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貫く道  作者: 雨崎湖香
第1章
3/14

始まりー3ー

「悪いな、本当は二人で話をするつもりだったんだが」

「いえ、構いませんよ、別に」

 申し訳なさそうなラグナの言葉に、アレクは笑ってそう答えた。

 二人…正確には後ろにいるサイトも含めた三人は、ソリュート皇国の首都クロウズにある城の廊下を歩いていた。

 ラグナは元々、一度城に寄って開かれていた議会の面々に事情を説明してからアレクを屋敷に連れ帰るつもりだったらしい。が、色々とあったらしく、アレクは今議会室へと連れられていた。

「お前に対して敵意はないはずだ。ただ単に興味があるだけでな、多分。だから、そう畏まることなく普通にしてくれればいい」

「はい」

 話を聞く限り、どうやらアレクは残りの五大公爵と皇帝に興味を持たれているようで。まぁ、それも当然かもしれないが、あまり歓迎したいことでもない。

 色々と秘密の多いアレクには、追求されたくないことが多々あるのだ。

「そういえばアレクは、五大公爵は全員知っているのか?」

「はい、まぁ、一応は。メルツェン公は病弱な現当主に代わってその娘が、アルト公は放浪癖があって度々側近が代理で議会に出席しているそうですね」

「相変わらず、情報網が広いな」

 淀みなく告げたアレクに、ラグナが苦笑する。後ろで聞いていたサイトが呆れたように口を挟んだ。

「本当に、お前はただの士官候補生とは思えないな」

「まぁ、ただの士官候補生、とは言えないでしょうね」

 飄々と言ってのけるアレクに、サイトは呆れて何も言えなくなる。そんな彼を少し振り向いて見て、ラグナは笑った。

「サイト、これからこいつと行動することも多くなるだろうから、一応アドバイスしておく。悪い奴ではないが、扱いにくい。振り回されるだろうが、根気よく付き合ってやってくれ」

「…分かりました」

「本人の前で言います?」

 そう言いながらも、アレクは笑っている。気にしていないのは、明らかだった。

 暫くして、ラグナはある部屋の前で足を止めた。

「ここだ」

 立ち止まったアレクは興味本意で、慧眼で部屋の中を見る。そして、すぐに後悔した。

(うわぁ…)

 思わず、感嘆するような、逆に嫌そうな声を心の中で漏らす。

 部屋の中には、五つの眩い光。目の痛くなるような魔力を見るのは初めてで、あまり長く見ていると目を悪くしそうだ。光の位置だけ確認して、アレクは慧眼を戻した。

「入ろうか。アレク、いいな?」

「はい」

「では、俺は外で待機しています。何かあれば、お呼びください」

 サイトはそう言って、ラグナに一礼した。彼に対して笑みを浮かべ、ラグナは扉を開けた。

「失礼します、陛下。アレクを連れて来ました」

「遅ぇぞ、ラグナ」

 ラグナの言葉の直後、文句が飛んで来た。

 それを発したのは、八人が座れるようになっている円型の大きなテーブルの左奥。位置的に深紅の光を持っていた魔族だ。同性のアレクから見て、中々の美丈夫。

「そう文句を言うな、エル。…ラグナ、わざわざすまなかったね」

 そう言ったのは、美丈夫の正面に座る魔族。青色の光、水属性だ。先ほどの美丈夫とは対照的に、こちらは中性的な端整な顔立ち。

「陛下の命令だ、構わない」

 ラグナがそう言うのを聞きながら、アレクは部屋の中を観察する。言葉を発していないのは、残り三人。

 美丈夫の手前側、見た目はアレクと同年代の魔族の少女。中性的な魔族の奥側、ラフな格好をした銀髪の魔族。彼は珍しい無属性だった。

 そして、正面。一見しただけで分かる、人の上に立つ強者のオーラ。ここにいる中で最も強い魔力を持った魔族。恐らく彼が、ソリュート皇国現皇帝フェルレイン・アーライルズだ。

