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アルゴール

作者: ロック
掲載日:2026/05/05

古代ギリシャの天文学者たちは、ペルセウス座に瞬くあの星を「悪魔」と呼んだ。


アラブの占星術師たちはさらに具体的に、その星をアルゴール——「悪霊の目」——と名付けた。なぜその名が与えられたのか、記録は諸説入り乱れているが、最も説得力ある説明はこうだ。あの星は、三日ごとの十時になると光を失う。その闇は四日目まで続き、まるで巨大な何者かが瞼を閉じるように宇宙の夜に沈む。科学的に言えばそれは食変光星の現象に過ぎない——二つの星が互いを周回し、一方が他方の背後に隠れるとき、地球から見える光量が落ちる、ただそれだけのことだ。


しかし科学が届く以前の長い時代、人間はその規則的な暗転を恐れた。


悪魔が目を開けるとき、星は輝く。悪魔が目を閉じるとき、星は死ぬ。


そして時に、悪魔は地に降りてくる。


ロベルト・ヘルネは炭鉱夫だった。


それ以外の何者でもなかったし、そうなるべき理由も持っていなかった。父が炭鉱夫で、その父もそうで、ヘルネが生まれた時すでに彼の未来は石炭の黒い粉の中に描かれていた。毎朝四時に起き、坑道へ降り、ツルハシを振るい、十時間後に地上へ戻る。その繰り返しが、彼の時間のすべてだった。


それでもヘルネは坑夫仲間の中で一頭地を抜いていた。体格が良く、判断が早く、危険な場面で冷静を保つことができた。彼は「悪魔の回廊」と呼ばれる坑道の最深部を管理する現場監督を任されており、新入りの坑夫たちに対しては厳しくも公平な指導をすることで知られていた。


地上には友人がいた。マリア・オバルという女だ。


マリアは炭鉱町の外れに母親と二人で暮らしており、ヘルネとは子供の頃からの幼馴染みだった。明るい栗色の髪と、春の河のように落ち着かない眼をしており、貧しい暮らしの中でも笑い方を忘れない女だった。ヘルネは彼女のことが好きだったが、その感情に名前をつけることを長らく避けていた。坑夫には似合わない感傷だと思っていたからだ。


ある年の秋、ヘルネは坑道の奥で奇妙な男と出会った。


「悪魔の回廊」の、さらに奥——本来は崩落の危険から立入禁止とされている区画——に、その男は立っていた。身なりは不思議だった。最初ヘルネが目にした衣服は、どこの国のものとも判別できない素材で仕立てられた奇妙な外套だったが、ヘルネが近づくにつれてそれは見慣れた作業着に変化していた。まるで衣服自体が、見る者の期待に応じて形を変えるかのように。


「誰だ」とヘルネは問うた。


「アルゴール」と男は答えた。「あなたの新しい助手です、ヘルネ監督」


男の顔は整っていたが、何か根本的に人間離れした印象を与えた。瞳の色が定まらず、光の角度によって金にも緑にも変わる。微笑みの形は完璧すぎて、まるで彫刻師が「微笑み」というものの概念を素直に彫り込んだかのような不自然さがあった。


ヘルネは警戒したが、追い払うことができなかった。アルゴールは礼儀正しく、物覚えが良く、危険な坑道での作業を難なくこなした。坑夫たちは彼を奇妙だと思いながらも、すぐに慣れた。人間は慣れる生き物だ。


その夜、アルゴールはヘルネに一冊の本と、小さな装置を渡した。


本には亡きクラム博士という科学者の研究が記されていた——アルゴール星から地球へ届く不可視の波動について、そしてその波動を機械に変換することで、無尽蔵のエネルギーを取り出す方法について。装置はその原型だった。掌に収まるほど小さく、冷たく、重かった。


「この装置とアルゴール星を同調させれば」とアルゴールは言った。「あなたは世界に命令することができます」


ヘルネはその言葉の意味を、その夜は半分しか理解しなかった。残りの半分を理解するのに、一年かかった。


アルゴールは奇妙な衣服をまとい直し、煙と共に消えた。


一年後、ヘルネは工場を建てた。


かつて炭鉱があった土地に、巨大な建造物が聳え立った。クラム博士の設計図を元に拡大された装置は「永遠の力の間」と呼ばれる中枢室に据えられ、アルゴール星から降り注ぐ波動を電力へと変換し続けた。石炭は必要なかった。蒸気は必要なかった。石油も、水力も、必要なかった。


