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貫く道  作者: 雨崎湖香
第2章
7/14

人の力ー1ー

「さて、いよいよ今日だな」

 ラグナの言葉に、アレクは最終確認をしながら頷いた。

「はい。とりあえず、出来ることを全力でやるだけですよ」

「そうだな。お前ならきっと大丈夫だ」

「アレク、そろそろ時間だ」

 それまで黙っていたサイトが、時計を一瞥して言った。

「そうですね。それじゃあ、行きましょうか」

「あぁ」

 頷いて、ラグナが紫色の魔力陣を広げる。アレクは小さく深呼吸して、サイトを見た。立ち会いが許されたのは五大公爵たちだけなので、彼はここで待機だ。

「じゃあ、行ってきます」

「頑張れ」

「はい」

 サイトの言葉に、アレクは不敵に笑って頷いた。そんな彼の様子に、心配そうな表情をしていたサイトも小さく笑みを浮かべた。

 そして、紫色の光がアレクとラグナを包んだ。光が消えて、アレクはクロウズ内にある闘技場にいた。

 戦いが行われる円形の砂地の空間を高い石壁が囲み、その上に客席が並んでいる。その中央に、フェルレインが立っていた。

「それじゃあ、アレク、頑張れよ」

 ラグナはアレクに声をかけ、客席にいる他の五大公爵の許へと向かった。残されたアレクは、フェルレインの方へと歩いて行く。歩いて来るアレクを見ながら、フェルレインは内心首を傾げた。

 人間であるはずのアレクから感じる魔力。発生元は、彼の右手首辺り。覚えのある魔力に、フェルレインは小さく笑みを浮かべた。

(何か、用意してきたか…)

 期待を感じながら、フェルレインはアレクに言う。

「準備は十分出来たか?」

「お陰様で」

「そうか。なら、さっそく始めようか」

 言ったフェルレインの足元に、黄色の魔力陣が広がる。同時にその隣にも同じ魔力陣が広がった。そしてそこに黄色の光が集まり、やがてそれが形を成していく。

「これが私の守護獣(ガーディアン)ガリウスだ」

 光と魔力陣が消え、そこに現れたのは金色(こんじき)の毛を持つ獅子だった。

 守護獣とは簡単に言えば、魔力で作られた使い魔のようなものだ。普通は作った魔族が直接操るが、強い魔力を持つ魔族が作ると守護獣は自我を持って行動出来る。

 知識としては知っていたが、実際に目にするのはアレクも初めてだった。

「このガリウスから、私が終わらせるまで逃げ続けること。怪我を負った場合の判断は、五大公爵たちにしてもらう」

「…分かりました」

 答えて、アレクは笑みを浮かべる。フェルレインと戦え、などと言われれば勝ち目はなかったが、これならば勝ち筋はある。

「ガリウス、本気で戦え。くれぐれも殺さないように、な」

『仰せのままに、我が主よ』

 金獅子はフェルレインの命令にそう答え、前に進み出る。アレクは深呼吸して、それから真っ直ぐに金獅子を見据えた。

「それでは、始め」

 フェルレインが、開始を告げた。同時に、金獅子がアレクに飛びかかる。

 後ろに跳んで避けつつ慧眼に切り替え、アレクは眉を顰めた。

「目に痛いな…」

 流石、皇帝の作った守護獣だ。

「光属性の守護獣のデータはあまりないから、この場で集めるしかないか…。データを取れて丁度良いかとも思ったけど」

 金獅子の口から、光の炎が吐き出される。それを危なげなく避けて、アレクは呟く。

「これは、なかなかに厳しい、かな…?」

 今のように遠くからの攻撃ならば、慧眼を用いて攻撃地点などを予測出来る。が、直接攻撃されると、純粋に運動能力の問題になってしまう。

(早々に決着をつけないと、体力が保たないな)