 アレクが興味深そうに凝視していると、彼が小さく笑って口を開いた。

「ご苦労だった、ラグナ。で、そこにいるのが例の変わり種の人間か」

「はい。…アレク」

 短く名を呼ばれた。名を名乗れということだろう。ラグナから一歩下がったところに立っていたアレクは、一歩前に出て会釈した。それから、皇帝を見据えて口を開く。

「アレク・リアファルドです。名前は知っていましたが、こうして皇帝陛下と五大公爵の方々にお会いできて光栄です」

 人の良さそうな笑みを浮かべて、アレクは流暢に挨拶を述べた。

 この状況でのその泰然とした態度が皇帝のお気に召したのか、彼は紫水晶のような美しい菫色の瞳を楽しげに細め、笑みを深くした。

「私は、フェルレイン・アーライルズ。知ってことだとは思うが、ソリュート皇国の現皇帝だ。よろしく」

 フェルレインが名乗ったのを皮切りに、残った魔族たちも名乗り始める。最初に口を開いたのは、美丈夫。

「エルディア・シグルス。属性は、炎だ」

 続いて、中性的な魔族。

「俺は、高峰英十(たかみねえいと)。属性は、水。名前で分かると思うけど、東の出だよ」

「クリス・メルツェンです。父の代理で出席しています」

 そう言ったのは、少女の魔族。そして最後が、銀髪の魔族だった。

「セーファ・アルト。久しぶりに帰って来てて良かったよ」

「以上の四人と、お前の隣にいるラグナを含めた五人が、五大公爵家の人間だ。さて、これから色々と聞く訳だが、とりあえず座ってくれ」

 促されて、英十の左側すなわちフェルレインの正面に当たる位置にアレクは座る。左に、ラグナが腰掛けた。

 二人がそれぞれ座ったのを確認して、フェルレインは口が開いた。

「まず、言うまでもなくラグナは魔族な訳だが、いつから知っていた?」

「俺は、慧眼発現者です。その力は年を重ねるこどに強くなる傾向にあります。ラグナさんの魔力が見えるようになったのは、二年ほど前ですね」

「慧眼とは、能力者に現れるものではないのですか?それとも、あなたが能力者だと?」

 そう言ったのは、クリス。アレクはかぶりを振って、答えた。

「それは、今までのデータの統計結果であり、あくまで確定条件ではありません。おれが能力者でないことは、士官学校に入れているのが何よりの証拠です」

「能力者でない慧眼発現者、か…。そういえば、君は何故士官学校に入ったんだい?」

 英十の問いに、アレクは微笑して言った。

「一番は、制服を着ている限りにおいて武器の携行が常時認められていることですね。ラグナさんが魔族だということで、今回のようなことも予想されましたから。後は、ある程度の戦闘技術など色々な便利な技術が学べることですか」

「なるほど、確かに理に適った動機だな」

 アレクの答えに、エルディアがそう言った。それに頷いてから、フェルレインが真っ直ぐアレクを見据える。

「それで、人間であるはずのお前が何故、ラグナに着いて来た?」

 漸く本題か、とアレクは内心呟いた。何と答えるか幾らか考えた結果、結局アレクは正直に答えることにした。

 フェルレインの視線を真っ直ぐ見返して、アレクは変わらぬ様子で答えを告げる。

「ラグナさんのいる場所が、俺の居たい場所ですから」

 アレクの答えに何人かが、興味深そうに笑みを浮かべた。当のラグナは答えが分かっていたのか、小さく苦笑している。

「ラグナさんは、孤児だった俺を拾ってくれた恩人です。だから、俺はラグナさんの為に生きると決めた。他でもない、俺自身の意思で」

「だが、普通の人間が魔族の中でやっていけるのか?」

「人間、やれば意外と出来るものですよ」

 不敵に笑って、アレクはフェルレインに答えた。

「なるほど。そこまで言うなら、試させてもらおうか」

「試す?」

「あぁ、ここでやっていけるだけの力があるかどうかをな」

「陛下、本気ですか」

 思わすとおった様子で、ラグナが言った。声には出さなかったが、英十やクリスも同じことを思ったようだ。

 どのように試すのかは知らないが、普通に考えれば人間がそれをやり遂げられるとは思えない。

 そう考えたのは、常識的な考え方が出来る者だけ。そしてアレクは、そちら側の者ではなかった。

「分かりました。それで、貴方が満足するなら」

「アレク⁈」

「大丈夫です、何とかしますから」

 声を上げたラグナに、アレクは笑ってそう返す。それから、フェルレインを見て問いかけた。

「内容は?」

「模擬戦を行ってもらう。その中で、私が出す課題を達成出来れば合格だ」

「すぐに、ですか?」

「いや、流石に色々と準備期間がいるだろう。そうだな…、一週間待とう」

「分かりました。配慮に感謝します」

 アレクはフェルレインに対し一礼し、それからラグナへと言う。

「ラグナさん、屋敷からアレ持ち出せますか?」

「アレ…?あぁ、出来ないことはないが、こっちでも使えるのか?」

「はい、大丈夫なはずです」

「分かった、手配しておこう。それとも、お前が行くか?」

「いえ、他にも行くところがあるのでお任せします」

「分かった」

 テンポよくアレクとラグナの間で会話が進むが、他の者には何のことだかさっぱり分からない。

「屋敷の方には、俺も行こう。お前は、どこに行くんだ?」

「とりあえず学校と、あとは啓さんのところですね」

「そうか。お前にはサイトを付けるから、連れて行ってくれ」

「ありがとうございます。俺は、明日の朝に出ますね」

「サイトには、俺から伝えておこう」

 どうやら、話は纏まったらしい。漸く、フェルレインが口を出す。

「話は終わったか?」

「はい」

「そうか。とりあえず、アレクはラグナの屋敷で暮らすといい。それから、此方で過ごすときは、なるべく人間側の服は着替えることだ」

「分かりました。それでは、色々と準備があるので失礼したいんですが…」

 控えめにアレクが言うと、フェルレインは笑って頷いた。それから、ラグナへと視線を送る。それを受けたラグナも立頷いて、立ち上がった。

「それでは陛下、失礼します」

「あぁ」

「行こう、アレク」

 促して歩き出したラグナを見て、アレクも慌てて立ち上がり一礼してその後を追って行った。二人が出て行ったのは確認して、フェルレインが口を開いた。

「さて、わざわざこんな所まで着いて来るのだからどんな人間かと思えば、予想通り面白い奴だ」

「何考えてるか、いまいち分かんねぇよな」

 フェルレインの言葉にそう答えたのは、エルディア。

「だけど、味方に着いてくれるというのは嘘ではなさそうですね」

「ラグナが此方に着いてる限り、っていう条件付きだけどね」

「まぁ、でもラグナさんが私たちの敵になるとは思えませんし」

 続いた英十、セーファ、クリスの言葉。それらを聞いていたフェルレインは、笑って言う。

「兎も角、アレクがああいうのも何か策があるからなのだろう」

 彼は、楽しげに瞳を細めた。

「何をしてくるか、楽しみだな」

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