表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石化する眼を持つ令嬢は婚約者に嵌められる ~私を罪人にした報いは石像にしてお返しします~  作者: エタメタノール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/15

第2話 ミルフィーネのいびり

 穏やかな日差しが窓から差し込む午後の時間帯、私はリビングで本を読んでいた。

 そこへミルフィがやってきた。両手で皿を持っており、その上には色とりどりのマカロンが載っている。

 甘い匂いが漂ってきて、とても美味しそうだ。


「セルフィス、叔母様がマカロンを届けてくれたわ。一緒に食べましょう」


 いびる宣言をしてから、ミルフィは私を「お姉様」とは呼ばなくなった。「セルフィス」と呼び捨てにする。


「十個あるんだけど……私が六個、あなたは四個でいいわね」


 さっそくミルフィのいびりが始まる。

 私はうなずく。


「ええ、それでいいわ」


 ミルフィが私の顔を覗き込んでくる。


「年下の妹の方が多くマカロンを食べることができて、悔しいでしょう?」


 私はこみ上げる感情をどうにか押し殺しながら、なるべく静かに答える。


「悔しくないわ」


「そうよね。セルフィス、あなたは感情を操縦できるようにならなきゃならないんだから。せいぜい頑張ってちょうだいね」


 ミルフィは私に見せつけるようにマカロンを食べる。あからさまに咀嚼音まで聞かせてくる。

 私はそんな彼女を見て、ただ黙々と自分の分のマカロンを食べた。


 ある時、こんなこともあった。

 ミルフィが紅茶を淹れてくれた。


「セルフィス、よかったらどう?」


「いただくわ」


 ミルフィが赤褐色の茶が入ったティーカップを差し出す。その顔には緊張が見える。

 私は一口飲んだ。

 温度は人肌ほどだった。味そのものはまろやかでコクがあり、滑らかな舌触りのお茶だった。


「どうセルフィス、ぬるいでしょ?」


 言われてみれば、少しぬるいかもしれない。私は軽くうなずく。


「ふふっ、あなたにはそのぬるい茶がお似合いよ」


「そうね……」


 私が静かに返すと、ミルフィは痛みをこらえるように目を細めた。


「じゃあ私はあつ~い紅茶をいただこうかしら!」


 ミルフィも紅茶を飲むが、


「あつっ!」


 自分のは熱くしすぎてしまったらしい。

 私はすぐにハンカチを差し出す。


「大丈夫?」


「へ、平気よ! おねえ……セルフィス、私の心配なんかしてる場合じゃないでしょ? あなたは早く自分の心をコントロールできるようになりなさいよ!」


 私はハンカチを引っ込める。


「そうね……ごめんなさい」


「ふんっ!」


 立ち去るミルフィの背中は、とても辛そうだった。


 私とミルフィ、二人で新しい服を買ってもらったことがあった。

 私は白のしっとりしたワンピース。ミルフィは空色のワンピースだ。

 明るい色合いのワンピースを着て、年相応に飛び跳ねるミルフィは、とても可愛らしい。

 すると、ミルフィはこちらを睨みつけるように見てきた。


「あらセルフィス、あなた、そんな白いのを着てるのね」


「ええ、私は白いのが好きだから」


 ミルフィは腕を組む。


「ふん。あなたが白い服を着てると、その長い銀髪も相まって、まるで雪の妖精みたいね」


「あら、ありがとう」


 私が微笑み返すと、ミルフィは顔を赤らめる。


「……? ――ち、違うわ! 私は褒めたんじゃない! あなたは冷たい人だって言いたかったの!」


 ミルフィは私の肩を触る。


「きゃっ、冷たい!」


 さらに凍えるようなジェスチャーをする。


「セルフィスといると、この部屋の気温が……ええと、下がっちゃうわ!」


「そうね。ごめんなさい」


 ミルフィはちらりと私を見る。


「分かればいいのよ! あまり気温を下げないようにしてね!」


 ――こんなこともあった。

 ミルフィは運動神経がよく、家族みんなの前でダンスをすることが多かった。

 ある夜もリビングで、父と母、私の前でダンスを披露する。

 全身を使った躍動感のある動きは、私も目を見張ってしまう。将来的には本当にダンサーにでもなった方がいいんじゃと思えるほど。


「うふふ、どう?」


「すごいじゃないか」


「あなたぐらいの歳でこれほど踊れる人はいないわよ」


