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石化する眼を持つ令嬢は婚約者に嵌められる ~私を罪人にした報いは石像にしてお返しします~  作者: エタメタノール


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第4話 久しぶりの石化

 学校の授業が終わり、私は王都を散策していた。

 暖かく、風の気持ちいい午後だった。

 銀髪をなびかせ、学校の青い制服を纏って、足取りも軽やかになる。


 住宅街を抜けると、広場のようなスペースに出た。

 短い草が生い茂っていて、スポーツをやるには絶好の場所という感じ。

 とはいえ、ここが賑やかなのは休日だから、今は人はいなかった。散歩するのにちょうどいい。

 私が歩いていると、一人の少年が立っていた。


 年は私と同じぐらい。さらさらの金髪で、白いシャツ。黒いズボンを着ている。

 なにをしているんだろう……?

 私がそっと見ていると、少年は何かを唱え始めた。そのとたん、両手からぼわっと炎が浮かび上がった。


「……!」


 さらに、氷の塊を飛ばしたり、つむじ風を発生させたりする。


「……よし!」


 これは――魔法!?

 どうやらあの少年は魔法の訓練をしてたみたい。

 “魔法”――人体に宿る魔力という神秘的な力を駆使して、人の力を超えた力を操れるようになる術の総称。

 なにしろ身につければ一騎当千にもなろうという術なので、会得することを許されるのは、侯爵家以上の上流階級のみ。さらに、生まれつきの素質にも左右され、出身がどうあれ会得できない人は一生会得することができない。その上、会得には常人なら発狂するほどの訓練が必要になるとか。

 こうした情報は、人々が安易に魔法に興味を持たないようにするための情報操作な可能性もあるけど、まったくのデタラメでもないだろう。

 目の前の少年は、そんな身につけるだけで大変な魔法を、あんな幼くして苦もなく繰り出している。しかも、そのたたずまいには余裕すら感じられる。


 もっとも、人の力を超えた力というと、私にもあるんだけどね。

 感情が高ぶると、人を石化してしまう眼――魔法と違い、決して人前では披露できない力だけど。

 なんとなく親近感を覚えてしまった。


「よーし、今度はもっと大きなやつを試してみようかな」


 少年は両手を上げた。


「天よ、その怒りを我が前に示せ……」


 こんな枕詞で始まる呪文を唱え始める。

 よほど大きな魔法なのだろうか。少年の額にも汗がしたたる。

 すると――


「よし、上手くいった!」


 少年が顔を上げる。私もその方向を見る。

 なんと、天から炎の塊が降り注いできた。

 すごい……。天の彼方には、岩の塊が無数に浮いていると聞くけど、きっとそれを地上に降らせたのだろう。

 少年は余裕の顔だから、多分あの塊はそのまま地上に落ちる前に消すんだろうな。

 ところが、様子がおかしい。


「あれ……? 消えない……? なんで……!?」


 少年はなにやら手を開いたり握ったりしているが、上手くいっていないようだ。

 しかも、炎の塊はどんどん少年に向かっていく。

 このままじゃ――私は咄嗟に叫んだ。


「逃げてっ!!!」


 だけど、少年は怯え切っている。


「ダ、ダメ……僕、足が……」


 私に弱々しい視線を投げかける。

 今から助けを呼んでも、私が駆け寄っても、とても助けられそうにない。炎の塊はもうすぐそこだ。

 こうなったら、一つしかない。


(あの子を……石化する!)


 私はヴェールを手でめくって、少年を思い切り睨みつけた。

 まもなく少年の体は灰色に染まっていく。けど、炎の塊も間近に迫っている。

 間に合って――!


 爆発が起こった。


 私も爆風でいくらか後方に吹き飛ばされる。

 どうにか持ち前の運動神経で受け身を取る。手はすりむいたし、かなり痛い。

 いえそんなことより――あの子は!?


 まもなく煙が晴れる。

 そこには、石化した少年が立っていた。

 岩が直撃したけど、よかった、傷はついていないみたい。

 と、あまりグズグズしている時間はない。

 今の爆発を聞いて、大勢が駆けつけるでしょうし、今度はあの子を元に戻さないと。

 石像になった少年をあれこれ触りながら、「元に戻って」と念じ続けてみる。

 運が悪いと、石化から半日は戻せないこともあるけど、今日は運がよかった。


「……? あれ、僕は……?」


「よかった、元に戻ったのね!」


 私は少年の顔を覗き見る。


「どう? 怪我してない?」


「う、うん……」


 間近で見ると、青い瞳の、本当に綺麗な顔をした少年だった。こんな時なのに、将来はきっとモテる男になるかも、なんて考えてしまう。


「今、僕を助けてくれたのは、君?」


「……」


 私は答えられない。

 正直に答えてしまうと、「どうやって助けたか」についても答えなければいけなくなる。


「まるで、僕の体が石になっていくような感覚を味わったんだけど……」


 さすがに鋭い。あの一瞬で、自分の身になにが起きたのか理解している。

 だったらなおさら答えるわけにはいかない。

 私が黙っていると――


「ううん、そんなことはどうでもいいや。とにかく……助けてくれてありがとう」


 朗らかな笑みを浮かべる。

 私もちょっと照れながら「どういたしまして」と返す。


「もし、よかったら……名前を教えて欲しいんだけど……」


 少年に聞かれるも、大勢が近づいてくるのが分かった。


「なんだなんだ?」

「こっちからすごい音がしたぞ!」

「爆発……?」


 ここにいるとまずい。

 事情を聞かれた時、うっかり石化のことを漏らしてしまうかもしれない。


「名乗るほどの者ではございませんので」


 内心は焦りに焦っていたけど、私はなるべく平静を装って、できる限り優雅にこの場を立ち去った。

 こういう時にも感情を抑える訓練は生きてくる。


 石化の力を使ったのはまずかったかもしれないけど、一つの命を助けることができて、嬉しかった。

 自分の力にほんのわずかだけど誇りを持てた瞬間だった。

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