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「リリス様、何をなさっているのですか?」

「カラメルソースを作っているの」

「絡めるソース? べっこうあめではなく? ああ! そんなに火を強くしては焦げてしまいますよ!」

「でもカラメルソースは焦げた色をしていたもの。きっとこれでいいのよ」

「しかし……」

「ほら、どいてどいて。これを器に移していくんだから」


 はらはらしながら見守る料理人のジェフを押しのけるようにして、用意したカップ型の食器にリリスは〝カラメルソース〟を移していった。

 が、どろりとして鍋に引っ付くソースはなかなか容器へと移動してくれない。


「もう、面倒ね……それに底で広がらないのはどうしてかしら……?」

「リリス様、本当にそれで大丈夫なのですか?」

「まあ、いいじゃない。たぶん味は大丈夫なはずだもの」

「そりゃ、焦げたべっこうあめですからね……」

「さあ、次はプリン液よ!」


 リリスは意気揚々と声を上げ、牛乳を熱しながら砂糖を入れて混ぜ、沸騰しないように気を付けながら卵を入れてまた混ぜた。

 その適当具合にジェフは「ああ……」とか、「もっと丁寧に……」などはらはらしながら呟いている。

 〝ぷりん〟なるものは知らないが、やはり料理人として、リリスのやりようは見ていて落ち着かないのだろう。

 そんなジェフの様子もお構いなく、リリスは先ほど〝カラメルソース〟を入れた容器へ液を入れていく。

 容器は全部で五つ。

 水を張ったフライパンに容器を並べて器に蓋をかぶせ、釜へとフライパンを置いた。

 夢で見た容器に直接かぶせていた銀色の柔らかいシートはここにはないので諦める。


「リリス様、これからどうするのですか?」

「ええっとね……フライパンに張ったお水が沸騰したら火を弱くして、それから……少しして火を消して蒸すの」

「……少しとはどれくらい?」

「少しは少しよ。あとはジェフに任せるわ。えっとね、液が柔らかくプリンプリンに固まるくらいだから。それから熱を冷まして、食べるの。本当は冷やしたほうが美味しいみたいだけど、私の我が儘で氷室に余計な熱を入れるのは申し訳ないものね」


 しおらしくリリスは答えたけれど、言っていることはかなり無茶である。

 そんな無茶ぶりにもジェフは文句を言わず、諦めのため息とともに頷いた。

 ここからはベテラン料理人の腕の見せ所だ。

 今までにも何度もリリスの無茶を聞き、ジェフなりに試行錯誤を繰り返してものにした料理の数々を思えばどうってことない。

 そして何より、リリスの考案した料理――何年も保存がきく食品で四年前の世界的飢饉を乗り越えることができたのだ。


 それ以来、何年も保存のきくフロイト産のチーズなどは名産品となり商人たちの間で高く取引されるようになった。

 もちろんその製法がいつまでも漏れないわけはない。無理に隠そうとしても余計な争いが起こるだけだとドレアム王は知っていたので、特に秘密にはしなかった。

 だが今でも、フロイト産の食品は他の地域の物よりもかなり高額になっている。

 それゆえにフロイト王国はここ数年、かなり潤っていた。


 それに隣国が目をつけないわけがない。

 東のフォンタエ王国は何度か属国にできないかと企てていたらしいが、それも西のエアーラス帝国を警戒してできないでいた。

 しかし、どうしてもフロイト王国を諦めきれないフォンタエ王国は強硬手段に打って出ることになる。

 これがリリスの運命を大きく変えることになるとは、まだこの場の誰もが思っていなかった。




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