 心の中で呟き、アレクは懐から出した小さな装置を地面に置いた。

「クーリオ、ここを基点に他の設置場所を出してくれ」

『了解、少しお待ちください』

「頼んだ」

 言ったアレクは、向かって来た金獅子の爪を避けた。

「アレクからは、手は出さねぇんだな」

 客席から見ていたエルディアが、つまらなそうに言った。

「逃げるのが条件だから、アレクは攻撃する必要はないしね」

「ですが、どうにか決着をつけないと体力が保たないはずです。どうするつもりなんでしょう」

「ラグナ、何か聞いてないの?」

 セーファの問いに、ラグナはかぶりを振った。

「俺は何も。サイトは何か知っているはずだがな」

「とにかく策があるにしろないにしろ、早く決着を着けるしかないかもね。王がどのタイミングで戦いを止めるかも分からないし」

 英十(えいと)が言ったとき、金獅子が新たな動きを見せた。口を大きく開け、その前に光が集まっていく。

 魔力閃。人間でいう霊力砲と同じようなものだ。

「おいおい、あんなもん使って大丈夫なのかよ」

「一応、威力は抑えてある。が…」

「直撃を受ければ、厳しいですよね」

 険しい表情になったラグナの言葉を、クリスが引き継いだ。一方、逃げ回っていたアレクも魔力閃の兆候に表情を険しくする。

 霊力砲と同じと考えるなら、撃ち出す直前まではその照準は自由に変えられる。となれば、その前に避けても無意味。だが、その後に避けるにしてもこの距離では間に合うか微妙なところだ。

 ならば、真っ向から迎え撃つ。

(アレの持続時間は、十秒程度。それだけあれば大丈夫か)

 アレクが考えるのと、金獅子が魔力閃を放つのは同時だった。

 アレクは腰のホルダーに入っていた銃を素早く抜き、魔力閃に向かって構える。そして、殆ど間を置かずに引き金を引いた。

 細く絞られた魔力閃が、アレクの手前で消えた。完全に消えたのではなく、先の部分だけ光となって散っていく

「⁈」

 客席で見ていたラグナたち、そして彼らから少し離れたところにいたフェルレインの表情が驚きに染まる。

 不可思議な現象が続いたのは、ほんの十秒程度。だが、アレクが魔力閃の軌道から離れるには十分な時間だった。

 金獅子の側面に回り込んだアレクの懐でクーリオの声がした。

『マスター、座標計算完了。映像に出します』

 その言葉にアレクが端末を取り出すと、画面上にホログラム映像が映し出された。そこに表示された五つの点。それを覚えて、アレクは端末を仕舞った。

 そして跳びかかって来た金獅子の下をスライディングで抜け、少し走ったところで先ほどの装置を置く。直後襲って来た光の炎を、アレクは横っ飛びでやり過ごした。

 金獅子が一吠えし、その周りに幾つかの光の球が現れる。もう一度金獅子が吠えると、光の球がアレクに向かって来た。その軌道から逃れるようにアレクが動くと、それらは急に軌道を変えてアレクを追った。

「追って来るのか…!」

 驚きつつ、アレクは銃を構えて引き金を引く。放たれた弾は光の球に着弾し、それは魔力閃と同じように分散した。

 それを見届けながら三つ目の装置を置こうとしたアレクの背後から、金獅子の爪が迫る。どうやら、光の球はアレクを追い込むためのものだったらしい。それに気付いたアレクは横薙ぎに襲って来た鋭い爪を、反射的にしゃがむことで避ける。

 その際、ついでといった様子で装置を置き、すぐさまその場から飛び退いた。

 その様子を上から見ていた英十が、不思議そうに呟く。

「さっきから、アレクが地面に何か置いているね。何だろう?」

「さぁな。どうせ機械なんだし、オレらには分かんねぇだろ」

「置いているのは、今のところ三つ。距離からすると、五角形でも作るつもりなのかね」

「あ、また一つ」

 言ったクリスの視線の先で、アレクが再び何か置くような動きを見せた。その様子を、ラグナは何も言わずにジッと見ていた。

 一方アレクは、

(あと一つ…。場所は、こいつの後ろか)

