序章 プロローグ
都会から遠く離れた、田舎の小さな村。草木の茂る森に囲まれたそこに、朝日が射し込み鳥が唄う。
巷じゃ魔素なんてものの話題で持ちきりだが、この村は違った。
「ふッ! やぁッ!」
村からそう遠くない森の一端で、甲高い声が定期的に発せられる。
慣れた手捌きで竹刀を振るう少年が、そこには居た。
肩に掛からない程の長さで、やたらとサラサラした爽やかな茶髪。
加えて、少し鋭さを持つ赤い双眸。
齢一七ほどの少年は平均的な身長に、細いながらも筋肉はしっかりとついた身体を激しく動かす。
彼が右の手に掴んでいるのは、正真正銘の日本刀であった。
昔ならば銃刀法違反と騒がれたが、時代は変わったのだ。
魔素の存在により、世界の秩序は大きく乱れ、今や武器の持ち歩きなど犯罪の内に入らない。
魔素は人間ならば誰にでも使えるものだ。ただ、今まで誰も使い方をしらなかったというだけである。
それは人々に希望と絶望、深い謎を与えて今も世界に漂っている。
そもそも、魔素とは何か。そう尋ねれば回答は人それぞれだ。
夢、魔力、力、便利。そんな言葉が主に並べられる。
そう、魔素とは人間が長きに渡って追い求めてきたものだ。
想像を元に魔素が反応し、創造へと変わる。指紋が人それぞれ違う様に、“脳内想像”も細かくは異なる。
水が好きな人は水に関わる何かを、例えば体から水を放出できたり、炎を吹けたり瞬間移動が可能となったり様々。
想像により生まれる想像の産物を、人々は“魔法”と呼ぶ。
科学では未だに説明がつかない力。一人に一つしかそれは与えられない。