第9話 石化令嬢は幽閉される
私は白の粗末なワンピースを着せられ、ある場所に幽閉されていた。
薄暗く、周囲は円形の石壁で囲まれており、あまりにも殺風景。
窓は鉄格子がついており脱出は不可能、唯一の扉はあまりにもぶ厚い鉄の扉だ。
(ここに来てから、もうすぐ一週間か……)
ウォーゲンとマリンダの陰謀に嵌まってからの展開は早かった。
私は石化する恐ろしい女として“石化令嬢”などと呼ばれ、公爵様を石にした罪で、ただちにこの『罪人の塔』への幽閉が決まった。
罪人の塔は、王国の最北端にある岬に築かれた牢獄塔。一般的な罪人は、普通の牢獄に送られるけど、公爵家以上の人間を傷つけた者は国家に傷をつけたとして、この塔に送り込まれることになる。当然、普通の牢獄よりも過酷な生活が待っている。
とはいえ平和な世の現在、この塔に私の他に囚人はおらず、まるで貸し切り状態。
顔はもう袋で覆われてはおらず、手枷や足枷なども特になく、部屋を自由に歩き回ることはできる。仮にも貴族令嬢ということによる配慮だろうか。
ただし、脱出できそうな場所はどこにもない。
食事は朝に一度だけ、鉄扉からパンとコップに入った水を渡される。両手で持てるほどの、固く粗末な黒パンだ。
当然、明らかに栄養は足りていないので、私は痩せてきている。
とはいえ、ウォーゲンたちは私をすぐ殺すこともできたはず。それをやらなかったのは、私を殺せば公爵様の石化が解けてしまう可能性があったからだろう。
多分、今頃ウォーゲンたちは石像と化した公爵様をどうにか処分しようとしている。私はここで野垂れ死にさせようという魂胆だろう。
時には外にいる兵士と話すこともある。
「ねえ、たまには顔を見合わせてお喋りしない?」
「ふざけるな! お前は目で睨むだけで人を石化できると聞いている。そんなのと顔を合わせるなんてできるか!」
「ごめんなさいね」
色仕掛けなんてとても無理そう。柄でもないしね。
私はやることもないので、壁に背もたれに、膝を抱えて座る。
私がこうして大罪人になってしまったことで、家にも迷惑がかかっているはずだ。
ルトゥーラ家の人間は全員石化の化け物なんて疑いをかけられているかも。
特にミルフィのことを思うと胸が痛む。ごめんね、私がダメなお姉ちゃんのせいで。とんだ迷惑をかけちゃったね。
今、私がやるべきことは、ここを出ることだ。
どうにか脱獄して――ウォーゲンとマリンダのやったことを世に知らしめなければならない。
その後は……正直考えられない。
たとえ、それを成し遂げたところで、私が化け物扱いを受けることは間違いない。
生きていたところで……なんて思ってしまう。
だけど、今はまだその段階ですらない。
とにかくこの罪人の塔から脱出しないと……。
活路を見出すとしたら、この憎き石化能力しかない。
今のところできることといえば、感情が高ぶると人を石化できる、時間はかかるがなんとか解除もできる、の二点のみ。
人と会うことができない以上、どちらも使いようがない。
私はあえて唯一の食事であるパンを少しだけ残し、それを睨み続けた。
しかし、なにも起こらない。
それでも懸命に、懸命に、パンを見つめ続けた――
私の罪人の塔での一日はこんな感じだ。
未明の暗がりの中、朝日が窓から差し込む前に目は覚めてしまう。
パンを見つめ続ける。
鳥の鳴き声が聞こえる頃、扉をノックされ、パンと水を渡される。
兵士も私の能力を警戒しているのか、決して姿は見せない。
とはいえ、会話ぐらいはしてくれることもある。
「この塔って今は私しか捕らわれていないのでしょう? なのに兵士がいるの?」
「なにしろ公爵家以上に害をなした人間を捕えるための施設だ。大勢いるさ」
「どれぐらいの数がいるの?」
「塔の外と中に五十人ずつだ」
「そんなに多いの。税金の無駄遣いじゃないかしら」
「いざという時の基地の役目も兼ねているからな」
なるほど、そういうことか。
もし国内で危機が起こった時には、ここの兵士も出動することになるのね。100人もいれば、そこそこの戦力になるだろう。
しかし、会話を楽しめるのもせいぜい数分程度。
あとはこの暗い部屋で一人、じっと過ごさねばならない。
だけど、パンを見続ける。
自分が新しい力を発揮できると信じて。
***
私が幽閉されてから一ヶ月が経った。
手や足は目に見えて痩せ細っている。きっと顔もこんな感じに違いない。
ついに待ち望んだ時が訪れた。
パンを石化することができた。
私もすっかり痩せていたけど、この時ばかりは喜びが勝った。すっかりひび割れた唇がほころぶ。
私は今までにもらったパンを少しずつ溜めていた。
これをこねて、私はそれを鍵穴に詰める。
そして、それを石化した。即席の鍵の完成だ。
「……よし」
私が石化したパンを右に回すと、鍵が開いた。