ただ、星があればよかった。


エネルギーは安価だった。いや、正確には安価どころではなかった——ヘルネが設定した価格に従えば、どこの家庭も、どこの工場も、どこの都市も、彼の電力を買うことができた。世界中の石炭産業が、次々と崩壊した。蒸気機関の時代が終わった。何百万という炭鉱夫と機関士が職を失い、経済の地殻は激しく動揺した。


しかしヘルネは分け前を渡さなかった。


クラム博士の研究を、彼は独占した。装置の仕組みを、彼は誰にも教えなかった。「永遠の力の間」の鍵は彼だけが持ち、その部屋に入れる人間は世界に一人もいなかった。


世界はヘルネに依存した。ヘルネは世界を支配した。


彼の邸宅は丘の上に建てられた。表現主義的な建築家が設計したそれは、角度という概念を拒絶した建物で、どの壁も垂直でなく、どの窓も四角でなく、訪れる者に「これは夢ではないか」という感覚を絶えず与えた。ヘルネはその邸宅の中心に座り、世界中の政府と交渉し、条約を締結し、税と引き換えに電力を供給し続けた。


彼は事実上の世界君主だった。


マリアのことを、ヘルネは忘れていなかった。


工場が完成した後、彼は彼女を呼び寄せようとした。しかしマリアが屋敷に近づいた時、アルゴールが現れた。煙の中から、あの完璧すぎる微笑みと共に。


「私に生を与えよ」とアルゴールはマリアに言った。その言葉の意味は明確でなかったが、マリアは本能的に危険を感じ取った。あの男は——あの生き物は——人間の感情を糧に何かを得ようとしている。彼女はそう確信し、走って逃げた。


その後、マリアは世界の片隅——ヘルネの影響力が唯一届かない小さな地方——に引きこもった。彼女はそこで静かに暮らし、やがて息子を産んだ。


息子の名はペーター・ヘル。


父親が誰かについては、記録は沈黙している。


そして二十年が経った。


ヘルネは老いた。


老いたが、権力は若いままだった。白髪と皺が顔に刻み込まれても、彼は世界の頂点に立ち続けた。側近たちが彼を「閣下」と呼び、各国の首脳が頭を垂れ、数百万人の命が彼のエネルギーに依存していた。


しかし何かが、変わっていた。


ヘルネはもはや喜ばなかった。巨大な権力を手に入れた当初、彼の中には高揚感があった——炭鉱の暗闇から地上へと這い出てきた男が、今度は世界全体を照らす光の主人になったという、眩暈にも似た感覚。しかしその感覚は、年を追うごとに薄れ、今では完全に消えていた。


権力は麻薬に似ている。最初の一服は世界を変える。次第に量を増やさなければ同じ効果が得られなくなる。そしてやがて、量を増やしても何も感じなくなる日が来る。


ヘルネはその段階にいた。


息子のレギナルドは、父に似て野心的だったが、父と違ってその野心に知性が伴っていなかった。彼は「永遠の力の間」の秘密を欲しがり、その欲望を隠そうともしなかった。ヘルネは息子に秘密を教えると約束しながら、実際には教えなかった。権力を持つ者は、その権力の継承に対して矛盾した感情を抱く——後継者を必要としながら、後継者の台頭を恐れる。


娘のマグダは父とは異なる人間だった。彼女は父の帝国の豪奢な日常の中で育ちながらも、その豪奢さの裏側を見る眼を持っていた。父の命令で電力を絶たれた国々の貧困を、彼女は知っていた。交渉が決裂するたびに、暗闇の中で凍える人々がいることを、彼女は知っていた。


マグダとペーター・ヘルが出会ったのは、そういう時代だった。


マリアの息子ペーターは、母が暮らす地方から父の帝国へとやってきた。彼の国は石炭が枯渇し、ヘルネのエネルギーなしには生存できなくなっていた。彼は父に援助を求めるために来たのだ——父であることを知らないまま、ただ世界の支配者に頭を下げるために。


ヘルネはペーターを追い払った。


「申請の手続きに従え」と彼は言った。「特例は認めない」


その声は、二十年前に坑道で労働者たちに向けて発せられた声と、同じ喉から出てきたとは思えないほど冷たかった。


マグダはペーターを見送りながら、父の部屋へ戻った。


「あの人たちは凍えて死ぬかもしれない」と彼女は言った。


「契約は契約だ」とヘルネは答えた。


「人間は契約書の文字じゃない」


「そうだ。人間は電力を必要とする存在だ。必要とする以上、支払いをする。それが秩序だ」


マグダはしばらく父の顔を見つめた。そこにあるのは、かつて炭鉱の仲間たちのために危険に身を晒した男の顔だったはずだ。しかし今そこにあるのは、別の何かだった——硬く、平滑で、感情の入り込む隙間を持たない、機械の顔面に似た何かだ。


