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貫く道  作者: 雨崎湖香
第2章
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人の力ー2ー

 一人闘技場に残されたアレクは深く息を吐き、それから近付いてくるフェルレインに笑いかけた。

「守護獣は消えました。俺の勝ち、ですよね?」

「まったく、ここまでやるとは思わなかったぞ」

 フェルレインは、アレクの言葉に苦笑気味にそう返した。そこへ、五大公爵たちがやって来る。

「凄いです、アレク!驚きました」

「色々とやってくれんじゃねぇか」

 クリスとエルディアに言われ、アレクはただ笑みを返す。

「んで、種明かしはしてくれんだろ?」

「勿論です。とりあえず、順に説明していきますね」

 言って、アレクは腰のポーチから一つの弾丸を取り出した。

「これが、さっき使っていた弾です。この中には特殊な装置が入っていて、着弾と共に装置が作動、ある特殊な波動のようなものを発生させます。俺たちはその波動のことを【ConbinationBreakWave】ーCBWと呼んでいるんですが、文字通りそれは霊力や魔力の結合を切るものなんです」

「なるほど、それで魔力閃や光球が消えたのか」

「はい。でも、持続時間が十秒程度なので、光球ならまだしも魔力閃みたいなものは完全には消せないんです。ですから、これは抑制弾と呼んでいます」

 苦笑気味にそう言い、アレクは弾丸を収める。続いて、袖の内側からワイヤーを出し入れしていた機械を取り出した。

「この中にもCBWが入っていて、そこで発生したCBWが…」

 軽く振ってワイヤーを出し、アレクは言葉を続ける。

「このワイヤーに通してある装置から放出されて、ワイヤー全体を覆います。その状態で素早くワイヤーを引くと、防護壁が切れるんですよ」

「へぇ、便利なものだね」

「CBWの発見者は俺ではないですけど、まぁ、便利に使わせてもらってます」

 英十の呟きに、アレクがにっと笑って答えた。そんな彼に、少しばかり急かすようにクリスが言う。

「それで、最後ガウリスが消えたのは?」

「えーと、あれはですね…。普通、霊体や魔力の実体化・可視化をするときは、ある一つの点を中心にして形を構成していきますよね?」

「あぁ、そうだな」

「全ての結合の中心はその点ですから、逆に言えばその点ー中心点を狙って破壊すれば全ての結合が崩れるという訳です」

「ということは、ガウリスが消えたのはその中心点を撃たれたせいって訳か」

「はい」

 セーファの確認に、アレクは頷く。そこで、クリスが彼に問いかけた。

「その中心点を割り出したのが、途中で地面に置いていた装置なんですか?」

「そうです。慧眼で見えたら楽なんですが、防護壁のせいで中の様子まで見れないんですよね。だから、あの装置で霊体をスキャンして、構成を解析、中心点の位置を算出したんです」

 そこまで言って、アレクは少し困ったように眉を下げた。

「ただ一つ問題があって、普通の武器では防護壁を貫くことが出来ないんです。方法はなくはないんですが、不確実だからあまり使いたくなくて…。まぁ、ラグナさんのお陰で解決したんですが」

 名前を出されたラグナに、全員の目が向けられる。するとラグナは苦笑して、口を開いた。

「お守り程度のつもりだったんだがな」

「なるほど、魔具か」

 ラグナの言葉に、納得したようにフェルレインが言った。それに答えたのが、アレク。

「はい、その通りです」

 アレクが右の袖を捲ると、その下から蒼い石のはめ込まれた銀の腕輪が出てきた。

 魔具とは、それ自体が魔力で作られたもので、武器であったりアクセサリーであったりする。通常、何らかの形で魔力が使えなくなったときの保険として魔族が持っているが、作った本人でなくともその魔具に宿る魔力が使えるようになるのだ。

