それならば先ほどからの奇妙な言動とは辻褄が合わない。


 やはり最初に結論を出した通り、この姫はおかしいのだ。

 それできっと皆が恐れる自分の瞳を綺麗などと言うのだろう。

 ようやく納得したジェスアルドは、急に立ち上がった。


「あなたには申し訳ないが、私は子はいらぬ。後継者には従弟のコンラードがおるゆえ、問題もないだろう。とはいえ、あなたにも立場があるだろうから、そのあたりはできる限り私が上手く取り計らおう。ただ、どうしても口さがない者たちはいる。それは覚悟しておいてくれ。それ以外では、あなたを煩わせないよう私があなたに干渉することもない。だからどうか、この皇宮で好きなように過ごしてくれ」

「殿下……?」

「では、よく休んでくれ」


 そう言って寝室から出ていくジェスアルドを、リリスは呆然として見ていた。

 何が悪かったのかよくわからない。


(いや、全てかも……)


 考えれば考えるほど、あれもこれもと反省しきりだ。

 たぶん、嫌われたわけではない。

 最後の言葉を徐々に理解するとともに、リリスはそう思った。

 ただ、やっぱり、どうしても……。


(私って、愛とか恋とかには縁がないのかな……)


 男性好みの研究をしても、結局は上手くいかない。

 このままリリスはお飾りの皇太子妃として、キスも知らないで生きていかないといけないのだろうか。


(って、そんなのいやー!)


 心の中で大きく叫んだリリスは、次なる計画を考えながら、眠りについた。




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