「お父さんは変わってしまった」と彼女は言い、部屋を出た。


マグダはペーターを追いかけた。二人は邸宅の庭で話した。やがて二人は惹かれ合った——権力の中心から逃げようとする娘と、権力の中心に立ち向かおうとする息子が、同じ場所で立っていた。


一方、ヤーラ・ウォードという女がいた。


ヤーラはヘルネの近くに長年いた女で、美しく、冷たく、自分の美しさを道具として使うことを恥じない人間だった。彼女はレギナルドと秘かに通じており、「永遠の力の間」の秘密をいかにして奪取するかを共謀していた。レギナルドはいずれ父から秘密を教えてもらえると期待していたが、待ちくたびれていた。ヤーラは待つことが嫌いだった。


ヤーラはある夜、ヘルネとレギナルドの会話を盗み聞きした。


ヘルネは息子に言った——「いつかお前に教えよう。しかし今ではない」


「いつになったら、父上」


「その時が来たら分かる」


レギナルドは怒りを飲み込み、部屋を出た。ヤーラが廊下で待っていた。


「今夜」と彼女は囁いた。「今夜やるのよ」


その夜、マリアが来た。


二十年ぶりに、ヘルネは彼女と向き合った。


老いていた。しかし老い方が違った。ヘルネが権力の中で老いたとすれば、マリアは時間の中で老いていた。皺は深かったが、眼の中には何かが生きていた——川底の石のように、長い時間をかけて磨かれた何かが。


「あなたに会いに来た」とマリアは言った。


「何年ぶりだ」とヘルネは答えた。声に棘はなかった。ただ、空洞があった。


「あの子を覚えてる? ペーターが来たでしょう。あなたに会いに」


ヘルネは沈黙した。


「あの子の国に電力を送ってほしい。お願いに来た」


「手続きに従えと言った」


「手続きより先に人が死ぬのよ」とマリアは言った。怒鳴ってはいなかった。静かだった。その静けさがヘルネには、怒鳴り声よりも効いた。


「ロベルト」と彼女は続けた。「あなたが坑道で私に言ったこと、覚えてる? 仲間が危険な目に遭ったあの夜。あなたは言った——俺たちが互いを助けなければ、誰が助けるんだと」


ヘルネの顔の何かが、わずかに動いた。


機械の顔面の下に、古い人間の顔が埋まっていた。それが今、少し浮き上がろうとしていた。


「あなたは変わってしまった」とマリアは言った。「でも、変わってしまったものは、取り戻せないわけじゃない」


その瞬間、壁の向こうから物音がした。


レギナルドとヤーラが動いていた。


レギナルドはヤーラから鍵のありかを聞き出し——いや、正確には、ヤーラがヘルネの執務机の引き出しから鍵を盗み出し——「永遠の力の間」へと向かった。


扉は重かった。内部は暗かった。


しかし装置は動いていた。


壁に設置された巨大な機械は、静かに、絶え間なく、アルゴール星の波動を受け取り続けていた。青白い光が機械の各所から漏れ出し、室内を地の底の炭鉱のように照らしていた。レギナルドはその光の中に立ち、自分が世界の中心にいることを感じた。


「これだ」と彼は言った。「これさえあれば、俺は——」


しかしその言葉は完成しなかった。


廊下の奥から足音が聞こえた。ヘルネではなかった。マグダと、ペーター・ヘルだった。


「兄さん」とマグダは言った。「やめて」


「俺はただ、当然の継承をしているだけだ」


「父はまだ死んでいない。これは盗みだよ」


レギナルドは笑った。その笑い方が、どこかアルゴールの微笑みに似ていた——完璧すぎて、空虚な笑い。


「お前には分からない。権力というものが、どれだけ人間を——」


その時、ヘルネが現れた。


扉の前に立つ父の姿を見て、レギナルドの笑いが固まった。ヘルネの顔には、先ほどマリアと話した後の表情が残っていた——機械の顔面の下から、人間の顔が浮き上がりかけている、あの表情が。


