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第一部弐話【魔法の知識を得るために】

1


 必死に彼女の名前を知ろうと聞き込みを続けたが、誰からもこれといった重要そうな情報は得ることが出来なかった。

 がっくりしつつ時計を見ると待ち合わせまで十分を切っていた。

 彼女の名前を知ろうとして遅れたなど言えるはずもないので、余裕を持って待てるように待ち合わせ場所まで走って向かった。

 待ち合わせ場所は病院の正面玄関を出てすぐの大きな銅像の前になっている。ここからではそう遠くはない。


 ──はずだったがついた時には待ち合わせ時間まで残り五分だった。とても余裕を持った時間とは言えない。

 彼女を見つけるために一通り周りを見渡すと、いた。

 まだ俺には気づいていないようだが、こちらに顔を向けている茶髪の美少女。先程よりはラフな格好だが、鉄の鎧の下に着ていたと思われる丈夫そうな布の服だったのでまず間違いないだろう。わかるようにわざとそうしていたのかもしれないが。

 とりあえず彼女を確認することが出来たのでそこに向かう。


「遅れてすいません」


 言いたくなかったが結局いうことになってしまったこの言葉。だが今はその気持ちを心の中に閉じ込める。

 しかし彼女はそれを気にした風もなく涼やかな顔で答える。


「大丈夫です。遅れてないですから。それに私は三十分前からここにいましたし」


 俺はその発言に驚愕した。なにせニートだった俺は早くても待ち合わせ八分前にその場所にいるという人間だったのだ。三十分と待つのならその時間はテレビゲームに使おうと思うだろう。

 なので彼女に対して俺はその時だけ尊敬の念を抱いた。

 初対面の人に(実際には草の上とベッドで合わせて二回会っているがそんな上げ足はどうでもいい)「早く案内して下さい」と言うのは失礼だと思ったが、うまく案内して下さい、という方法が思いつかなかった。

 どうしようかうーんうーん悩んでいると、彼女が口を開いた。


「あのー、あなたが到着したんで早速案内始めてもいいですか?」


2


 現在案内されている街は、街というよりかは城下町という雰囲気の方が強い。

 なぜ彼女はここを城下町ではなく街と呼んでいるのか。

 あの、と言いかけ口が止まる。そういえばまだ名前を知らない。


「すいません。ずっとあなたあなたって言ってるとしこりが残る感じになって嫌なのでお名前をお聞きしても」


「ならまずはあなたが名前を名乗るべきではありませんか?」


 よろしいでしょうか?と口に出す前に言葉が遮られてしまう。

 彼女の名前を知るためには名乗るしかないので、仕方なく自分が忌み嫌っていた名前を口にする。


「……私は大塚 湊二って言います。シンジとでも呼んでください」


「シンジ、ね」


 彼女はそこで言葉を区切り、大きな深呼吸をして目の色を変える。その目は二人の間だけでなく、周りの空気をも変えてしまっている。いつの間にか通行人たちが俺達の周囲一メートルぐらいには近寄らなく なっていた。視線を彼女に戻すと今口を開いたところだった。


「私の名前はオリヴィア・スラスヴィです。ラヴィとかって呼ばれてますがなんでもいいです。分かれば」


 最後の『分かれば』を強調したということは、分からないあだ名をつけられたかいじめにでもあっていたのか。はたまた差別を現在進行系で受けているのか。

 考えたらきりがない。とにかくみんながラヴィと呼んでいるなら俺もそうするのが一番だろう。


「じゃ、じゃあ……ラヴィ、さん」


「ラヴィさんは重いです。私のことはラヴィと呼んでくださいと先程も言ったはずです。それとじゃあは余計です」


 端的に言われてしまって、はずかしさを殺してでもラヴィと呼ぶしかない状況を作り出されてしまう。


「ラヴィ。なんでここが城下町じゃなくて街と呼ばれているのか教えて貰えないのですかでしょうか?」


「できないなら無理して敬語を使おうとしなくてもいいですよ」


 言葉には優しさが含まれていたが、顔には『こんなことも出来ないのか』という軽蔑が含まれている。 やっぱり使いこなせない敬語など使うべきではなかったと後悔した。だが、軽蔑しながらも問いかけた質問には答えてくれた。


「ここは発展に発展を繰り返した『街』です。それに城なんてどこにもないでしょう?そのぐらいの常識はある方だと思っていたのですが」


 マシンガンのように勉強不足を嘲笑うかのようなダイレクトアタックはシンジの心を貫く槍となってグサグサと突き刺さる。

 勉強不足は自分のせいだが、ここまでこっぴどく叩く必要も無いと思う。(余談になるが、城は少し遠くに行くとあるそうなので城下町でもあながち間違えでもないと思う)

