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貫く道  作者: 雨崎湖香
第1章
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試練へ向けてー2ー

 アレクたちが飛んだ先は、アスティンの南に位置する森の奥。大きな滝の流れ込む湖畔に建つ、白い大きな建物の前だった。

 この建物は、対霊力・魔力兵器、霊力・魔力の機械転用など二つの力に関する研究をする研究所。ここにある技術を利用しようとする者、破壊しようとする者が多くいるため、こんな人里離れた場所にあるのだ。

 アレクは入り口横の機械の前に立ち、カードリーダーにカードを通す。それから指紋・声紋認証を行い、個人パスワードを入力してから扉を開いた。

「さぁ、入りましょう」

「あぁ」

 アレクに促され、サイトは中に入る。

「ラグナ様の付き添いで来たことはあるが、中に入るのは初めてだ」

「そうなんですか?」

「所詮付き添いだからな。随分と厳重だ」

「まぁ、それだけのことをする価値のある研究が、ここではされていますから」

 建物内は、一本の長い廊下が奥まで続いており、そこからそれぞれの部屋に入るようになっていた。幾つかの扉に人名が書かれているところを見ると、個人の研究部屋を与えられている者もいるようだ。

「研究員は何人いるんだ?」

「個人研究を持っているのは、十人前後。あと、それぞれに助手が何人か付いていますねここが研究棟で、別に職員たちの住居棟があります」

 アレクがそう説明したとき、一つの部屋から研究員が出てきた。

 ボサボサの茶髪に無精髭、薄汚れた白衣。何とも研究員らしい格好をしているが、ちゃんとした身なりをすれば容姿は悪くない部類に入る男だ。

 彼はアレクに気付き、やぁ、と片手を上げて見せた。

「ラースじゃないか、久し振りだね」

「お久し振りです、ナスカさん。相変わらず徹夜続きですか?」

「まぁね。毎日、所長に無茶振りされているよ」

 アレクの言葉に、男ーナスカ・アインツェルはそう言って苦笑いを浮かべた。

「所長は、いつものところですよね」

「多分ね。でも、お前が来たのを見て出て来てるんじゃないかな」

「まぁ、行ってみます」

「うん、そうしてみなよ」

 言ってナスカはサイトの方を一瞥し、愛想笑いのようなものを浮かべて去って行った。会話の間黙っていたサイトは、歩き出したアレクに問いかける。

「ラース、というのは?」

「ラース・リアファルド。俺の研究員としての名前です。本名知っているはずなのに、何故かここの人たちはそっちで呼ぶんですよね」

「偽名の意図は何だ?」

「俺も一応、士官候補生でしたから。ここに出入りしていると知れては、色々と面倒でしたので」

「なるほどな。…ところで、俺は何も聞いていないんだが、お前はここで何の研究をしているんだ?」

 ラースという偽名があるので、アレクがここで研究員をしていることは間違いないだろう。だが、彼がただの助手という立場に収まるとも思えないので、主力研究員である可能性の方が高い。そう考えた上での問いかけだった。

 真剣な表情のサイトを見上げ、アレクは読めない笑みを浮かべる。

「すぐに分かりますよ。本当はラグナさんも知らないことなんですけど、まぁ、そんなことを気にしていられない状況ですから、仕方ありません」

「ラグナ様もご存知ない?」

「はい」

 アレクが頷いたとき、二人は両側に窓がある廊下に入った。その窓の外に見えたのは、遊んでいる子どもたちだった。

「子ども…?」

 呟いて立ち止まったサイトに釣られるように足を止め、アレクも窓の外へ目を向ける。

「行き場を失った、能力者の孤児たちです。ここは、そういった子たちの孤児院もかねているんですよ。あの子たちの中から時折優秀な狩人が生まれ、だからこそここはアスティンに容認されているんです」

「お前も確か孤児だったな」

「俺は能力者ではありませんから、ここの出ではないですよ」

「それもそうだな」

 アレクが慧眼発現者だと思うと、つい勘違いしてしまいそうになる。自分の単純な思考に、サイトは思わず苦笑する。

「お前も遊び相手になったりするのか?」

「まさか。俺は、子どもが苦手です。それに子どもたちも、あまり俺が好きではないようですし」

性質(たち)の悪さが見抜かれているんじゃないか?」

 子どもは純粋だからな、というサイトの言葉に、アレクは困ったように眉を下げた。そのとき、前方から笑い声がして、

「なかなかに手厳しいことを言われているみたいだね、Mr.ラース」

 という声がした。

 やって来たのは、白衣の男。ナスカと違い清潔そうな身なり、黒髪に銀縁眼鏡の奥からは優しげな瞳が覗いている。

 この研究所の所長、そしてラグナの旧友である三井啓だ。

「いつものことですよ。…お久し振りです、啓さん」

「うん、久し振り。サイトも、久し振りだね」

「お久し振りです」

 啓の言葉に、サイトは会釈して応えた。

「やっぱり知り合いだったんですね」

「ラグナを通して何度かね。…ところで、ラグナから聞いたけど、また厄介なことになっているみたいじゃないか」

「まぁ、だから、こうしてここに来ているんですけど」

 軽く肩をすくめて、アレクは言った。そんな彼に微笑みながら啓が言う。

「今まで君のしていたことが、ラグナに知られるが?」

「予定より少し早くなっただけですよ。それに、状況が状況なので」

「そうかい。それで、今日は何から始める?」

 啓の問いに、アレクは少し思案げな表情になる。

「そうですね…。とりあえず、クーリオのメンテナンスと性能強化からですか。昨日送った案は、見てくれましたか?」

「あぁ、見たよ。いつもの整備メンバーにも送ってあるし、特に問題もなかったみたいだよ」

「分かりました。それから、もう一つの方は?」

「それについても、昨日の内に試作品を作っておいたから後で試しておいてくれると助かるよ」

「はい」

 話しながら、ナスカの徹夜の原因は自分なのではないかとアレクは思い始めていた。しかし、彼も研究者だ。仕事には文句は言わず、むしろ嬉々としてやるだろう。

 自分の中でそう結論付け、アレクは、

「相変わらず、仕事が早いですね」

と、会話を続けたのだった。

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