父と息子は向き合った。


長い沈黙の後、ヘルネは口を開いた。


「レギナルド」と彼は言った。「お前に秘密を教えなかったのは、お前に向いていないからじゃない」


「では、なぜ」


「教えた瞬間、お前は俺と同じになるからだ」


レギナルドは理解しなかった。それは理解できない言葉だったからだ——権力の外にいる者にしか、その意味は分からない。


やがてレギナルドの支持者たちが室内になだれ込んだ。乱闘が起きた。マグダとペーターは脱出した。レギナルドとヤーラが装置へと手を伸ばした。


ヘルネはその時、決断した。


ヘルネは装置に近づいた。


レギナルドが叫んだ。ヤーラが叫んだ。しかしヘルネの足は止まらなかった。


彼は装置に触れた。


その瞬間、壁の向こうで——いや、どこか遠く、星々の向こうで——アルゴールの顔が浮かびあがった。あの完璧な微笑みが、今は歪んでいた。喜びでも怒りでもない、何か別の感情——それが何であるかは、人間の言葉では表現できないかもしれない。


ヘルネは装置を壊した。


激しい音がした。青白い光が膨張し、爆発した。衝撃が室内を揺るがした。壁が震え、天井の一部が崩れ、「永遠の力の間」は名前と内実を同時に失った。


ヘルネは倒れた。


やがて部屋に静寂が戻った時、マリアが入ってきた。


彼女はヘルネのそばに跪いた。彼の頭を自分の膝の上に乗せた。ヘルネの眼は開いていた。天井の崩れた穴から、夜空が見えた。


「星が見えるか」とヘルネは言った。


マリアは答えなかった。代わりに、彼の手を握った。


「あの星の名前を、初めて教わった時」とヘルネは続けた。「俺は炭鉱の中にいた。地の底で、星のことを考えた。ばかな話だろう」


「ばかじゃない」とマリアは言った。


「俺は坑道から這い上がって、星の力を手に入れた。そして……」


言葉は途切れた。


マリアは何も言わなかった。ヘルネの手を、ただ握り続けた。


穴から見える夜空には、ペルセウス座が見えた。その中の一つの星が、ちょうど三日に一度の周期で、光を弱め始めるところだった。


アルゴール。


悪魔の星。


三日ごとの十時に、その巨大な瞼が閉じられる。


星について………


アルゴールベータ・ペルセイは、地球から約九十三光年の距離にある食変光星系である。


三つの星が複雑な引力の網の中で互いを周回しており、地球から見ると二・八七日の周期で明るさが変動する。最も明るい時は二等星に近く、最も暗い時は三等星に落ちる。その差は肉眼でも観察できる。


「悪魔の目が開いたり閉じたりしている」と、古代の人々が信じたのも無理はない。


しかし星は目を持たない。星は意図を持たない。星はただ、物理法則に従って動いている。与えられた軌道を回り、与えられた質量を燃やし、与えられた時間が尽きれば膨張して消える。


星を悪魔と呼んだのは人間だ。


星の力を利用しようとしたのも人間だ。


その力で世界を照らすことができ、その力で世界を支配しようとしたのも、やはり人間だ。


ヘルネは炭鉱夫だった。貧しく、地の底で働き、星を仰ぐことすらできない場所に生きていた。彼に悪魔が近づいたのは、そういう男のところへ悪魔はやってくるからだ——虚栄心を持たないように見えて、実は深いところに切実な渇望を持っている人間のところへ。


渇望そのものは罪ではない。


渇望が何に向けられるか——それが問題なのだ。


マリアはヘルネと同じ時代に同じ貧しさの中で生きた。しかし彼女は、力を得た時に何をするかを、ヘルネとは別のやり方で答えた。彼女の答えは力を拒絶することだった——アルゴールが「生を与えよ」と迫った時に走って逃げたことが、そのまま彼女の答えだった。


どちらが正しかったか、という問いは意味をなさないかもしれない。


世界はヘルネの電力で照らされ、その間、石炭産業が崩壊し、何百万人が職を失い、経済が揺れた。しかし夜は明るくなり、工場は動き、人々は以前より豊かな物資を手にした。そして最後にヘルネが装置を壊した時、世界は再び暗闇に向き合うことになった。


どちらの暗闇が、より深いのか。


答えは読む者に委ねられている。


夜空のアルゴール星は今も変光し続けている。三日ごとの十時に光を失い、四日目に戻ってくる。この小説を読んでいるあなたが屋外に出て北の空を見上げれば——条件さえ整えば、その星を見ることができる。


悪魔の目が、ちょうど今夜閉じているかもしれない。


あるいは開いているかもしれない。


そしてはるか九十三光年の彼方から、その星は——何も感じることなく——ただ光り続けている。


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