 最初に感じた魔力は、魔具によるもの。そしてその魔具に宿る魔力は、ラグナのものだった。

「魔力で作った武器…特に銃のように一点に魔力を集中できる武器なら、防護壁を貫いて、中心点を撃つことが出来るんです」

「最後、ガウリスの攻撃を避けたのも魔力を使ってだろう?よく使えるようになったな。簡単に出来るものじゃない」

 感心したように、フェルレインが言う。

 最後の瞬間移動じみた動き。あれは魔力を外へ放出するときの反動で、通常では出来ない速さでの動きを可能にしたもの。破裂音は、魔力が空気を叩いた音だ。

 簡単に出来るものじゃない、とフェルレインが言ったのは、人間は魔力を感じられないため殆ど魔力が制御出来ないせいだ。

 しかしアレクは感じることは出来なくとも、“視”ることは出来る。

「俺には魔力が見えます。そこにある、という感覚さえあれば、あとは慣れですから」

「なるほど。…しかし、凄いものだな、人間の技術というのも」

「誰も彼もが使いこなせる訳ではないですけどね。俺だって、元々自分で提案したものだから、こんな短期間で使えている」

「自分で提案した…?」

「はい。元々あったCBWの技術の利用案としてこの二つの機器の案を出したのが俺で、作り上げる協力をしてくれたのが啓さんちの研究所の人たちです」

 あっさりとした口調でセーファの呟きにアレクが返す。それを聞いたエルディアが、

「マジか…」

と呟いた。驚いた様子はなかったが、続けてラグナが口を開く。

「啓のところに出入りしていたのは、やはりクーリオのメンテナンスだけではなかったんだな」

「数年前から研究員に加わっていました」

「本当に、お前は幾つ隠し事をしているんだか」

 申し訳なさそうに笑うアレクに対し、苦笑気味にラグナはそう言った。それからフェルレインの方を見て、

「ともあれ、これでアレクは合格、ということでよろしいんですね?陛下」

と言った。

「あぁ、勿論だ。しかし」

 笑って頷いた後、真剣な表情になってフェルレインが言葉を続ける。

「これから、アレクやラグナ、そして私に対する風当たりが強くなることは確かだ。特に、掃討派の者たちの動きが激しくなるだろう。けれど私は、これが魔族にとっての転換期になると考えている。私の目指す世界、無駄な血の流れることのない世界に向けて、ここが踏ん張り所だ。皆、ついてきてくれるか?」

「勿論」

「私たちの志は、陛下と一つです」

 フェルレインの言葉に、エルディアやクリスがそう答える。それを受けてフェルレインが笑みを浮かべ、場は一体的な雰囲気に包まれた。

 そんな中、アレクは一人何処か冷めた目で魔族の王を見やっていた。

(無駄な血の流れることのない、ね。上手く言ったものだ)

 それはつまり、必要な血ならば流れても構わない、ということではないのか。ならば、必要な血とは一体何なのか。正しい戦いの中で流れるものだというのなら、その正しさの線引きは何処にするつもりなのか。

 結局、行き着く先は今とあまり変わりはないのかもしれない。

 尤も、今それを口に出せば面倒なことになるのは目に見えているので、アレクは何も言わずに黙っていた。

 そんな彼を、セーファが読めない笑みを浮かべて見ていたのだが、アレクがそれに気付くことはなかった。

「アレク、どうかしたのか?」

「いえ、何でもないです。流石に疲れたなぁ、と思って」

 ラグナに問いかけられ、アレクは笑ってそう答える。

「そうだな、疲れていて当然か。今日は、もう帰ろう。サイトも待っているからな」

「はい」

 アレクが頷くと、ラグナはフェルレインに向かって口を開いた。そろそろ屋敷に戻る旨を伝えているのを聞きながら、アレクは思考に耽る。

 フェルレインが何を目指すにしろ、極論を言えば、アレクはラグナの傍にいられればそれでいい。アレクのことでラグナを傷付けようとする輩がいるなら、自分はそれを容赦なく叩き潰すだけ。優しい彼のためなら、幾ら手を汚しても構わない。

 それがラグナへの恩返しであり、そのためにアレクはここにいるのだから。



 屋敷に戻った後、サイトに結果を伝えると安堵したように、

「まぁ、分かってはいたが、良かったな」

と笑った。

 その後食事をしながら暫く話していたが、ラグナに早く休んだ方がいいと言われ、アレクは自室に戻って来ていた。

 やることが色々あるため、まだ休めそうにもないが。

 パソコンを起動しながら、椅子に座る。深く息を吐いて、アレクは天井を仰いだ。ここが一番落ち着くというのも、何だか不思議なものだ。

 暫し何をするでもなく天井を見つめ、それからパソコンの画面と向かい合った。端末とパソコンを繋ぎ、クーリオを呼び出す。

「クーリオ、今日はお疲れ」

『マスターも、お疲れ様です』

 パソコンの画面内に現れたクーリオが律儀に一礼して、そう答えた。

「メンテとバージョンアップしてから初の実戦だったけど、どうだった?」

『問題ありませんでした。性能強化も順調に行われたようです』

「そうか、なら良かった。今日得たデータはバックアップを取ってから、研究所に送っておいてくれ」

『はい、五分ほどお待ちください』

「あぁ、あと今日壊された部品、追加発注しておいて。いつものように旦那宛でいい」

『了解しました』

 了承の言葉を述べて、クーリオは姿を消した。

 正直、今回の勝負は賭けだった。

 霊体構造を解析するあのシステムを実戦で使うのは、初めてだったのだ。シミュレーションは出来ていた。だが、それと実戦とでは違う。

 抑制弾やあのワイヤーについては、何の心配していなかった。啓たちに手伝ってもらったのだ。失敗するはずがない。

 だが、あのシステムはアレクが独力で作り上げたものだ。一人で作ったものに、絶対の自信など持てるはずがない。こうして実戦で成功させてこそ初めて自信が持てるのだと、アレクは実感していた。そして、その自信は技術者としての喜びに変わる。

 いずれは、技術者として独り立ちしたい。

 それが、アレクの中でラグナへの恩返しに並ぶ目標だった。

「いつか、こういう魔具みたいなものも作ってみたいな…」

『出来ますよ、マスターなら。きっと』

「っと、聞いてたのか」

 魔具を見ながら呟いた独り言に思わぬ返答が返ってきて、アレクは少し驚いた。そんな彼に、再び画面に現れたクーリオが言う。

『マスターなら、きっと出来ます。あなたが優秀なことを、オレは誰よりも知っています。だから、そう信じていますよ』

「クーリオに言われると、出来そうな気がして来たよ。頑張るよ、これから。お前のためにもな」

 そう言って、アレクは相棒に向かって笑いかけた。

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