 この人って見かけによらずSか?という内心を知ってか知らずか


「そういえばお昼ご飯はまだですよね?」


 とあからさまな話題転換を図ってきた。

 こちらとしてはこのままやれるわけにもいかないので、この話題転換は案外ありがたいものだった。


「まだですが、何か?」


「いえ、この街には私の行きつけのカフェがあるんです。良かったら紹介したいな、と思いまして」


 彼女の思ってもいない提案に一瞬唖然としてしまったが、この人からこの世界について何か聞けるかもしれないと思った時にはもう頷いていた。


「あの、何から何までありがとうございます!」


「いえ、こんなに人のためになることをするのも悪くないと、そう思っただけですから」


 声に変化はなかったが、表情はどこか嬉しそうな顔をしていた。


2


 目の前に立つ大通りに面した小さめのカフェ──と言っても周りの店と比べると、ということであって店自体は小さいとは言えないようなサイズだ──の中はガラス越しから見てもとても儲かっていると言えるような客足ではなかった。

 年季の入った木の扉をそっと押し開け入店するとカランカラン、と扉の上についているベルが鳴る。


「いらっしゃい。おや?オリヴィアちゃん。今日は二人かい?」


 店主はいかにも驚いていますというような顔でオリヴィアを見る。

 年齢は五十代後半から六十代前半ぐらいで、白髪の目立つ頭髪が逆に若々しさを醸し出している。


「彼はシンジくんっていって、『魔女の闇堕とし』にやられそうになっていた人よ」


「そうか、まあいろいろあったんだろうね。詳しいことは聞かないからゆっくりしていきなさい」


「ありがとう、おじさん。今日はカフェラテとワッフルでお願い。あ、あと彼にブラインドベリーズのパフェとオレジオンジュースを出してあげて」


 ラヴィにおじさんと呼ばれていた老人はメモなどは一切取らずわかったよ、と頷き奥の席にとアイコンタクトをしてくる。

 二人で四人がけの席に座るとかなりスペースが余ったが、どうもしようとしないのでほうっておく。

 ずっと無言でいるのも気まずいと思って口を開くと、彼女も同じことを思ったのか同じタイミングでしゃべり出してしまう。


「あの!」

「ねえ!」


 男はレディファーストというので彼女に先に話してもらう。


「あの、聞いちゃ失礼だと思うんですけど、魔法ってどれくらい使えるんですか?魔術レベルでいうと特十級とかあるじゃないですか」


 彼女の口調はマスターと合ったからなのか、多少(多少?)砕けた言葉になっている。そして質問の内容もくだらな──


「は?」


 先ほどの話を理解して失礼極まりない言葉が思わず口から飛び出してしまったが、今はそんなことどうでもいい。

 発言の意図を理解しなくては。

 そう思い思考回路をフル活動させようとした矢先、追い打ちをかけるように質問が飛んできた。


「えっと……やっぱり聞かない方が良かったですかね?」


 確かに自分の中では異世界に飛ばされたと考えている。

 だがしかし、頭で考えるのと『現実のことだ』と理解するのでは違うのだ。

 質問の答えはすぐに出るのに、心のどこかでそれを答えにすることを恐れている。

 質問をためらっているうちにまた新たな質問が飛んできた。


「じゃあもしかしてイーアポティア……いや、現地の言葉では……、ニホンの人だったり!?」


「日本?まあ、日本人ですけどなぜ?」


 知っているの?という語尾は状況から察すればわざわざつけなくてもわかるだろう。


「この国にはよく異国の地『ニホン』からの人間、「転生人てんせいびと」が迷い込んでくることがあるんです。一年に一回ぐらいはやってきます」


 一年に一回も!?と驚いてしまったが、何故か顔にしか出さなかった。だがしかし、それほど沢山の人がこの国に迷い込んでいるにも関わらず、日本で行方不明者のニュースが頻繁に行われないことに疑問を抱いた。


「何故それほど沢山の人がこの国に迷い込んでいるにも関わらず、ニホンで行方不明者のニュースが頻繁に行われないのか、って顔をしてますね」


 俺の思っている事を寸分違わず口にしたオリヴィアは席を立つと、テラスに移動した。俺も慌ててついていく。

 テラスには普通のカフェのテラスと同じような作りをしていた。

 パラソルの下に丸い机があり、それが四つほど。

 道路側の手すりに寄っかかった彼女は手招きをしている。

 隣に立つと目をつぶって何かを唱え始める。


「ティポータ コウリェス イアプーラ イーアポティア イピーキッシ」


 呪文を唱え終わると彼女の隣にはゲートのようなものができていた。

 中を覗くとそこには見慣れた景色が広がっていた。


「ここは……秋葉原?」


 返事はなく、彼女はただニコニコと微笑んでいるだけだった。


-To be continued!!-

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