 父も母も拍手をする。

 ミルフィは私をちらりと見て、踊りを中断する。


「じゃあ今度は、セルフィスに新しいダンスを披露してあげる」


「私に?」


 ミルフィはダンスを踊り始めた。

 滑らかに手足を動かすかと思うと、突然カチーンと止まる。

 こんな動きを繰り返す。


「見て見て、石化ダンスよ! 固まっちゃうの!」


 そうか……これは私をからかっているんだ。いびっているんだ。

 これには父も母も顔をしかめる。


「やめなさいミルフィーネ、姉をからかうのは!」


「そうよ。セルフィスも自分の力に思い悩んでるんだから……」


 ミルフィは私を睨みつける。


「だからこうして、いびってあげて、セルフィスを訓練してあげてるんじゃない! 感情を高ぶらせたらいけないんでしょ?」


「セルフィスと呼ぶんじゃない。お姉様と呼びなさい」と父も語気を強める。


「嫌よ! こんな人、姉だなんて呼びたくない!」


「ミルフィーネ!」


 父に怒られたミルフィは部屋を出ていってしまった。

 母が私に優しい眼差しを向ける。


「セルフィス……気にしちゃダメよ」


「ええ、分かってるわ」


 私は努めて冷たい言葉で答えた。


 最初は石化の力を持った私を厄介者扱いしていた両親も、いつの間にか同情的な視線で見るようになっていた。

 それほど、ミルフィのいびりは徹底していた。


 だけど、私には最初から分かっていた――

 ミルフィは私をかばうためにやっている。私を守るためにいびってくれている。


 ある夜更け、邸内の一角に、ミルフィがいた。

 この日もミルフィに「石化女!」と罵られ、ひと悶着あった日だった。

 ミルフィは一人、肩を震わせて泣いていた。


「ごめんなさい……お姉様、ごめんなさい……」


 泣いている妹を見ると、胸が締めつけられる。

 だけど、ここで駆け寄るわけにはいかない。

 そんなことをしたら、彼女の努力が全部無駄になってしまうから。

 私にできることはなにか。それはミルフィのためにも、感情を完璧に制御できるようになること。

 感情さえ高ぶらせなければ、私の石化の力が発動することはない。

 徹底的に感情を制御してみせる。より冷たく、より固く。それこそ、氷のように、石のように……。


 私はさまざまな本を読んだ。

 『動じない心を作る方法』『感情を制する』『精神統一』『鉄の公爵と言われた男』

 自室で我流の瞑想のようなことも行う。

 とにかく、自分にできることはなんだってやってみた。


 そうしていくうちに、私は自分の心が固くなっていくのを感じる。

 心で悲鳴を上げながら私をいびってくるミルフィに対しても、さほど動じなくなってきた。

 ミルフィ、私は大丈夫よ。強い心を手に入れてみせるから。


 それに、石化能力について少し前進もあった。

 私はある時、うっかり能力を発動してしまったのだけど、その時、薄いカーテン越しにいた使用人が石になることはなかった。

 これにより、なにかしらの布を隔てれば、石化を防げるのではないかということが分かった。

 このことを報告すると、両親も喜んだ。


「ならば、目にヴェールをかければ、外に出ても誰かを石化することはないのではないか?」


「そうね。それなら……」


 私は外に出る時は、ヘッドドレスをつけ、目元を薄手のヴェールで覆うことになった。

 感情の高ぶりで生じる目が赤くなる現象を隠すこともできるし、一石二鳥だ。

 ファッションとしては目立つし、多少視界が遮られて不便だけど、これぐらいは仕方ない。一生家の中よりはずっといい。


 石化能力に目覚めてから、一年、二年と経つ頃には、私はだいぶ感情をコントロールできるようになっていた。

 ある日、父からこう言われた。


「セルフィス、お前すっかり笑顔がなくなってしまったな」


「ええ。だって私に笑顔なんて不要だもの」


「ヴェールをつければ大丈夫だとも分かったのだし、もう少し笑顔になっても……」


「私が人を石化したら困るのは、お父様でしょ? だから気にしないで」


「……すまん」


 同時に家庭も冷え切っていた。

 だけどそんな家庭を悲観する必要はない。

 私が石化の力を持つ以上、感情を徹底的に抑えなければならない。


 やがて、私は貴族学校に入学することとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