と考えながら、金獅子と対峙していた。

 どうしたものか、と思案を巡らせていると、アレクの“目”が金獅子の周囲に魔力構成の兆候を捉えた。光の集まり方からすると、先ほどの光の球ではなく魔力閃に近いもの。恐らく、レーザーのようなものだろう。

 アレクは素早くリロードを終えて、銃を構えた。そして魔力閃が放たれると同時に、銃口が二、三度と火を吹いた。次の瞬間にアレクは既に駆け出しており、分散していく魔力閃の下を通り抜ける。

 アレクが狙うのは、金獅子の左を抜けるルート。勿論金獅子はそれを阻止するために動こうとしたが、それより早くアレクが動いた。彼が軽く手を振ると、ワイヤーが伸びて金獅子の右脚に巻きついた。

 ワイヤーの先には鉤が付いており、金獅子の脚にがっちりと食い込んでいた。アレクはワイヤーを収納していた機械のスイッチを押すと同時に、ワイヤーを勢い良く引く。

 瞬間、金獅子の脚が斬れた。バランスを崩した金獅子が、地面に倒れ込む。

「なっ⁈」

「あいつ、何しやがった⁉」

 ラグナたちが再び驚愕の表情を浮かべ、声を上げた。

 守護獣のように霊力や魔力で構成された体ー霊体や魔力閃などは、力が結合し合うことでその形を構成している。しかし、その結合は弱く、霊力や魔力による振動で容易に切断されてしまう。

 そのため、霊体は防護壁(プロテクト)と呼ばれる薄い板のようなもので保護をする。これもまた霊力、魔力で構成されているが、結合が外れにくいよう工夫がされている。

 全てに防護壁が出来ればいいのだが、使う力が大きいことと技術が必要なので、フェルレインほどの魔族でもそれは難しい。

 そういう訳から霊体を切断することは難しく、だからこそラグナたちは驚いたのだった。

 アレクはにっと笑って、金獅子の横を走り抜ける。そして、最後の一つである装置を置いた。続いて、五角形の中心に当たる点の真上に機械を投げる。

「クーリオ!」

『了解。…全アーム展開、接続開始』

 クーリオの声がし、地面に置かれた機械からそれぞれ三本のアームが伸び、アレクが投げたものから五本のアームが伸びた。電気が光り、アーム同士を繋げる。

『対象確認。スキャニング開始』

 緑色の光線が機械から放たれ、金獅子の体を通る。

 直後、フェルレインによって脚を取り戻した金獅子によって、上の機械が破壊される。途端、全ての接続が切断された。

「あれ、結構高いのに…。クーリオ、どうだった?」

『問題ありません。結果を元に中心点を割り出します。少々お待ちを』

「分かった」

 答えて、アレクは再び金獅子と対峙する。アレクが手を振り、ワイヤーが金獅子に向かって行く。が、同じ手には易々と乗ってくれず、金獅子は軽々とそれを避ける。

「もう一本!」

 アレクは言って、更に一本ワイヤーを伸ばす。着地したところを狙われたせいか、金獅子の後ろ脚がワイヤーに捕らえられる。そして再び、ワイヤーの巻きついた位置から下の脚が斬り落とされた。

 同時に、クーリオの声がアレクの耳に届く。

『中心点割り出し完了。映像、出します』

 アレクが端末を取り出すと、先ほどのようにホログラム映像が映し出された。金獅子の姿が映し出されたそれにデータが幾つか浮かび、最終的に金獅子の首の付け根部分が示された。

 仕返しとばかりに襲って来る金獅子の猛攻をどうにか避けつつ端末を仕舞い、アレクは立ち止まる。そんな彼に向かい、幾つもの魔力閃が放たれた。

 次の瞬間、空気が破裂するような激しい音と共に、アレクの姿が消えた。金獅子が驚いたように動きを止める。その真横に、砂を巻き上げながらアレクが現れた。彼の手には、いつの間にかライフルが握られていた。

 構えてから撃つまで、僅か十秒足らず。紫の光が、金獅子の首を貫いた。数秒後、金獅子の体は光となって分散していったのだった。

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